天然系 | たらればの世界

天然系

あの娘が可愛いって、みんな、ね。瞳が大きくて、童顔で、ちょっと舌足らずで。

――ああ、私にウイスキー。あの娘にはウーロン茶、さっき頼んでいたもの、代えて渡して。大丈夫、判りやしない。酔ってるもの、あれ以上呑ませたら、あの娘が心配だわ。

ほら、またつまずいた。

またグラスを倒すわ――ほら、

まるで駄目ね。

最初に云っておくわ。あの娘をくどこうとしたって、無駄骨よ。正攻法で攻めようなんて考えないで。目を見て話しているからって、抜けてるの、聴いてなんていないんだから。若し聞いていたとしても、それは遠い遠い夢の国のお話。自分のこととはまるで関わりのない、おとぎ話としか思ってない。その印に――ほら、ああやって、遊園地にきたみたいな笑顔でただ笑っているだけなのよ。まるでつけいる隙なんてないんだわ。

それが可愛いって?

天然がいいって云うんでしょう?

まさか。

あの子は養殖よ。

だいたい9月くらいになったら、水槽から胞子を取り出すの。牡蠣の殻に培養しておくのよ、知ってた?時期が来るまで、そこで成長させるの。

海へ、船で向かうの。まずは支柱を立てるの、なん本もなん本も。そこに網をつるすの。大変だったわ……支柱にくくりつける作業。まだ暑さが厳しくて、あの人も真っ黒に焼けてた。

なん枚も重ねた網、その下にビニールをつるして、培養した海苔の胞子をくくりつけるの。海面があがって、水に浸かったとき、胞子が網についていくの。覚えておいて。

種付けが終わってビニールをはずしたら、いよいよ本番ね。

潮が引くと、網が海水から出て日に晒される。それで殺菌できるのね。海水に浸かれば成長する。そうやって、ゆっくりゆっくり育てていくのよ。

15cm位に成長した頃かしら。ふぅー……(煙草)。摘みだすの。日も昇らない朝早くから、みんな……みんな、それは成長を喜びながら、摘んでいったわ。

船に乗ってふるさとに帰ってきたら乾燥機に入れられるの。勿論きれいに洗って、しっかり乾燥させるの。そして、あなたも知っての通りのパリパリ感と、艶がでるんだわ。

そうやって私が育てたの。完全養殖。

そしてね、その表面にごま油と醤油を塗って塩をふる。そしてフライパンで少し炙ったら、ほら、おいしい韓国海苔ができるのよ。