昔々、浅い井戸に住むカエルがいました。井戸は狭くて暗くて冷たかったのですが、カエルはそこが世界のすべてだと思っていました。
ある日、通りかかったウミガメが井戸の中を覗き込みました。「こんにちは」とカメは言いました。「海を見てみませんか?」
カエルは笑いました。「海?何それ?私は見るべきものはすべて見てきました。私の井戸には空も水も壁もあります。その向こうには何もないのです。」
カメは海について語りました。広大で、深く、果てしなく続く海。山を飲み込むほどの波、光が届かない深淵、カエルの井戸よりも大きな生き物たちのことを話しました。
カエルは信じられませんでした。「嘘でしょう」とカエルは言いました。「そんなものが存在するはずがありません。私の井戸こそが世界のすべてなのですから。」
カメはため息をつきました。「出てきなさい」とカメは言いました。「自分の目で確かめてごらん。」しかし、カエルは怖かったのです。井戸は、彼にとって全てだったのです。外の世界はあまりにも広大で、あまりにも奇妙で、あまりにも恐ろしかったのです。
だからカエルは井戸の中に留まり、井戸こそ全てだと信じていました。カメは残念に思いましたが、驚きはしませんでした。そして海へと戻っていきました。
年月が流れ、カエルは井戸の中で年老いていきました。彼は海を見ることはありませんでした。自分が何を失っていたのか、知る由もありませんでした。
しかしある日、大洪水が井戸を満たし、カエルを押し流しました。彼は想像もしていなかった激流に身を任せ、夢にも思わなかった生き物たちを通り過ぎ、壁のない広大な海へと流れ込みました。
洪水が引くと、彼は海の岸辺にいました。果てしなく広がる海、無限に続く水平線、視界の彼方まで続く波を眺めました。
彼は涙を流しました。悲しみからではなく、驚きから。彼は井戸の中で一生を過ごし、それが全てだと信じていました。そしてずっと、海は彼を待っていたのです。
彼は海ではなく、その岸辺で余生を過ごしました。そして、井戸の中に他の生き物を見かけるたびに、こう呼びかけました。「井戸だけがすべてじゃない。出てきなさい。広大な海があります。そして、あなたを待っているのです。」