龍馬プロジェクトメルマガ寄稿

「千葉から見た野田内閣と、日本政治の未来への考察」


千葉市議の、田沼隆志です。私の千葉市から少しだけ東京寄りの、船橋市選出の衆議院議員、野田佳彦さんが、総理になりました。



●県民の誇り
同県の代議士が首相になったことは、県民としてはうれしいです。これまで千葉県出身の総理は、戦前の鈴木貫太郎のみ。戦後は初めてです。県民の注目度も比較的高いと思います。


私は個人的に野田さんとは、同じ勉強会(政経倶楽部)で何度もお会いしてきましたので、実際に知る人が首相になったという意味でもうれしく思います。一緒に本も出版したりしました(『真・日本再生』という本です)。野田さんが唯一継続して参加していた勉強会がこの政経倶楽部だったことを考えても、奇しくも近いところに居たと思います。

人柄は見たとおりで、決して愛想がいい人ではありませんが、よく相手の話も聞きますし、「俺が俺がタイプ」ではなく、とても謙虚だと思います。国対委員長時代も、自ら一番末席に座るなど、礼儀正しさは好評だったようです。


話も上手で、民主党内では応援に来てもらいたい議員NO.1だったそうです。たとえば年金の状態を「かつて胴上げ、いま騎馬戦、将来は肩車」これは支える人と支えられる人の関係のことを言っています。イメージしやすいですよね。また有名な「駅前留学はNOVA、駅前演説はNODA」会合に出れないときは「今日の出席はNOだ!」も付けるそうです(笑) 他にも自虐ネタが得意で「私が首相になってもこのルックスなので支持率は上がらない」という感じです。




●クリーンな保守政治家だった
更に野田さんの政治スタイルも私と似ており、親近感もあります。地盤・看板・カバンなし、駅前演説一本で24年。私も同様に駅立ちを700回近く重ね、志一本の無所属でやっており、そのせいか光栄にも「田沼君は野田さんに似ている」「千葉県で3人目の総理を目指してね」などと言われることも、就任当初は多かったです。実際、私は年数回、演説マラソンとして、12時間以上ぶっ通しの駅前演説をしていますが、これは野田さんが政界初挑戦のときに船橋駅前でやったことを、参考としています。

そしてなにより野田さんの政治信条は、これまで民主党の中でも、保守派でした。この点が最も私としては大切です。「A級戦犯は戦争犯罪人ではない」「外国人参政権には明確に反対」中国に対しても的確な脅威論を持ち、自虐史観からも脱している、現実的保守派でした。これは、お父様が陸上自衛隊出身であることも背景にあろうかと思います(民主党内ではきまりが悪いらしく、しばらくは必死に隠していたそうですが)。


と同時に、クリーンな政治風土を求めていた政治家でもあったと思います。「金権千葉」と揶揄された、千葉の政治風土を変えるべく「非自民保守」を貫いてきた、という想いが野田さんにはあると思います。この点も私と同じです(私は自民党にもっと肯定的ですが)。



●現実派にも限度がある
しかし、残念ながら現時点では、私は野田内閣は支持できません。


まず閣僚等の人事が、非常に残念な布陣となりました。

 家族解体論者の小宮山洋子氏が厚労相…
 日教組のドンの輿石氏が幹事長…
 マルチ商法の族議員の山岡氏が消費者相…
 人権擁護法案や夫婦別姓推進派の平岡氏が法相…
 防衛相、財務相、外相は素人…
 経産相は失言で、会期前に辞任…


現実派とはいっても「現実的には民主党分裂を避けねばならない」から、党内融和を優先させるというのは、国会の中の事情。国民には関係ありません。直視すべき現実は、日本の国状であり、それに対応する政策を統一的に実行できる人事こそ必要なはず。この布陣はあまりに内向きです。資質にも疑問。これは多言を要しないでしょう。

そして「靖国神社への参拝もしない」と、保守の信条も捨ててしまいました。民主党になってからは閣僚の参拝が全く途絶えてしまった中、保守を自認する野田さんには期待しましたが、結果は「しない」。これもやはり、中韓の視線などの「現実」に対応した判断なのでしょう。つまり優先順位が低い、正論を掲げて闘う気がない。すなわち、保守の信条は「ない」ということです。非常に残念です。



私は現実派は好きです。未来への責任感を感じる。


しかし私は「筋を通す」ことを、もっと重視しています。政治への信頼を保ちたいからです。

いま民主党は、先の総選挙での約束をほとんど守れないまま、現実派に政策転換しようとしている。日本のためにはいいことですが、ではあの選挙はなんだったのでしょう? ウソだったのでしょうか。国民をだましたのでしょうか。筋は通っているのでしょうか?


こういうことが続くと「どうせまたマニフェスト変えるんでしょ」と、国民の政治不信が高まります。それは避けねばならない。政策転換するなら、まず解散総選挙し、そのあと政策を実行すべきです。「マニフェストの“理念”は残っている」などと曖昧な責任逃れをしていてはいけません。

またよく野田さんは政策転換の理由に「震災前後では状況が違う」と言います。? 震災のせいにしてはいけません。確かに復興のため、財源が更に必要になりました、が、この国の現状は、震災前から、極めて厳しい状況です。財政危機を筆頭に、内憂外患が山積している。それに対する解決策を提案したのがマニフェストであり、これは震災があってもなくても、重大なものです。マニフェストを修正するなら、やはり解散総選挙をやり直すのが、筋です。百歩譲って、今は政権維持しても、次の選挙のときは誠実に、前回マニフェストの至らなさを認めなくてはならない。


現実対応するにも、限度がある。何党であろうと、筋は通してもらわねばなりません。党内より国状を見る、政策は貫く。そうでないと政治不信が高まり、日本の混迷が深まることを、よく直視してもらいたいと思います。



●民主党の本質、民主党の寿命
私はそもそも、もう民主党の賞味期限は終わったと、思っています。


民主党の本質は「反自民党」。自民党でない集団が全て集まった。だから元社会党から元自民党出身まで、多種多様。政治信条も統一できません。綱領もない。それを無理やり統一できてきたのは、「自民党に勝つため=政権交代」だったのです。

もう勝ってしまった、政権交代を果たしてしまった今、いよいよ党内で意見統一ができなくなった。だから増税派 VS 反増税派や、マニフェスト修正VS貫徹、というように、ひとつの政党を名乗るには致命的な分裂を起こしているのです。党内融和内閣となるのも必然なのです。


そういう成り立ちを踏まえなければいけません。単に小沢さん1人が悪者で、小沢が民主党をかき回している、というようなレベルではなく、民主党の本質から産れる問題なのです。総理が野田さんだろうと誰だろうと、この党内の混乱は続くでしょう。

逆に、党内融和を国民も望んでいる、という声もありますが、私からすればおかしく感じます。もともと党内は融和しているのが当たり前であって、融和できないなら別の党になるのが本来ではないでしょうか。政策面で全く違うグループが1つの党に共存し「親○○」「反○○」と騒ぐこと自体が異常なことだと私は思います。


確かに自民党でも派閥間抗争はすごかった。そして派閥均衡人事もやりました。しかし根本の政策や綱領は共通共有していたと思います。民主党にはそれがない。綱領すらないのです。民主党という党の異常さを、皆さんには、冷静に理解して欲しいと思います。あまりに闘いが激しい小選挙区制度が、必然的に生んだ、“負の遺産”です。

いまの民主党でできることは、せいぜい「自民党に反省・改善を促す」程度と思います。総選挙が近づけば、おそらく「まだ政権交代の真の成果は出せていない」「自民では時計の針が戻る」などと訴えると思います。つまり、依然として、反自民で訴える。なぜか。それしか言えることがないからです。といってもそんな言葉はウソなのは、もう証明済みですから、総選挙では確実に、議席を減らすとは思いますし、そうならねばなりません。


皆さんにもくれぐれも、「民主党はもう寿命が終わった」ことを、忘れずに頂きたいと思います。



●野田内閣の寿命
では野田内閣の寿命ですが、私はやはりまた、短いと見ています。


一つは、野田さんは「闘わない保守」であることです。これまで部分的には保守的政策を訴えていましたが、たとえば菅政権の謝罪外交・媚中外交にも、尖閣問題でも、野田さんは沈黙しました。また自民党政権時代も、田母神さんの罷免を正当として訴えていましたし、教育改革でも日本の心を守るという観点の政策は聞いたことがありません。


これらの行動歴を考えるに、おそらく野田さんは今後も、保守の精神を出して、日本の政治を改革することはないと思います。文芸春秋の政権構想論文で「中庸」というように、妥協、バランスを、重視しながら、運営する。つまり、「闘わない」。

そしてまた、野田グループは少数で、党内基盤は弱い。かつて小泉さんは、党内基盤は弱くとも、国民の支持の高さで党内の異論を封じ込め、政策を強行しました。では野田さんにその手法が取れるかと言うと、これまでの「闘わない」姿勢を見ても、国民受けを狙った行動は、良くも悪くもやらないと想定されます。やはり今の党内融和第一主義が続くでしょう。


「党内融和主義」「闘わない政治」が続くと、どうなるか。それは、民主党内の、「親小沢」「反小沢」抗争の継続を意味します。小沢さんの力の源泉は、グループ議員の多さ。ゆえに小沢政治と決別するには、グループ議員を減らすしかない。民主党の代表選は1年後。そこにまた小沢さんかその傀儡が立候補してくるでしょう。それまでに衆議院解散をしないとすれば、いまの党内融和は一時休戦にはなるものの、小沢グループの勢力は温存されます。民主党という党に、小沢さんがいる限り、この抗争は終わりません。小沢さんが首相になるか、離党・失脚するかしかない。

小泉さんは郵政改革反対派を追い出しました。野田さんも、小沢さんをどうするか、そういう将来のビジョンまで見据えて、決断すべきと思います。目先の、党内抗争の鎮静化だけを目的としていては、所詮長続きはせず、また短命になると思われます。


より直近の難題は、来年春の予算に伴う、特例公債法案。ねじれ国会ですから、これは通らない。野田政権は必ず苦しむと思います。増税もあり、またいろいろボロも出てきて、どうしても支持率も下がるでしょう。これをどう乗り切るか。自公と対決すれば法案が通らない。しかし協調し過ぎると党内の不満が強まり、代表選で負ける。八方塞です。

来年6月頃が1つの寿命ポイントだと思います。



●鍵は、政界再編
こういう回転木馬のような1年交代の首相が続くのは、大変残念ですが、現在の党内情勢や民主党の本質を鑑みると、この状態は依然続くと私は予測しています。
この状況を打破する奇策はないのか…?


以下は私の個人的な放談ですが、ただ1つあります。

それは、解散総選挙をし、首相である野田さん自身が与党民主党を離党して新党を立ち上げ、政界再編をしかけることです。


かつてイスラエルのシャロン首相は、与党リクード内での足並みがそろわず、解散総選挙をして自ら中道新党カディマを結成し、大勝しました。また世界恐慌時、イギリスのマクドナルド首相は、恐慌対策で与党労働党と対立、保守党と自由党による内閣を結成して615の議席のうち554議席を獲得しました。


党内で反発があるなら、そのグループを追い出すか、自分から出てしまう。そしてどちらに大義があるかを、国民に問うのです。民主主義ですから、大義の正しさを説得できれば、大きな変化の力となります。掲げる大義は…その中身までは踏み込みませんが、それが必要だから、やむにやまれず新党設立を決めた、とすべきでしょう。

具体的には、主に松下政経塾出身者を核とした「政経塾新党」がよいでしょう。前原グループなど、民主党内の脱小沢、脱左翼を願うメンバーで集結します。同時に自民党からの合流を促す。現執行部に不満を持つ、特に安倍元総理を中心とした真正保守派に、合流を促す。


そうやって、真正保守と、リベラルという2軸で、権力ではなく政策を軸とした2大政党に再編すべきでしょう。



●終わりに
さて野田総理にこの新党構想ができるかというと、実は私は難しいと思っています。野田さんは腰が重いタイプですので、このような思い切った打ち手はなかなかやらないと感じます。そうである限り、私は民主党には全く期待できません。野田さんも単なる民主党代表であり首相であるなら、支持はできません。


本来は、参議院のあり方や、国民の選挙権は普通選挙でよいのかなど、原理論にも踏み込んだ更なる議論が必要です。小選挙区制についても再度検証が必要。そうやって日本政治の質を高めていかねばなりません。

日本の政治の未来には、検討すべき課題が多々あります。現在のように停滞していることはもう許されないのです。強力な推進力ある正しい保守内閣が誕生し、適切な議論が進むよう、私たちも行動していかねばならないと確信しています。日本に残された時間はあとわずかですから…