※ネタバレを見ない方がより楽しめる映画なので、未見の人は読まない方がいいです(´∀`)
マジカル・ガール
鑑賞日:2016年3月12日
映画館:恵比寿ガーデンシネマ
好き度: ★★★★☆ 4.5/5.0点
入口はハートフル。出口は石井隆。
町山智浩さんが年間ベストテンに入れていたりで気になっていた「マジカル・ガール」観てきましたが、これが、めちゃくちゃおもしろかった!!2016年のベストに入ってくるだろうなぁという快作であり怪作でございました。
余命いくばくもない娘の願いを叶えてやりたい!というなんともハートフルな入り口から入ったはずが、ひょんなことから取り返しのつかないとてつもない暴力の連鎖に繋がっていく、まったく読めない展開はほんとに見事で脚本の構成が素晴らしすぎる。
余命いくばくもない娘と父、今後大変なことに…
魔法少女ユキコの衣装が着たいという余命いくばくもない娘アリシアちゃんの願いを叶えてあげたい…でも金がない!というわけで、失業中の父ルイスさんは宝石店の窓をかち割って盗もうとしたその時、空からゲロが降ってくるのです。
ゲロったのはバルバラさんという女性でした
夫がいるんですが、どうやら精神を病んでる模様で薬漬けのバルバラさん。で、ゲロの出会いからなんやかんやありましてその夜にセックスしちゃうのです。これが悪夢の始まりだった!このルイスさん、ちゃっかりセックスしてる間に音声をケータイで録音してまして、「金をくれないと夫にばらすぞ!」とバルバラさんから金を巻き上げようとするのです。
そして衝撃の展開をし始める…
夫に秘密で金を用意するためにバルバラさんはかつて働いていた(?)高級SMデリヘルに行くのです。怪しい車いすの大金持ちっぽいおじさんが出てきて、服を脱がせるわけですが、その脱いだ身体が超傷だらけ!!どうやら相当今までSMのお仕事(しかもかなり激し目の)をやっていたようです…。この車いすのおじさんもバルバラに手紙を渡して、「この紙に書いてある文字をプレー中に言ったらその時点でプレー終了の合図だから忘れないようにね!スイッチ入っちゃったら止まんないからね(・∀・)」なんてめちゃくちゃ怖いセリフを言いつつ。でもプレイ自体は見せないのでなんかますます怖いなぁなんて思いつつ。これぞ真の「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」でした。
んで、稼いだお金はルイスさんのもとに行くんだけど、おっちょこちょいのルイスさんは衣装は買ったけど魔法の杖を買うのを忘れていた!娘もなんか無理に喜んでる感じ。。これはもういっかいゆすろう!ってことでまーたバルバラさんに電話して「金準備せぇやこら」とまた金を要求。そしてバルバラさんは、また車いすの金持ちおじさんとのSMでお金を稼ぐんですが、今回は超スペシャルハードコースらしい『黒蜥蜴』の部屋に入ることを決意…!今回もプレイ自体は見せないのですが、瀕死の状態でダミアンというおじさんの家の前で発見されます。。
ダミアンさん。バルバラさんとは先生と生徒の関係…だったのか…?
このダミアンさんは刑務所から出たばかりの元教師。どうやらバルバラさんの先生だったんだけど、どうやら二人はただならぬ関係らしいという香りがしてきますが、詳しくは明かされません。映画秘宝の監督インタビューでは意図的にそこはうやむやにしたとのことで、二人に過去に何があったのかということは監督も「決めてない」らしいw まぁでもなにも語られないからこその怖さがありますよねこの映画は。まぁともあれダミアンさんはバルバラを救った結果刑務所に入っちゃったらしいんですよね~。そんなわけでバルバラさんは「押すなよ!ぜったい押すなよ!」バリに、「ルイスって人にレイプされたんだ」と嘘ついて殺させようとするんですよね。なんとたくましい女なんだ!
殺し屋に覚醒するダミアンさん
てなわけで殺し屋モードのスイッチをバルバラによって入れられたダミアンさんは「ルイス!お前レイプしたやろ!」と会いに行くんですがルイスさんが「普通にセックスしただけで、レイプはしてない。録音もあるよ!」と言うんですが、ふつうに殺されて、ついでに現場にいたお客さんと店員も殺して、さらには家に行って娘のアリシアちゃんも殺しちゃうんですよね。
そもそも映画のはじまりは幼い時のバルバラちゃんと先生ダミアンのシーンからはじまり、バルバラの「手から紙切れを消すマジック」から始まったんですが、映画の終わりはバルバラのもとにダミアンが行って「ルイスのケータイを手から消すマジック」で終わるという見事な円環構造になって映画は終わっていきました。
殺されたアリシアちゃん。ちょっとパンズラビリンスをおもいだしたり
この映画、日本のアニメのオマージュとか、歌謡曲が流れるスペイン映画、と、パッケージングは独特なんだけど、軸は、バルバラというファムファタールを中心にしたしっかりしたノワール映画になってました。娘と父親の話という入口からは想像できませんでしたが、出口は石井隆作品的に終わっていったというか、バルバラとダミアンの名美と村木の物語になってました。この関係性は実に石井隆的だなぁと思ったり。
実はアリシアは衣装がほしいとは一回も言ってないという悲しさ
あと語らずして語る演出と省略の演出が素晴らしかったですね。アリシアとルイスの関係で言えば、「ラジオ」の使い方とか。あれでわかるようにも、アリシアは一度もルイスに直接衣装がほしいとは言ってないんですよね。ちゃんともっとルイスは会話をしてればこんなことにはならなかったはず…確かな愛情なんだけど、その直接向き合わなかった善意・愛情の代償はあまりにも大きかったし、その小さなすれちがいが大きなバイオレンスに繋がっていく怖さがとても良かったです。
バルバラさん周りでいうと、2回繰り返されるSMデリヘルシーンの「手紙」の使い方。2回目は何も救済措置がないことが白紙の手紙一発でわかって、この先はもう終わりのないとてつもない暴力が続くんだ…('A`)ってことがわかったり…。
ダミアンさん周りでいうと、ジグソーパズルの演出。最後の1ピースが埋まらず。。そこにその最後のピースにバルバラさんが来ちゃうことで全部のピースを壊さざるを得なくなるというあのシーンとか。ほんとこの映画セリフではなく小道具で見せるセリフではない演出がほんと印象に残りました。アリシアちゃんに関しては「パンズラビリンス」を思い出したりもしましたよ。純粋無垢な女の子の悲しきラスト。でもどちらもその絶望の中で小さな夢は叶ったという悲しい救いもあったりもしたり…。
まぁでも、この手のひょんなことから平和だった日常が崩れ始めて、気づいたら逃れることのできない暴力的な世界になっちゃうお話は超大好物ですし、かなり文字通り「マジカル」な素晴らしい展開をしていてジェットコースターに乗ってるような感じで楽しかったなぁ~。
てなわけで、マジカルガール僕はすっごくおもしろかったです!今年の少なくとも上半期ベストには間違いなく入る素晴らしいスパニッシュノワールでした。
おわり