――動き続けることこそ、オレの価値なんだ。
ゼファーという名の若いハチドリは、そう信じていた。
花から花へ、せわしなく飛び回る羽音が、自分の存在証明だと思っていた。
「はぁ、あのクマ、また寝てるよ……」
彼が目を向けたのは、ブランブルという名の巨大なヒグマ。
一年の半分を、暗く静かな洞窟で眠って過ごすという、ゼファーには理解できない生き方をしていた。
「そんなに寝てたら、世界に置いてかれるぜ?」
ゼファーは鼻で笑った。
彼にとって、眠ることは「貴重な日光の無駄遣い」でしかなかった。
そこに、サイラスという名の老いたアナグマが、ゆっくりと姿を現す。
「太陽を追いかけて、疲れ果てているな」
低い声が、ゼファーの背中に響いた。
「だが、暗闇の中で蓄えられる力を見たことがないだろう」
「なに言ってるのさ。動かなきゃ、何も始まらないんだよ」
ゼファーはさらに速く羽ばたき、蜜を集めることに必死になった。
動き続けることこそが、自分のエネルギーであり、誇りだった。
――立ち止まったら、負けなんだ。
彼はそう信じていた。
けれど、季節は確実に動いていた。
冬が近づくにつれ、花は枯れ、ゼファーの翼はどんどん重くなっていく。
あれほど自慢していた、尽きることのないエネルギーは、震えるほどの疲労へと変わっていった。
「……なんで、こんなに……重いんだ……」
霜の降りた枝に、彼は倒れ込んだ。
絶え間ない努力が、ついに自分の死を招いたのだと悟る。
「常に弓を引き絞っている弓は、いずれ折れる」
下の土陰から、サイラスの囁きが聞こえる。
「休息という空虚な空間こそが、矢に力を与えるのだ」
飛ぶ力も失ったゼファーは、翼の下に頭を隠し、凍てつく夜の静寂に身を委ねるしかなかった。
その強制的な休息の中で、彼は気づく。
心臓の鼓動がゆっくりになり、心が癒えていくのを。
動いている時には決して感じたことのない、深く回復する力を。
そして、春が訪れた。
ゼファーは、新たな、穏やかなリズムで飛び立った。
「真の活力とは、活動と休息の静かなバランスにある……」
彼は、ようやくそれを理解した。
動き続けることだけが、強さじゃない。
時には、眠るクマのように、暗闇の中で力を蓄えることも必要だ。
ゼファーは、空を見上げて、小さく笑った。
「今日は、ちょっとだけ、休んでみようかな」