四月の永い夢/あなたのそういうところがキライでした | そーす太郎の映画感想文

そーす太郎の映画感想文

しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。

 

 

 

 

四月の永い夢

 

「あなたのそういうところがキライでした」

上映時間: 93分

監督: 中川龍太郎さん

出演: 朝倉あきさん、他

 

 

 

去年、映画館で見逃した本作がAmazonビデオにあったので、観てみました。これが、とてつもなく素晴らしい映画で、去年見てたらまちがいなくベストテン入りの1本でした!というくらい大好きな映画になりました。ほんとに丁寧な映画でした。丁寧な演出と丁寧な撮影で描かれるのは、恋人を亡くした1人の女性の過去のしこりが取れるまでの静かなお話。過去のある時点で時間が止まっちゃってる人の時間が、また前に動き出すまでを、決定的なシーンやセリフに頼ることなく、繊細な演出でその余白を観てる側に想像させるとても好きなタイプの映画でしたね。恋人が死んだらしい主人公の何気ない淡々とした生活描写の端々に、不在である死んだ彼との時間が重なり合う。銭湯の場面とかとてもよかったですね。

 

 

心の底に死んだ彼の存在がありつつ、でもいい感じになった男性と出会って、ほんとにいい感じになってお祭りの後にプチデートをするんですよ。その帰り道ですよね。ほんとにここは名シーンでした。一人で帰る帰り道、いい感じになって気分もちょっとアガって、浴衣姿でてくてく夜道を歩きつつウォークマンで赤い靴の「書を持ち僕は旅に出る」という曲を聴きつつちょっとリズムに乗りつつ夜風を浴びつつ浮かれるというもうほんっとに微笑ましいシーンでね。こういう場面誰にもありますよね。恋をする女の子のすごくいい場面を、すごく崇高な場面を覗き見たようなドキドキと美しさがあって、このワンカット横移動はマジックが起きてました。そしてそのあとですよね。いきなり心の底にあった死んだ彼のことが浮かんだのかスッと正気に戻り音楽が止まるというここのキレと不穏な感じも含めて、この一連のシーンはほんとにすごかったです。

 

その後、仕事もそうだし、いい感じになった男性とも、やっぱり心の底にいる死んだ彼の存在が、まだ彼女の心にずっといていろいろと足踏みというか前に進めないんですよね。もうね、応援の気持ちが沸き上がってきましたよ。どうか、頑張ってくれ、前に進んでほしい、幸せになってほしい、と。

 

 

そんな彼女がついに心の底にいた死んだ彼と、決着をつける後半の彼の実家シークエンスもほんとによかったですね。僕らは、そして彼女の周りの人間も、みんな彼と死ぬ直前まで付き合っていたと思ってたけど、実は死ぬ数か月前に別れていたんだということを、死んだ彼の母親に告白するというシーン。この直後に手紙が燃えるというシーンが挿入されて、この告白によって彼女の心の中の彼がようやく成仏したんでしょうね。その手紙もさ、何があったかは具体的にはわからないんだけど、彼の「忘れてください」という言葉の呪いに彼女はとらわれていたのかなぁと思ったりします。「忘れてください、といいつつ、覚えておいてほしい、という気持ちが透けて見える感じ、あなたのそういうところがキライでした」彼女の最後のこの言葉はすげぇ刺さりました。この男という生物の女々しさと情けなさがばれてる感。でもその言葉が死んでなお彼女を縛ってしまっていたという…ほんと男って…と個人的にもすげえわかるなぁといろいろ思い出したりしなかったり。そして、ようやく心の中の彼と決着をつけた後のラストシーン!ここの鮮やかさと軽やかさ晴れやかさ。あの絶妙な彼女の反応とようやく見ることのできた笑顔に、ものすごくグッときたし、元気をもらえました。こんなにも希望に満ちた品のあるラストシーンがあるだろうか!素晴らしかったです。

 

過去のある時点で心の時計が止まってしまった人間の心の時計が、過去と決着をつけてまた時間が前に進みだす。一人の女性の成長譚として、僕はちょっと忘れがたい映画になりました。ほんと素晴らしかったです。