正確に言うと30万と5千です。
2020年の秋ごろの話です。当時俺は24歳でした。
俺は北海道の本土最東端納沙布岬(のさっぷみさき)がある根室という町の牧場に期間限定で就職しました。
半年働く予定でしたがその時の俺の精神状態はあまり良くなく(交通事故があって間もなかったということと、
前の牧場主に嫌がらせを受けて)精神崩壊みたいな状態だったので牧場主には1ヶ月で辞めることを伝えました。
そこの牧場主はとても優しい女性の方でいろいろ話を聞いてくれました。
そのおかげで1ヶ月は頑張ってみようという前向きな気持ちになれました。
そこの牧場を選んだ理由は牛が放牧されること。そして牛に与える餌のほとんどが自分の牧場の草と干し草であるから。少し配合飼料も与えますがそれは本当に少し。牛乳の質もよく、牛の遺伝子も優れているためたくさんの賞をとっている牧場でもあります。この牧場は牛が60-70頭いるのでかなり小規模です。
(大変なところは出勤が朝の4時。朝の搾乳と掃除が終わるのが10時ごろ。そして夕方の搾乳は14:30-18:30。合計10時間という結構ハードなスケジュールでした。でも生き物を扱うのでそんなことは言っていられない。)
最初に出勤した日にそこで働く従業員に会いました。彼の名前は横山さん(本名は伏せています)。この牧場で働いているのは彼と牧場主だけでした。聞いた話だと新しい従業員が来ては横山さんに文句をつけて辞めるとのこと。それが繰り返し起きていたらしいです。
横山さんは身長が俺と同じくらいの160cm。体格は筋肉質。分厚いフレームのメガネをかけていて小休憩を取ると必ずタバコを吸います。最初は見えなかったですが袖をめぐりあげると刺青がたくさんありました。この感じだと体中刺青だなと思いました。基本的に彼が牧場を仕切っている感じでした。
彼はワンピースという漫画が好きだったのでその接点のおかげですぐに打ち解けました。
最初に会った時からすごく優しく接してくれたのでメンタルがボロボロだった俺は嬉しかったです。
彼は愛知県出身で元々建築業に携わっていたと。とても若くして社長になり、高いブランド品を身につけて、夜はお酒を飲んでキャバクラに行っていたとのこと。会社がうまく回らなくなり、いろいろ問題があって大きな借金をしないといけない状況に。でも借金が大きくなりすぎて倒産をし、その借金を取り立てに来る人たちから逃れるため、愛知を逃げて北海道に来たという話です。「10年か20年?すると借金を返す義務がなくなるからもう多分帰っても大丈夫だと思うんだよね。でもたくさん縁を切ったから帰ってもね」なんて呟いていたのを覚えています。彼は愛知に奥さんと子供を置いて逃げてきたため、給料のほとんどを仕送りしていると言いました。
「人生いろいろあるよね。この人もたくさん辛い思いをしてきたんだな」と思いながら日々働いていました。基本彼と二人きりなのでいろんな話をしていたのでどんどん友情・絆が強くなりました。
1ヶ月が終わる頃、最後の出勤日に彼と夕食に行く約束をしていましたが、何かの理由で行けないとなり(おそらく彼は自分のご飯も買うお金がなかったんだと思います、ましてやおごるなんて論外だったと思います)、最終的に近くの銭湯に行きました(俺が銭湯代を奢りました)。
「久しぶりのお湯は気持ちいいな」と言って彼は俺に体中にある刺青を見せてくれました。他にも刺青だらけの人が何人も銭湯にいたので、「この人たちも何らかの理由で根室まで逃げてきたのかな?」と一瞬思ってしまいました。
銭湯から上がってから彼は「よかったら俺が住んでるところ見て行かない?可愛い猫もいるよ」と誘ったのでいいですよと言って彼の家に行くことに。
途中でテニスの大阪なおみ選手の祖父母の家とかも見せてくれてからボロアパートに行きました。
「これ無料で貰ったんだよね、ちょっと玄関臭うけどそこは我慢してね。」と言う彼。どうやってもらったのかはさておき、中に入るととても可愛いおすの猫(雑種かな?)がいました。多分生まれて初めて「猫飼いたい!」と思った瞬間がこの猫を見た時です。
とてもなつこくてとにかく目が純粋で輝いている。こんな猫が存在するんだなあと思いながらなでなでしていました。
そしてようやくアパートの中を見回していました。
ボロいアパートでしたが一応普通の感じですが男一人で暮らしている感じはあり服や物があたりにちらほら雑に置かれていました。
アパート見学が終わって彼が俺のアパートまで見送ってくれることに。最後に彼は「悪いけど、俺今お金の返済中で本当にお金がなくて、ちょっとでもいいから貸して欲しい。次の給料日に返すから」と言いました。彼とお別れだし、可愛い猫ちゃんも見せてもらったからまあいいかと思い、彼に5000円を貸しました。
そして次の日、俺は根室を旅立ちました。釧路まで電車で行き、今度は高速バスで札幌まで行きました。北海道の牧場生活がようやく終わりました。
数ヶ月後、それは2021年1月でした。俺は長野県の茅野市北山のある高級ホテルの中華料理店でウェイターを短期でしていました。
休日、近くのカフェでコーヒーを楽しんでいた時でした。携帯が鳴り始めました。誰かなと思って画面を見たら「横山牧場」と表示されていました。
お、久しぶりだなと思い電話に出ました。
彼と話すのは根室でさよならをして以来でしたので嬉しかったです(貸した5000円は返してもらっていませんでした)。
世間話をした後、彼は電話した理由を話します。
「お金の返済で困っていて、来月かなり大きな返済をしないと行けなくて、悪いんだけどお金貸してくれる?」
いくら必要なのか聞いたら。
「20-30万ほど必要なんだよね。返済が終わったら次の給料日ですぐにお金返すから、この前借りた5000円を含めて」
ちょっと考えるねと伝えて電話を切りました。
数時間後、俺はネットバンクを通して20万を彼の口座に振り込み、その翌月に10万を振り込みました。
合計、30万と5千貸しました。
俺が貸したのは彼が返してくれることを信じていたため。そして友人としていいことをしていると思ったためでした。
みなさん、もう結果はお分かりだと思いますがお金は帰ってきませんでした。
連絡しても音信不通で終わっていたら俺にとってもよかったかもしれません。ただ、彼は携帯を出るたびにごめん、まだ返せなくて。来月必ず返すから。
必ず次の給料日に。
来月に。
このやりとりが数ヶ月続いた時、俺はもうお金が帰ってこない、何よりも彼と築いたと思っていた友情・絆が実はなく、彼は俺が精神的に弱っている状況をうまく利用して優しいふりをしていたんだということがわかった時の絶望感が半端ないくらい痛かったです。猛烈に痛かったです。裏切られたのか、最初から何も思われていなかったのか。そしてこれを友達や家族に話すと悪いのが俺だったような感じになるから尚更痛かったです。
彼の電話番号をブロックして彼との縁を切りました。
今振り返るとこれは人生を生きる上での俺に必要な學びだったのかなと思います。
そして俺はこの世の中で騙される人の精神状態・心の状態を共感できるようになったと思います。
側から見るとなんでそんな簡単に騙されるの?そんなの小学生でも見抜けるよ。と思うことでもそれは心身ともに健康な状態であればの話です。
でも精神が病んでいて、周りに話す人がいなかったり打ち明ける人がいないと本当に騙されやすくなってしまうんです。
誰かが親切にしてくれただけでとても心地が良いんです。そして時にはそれに依存してしまうんです。これはしょうがないんです。
ですからあなたの友人、家族、愛するひとが何か精神的に病んでいたり困っていたりしたら味方になってあげてください。話を聞いてあげてください。その人の弱っている状態を利用する人が出てくる前に。
横山さんに対して許せないという気持ちはすごくありました。でも時が経つうちに許せたと思います。ま、そうであって欲しいですね。過去の出来事を引きずることはよろしくないので。引きずったとしてもそれを消化していくのが大事です。ただ、彼も人からお金を盗むほど精神状態が病んでいたのかもしれません。もちろん彼がしたことは犯罪ですが、彼も苦しんでいるのです。そうじゃなかったら親切心を装ってお金を盗もうなんて企むことはないから。
はい、今回はとても長い長い記事になってしまいましたが最後まで読んでくださりありがとうございました。













