前回の続き。
名古屋市の愛知芸術文化センターを後にして
次の会場である瀬戸市の愛知県陶磁美術館に向かいます。
陶磁文化の普及向上と陶磁器産業の振興のため創られた施設。
あたりは緑いっぱい、というかまるで鬱蒼とした山の中みたいです。
空気もひんやりとしていかにも秋深いといった感じ
「版築」という土を突き固めて壁や基礎をつくる技法を用いた
ガーナを拠点に活動するハイブ・アースの作品。
土を掘って、動かし、突き固め、元の場所に埋め戻すという行為を通じて
人間の営みが環境に与える影響について改めて考えるプロジェクトです。
楽しそうにポーズをとる団体見学者の皆さん。
ナイロビ(ケニア)生まれのワンゲシ・ムトゥによる《眠れるヘビ》
青い陶製の頭を枕に乗せ横たわる巨大なヘビは女性のようでもあります。
周囲を取り巻く様々な具象や抽象のオブジェが表しているのは
果たして楽しい夢の世界なのか、それとも悪夢なのか…
やきものは表面がさまざまに装飾されている一方、その内部には
虚ろな空洞を孕むということから「身体」との親和性を見出し
独自の形状の陶造形を手掛けている西條茜。
展示物を動かすことによって絨毯にできる跡も表現の一つです。
マヤ・カクチケル族にルーツをもつマリリン・ボロル・ボールは
先住民のアイデンティティや植民地主義といったテーマを軸に
アメリカ大陸の歴史認識に対する問題提起をしています。
土器から流れ出した工業用コンクリートによって
床に浮かび上がるのは虐げられてきた先住民族の肖像。
永沢碧衣は東北のマタギ文化に関わり、自らも狩猟免許を取得。
狩猟者としての経験を踏まえ表現した絵画作品を制作しています。
自身が狩猟し解体した熊や鹿などの動物の毛皮から膠を抽出したり
血や石から絵具を精製するといった材料面の研究も行うとのことで
いやあ～すごい人がいたもんです。
昨今のクマ問題について意見を聞いてみたいと思いました。
チャヌーパ・ハンスカ・ルガーはニューメキシコ州を拠点に活動する作家。
モニュメンタルなインスタレーションや彫刻、パフォーマンスを通して
21世紀の先住民が直面する切迫した状況を表現しています。
マンダン族の祖先たちが使ってきた器を再現した展示。
黒人女性としてのアイデンティティを中心に据えた作品を
多く発表しているシモーヌ・リー。
タカラガイのスカートをまとった黒人女性の像です。
世界最古の通貨の一つでもあるタカラガイはリーの作品に繰り返し
登場する重要なモチーフで、大西洋奴隷貿易を想起させて痛いです。
〈Wreck of Time 90〉
今回の出品作ではなく、美術館の所蔵品の一つ三島喜美代の作品。
火山灰のなかに、さまざまな廃棄物を混ぜ込んで固めた大作です。
陶に新聞の転写が施されたものも混入されており強烈なインパクトで
愛知県陶磁美術館の底力を示してくれます。
陽が傾いてきたので大急ぎで西館〈デザインあいち〉に向かいます。
途中の芝生の上には先ほどのワンゲシ・ムトゥによるリクガメ。
ケニアの小さな手工芸品の籠「キカプ」を巨大化した
ブロンズの籠の中に静かにうずくまっています。
西館〈デザインあいち〉に広がるのは加藤泉ワールド。
皆さんも一度は目にしたことがあるんじゃないでしょうか。
未分化な原始生物、胎児、動物、またはそれらの混ざりあった
不思議な存在が浮遊し意識の中をゆらゆらと揺蕩っているような感覚。
生命体なのか精霊なのか…
水辺の動物たちと奇妙な融合を遂げた幻想的な世界に
気持ち悪いなあと思いながらも引き込まれます。
愛知県陶磁美術館所蔵の資料と共演する加藤泉の生み出した生命体。
その愛らしくもブラックな遊び心にちょっと笑っちゃいますね。
夕陽が傾いてきた愛知県陶磁美術館の広い庭。
陶磁器のオブジェがあちらこちらに点在しています。
そろそろ閉館時間が迫ってきました。
今日の宿泊は同じ瀬戸市内。
名鉄尾張瀬戸駅前に立つホテルルートインです。
2年前にできたばかりで館内はめちゃめちゃきれい
ツインのお部屋もまあまあ広くて居心地は最高です。
設備もすべて最新式なのでストレスフリー、大浴場もあります。
WOWOWが見られる、というのが売りのようですが見てる暇はない
晩ごはんを食べがてら付近をお散歩。
尾張瀬戸駅は名鉄瀬戸線の終点駅、私鉄ならではの味わいがあります。
と言ってもまだ夜8時だというのに人がいないのは寂しいな。
ここ瀬戸市は将棋の藤井聡太さんの出身地なんだそうで
駅ビルにはこんな応援の垂れ幕がいっぱいぶら下がっていました。
ご当地は本当にありがたいですね。
明日はこの瀬戸市のまちなかに点在する芸術祭の展示を訪ねます。
次回に続く…
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