八九日目


 21時頃に床に就いたが結局3時間くらいしか寝られなかったと思う。お昼寝のせいだ。飯をかまして、シャワーを浴びてツアーへ。10時半から19時半まで。朝の便の出が悪かったのでスルーラックをかました。これが後の出来事の原因となったのかは今でも定かでないが、このときの俺は8時間後に起こる悲劇を知る由もない。


 ツアー会社の前へ行くと、すでに日本人一人とオーストラリア人二人がいた。前者は30くらいの兄ちゃん。あっさりしてるけど、高飛車。礼を言わない。後者の見た目は完全に東洋人だ。中国系移民だろう。バンに乗り込み、いざ出発。



列車の墓場。ダメだ、今しがた起こった出来事の衝撃が強すぎて、この辺は行ったことすら記憶が曖昧だ

塩。ここで白人と日本人のアベックも登場。白人は俺の女を取るなと言わんばかりに女性と会話しているだけで捲し立ててくる好戦的な人だった

ブクブク湧いていた


昼飯を食ってあっという間に、15時過ぎ。

この頃の俺はこんなにはしゃいでいた

16時頃にサボテンがたくさんあるところに来た。17時まで自由時間。中に入るには30ボリ必要、中にしか便所はない。

 このとき確かに腹は痛かったが、耐えられそうだという何か確信めいたものがあった。それよりも尿意の方が強かった。サボテンランドを外から眺めるだけで十分な気もしたので入場料500円を払うのがなんだか惜しく感じられた。30払うくらいなら、10でビールを飲んだ方がましだということでルービーで下痢止めを流し込む。この選択が直後に起こる悲劇の引き金になったのかもしれない。

 17時から1時間ほどかけて、鏡張りスポットに到着した。




こんなんだったかな。覚えてない

 とにかく腹が痛すぎて美しい景色が入ってこない。そんな中でも皆で力を合わせてトリック写真の撮影をした。終了直後の安心感からか18時過ぎのサンセットを迎えると同時に俺は一発目を漏らした。この時点では9割は腸に止まっている。ケツから裏太ももにかけてクソで濡れている。

 このあとも第二回トリック写真大会が開催される。正直もう写真もウユニもどうでもよくなっていた。二回目のトリック写真は我々観光客×6が横に並び、ドライバーが車に乗って円を描くようにグルグル写真撮影するというものだった。まずい後ろから撮られたらケツのシミがバレるかもなんてことをこのときは思っていたが、今思えば些細なことにすぎない。誰かの携帯で撮ったのでケツのシミが見えるのか見えないのかは未だにわからない。メアドを教えたが、メールも来ない。

 19時前にやっと街へ車は走り出す。ここからおよそ30キロ離れている。ウユニ塩原に便所などあるはずがない。見渡す限り塩。30分耐えれば厠に行ける、と悠長に考えていたが俺は自分の肛門括約筋を過大評価していた。第二波はすぐに来た。バンは地図上には存在しないただの凸凹道を走っている。その小刻みの振動から俺は二発目を打ってしまった。この時点で車内はかなり臭っている。

 正常な思考を保つために、俺はツイートを繰り返した。「うんこ漏らしました」、「二発目きました」という感じで。正常な思考を保てたかどうかわからないしそもそも思考と便意は密接な関係にあらず、ということにこのときは全く気づいてなかったが、まあ関連性はない。

 臭いを抑えるために俺はケツをシートに押し付けた。これが大誤算になると気づくのは20分後の話だ。車内ではなんかくせぇなという顔を皆が一様にしている、気がした。だから俺も何食わぬ顔で鼻をつまみながらなんかくせぇなという表情をした。が、その罪悪感にも耐えられずすぐに第三波がやってくる。皆の顔を見て心の中でごめんなさいを唱えながら三発目、まだ70パーは腸にある。このまま乗りきれればまだセーフかもと思っていた。

 どっこい街中に入りあと5分でツアー会社へ到着というところだ。シティに入ると先程までのような何もない道ではない。それほどスピードを出せず急停車をするケースが繰り返される。4~7発目に関しては、もはやここがトイレだという勢いで脱糞。気持ち的には残り30%くらい、実際は半分くらいだったと後に気づく。この頃はほとんど意識不明状態だった。頭では何も考えられないが、不思議なことに気分は落ち着いていた。自分の限界に挑戦したからだろうか、出せる力を出しきったからだろうか。理由はわからないが、すごく落ち着いていた。悟っていたのだ。

 そうこうしているうちにツアー会社の前へ到着。座席のフォーメーションを書き忘れていたが、2-3-2で左前からドライバー、右にカナダ人男性、中盤が日本人の姉ちゃん、オーストラリア人女性、男性、そして終盤が俺、兄ちゃんと続く。後ろの座席には真ん中から入るのではなく、トランクから入る。トランクは上に開く通常のやつではなく大きな邸宅の扉みたいなやつ

こんな感じで、座席は後ろだけ向かい合う形式だ。

 降車時
「先どうぞ」と俺は兄ちゃんに促すのだが、、
「いいよー」と兄ちゃんは言う。
正常な思考ができないので、どうもと言いながら先に降りた。降りるときに兄ちゃんは俺の座席をガッツリ見ていた。俺も座席を確認したが自分の目が正しければシートの1/8から1/6は汚れていた。過小評価してるかもしれないが。

 なんとか車を降りドアを閉じ解散。事なきを得られるかと思ったが、そうは問屋が卸さない。ドライバーが降りて来て忘れ物確認。当然最後列も確認する。あのときの彼の表情を忘れられない。驚きと嫌悪、そして悲しみの入り混じった哀愁漂う表情だ。シートと俺の顔を見比べる。ハナから逃げるつもりはなかったが、はっきりとドライバーのおっちゃんにもこの惨状は認識されたので、俺は一言「Sorry..」と謝った。そう、メジャー第一巻のジョー=ギブソンのごとく..。

 このとき、すでに第八波が来ていた。俺はホステルに向かって走る。相手の目には逃げたように写ったかもしれない。だが、相手は俺の宿泊している場所を知っている。ツアー申し込み時に滞在先を知らせているからだ。だから、いざとなれば後からでも賠償請求に来れる。クリーニング代が必要ならそれは支払いたい。こればっかりは相手の出方次第で今はとにかくこのうんぴを何とかしなければならない。走りながらもクソを漏らし続ける。もはや量の問題ではない。

 自室へ戻ると鍵がかかっている。今朝の時点で同室の白人女性はチェックアウトしていたからニューカマー登場というわけか。ノックをすれどノックをすれど部屋から出てくる気配がない。どうやらシャワーを浴びているらしい。まだ便意は残っている。腹立たしさと恥ずかしさの狭間にいながら、なんとか冷静さを保とうと俺は必死だった。思えば、あのとき鍵が開いている状態の方が厄介だったかもしれない。当然、部屋の中で俺は待機するから部屋に臭いは充満する。なんなら勢い余ってベッドに座ってしまったときには大変だ。

 深呼吸をしながら自分のズボンを見ると後ろ側だけでなく表の太ももに沿って表面までクソは垂れ左足首から靴下、靴までズブズブになっていた。ウエストポーチにたまたまあった小さなウェットティッシュで拭き取るが、そんなものでは間に合わない。10分ほど廊下で待機。糞はパリパリに乾き始めていた。

 シャワーから出てきた男に平生を装って「オラ」と声をかける。ケツを隠すように後ろ向きのままシャワールームへ。残りの糞を出し切り、シャワーを浴びる。糞を漏らし始めてたった60分以内の出来事だ。こんなに漏糞したのは初めてだ。漏糞自体はこの旅行中に少なくとも5回はしているし、日本にいても腹はユルい。しかし、それはパンツにシミができる程度のことであってここまでの大惨事に至ったことは生まれてこの方初めてだ。うんこマン見習いから真のうんこマンになれた。なってしまった。パンツを洗いながら頬を伝う一滴の涙に気づく。岡本真夜の歌声がどこからか聞こえてくる気がする。パンツはもはや使い物にならない。高三から6年間履いているズボンも大学4年間愛用しているこの靴も、これまたもお釈迦か。

 風呂から上がるとさっきの男は消えていた。荷物もないので勝手に部屋に入ってシャワーだけ借りて去ったということだろう。なんという図々しさ。

 何がこの悲劇を引き起こしたのだろう。睡眠不足、スルーラック、昼飯のサラダ、今日飲んだ二杯のビール、それら全てかもしれない。どこで選択を間違えたのだろう。サボテンゾーンで便所へ行くべきだったのか、はたまた便意が来た時点でトイレはないかドライバーに問うべきだったのか。あるいは漏らした時点で「俺漏らしました!」と道化を演じるべきだったのか、こればかりは神のみぞ知る。

 5時間後の深夜3時半に同じツアー会社の星空ツアーに申し込んでいる。行けるわけがない。泣きたいのはこっちだよ、と先方に怒られそうだ。ほんとに申し訳ないです。弁償する気はあるので。とりあえず先方の出方を見ることにする。

続く