【旧作映画感想】「彼らが本気で編むときは、」  | そーす太郎の映画感想文

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しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。

 

 

 

 

 

彼らが本気で編むときは、

 

そして、おっぱいは受け継がれる。

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監督: 荻上直子さん

脚本: 荻上直子さん

出演: 生田斗真さん、桐谷健太さん、柿原りんかさん、ミムラさん、他

上映時間: 127分

あらすじ: ちんこを燃やします

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 この間、キネマ旬報のベストテンが出ましたな。観た映画、観てない映画、いろいろあったんですが、その中に荻上直子監督の「彼らが本気で編むときは、」が入ってて、この映画明確にスルーを決め込んで映画館ではスルーした映画だったんですよ。なんせ荻上直子監督ですからね…。今まで一本たりともおもしろいとおもったことはなく、というかむしろイライラさせられることばかりだったので。ところが、この映画いろんなベストテンに顔を出してくるし、信頼できる筋も褒めてるので、これは観てみようかなぁと思いまして、タイミングよくwowowで放送があったので観てみました。

 

 

素晴らしかったです…( ;∀;)ナーメテーター…‼︎

 

 

あらすじを映画.comさんから拝借すると、

「かもめ食堂」の荻上直子監督が5年ぶりにメガホンをとり、トランスジェンダーのリンコと育児放棄された少女トモ、リンコの恋人でトモの叔父のマキオが織り成す奇妙な共同生活を描いた人間ドラマ。生田斗真がトランスジェンダーという難しい役どころに挑み、桐谷健太がその恋人役を演じる。11歳の女の子トモは、母親のヒロミと2人暮らし。ところがある日、ヒロミが育児放棄して家を出てしまう。ひとりぼっちになったトモが叔父マキオの家を訪ねると、マキオは美しい恋人リンコと暮らしていた。元男性であるリンコは、老人ホームで介護士として働いている。母親よりも自分に愛情を注いでくれるリンコに、戸惑いを隠しきれないトモだったが……。

と、こんな感じ。

 

 

まずなんといっても役者が素晴らしくて、特に生田斗真さんはほんとにこんなにいい役者だったのか…と驚きました。演出の妙と生田斗真の演技とで、なんというのかな表面的に描かれる彼女の苦悩とか、過去にどんなにつらいことがあったんだろうかという、描かれてること以上のことを観てる側に伝えてくる素晴らしいキャラクターになってると思いました。タイトルになってるように彼女は編み物でツライ現実と戦ってきたんだろうなと、ツライことがあっては、周りにあたることなく、ただただ編み物で精神を安定させてきたんだろうなぁと、後半、朝方にひとりで編み物をして朝日を見るシーンですごく感じてもう涙が止まりませんでしたよ。

 

相手役の桐谷健太もすごく良くて、今までどっちかというとエキセントリックな役の印象が多かったですが、とても落ち着いた役でこれもとてもしっくりきてました。

 

あとこの子役ですよね。柿原りんかさんですか。凄いですね。基本的に自分の感情をぐっと押さえ込んだキャラクターですが、生田斗真&桐谷健太カップルとの交流で時折感情を爆発させるようになって。今までいろんなことを我慢してきたんだろうなぁと観てる側は思うので彼女が何度か感情を不器用ながらも出して、爆発させるシーンはどこか安心感があってどれもぐっときました。彼女の感情の変化を細やかな演出(前半と後半の対比)で見せていくのもうまいと唸ったり。

 

あとは田中美佐子さん演じる生田斗真の母も最高で。これまでどれだけ悩んできてんだろう…と。ほんとに陽気なキャラクターで強い人なんだけど、時折みせる怖さに、彼女のこれまで乗り越えてきたパワーがすごくこもってるように見えてこれも素晴らしかったし、実在感がすごかった。田中美佐子の彼氏も含めてね笑(あの男最高w) 自分の娘のお相手である桐谷健太の両親が元気だったらどうなってただろうと話すシーンがありますが、そこがすごくグッときました。桐谷健太は父親はもういなくて母親は施設に入ってるので、もともと男だった人と一緒になることに少なくとも「親の理解」という障害はないわけです。それに対して田中美佐子が「不謹慎だけど、ラッキー☆ってかんじ!」と明るく言うシーン。ここになんかすこくグッときたなぁ。一般的な正しさよりもなによりこれまで大変なことだらけだった娘に幸せになってほしいと心から願う母親の思いがこもってて。みんなで鍋を囲んで、明るいシーンなんだけど、なんか涙が出ました。

 

 

 

題名にある彼らが編んでいるものというのは、ズバリ「ちんこ」なんですよ(上の写真)。このちんこ108個編む、ここに煩悩を込めて、そして燃やし、全ての煩悩を断ち切って戸籍を女性へと移すというのが生田斗真の目標なんですね。

 

さっきも書いたようにこの「編む」という行為が生田斗真にとって、ひとつのはけ口になってたんだろうなぁというのがほんと伝わってくるのがとても良くて。しかも最後に生田斗真が編んだものは……というラストカット。ここはこれまでの伏線の回収の仕方、カット割りのタイミング含めてほんとーーーに見事なラストカットで。去年見てたらベストラストシーンのひとつになっていたと思います。スターウォーズ 最後のジェダイのラストカットはフォースというものが名もなき人々に受け継がれるということを表した素晴らしいラストシーンでしたが、この映画、受け継がれるのは「おっぱい」なんですよ。受け継がれしおっぱいなんですよ!!それがそれまで描いてきた物語に完璧にフィットする完璧なおっぱい演出でした。

 

 

あと、最終的に少女は育児放棄していた実の母のもとにやっぱりそれでも戻っていきます。ここの彼女の選択もなんだかとてもリアルでした。生田斗真にとってみれば、どんなにひどい母でもやはり母には勝てないというある種現実を突きつけられるというシーンで。この先彼女、彼らがどうなっていくのか、明確な答えは出さないけど、でも、彼女にはおっぱいがある。このおっぱいは母が娘を思う気持ちの象徴だと思うんですよ。この子もあのおっぱいを胸に(うまいこと言った感)、辛いかもしれないけど選んだ道を生きていくんですよね。ほんとに様々な感情が押し寄せるラスト周辺で、クライマックスの長回しとかすごかったなぁとかいろいろ言いたいことはありますが、このへんで。

 

とにかく素晴らしい映画でした。荻上直子監督、このひと「レンタネコ」撮った人ですからね?笑 「レンタネコ」を撮った人間が撮った映画とは思えない、素晴らしい映画でした。食わず嫌いせず観て良かったです。

 

 

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好き度: 80点

ナメててすみません!(/ _ ; )

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