ペパーミント
「お願い」
なんて、縋りついてくる。きいてはいけないって、判ってる。
「どうしても……あれがないと駄目なの」
それはお互い判っている。だけど、頬はやせ細って、いかにも苦しそうに爪を立てる。
「お願い。今回だけ、少しだけでいいの……!」
勿論合法なものだ。流石にそれ以上のものは僕の手に負えない。しかし、そもそも過度に使用して身体にいい薬などないんだ。
「ね……、ね?一粒だけ……!」
痩けた腕で僕を摑む、振り回す。その細さに似合わない力。狂気じみている、僕は哀れみさえ覚える。
「ねえ!……お願い……苦しいの……苦しいの……」
その薬は常に僕のポケットに入っている。以前は鍵をかけて一番上の棚にしまっていた。しかし、ある日、彼女はフォークで必死に鍵穴をこじ開けて、その薬瓶を奪ってしまった。いまもあの棚には痛ましいひっかき傷が残っている。
「……たすけて…………」
糸が切れた操り人形のように足下に崩れ落ちた。僕は苛立ちと、悲しさと、哀れさと、そして、心の一番深いところにある感情――愛で、遂にポケットに手を、あの薬瓶に、手を伸ばした。
しまった、一緒のポケットにフリスク入れてた!ああ、引っ張るなよ!ああ、もう!
落ちたフリスクと錠剤。もう見分けがつかない。