四八日目

 ムンバイ行のバスを待つ間カフェに入る。

 バケモノのようなピーナッツバターシェイク。あまーくておいしーい。スタバの300億倍うまい。

 15時頃、30分後に出発するバスがターミナルに到着したとの旨がSMSで届く。相場500ルピーのところをプラスで250ルピー課金して、エアコン付きスリーパークラスのバスにしたから当然のサービスと言えば当然のサービスだ。

 カフェを出て目の前にあるターミナルに行くがバスが全く見つからない。野球場ほどの広さのあるバスターミナルには100台くらいバスがいる。ぐるりと回っているとあっという間に出発の五分前になっていた。慌ててバスのナンバーを高速で判別しやっと発見。


これはなめてたら見つからへん

手前のやつに乗りました

まあまあ高級なのを予約したので、期待して入ると

コンセントとエアコンあり、足も伸ばせる

隣は二人席

 そこそこの寝心地。安宿で南京虫が出るリスクを考えると道はガタガタで跳ねるが悪くはない。鉄道よりはよっぽど快適。跳ねるとコンセントに指したプラグが外れる。これは10分に一度くらいの頻度で起こるが我慢。定刻ちょうどくらいに出発し、翌朝着。寝たり動画を見たりおとなしくしていた。

 途中、上で寝ているインド人青年に「チャージャー持ってない?」と聞かれる。チャージャーってなんや?と咄嗟に反応できず持ってないねと返答。数秒後にあっ、充電器かと気づく。今声かけて貸してあげようか、でもパクられたらムカつくしそもそも見ず知らずのやつに充電器を貸してあげる義理はあるのか、いやいや困ってる人を助けてあげるのが人ってもんでしょうよ、でもインド人に散々ひどいことされたべ、それでも助けてあげるのか?

 自分の中の天使と悪魔が30分くらい頭の中で戦い葛藤していたが、最終的に勝ったのは睡魔だった。気づいたら寝ていた。

 性善説を唱えたいが、この国に来て元々荒んでいる性格がより荒廃している。間違いなく良くない傾向だ。人を見たらすぐ疑ってしまう。何か邪推してしまう。もっと人を信じたい。



四九日目

 早朝5時半頃、乗務員に叩き起こされる。降りろボケ!と降ろされた場所は

雨が降りしきる国道のど真ん中。しかも降ろしてくれる約束をしていた場所から10キロも離れている。話が違う。どういうこっちゃ。ゴアでは雨が一滴も降らなかったが少し北に出るとやはりインドは雨季のよう。昼になってもずっと曇り空だった。

 国道から、下道への脱出の仕方もよくわからないので仕方なく声をかけてきたリクシャにおとなしく乗ってみる。予約していたホステルまで約10キロ走行。

10.4キロ130ルピー。メーターのあるムンバイはやはり都会だ。今までは半分の距離で倍ほど取られてきた。

 6時過ぎにホステルの前に到着するが、鍵が閉まっておりフロントでスタッフが寝ている。迫り来る便意を前に肛門括約筋は耐えることができず人生で初めて野で糞をかました。ゴミだらけの場所。牛のも犬のもあるし多分大丈夫だと思う。

 脱糞しても扉は開かない。重いバックパックを背負いながら24時間開いているとの表示があるカフェを地図で見つけ、向かう。30分圏内に2軒あり、両方当たるが二つとも存在すら確認できない。道のど真ん中にピンが表示されているしおかしいとは思ったが。

 雨も降ってきたので屋根のある場所で雨宿り。たまたまそこがATMの前だったのだがインド人のじじいに使い方を教えてくれと頼まれる。もちろん快諾したが、こいつはこんなよくわからない東アジア人にPINコードとか見られて平気なんかよ。無事に取引を終えたじじいが何か見返りをくれることはなかったがユアウェルカム。何も問題ない。見返りを求めてやっているわけではない。一日一善。問題が解決されて良かったよ。

 8時半頃ホステルに行くと扉が開いていた。手早くチェックインを済ませ、睡眠を取る。13時にスタッフに起こされ起床。

 何事かとフロントに向かうと、支払いを済ませろとのこと。二泊で666ルピーきっかし出すと「お前は早朝にチェックインしたから250追加だ」とこれ見よがしに守銭奴ポイントを上げにくるインド人。たしかに朝早く来たけどさそれはご愛敬じゃん、250ってほぼ一泊やん。涙を浮かべていると、こいつらにも情があるのか「わかった150でいいよ」とまけてくれた。いやそれでも高いねんけど。

 ムンバイ、ひいてはこのインドとはあと3日でおさらばだ。17日の早朝便でイスタンブールへ飛ぶことが決定した。高鳴る心はとどまることを知らない、はずだった。僕を不幸のどん底へと突き落としたのは後輩からのメッセージ、「志田未来、一般男性と結婚!」の報だった。

 志田未来。私は小学生の頃から彼女を応援してきた。というか一目惚れした。『女王の教室』というドラマ。それからというもの出演作はほぼ必ずチェックしてきた。年齢も二つしかかわらず勝手に彼女をお姉さんのような認識で見つめてきた。神木隆之介との熱愛報道が出たときも志田未来は天使だから人とは結婚しないよと余裕をかましていた。大学一年の頃に観に行った舞台でたった一人出待ちをして「応援してます!」と声をかけたときに彼女がくれたゴミを見るような視線は今でも忘れられない。そんな志田未来に関するたくさんの思い出を持つオタクの私だが、彼女は吉永小百合あるいは天海祐希になると思っていた。つまり、一生独身を貫きその代償?として国民的女優としての地位を得るのだと。恋にうつつを抜かすような人の子だったとは..。まさか露ほども思いもしなかった。大体、志田未来と結婚できる一般人ってそれはもうもはや一般人じゃねえよタコ。とにかく彼女がくれた夢と希望と愛を胸に僕はこれからも必死に旅を続けたい。不慮の事故で亡くなることがあれば是非とも志田未来の子宮で新たな命として転生したい。

昼飯
こんな状態のラッシーは初めてだ


ラッシーとわけわからんカレーみたいのを頼んだ。そしたらケーキみたいのも出てきた。客層は上流インド人、何かプロフェッショナルっぽいやつらがいっぱいいた。料理の味はインド料理全部に言えるがしょっぱい。とにかくしょっぱい。値段、雰囲気ほどにはうまくない。

ホステルに戻り、この日は21時頃就床。



五〇日目

 1時くらいに目覚め、また寝る。3時くらいに目覚め5時半頃また寝る。7時前に目覚め8時前にまた寝る。というのを繰り返す。総睡眠量で言うと多分大分少ない。なんでこんなに寝付きが悪いのか。インドだからか?そういえばこのゲストハウスも客はインド人しかいない。欧米人がわらわらいる宿が懐かしい。7時頃の起床ではおねしょをした。二年ぶりくらいだと思う。

 今日で旅の行程の約1/3を終えることになる。多少感慨深くなくもないが、それよりもとにかくインドを出られるのが嬉しくて嬉しくてたまらない。明日の昼にチェックアウトしてから17時間ほど空港でゴロゴロするのがインドでの最終ミッションだ。体調も鼻水が出る以外はすっかり良くなった。こんなに早く治るとは思っていなかったので嬉しい誤算。

 12時くらいまで次に行くトルコで何しようかと考えながら、だらだらしていた。というのももう外へ出たくないのだ。インドの街へ繰り出すという行為そのものが嫌なのだ。十分だ。たくさんだ。とはいえ腹は減る。24時間ぶりの食事をとるため外へ出る。

空は晴れているのにどしゃ降りだ。明後日の早朝、ここを出られる。雨だが心は快晴。

 国際金融都市を謳うここムンバイだが、ひとたび外を歩けばチャイニーズしか言われないし何度ガン見されることやら。エリアにもよるのだろうがムンバイのアンデリーイーストは間違いなく国際都市ではなく排他的な地域だ。ノイローゼになってしまう。以下閲覧注意画像。


ありえん臭う。さながらハンターハンターの流星街を思わせる。能力者の一人や二人は簡単に見つかりそうな街だ。こんな衛生環境に温室育ちの東アジア人が飛び込もうものなら、39度を越える高熱を出して寝込むのは当たり前も当たり前なのだ。

 ケンタッキーとローカルの店のどちらで食うか迷いに迷って後者を選択。12時半頃入店。マインドとしてはうるさくて嘘つきでむかつくインド人に金を落とすくらいなら米国資本に金を渡す方がまだましだが、もうこの土地には二度と来ることはないだろうし最後くらいは本場のカレーとやらの本気を見てやろうと思ったからだ。それで入店したにも関わらず出せるのはサンドイッチだけというお粗末さ。最後までインドはインドだ。

オーダーから15分ほどして到着。
マヨチーズサンド。ジャンボなのに小さいなと思ったが、かなり腹は膨れた。サンドイッチなのに下にはパン、トップにはペラペラの魚フライを配置し中に種々の野菜がトッピングされている。パンを一枚節約できるしなんか賢い。うまくはないけれど。ラッシーも頼んだけど店によって味が全く異なる。ここのは腐ってるようなチーズのような味で、食感もどろどろ。うまくはない。

 食後に店を出てヤニをふかしていると同じくらいの身長に見たところ同じくらいの年齢の若者に声をかけられる。そういえばインド人も意外に外でタバコを吸っている。それはどうでもいいのだが、このナウいヤングがタバコをせびってくる。見てくれはそんなに貧しそうには見えないが、一本くらいなら気持ち良くくれてやる。なんてったってこっちは先進国JAPANのニートだ。心の余裕が違う。格の違いを見せつけたところでこいつとの会話を楽しむのだが「あー、お構いなく」といった具合で当たり前のようにヒンドゥー語でしゃべってくる。無論、何一つ理解できない。せめて英語でしゃべっておくれよ。ヤニが燃え尽きたところで立ち上がると今度はこいつ無限に「カーナ」と発し右手を口に持っていく動作を繰り返す。こいつ、昼飯もおごれってか。どうやら上流階級くらいにならないと乞食根性というのはどのカーストのインド人にも染み付いているようだ。外国人=金持ち=たからねばという図式が彼らの頭の中に完成されているのだろう。本当に図々しい。100メートルほどついてきたが無視を決め込むと最後には諦めて尻尾巻いて逃げた。ちょっと外に出ただけでこれだ。腹も満たされたし明日の準備でもして寝よう。

続く