六二日目
12時頃に宿を出て、周辺を散策する。空腹に耐えかねて昼飯を食いたくなるがイズミルの人たちはやや閉鎖的で客引きなどはほぼほぼいない。観光で売っている街ではなく、ほんとに都会。日本の名古屋のよう。イスタンブールのような古い街の感じはあまりなくビルがぼちぼち乱立している。店の中に入って良いのかどうかわからない微妙な雰囲気。仕方なく商店でバケットとペプシを購入。スーパー玉出よろしくフランスパンが1.25リラで約20円という価格破壊。めちゃくちゃうまいしでかい。
フランスパンはカロリーの割に腹持ちが悪くすぐ腹が減る。相変わらず客引きはいないので入りづらいがお構い無く店内を進撃し14時半頃にようやく昼食にありつく。もちろんメニューはケバブだ。140円くらいで腹も満たされるし鬼のようにうまい。天才だ、トルコ人はほんとに。
ちょうど、この旅行も2ヶ月を経過した。この間を振り返り、得たものと失ったものを整理したい。
「得たもの」
・なけなしの英語力
ホステルや食堂、チケットの予約で困らない程度の英語力は身に付いたかと思う。
・ニキビ
こいつが一番厄介だ。いかなる手段を用いて抵抗しようとも前線に返り咲く。顔面がさながらグロ画像と化している。オナ禁も二ヶ月になるが効果を一ミリも実感できない。やらない損だがトルコはエロサイトにブロックがかかるため結局自分磨きをできない、世知辛い。
・陰毛&髭
パイパンにしてから出国したと以前も申し上げたが、すっかり剛毛になっている。髭に関しては元々体毛が薄いのもあるのか、60日以上経過した割に生えていない。理想は全盛期のランディ=バースだが、それには程遠く顎に関してはほぼほぼ生えていない。うまくいかないものだ。
・体臭
たまになんかくせぇなと思ったら自分のことがある。洗濯もランドリーを利用したことはないし全て風呂場で自分の使った石鹸の残り汁で行っている。ちなみにシャンプーはこの2ヶ月間使用していない。無限に着用しているカンボジアで2ドルで購入したパチもんのナイキのキャップは色が黒から赤に変色している。臭いのも当然か。
・怒る力
本気で怒るのは難しいが、インドでそれができた。それもインディアンを相手に。あれ以降怒ってはいないが、一番大きな収穫かもしれない。
「失ったもの」
・色々
以前書いた通りのものに加えてお気に入りの足袋とイヤホンのプニプニを失った。プニプニはなんであんなに外れやすいんだろう。ほんとに無能。それでも致命傷に至る紛失はないことが幸い。
相変わらず価値観に変化はない。それほど強固な価値観を持っていたわけではないが、そもそも価値観を変える旅ってなんやねんという疑問が常につきまとう。たしかに変えられたら良いとかはぼんやり思っていたけど、よくよく考えてみると価値観をそんなに変えたいかとも思うしそれが主眼になるのはいかがなものか。景色見て感動するとか少しでも堪能な語学を身に付けるとかちょっと良い男感を出せるようになるとか、それで十分な気がする(ひょっとして、これが価値観の変化なのか)。価値観が変わらなければ変わらないで、それはそれで旅を通してしかわからないものであって貴重なものなのかなとも思う。ゴリゴリに凝り固まった思想を柔軟なものに変えるだとか新しい知識とか感性とかを養うというのはわかるけど価値観の変化ってなんやねん。聞きたい。価値観とは何か。海外に行って変化した価値観とは。変わって良かったなと思う人はそれで良いけれど僕はそうじゃない気がする。20年以上住んでいた日本を飛び出し、たった2ヶ月海外に飛び出したところで何も変わらないよ。成長!成長!成長!って言うけれど、そんなに成長したくありません。負け犬が遠吠えしているようにしか聞こえない、自分を正当化するのに必死だ。僕は弱い人間です..。
今日はバケット×3を接種してしまった。加えてケバブとバナナもかましてしまったので、単純計算で成人男性に推奨される一日分のカロリーを遥かに凌ぐ熱量を吸収した。麦の国、世界三大料理に数えられるトルコとあって食も進む。肥るのもいたしかたなし。
六三日目
チェックアウトを済ませ外出。昨夜は無限にぼんやりしていたが本日がチェックアウトなのを失念していた。起きてから気づいてあわててパッキングを完了し、なんとか遅れずに済んだ。この期に及んで自分の旅程を把握できていないのが不甲斐ない。こういう経緯で暇だった昨日時点で予約すれば良かったバスのチケットも取っていないのでとりあえずバス会社へ赴く。旅程を勘違いしているので昨日取っていたら昨日から数えて明後日の分になっていたかもしれないと自分を慰める。昨日の昼間もその辺をうろうろしながら探していたが、どういうわけかこの街ではほとんど代理店の類いを見つけられなかった。イスタンブールやカッパドキアのような観光地では道を歩けばすぐにぶつかるのだが、やはりイズミルは観光都市ではないようだ。トルコ第三の都市と言われるだけあってスーツを着たビジネスマンもちらほら見かける。
トルコに来るまで首都をイスタンブールと勘違いしていたが首都はアンカラという街らしい。第一が多分イスタンブールでその次がアンカラ、三番手がイズミルということだろうか。
でっかい駅前に行くと幾つもバス会社はあった。今日の夜のバスでイスタンブールへ行きたいと伝えると、あんまりないねぇと反応が芳しくない。日付が変わった夜1時発で24時20分集合のバスはあるとのことで、仕方なくそいつで決着。約1890円は高い気がする..。現在の時刻は11時20分、約13時間も何もなき街イズミルで暇を潰さねばならない。
天気が悪いと思いながらも海を目指して歩いていると突然の雨が私を襲う。トルコでは初めてお目にかかる。来てから十日以上もずーっと快晴が続いていたので、そんなはずはないとわかってはいるもののトルコは雨が降らない国だと勝手に決めつけていた。そのため折り畳み傘はバックパックの奥深くに収納されたまま、宿に置き去りにされている。ついてない。
雨も強くなってきたし空腹も限界なのでどっかの店で昼飯でもかますかと思っているところを久々に客引きが呼んでくれた。直前にいたパムッカレは限界集落のごとき街で閉まっている店が多かったので久しぶりのキャッチが嬉しい。多すぎるのも嫌だけれど少なすぎるのも、なんか悲しくなる。
昨日の昼間からSIMカードが全く作動しなくなった。イスタンブールの街中で2700円も支払わされた代物だが、どうやらとんでもないジャンク品だったよう。携帯もいじれず寒い街中をただひたすら歩いて十時間以上潰すのは至難の業だ。
13時頃、雨が止んだので海を眺めながらエフェスビールをかます。
日本との時差は六時間。曇り空ながらまだまだ明るい。不思議な感覚になる。今日は華金でブラック企業の労働者は今もなお残業に追われ、運よく退社できたホワイト労働者は居酒屋で仕事終わりの一杯を楽しむ一方で、ニートの自分は何もしていないのに白昼堂々イスラム教徒が大半を占める街のど真ん中でビール片手にヤニをかましている。時間が売買できるなら今すぐ自分の十数時間を売ってタイムリープしたい。それくらい暇で暇で仕方がない。タブレットも宿に置いてきた。こういうときにこそダウンロードしてきた映画を観るべきなのに。Wi-Fiも繋がらずもどかしい。スト缶でもあれば良いのだけれど、この国には酎ハイという概念がない。
14時半頃、築地市場の中をうろついていたらモスクにぶち当たったので中に入って睡眠。16時半過ぎまで粘るが信者がお祈りを捧げるため無限に増殖し始めた。邪魔にならぬよう撤退。

17時半頃に謎の楽団が現れスタンディングオベーション、多分国歌だ。華金を告げる合図だろうか。19時前まで横になって睡眠。
21時前にホステルへ荷物を取りに帰ると、地元のガキんちょに囲まれる。カツアゲでもされるのかと思ったが「ここにいていいんだよ!」って。優しい。ゲストハウスにも入り浸っているようでかなり人懐っこい。最初からゲストハウスで暇を潰せば良かった。深夜までうるさいし男女がいきなりフラメンコ始める陽キャハウスで居づらいけど。タイでもそうだったけど同じ国にいられる限界はどんなに良くても母国を除いて二週間前後だと思う。あと五日はトルコにいるけど、そろそろ出たくなってきた。目下、あと三時間ひたすらバスを待ち続ける。
続く









