病室に入った途端

香水の匂いが鼻を突き

むせた。

 

大げさじゃなく

 

15年ほど前

緩和ケア病棟で出会った夫婦

 

患者さんは夫

そして、その妻

当時50代だったか

・・・

 

私はまだ20代

 

病室に入る度に

香水にやられる日々

 

その香水は

安いコロンではない

高級ブランドで

5万以上はするだろう

だから

匂いが残るのだ

 

洗面台にポツンと美しい瓶が置かれている

 

患者は既に寝たきりで

ポツリ・ポツリと話をする程度

 

妻は毎晩泊まり込んでいた

 

清拭するときは妻はデイルームで待機

患者に許可を得て

換気をしながら

体を拭く

 

夏、真っ只中

妻はクーラーを使うことも

窓を開けて換気をすることも

嫌がった

理由はよく分からない

 

看護師たちは

香水で頭がくらくら

暑さでもくらくら

そんな中で清拭した

 

そして

換気をしては

病室に澄んだ空気を取り込んだ

 

しかし

妻が病室に戻れば

窓を閉め

またあの香水を振りかけるのである

 

妻と看護師の

いたちごっこ

(笑)

 

緩和ケア病棟の床は見栄えをよくする意味で

カーペットのような素材の施設が多い

 

ご想像の通り

その素材が香水の匂い成分を掴んで離さず

立ち込めるのである

廊下にも匂いは漏れ出していた

 

私は妻の行動に嫌悪感を抱いた

 

ある時師長に

「あの匂いが廊下でもしていて

他の患者さんや家族も迷惑だと思います」

「香水止めさせたほうがいいですよ」

「師長さんから言ってくださいよ」

依頼した

 

師長は苦笑いするのみ

 

この香水を振りかける行動は

お看取りになるまで続いた

 

患者が去った病室に

あの香水の匂いは

しばらく居座った

 

蒸し暑い夏の日に

私はこの妻を

思い出す

 

なぜ

妻は香水を振りかけたのか?

 

皆さんはどう考えますか?

 

20代の私は

妻の行動の意味を理解しようとさえしなかった

ただ、ただ、迷惑な妻だった

 

あれから月日が経ち

私も年を重ね

がん看護専門看護師として

また妻と対峙したら

妻の行動の意味をどう捉えるのか

 

その香水はいつも患者が使っていたそうだ

 

徐々に痩せていく夫に

反比例するように

徐々に香水の量を増やしていく妻

 

妻は香水で何を打ち消したかったのだろう

 

妻は香水で何を保ちたかったのか

 

窓を閉め、むせ返るほどの夫の匂いに浸って

 

ただ、ただ、迷惑な妻

違う様相に

見えてくる

 

その時、分からないことがある

ゆくゆく見えてくることがある

 

一番よいのは妻に理由を聞くことだ

という

意見もある

 

しかし

妻が語るのかは分からないし

妻も理由が見えていないこともある

 

まず

ケア提供者が

その現象をどう捉えていくのかが

重要かなと思う

 

捉え方で

妻に掛ける第一声は

異なってくるだろうから

 

 

この絵、あの妻にどことなく似ている

元気にしているのかな

 

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私の看護師人生で

はじめての"受け持ち患者さん"

はじめての"がん患者さん"

はじめての"お看取り患者さん"

私のお父さんです

 

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