鹿のシアンは、まだ若かった。だからこそ、冬の長さに息が詰まりそうだった。

雪は重い。深い。前へ進むたび、足元が現実を突きつけてくる――“生きているなら証明しろ”って。シアンはそう思い込んでいた。走って、掻き分けて、進んで、前へ。焦るほど、自分は強くなれる気がした。

群れを追い越した。

誰より早く、雪解けの口が開く前に。遠い緑の草原へ辿り着かなければならない。そうでないと、何かが置いていかれる気がした。

――そして、彼は倒れるように、雪の中を進み続けた。

一方その頃。

老いた雄鹿のコリンは、葉を落とした杉の木の下に立っていた。息は落ち着いていて、蹄は凍った大地に根を下ろしたまま動かない。まるで冬そのものに、道を譲られているみたいに。

コリンは、シアンの荒い呼吸の音を聞いていた。聞こえるほど、シアンは急いでいた。

「お前は、季節の回転に追いつこうとしている」

コリンの声は静かで、だからこそ刃物みたいだった。

「だが森はな。春を“待てなかった者”のために急いだりはしない。急いだところで、得るものは腹の空しさだけだ」

シアンは顔をしかめた。

忠告?――ありがたいけど、今の自分には必要ない。自分はもっと先へ進める。そう信じる方が、生き残る確率が上がる気がした。

雪の吹きだまりを飛び越え、凍った若木の樹皮を乱暴に剥いだ。

早く動けば、生き残れる。

待つのは臆病だ。

彼はそんなふうに、自分の行動を正当化するための言葉を、骨の奥まで詰めていった。

けれど草原は、まだ氷に閉じ込められていた。

光はあっても、温度はない。
自由はあっても、踏み出す力がない。

激しい空腹が、シアンの思考を削っていった。体は震え、視界の端が白く滲む。残る寒さに、喰われる前に逃げなければ――そう思うのに、足が動かない。

やがてシアンは、空洞になった丸太にもたれかかった。

逃げ場のない沈黙が、胸の中で膨らむ。

(無理に行きすぎた……。今必要なもの――耐えるための力を、自分で削ってしまった)

その瞬間、コリンの言葉が遅れて届いた。

「種は、土を押し広げて芽を出すんじゃない。雨が土を柔らかくするまで待つんだ」

シアンは、もがくのをやめた。

拳をほどき、呼吸を落とし、目を閉じる。冬の静寂が、疲れた骨の髄まで染み入るのを、ちゃんと受け止めるように。

待つ。

それは弱さじゃない――と思えるまで、少し時間がかかった。でも、待っているうちに、少しずつ力が戻ってきた。逃げるための力じゃない。立つための力だ。

そして、ついに雪解けが本格的に始まった。

足元が軽くなる。空気が変わる。草の匂いが遠くで笑っているみたいに近づいてくる。

シアンは、軽やかな足取りで緑の草原へ歩き出した。

もう、季節を急がせない。

最高の旅とは、無理やり道を切り開くことじゃない。大地が息をして、季節が整えてくれる“完璧なリズム”に、ちゃんと身を合わせて歩くことなんだ――そう悟ったから。