面打 能面師 新井達矢の制作日記

面打 能面師 新井達矢の制作日記

日本の面に向かう日々

東京は西の外れ羽村市にて能面などを打っています。

面の制作と修復、木彫教室の講師、お囃子が主な日々。
気の向くまま適当に書いておりますので、たまに覗いて頂けたら幸いです。

以下は私の連絡先です。
omenkotapa@gmail.com



ようやく完成した新作の黒式尉。

狂言方の先生からのご依頼で写させて頂きました。



本面は近隣に住まわれた某彫刻家さんが所蔵されていたもの。

全体に端正な印象の面。
左右対称の皺や目の表現がそれを感じさせます
が”すきっ歯”の表現は、品格を重視した中に野卑な雰囲気も漂わせているようでした。


下顎は後補のようで形が…

ご依頼の先生もこれでは掛け難いとおっしゃっていました。

そのため下顎は私なりに変形。

全て失われていた植毛は想像重視の復元とでもいいましょうか、制作された当初の姿を想いながら植えています。



すきっ歯の能面は無いので、裏の景色はちょと特別な面白さを感じます。



来年の下半期に大先生が使ってくださる予定です。

来年夏頃には公表されるようなので、その時はお知らせします。

それを楽しみに日々頑張ります。



型紙作りの途中段階。

写しなので、とにかく正確さを心がけますが、この通りに彫ることは実に難しいもの。





制作中には長滝白山神社での能面と能装束の科研調査に参加させて頂きました。

上記は長良川鉄道の車内。

始発駅から2時間程乗車したのですが、殆どの時間一両編成に私1人でした。旅情(遊びではないですが)を掻き立てる良き空間です。



宿にも面を持ち込み少し彫りを進めました。

和室なので仕事がしやすいです。

もちろん本面は持ち出せないので、沢山の写真をもとに可能な範囲で手を入れます。



彫刻が8割程仕上がった段階。



表面は胡粉下地の墨入胡粉ではなく漆塗り。

それも写すのです。

木地に直接墨を塗り、感想させ生漆を擦漆。

その後、サンドペーパーで適宜研ぎ出し一部木地露出させたのが上の写真。



そこへさらに擦漆をし、真菰で光沢を抑えます。

唇の赤は思い付いた方法を試したのですが、問題ないようです。



まだまだ深みがないので、砥の粉その他を混ぜた絵具を皺等を中心に塗り、拭き取りを繰り返します。

上の画像は不自然ですね。。



他にも色々やりこれで良しとしました。

漆塗りで古びた雰囲気を出すのは水溶性絵具のような自由さがないので難しいです。







「蛇足」



我が娘。

お世話になっているギャラリーのオーナーさんから頂いたお椀でお味噌を飲んでいます。

浄法寺塗りの良いもの、これを使うと味が良くなる気がします。



お盆のお墓参り。

六地蔵さんにお水?

正しいことなのかわかりませんが記念にパシャリ。



これは妻が描く連絡帳の絵とコメント。

最近はアンパンマンにご執心。

動画を見ることが多いので、

親の頭の中ではアンパンマンマーチ等々がループしています…


本当にご無沙汰しております。



古面修復が続く中、最近制作した面は増女。

小面の次にたくさん打った面です。

しかしなかなか決定打は出ません、当たり前ですが。




今回は宮王宗竹と面裏に陰刻のある面を指標に、それを写したと思われる是閑打の面から採集した型紙と寸法を頼りに彫り進めました。


本面を直に洞水が写した面(万三郎先生ご所蔵)の裏に「本面喜多七太夫家ニアリ」とあるのでかつては喜多家のが所蔵だったのですね。


これが本面の写真。

この面の写真が掲載されている本は中村保雄先生著の一冊しか知りません。


紛れもない室町時代の作品だそうで、深い表情をしていることがよくわかります。

「泣増」といわれる面のように女性らしさを抑えてひたすらに厳しいわけでも、艶かしさを強調したわけでもなく、全てを内包しているように感じられます。

これが本面の凄みでしょうか、般若坊打ちの般若も白般若、赤般若など相反する要素が共存しているような印象でした。 


こちらは洞水打の写し

お舞台で拝見しても実に美しい見事な面ですが、本面の空気感、匂い?とは違うようです。



左右非対称なのは言わずもがな。

照明の具合なのか、鼻梁は信じ難いほどに歪んでみえます。

洞水作の写しは何度か手に取らせて頂きましたがこのような歪みはありません。名工といえど写し切れていないのかもしれませんが。。

眉間の作りは、向かって右に憂いが現れるような工夫があるようにも見えます。

また、本面を撮影し直に手に取られた見市泰男先生が打たれた写しは写真を沢山撮らせて頂き参考にさせて頂きました。

公開されている写真は少なく、現存するようですが、能のお家のご所蔵ではないようなので、お舞台で拝見できる機会もなし…

堀先生が写された裏に順慶と銘があるという小面(真の金春本面?)と共に棺桶に入るまでに一度は手に取りたい幻の面です。







2月には大分県宇佐市の宇佐神宮様へ東博の浅見先生、早稲田大学の川瀬先生、東博の川岸先生と能面科研調査に伺いました。


上記はネットに公開されている戦前?の絵葉書です。

この面以外に沢山ありましたし、この絵葉書にはあるのに現在無いものもありました。

上段左から2面目の若女?は見覚えがありません。

不自然に焼印が潰された北○○意作の若女のような創作面があり、すり替え?などと考えましたが…

面打ご自身ではなく第三者の手によってなされたと思いたい。

中には塗り替えされて雰囲気が変わっているものも。。。


流石に名品もありました。

その中から2面だけご紹介します。

パッと目を引く秀逸な面は姥。(中段左から3面目)

様式化された姥とは異なりリアリティのある柔らかな皮膚、皺の表現が素晴らしく、

それでいて能面としての品格を保ち彫刻としての存在感に溢れていました。

浅見龍介先生がご推薦の一面。

よく見かける江戸時代の写し面とはまるで違う唯一無二の貴重なもの、姥の中でも一二を争う逸品だと思われます。

その次は狂言面の狐。

太閤秀吉拝領という墨書張り紙のある面箱に収まっていました。その真贋はともかく江戸初期は降らなそうな鋭い彫刻。

目はシカミのような半眼で、今にも食いつかれそうで兎に角怖い。

狼のようでもあり、人間への恨み怒りを感じされるような強い面でした。

これは一般に写真は出ていないようです。

しかしどちらも彩色層が剥離剥落し、非常に傷んでいました。

他にも怪士と小飛出の合いの子のような面、二十余と呼べそうな若く線の細い痩男、大癋見、笑尉、骨の良い乙など…目を引きました。



USA表記は有名ですが、某国の国旗に似せたデザイン色合いなのは驚きました。




八幡宮の総本社。

朱塗の社殿が眩しいとはこのことでしょう。

身の引き締まる思いで参拝させて頂きました。


門前の食堂、グルメの先生がリサーチされたお店。

どれも美味しかったです。



地方の場合は数泊し、一日中篭って面と対峙。
その期間に仕事ができない難しさがありますが、科研調査は毎回新しい発見もあり、貴重な時間です。



近江女という若い?女面です。


観世流で使われることの多い女面で道成寺の専用面のようになっていますが、海士の前や紅葉狩にも使われることがある独特の面。

多く見る型は、目元が左右離れてタレ目気味、下歯を僅かに表すことが特徴で、上臈の面とは異なる素朴で謎めいた雰囲気は異質です。



この面は一般に多く写されている型ではなく、増女に近い東博蔵の伝増阿弥作を参考に制作しました。

垂れ目ではなく南天の葉のような増女に近い輪郭ですが、瞳は半円に近く表され曲見のような目つきも感じさせます。

唇の形も違いますが、頬が少しすっきりして全体の印象は端正な美人顔に寄っています。

本面も手に取って拝見しましたが、一般の女面より少し小ぶりで奥行きも薄く、裏の彫り加減も含め、定型化しない奔放さもあり中世まで遡る古面のようです。



本面を手に取らせて頂いたとはいえ、手元に置いて制作しない限り正確に写すこと不可能です。

それを逆手に取り半分創作面、本面の特徴的な要素を取り入れ、使用される曲を思い浮かべながら感性重視で進めました。





そのお舞台は「道成寺」

この曲に拙作を使って頂いたことは何度かあるのですが、喜多流は初めてです。

おシテの狩野了一先生は優れた古面の写しなどもご依頼くださる厳しい目をお持ちの先生です。



大曲でもありますし、初めて福岡に飛んでみようと思っておりますが。。

後はご所蔵の江戸期の強い般若を使われるとのことです。これも以前拝見しましたが名品でした。


















ご報告送れましたが、10月には個展、11月にはグループ展を無事開催することができました。


個展の様子です。



中学の担任をして下さった先生が来てくださいました。

受験の頃は本当にご心配をおかけしたした。

当時は思い通りにならない結果でしたが、今は充実した面白い毎日を送っております。




会場のクラフトサロン縁さんには今年もお世話になりました。素敵な空間と集う人々、美味しいものも頂き感謝感謝です。







これは東京巣鴨とげぬき地蔵さまで開催しているグループ展。

15回目の記念すべきものでしたが、家族で体調を崩して会場に出向くことができたのは最終日のみ

。。。お出で下さった方々大変失礼しました。




今年最も変化したことは言うまでもなく子供が生まれたこと。

とにかく可愛い…難しく悩むことも少なくないですが、喜びが上回ります。

仕事の進み具合が遅くなり申し訳なく思う毎日、睡眠時間を削り深夜の作業が多くなりました。

そんな中、帯状疱疹に2回なるなど免疫が落ち?体調を崩しがちだったので、体調管理が課題です。




皆様どうぞ良い年をお迎え下さい。






昨年もお世話になった東京都あきる野市にある「クラフトサロン縁」さんでの個展が今年もあります。


目玉といいますか新作の女面を3面出します。

SNSでは画像を出していますが、実物は印象が異なると思いますので、ご覧頂きジャッジを下して頂けたらと思います。



29日には当地在住の観世流シテ方の中所宜夫先生による能楽ライブが催されます。

先生とのお付き合いは20年近くなります。

どのような内容かまったく伺っていませんが…きっと面白いと思います。

特に西多摩では珍しい催しですね。


個展なので全日在廊(縁)予定ですが、急変更があるかもしれません。



こちらは15回目となる巣鴨とげぬき地蔵さんでのグループ展「工燈」

旧来のメンバーに加え新たに入った人も。。!?

初日が不在なのは確実ですが、他は未定です。



マンネリを防ぐためにも新しい出品者を加えていく予定です。

遠くに引っ越した人や、家族が増えた人。体調のなど、生活環境の変化で参加が難しくなることもありますが、頑張って続けていくことに価値があると信じてやっています。


お出で下さるだけでどれ程有難いか…

どうぞ宜しくお願いします。



上記は金沢能楽美術館主催の能面公募展の結果。

美術館のホームページをスクショしました。

3位の金沢市長賞と7位の狂言面特別賞なるものの受賞者が生徒さんです。


女面で取れなければ本物ではないですが、それはこれから。

今回はあまり確り指導できなかったため、上位は難しいと考えていましたので予想外の結果でした。

審査は難しいのでしょう。




節木増の特徴の一つに強い横刷毛目があります。

今回は腐れ胡粉を穂先を荒くした平筆で塗っていきました。

何回も塗り重ねる度に刷毛目が同じ軌跡を辿っていくというのは至難の技。

本面のような刷毛目を目指しますが、刷毛がスーと引かれながらもモリモリぽってりとした塗り肌は出せません。

江戸期の写しに面相筆で一本一本描いて盛り上げたものもありますが自然に見せるのは難しいでしょう。



鬘は荒い打肌、梨子地。


鬘、毛筋と肌の境目の古色が特に大切なようで、

一見何気ない斑も含めた古色、陰影を写していくと全体から受ける印象が変わってきます。

髪の毛と肌が繋がるという感じでしょうか。

眉毛と肌の境目も同じく、縁に向かって墨を薄く暈すだけという単純なものではないようです。



裏も何となくの写し。

節木増や若女(節を写していない節木増)の裏もこんな感じのものが多いです。


照明や背景を工夫して撮影しますが、ちゃんとした写真は撮れません。



節木増は写にも名品が多く、幾つか手に取らせて頂いたことがあります。

その中でも片山家の大和打(某書籍には越前出目とあり)の節木増は秀逸。

彫刻彩色ともに変に凝り過ぎず、サラッとしていながら遠目の効く目の表現というのでしょうか。

またいつか拝見したいものです。






これは言わずと知れた「逆髪」のつもりで打ちました。




本面は大和打ちの創作面。

あまりにも有名で美しく印象的な表情の面のため、見る方の目は特に厳しいように思います。

クドさの無い端正な雰囲気も一つの持ち味。

手を入れ過ぎてもよくないので、初めての挑戦はこれで完成としました。


科研調査にご一緒して本面を手に取らせて頂いたことがあります。

彩色の印象は古色が薄く白い清涼感?があるということ。

江戸時代も下る面打の作は、手が込んで上手いとも言えますが、作者の手技を妙に感じるものもあり、あの初さというか清々しさは失われる気がします。



本面の裏は大和の師である河内にもよくみられる木地に胡粉下地を施した上に黒漆を塗る技法。
この面は、それではなく墨を塗って生漆を数回擦り込んだもの。


「テレビ番組」


毎週日曜日の午前11:30からBS-TBSで放送中の番組に4年ぶりに取り上げて頂きました。



タイトルバック?

この映像は「ムコーヤマ」の山頂から撮影されたのでしょうか。



以前に写した十六を手本に。



諸刃ナギナタと呼ばれる刃物を多用しています。



上記の節木増の彩色過程。



羽村の堰をバックにされてます。

チューリップ畑も良いですが季節が…







修復中の面を手にご説明。





妻の作品まで、こんなに確り映して下さったのは意外でした。



カッコいいお2人。



工房での生演奏は2度目でも新鮮でした。

番組作りにご協力するのは、事前の立ち合わせもあり大変ですが、動画で形に残るのが有り難く記念になります。









「蛇足」



成長して益々クルクルの娘。



少しずつお座りもできるようになりました。