今日は参議院選挙。

「天下分け目の決戦」
「戦後政治史に残る戦い」

などと言われているが、正直私にはそのような議論がなされているとは感じない。


結局、前回の投稿(http://ameblo.jp/tanuma/entry-10038683331.html )での結論、
「本当に役所を変えてくれる政党を、待っているが、いまのところどこにも見当たらない」
「有権者は投票直前まで、揺れる」
という状況は、今日まで変わっていないように感じる。
多くの世論調査などのデータでも、「投票する政党・候補者がいない」が一番である。


「役所を変えてくれる政党」がないのは仕方ないとはいえ、今回は選挙の争点は、ほとんどメディアによって、年金と醜聞に絞られてしまったと感じる。
私も理想社会建設を目指す人間として、私が投票先を考える際のポイントを、いくつかご提示したい。




◆①「メディアを味方とするもの、百戦危うからず」


今回、争点が矮小化した最大の原因は、私はメディア活用にあると考えている。


特に年金問題に関して言えば、民主党が、小泉戦法を一部活用できたため、うまくシングルイシュー化に成功した、と考える。


第1に、「消えた年金」というフレーズが、わかりやすかった。実際には消えているわけではないが、「消えた年金」と言い切れなくも無い… そんな複雑な実態を無視し、ストレートに言い切ったのは、成功だ。


その結果、メディアが味方になった。メディアにとっては、視聴者に伝えるという使命があるため、わかりやすいことが大事だ。それにはまった。

これは前回の小泉郵政解散で「郵政民営化に賛成なら自民党を」と全く同じだ。民主党も郵政改革は言っていたのに、小泉さんに抵抗勢力と分類されてしまった。これもメディアに効いた。

メディアにとっては、対立構造となると、わかりやすくなりうれしい。小泉さんは誰が敵で誰が味方か、勝負局面を上手に見せるのに長けていたと思う。


このメディアパワーに押し切られ、安倍首相他も、年金を第一テーマにせざるを得なかった。


付け加えるならば、その後の財源論争などが有権者には若干難しすぎる、技術論だったこともポイントだろう。そこでの挽回は難しい。
わかりやすいフレーズと対照的に、与野党とも年金の制度改革となると、随分わかりにくく、有権者としては判断ができない。ゆえにフレーズの印象が温存され、民主党優位を維持できたと考える。
これは偶然だ。年金改革は元々、そういう種類のテーマなのだ。与野党で意見が異なってよいようなものではない、技術的な設計が求められるテーマなのである(本来なら年金は、政党間で政争をするテーマではないと、私は思っている)。



第2に、問題の発見者が、民主党の長妻議員であったこと、つまり野党であったことが、大きかった(実際は、発見というよりも、名付け親であるだけかもしれないが)。
つまり、“錦の旗”が、野党に渡ったのだ。


その結果、メディアが好む、対立構造が、できてしまった。「問題発見者が正義の味方」という信頼感が生まれた。一度この構造ができてしまうと、もう時既に遅し。この構造内での勝負は厳しい。

おそらく自民党の年金改革案も、民主党の案よりいい部分が多くあるだろう。しかしそれは、郵政改革のときと同じ。結局、言いだしっぺが、強引に勝ってしまうのだ。



まとめると、わかりやすいフレーズで野党から問題提起があったこと、それによりメディアの取材と報道が集中した。その結果、小泉郵政解散同様、年金というシングルイシューで、野党が選挙戦を押し切れた。



しかし思う。メディアを味方にすることが、いかに大切か… メディアの力は強大だ。
もちろん、買収するとかではなく、メディアに載るようなスローガンや対立構造をいかに提示できるか、ということだ。それが、特に参議院選のような情報の少ない選挙では、決定的に重要と、しみじみ感じる。


安倍さんが「正攻法で行く」のは、若干国民への過信があると考える。もっと国民は、メディアに振り回されてしまっている。私はメディアは、第4の権力どころか、最大権力を持っていると考えている。自組織内の権力監視機能が弱いという意味でも。




◆②メディアが強いのは、リーク元があるから?


田原総一郎氏は、リーク元として、自民党内反安倍層、官僚、社会保険庁を挙げている。面白い視点なので、参考までに紹介する。


○国民はなぜ安倍内閣を見放したか “かばい合い”自民が落ちたワナ
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/column/tahara/070705_18th/


○安倍政権の倒閣を企てた官僚たちの二重クーデター
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/column/tahara/070719_20th/


ちなみに「本質は官僚制度改革」という意見は、私と一致する。




◆③安倍さんの致命傷


安倍首相の年金問題対策は、JR東海の葛西会長も述べているように、的確だった。


そもそも私は、安倍首相の政策実行力は高いと考える。迅速で的確。それだけの決断力がある。実際、教育基本法改正や国民投票法案成立、防衛省昇格など、安倍政権は目覚しい成果を挙げてきている。絶対できないと言われた公務員制度改革も断行した。

決断力のある様子は、先日紹介した、『自民党改造プロジェクト650日 』でも伺える。



しかし致命的なのは、自民党をまとめきれていないこと。衛藤さんを呼んだことでもわかる。つまり党の体質改善は全然できていない。

以前一度安倍さんは、「勝つために候補者を見直す」と言っていたが、すぐに沙汰止みとなった。小泉さんのように、そこまで強権発動ができないのだろう。
その結果だが、率直に言って、今回の自民党候補者は年配者が多過ぎる(田原さんは「玉が弱い」と書いているが)。民主党の候補者一覧と比べると一目瞭然。あまりに、新陳代謝ができていないと感じる。

自民党は、「まず党の体質を変えるところから、再スタート」となる気がする。




◆④総じての私の印象は、「残念」


国家を語る議論なし。残念である。
特に参議院は、天下国家を語る「良識の府」。それがこういう結果となり、なおさら残念だ。


私は、国民投票法案が成立した現在、いかに憲法を改正するかの議論を聞きたかった。
日本の倫理観がおかしくなってしまうのを、いかに食い止めるのか、聞きたかった。


参考として、外国からの意見を、紹介する。
総じて、同じく、「失望」である。


・米バンダービルト大学教授、日米研究協力センター所長 ジェームス・アワー氏

「7月の最初の10日ほど日本で過ごしてメディアの安倍批判の多さに驚いた。もし、私が日本のことをよく知らなかったら、日本経済がきわめて悪い状態にあり、外交問題での日米関係の処理を安倍首相が誤ったからに違いない、と思っただろう。

 しかし、これら経済、外交などの面で安倍内閣はうまくやっているように思える。日本経済は劇的ではないにしても堅調な成長を続けており、株式市場も上向きだ。安倍首相は北京とソウルへの訪問によって、日中、日韓関係を改善したようだ。さらに安倍首相は、日豪共同宣言に署名することで、両国の安全保障協力を強化した。だから、私はなぜ日本のメディアが安倍政権をお粗末だと論じるのか、不思議に思っている。

 安倍首相は、これまでの成功ゆえに苦しんでいるということである。彼は国内経済と外交政策という膨大で重要な問題を非常にうまく処理してきたので、彼を批判する他の理由を見つけるしかないメディアもあるのだ。

 年金問題は一過性というより永続的な管理の問題であり、安倍首相はなんとか解決しようとしている。しかし、2001年以来の日本政治の成功に苛立っているメディアもあって、それらは安倍首相の行動のことごとくを失敗とみなすのに忙しいのだ。」



・米国の日本研究学者マイケル・オースリン氏
(エール大准教授からワシントンのシンクタンクAEIへ)

「米国のスカートの背後から足を踏み出すことを意味する『戦後レジームからの脱却』を戦後生まれの若い安倍首相が唱えた今の日本は、将に歴史的な分岐点にある。

 日米同盟をどうするか、中国の拡張にどう対応するか。憲法9条や防衛政策をどうするか、世界にどう貢献するかなど今後の30年ほどの国の進路を決めるエキサイティングな時期だ。そんな時の国政選挙なのに醜聞と年金だけ、というのは余りにも残念という意味で、これはシェーム(恥)だと思う」



・ワシントンの戦略国際研究センター(CSIS)研究員 ニック・セーチェーニ氏
(日本の政治・安保の専門家)

「今の日本は日米関係のあり方一つとっても、どんな政策が適切なのか、更に国際的により大きな役割をどう果たすか、非常に重要な課題に直面しているのに、参院戦では目先の問題にのみ込まれた観です」



・国防大学国家安全保障研究所 ジム・プリシュタップ上級研究員
(日本の安保政策を長年研究してきた60台のベテラン学者)

「米国マスコミも今回の日本の参院選に対する関心は薄い。なぜなら、選挙戦が米国側で関心の深い日本の外交戦略、つまり北朝鮮の核武装や中国の勢力拡大への対処法などを論じず、スキャンダルばかりが大きく取り上げられているからだ」




◆⑤総括:私の投票への考え方


・年金は政党間で争うべきテーマではないと、私は考えている。ゆえに、年金問題対策の部分での違いは、重視しない


・メディアが集中報道した目先の問題や醜聞ではなく、危機にある日本(特に精神面で)を認識し対処しようとしている候補者・政党


・いよいよ迫った、改憲議論について、しっかりした意見を述べる候補者・政党


・重要度の高まっている、外交や国防について、しっかりした意見を述べる候補者・政党



上記総括は、実際は総括ではない。テーマを選択しているだけで、中身に踏み込めていない。
それだけ中身の議論に到達できていない現状から、やむを得ずこのようになった。

また、論考執筆の動機は、選挙が終わったあとから、したり顔で論評するのがいやだったからでもある。



拙劣な論考ではあるが、少しでも、皆さんの判断に資するところがあれば、幸いである。