時事通信のコラムに、面白いコメントがあった。それに触れて、若干、私見を述べる。


●年金記録漏れは安倍首相の責任か
http://www.jiji.com/jc/e?g=e04&k=column1_a



年金記録漏れについての責任の所在を問うた、フジテレビ「報道2001」の世論調査(6月14日実施)結果が、以下。

 (1)歴代社会保険庁長官 56.2%
 (2)社会保険庁職員 24.8%
 (3)歴代厚生大臣 9.8%
 (4)その他・分からない 6.4%
 (5)安倍首相 2.8%

世論は意外と冷静だ。8割は、責任の所在は、役所自体にある、と答えている。



「今回のミスは、政策ではなく、実務の問題」と言う。
その通りと思う。
そして、だからこそ私は、自民党は難しいと思う。
いや、先に言うと、民主党も劇的には支持されないと思う。



問題の本質は、行政の実務を管理できていない、政治のあり方ではないか。
自民や民主ではない。政策ではない。政治そのもののあり方が問われているのではないか。


政治家は役人を、管理できていない。そのため、お役所組織の独善化が進み、今回の問題が起きた。他でも起こっているかもしれない。
理由は様々だ。政治家が晴れて大臣や政務官や知事など役所のトップになっても、すぐ代わってしまうし、政治家も実務の中身がよくわかっていないし、役所側も施策の一貫性を確保したい。
そういった力学が色々働き、結局どんなトップが来ても大して役所は変わらなかった。大臣は「お客さん」なのである。これは政治学における官僚制研究の初歩である。


つまり、日本は、国も地方も、皆、政治家が動かしてきたのではない。官僚、役人である
戦後の平和と繁栄を築き上げたのも、そしてまた同時に日本文化や倫理感を喪失してしまったのも、政治家以上に、官僚が担ってきた。政治家が誰であろうと、それでも大丈夫なように、実務が回るようにと、ずっと役人が腐心してきた。だからこそいまの日本が、功罪含めて、ある。


国民もみな、このことは潜在的にもわかっていて、だからこそ「政治主導」「官邸主導」が画期的であることを、感じているのだと思う。
しかし私は、それだけでは結局は不十分と考える。「神は細部に宿る」、つまり、細かいところでの仕事に、政策理念が反映されているかどうかこそが、改革の力を決めるからだ。




経営コンサルタントとして、官や民の改革を見てきたが、改革を成功させるには、全員が本当にその改革ビジョンを信じることだ。
本当に信じ、新しく実践する、続ける。それによってのみ初めて、改革が始まる。
口だけで綺麗事はいくらでも言えるし書けるが、やはり大事なのは人の心を動かすこと、組織の意識を本当に改革を信じる集団に変えることだ。


ひとことで言うと、改革にはリーダーが必要ということだ。
現場から上層部まで、どんなところでも。
そして、現場なら現場にいる人々の心を動かすこと。細部まで本当に、ビジョン通りの仕事ができるよう、全員が心がけること。それが不可欠だ。


たとえば、「営業の方針」という会社の計画書があったとする。学校でも「生徒手帳」が渡され生徒としてのあるべき姿が書かれている。これら文書は、「仏」に過ぎない。ここに「魂」を入れるのは、やはり人間なのだ。
営業の方針を本当に実践しようと、毎日社長以下が唱和し肌身離さず持つ。生徒手帳に書かれているあるべき姿をいつも引用しながら先生は生徒指導をする。そういった、リーダーが本気でまず文書を信じ実践してこそ、少しずつその熱意が相手の心に伝わり、変化が始まる。


「美しい国」に対する文句注文を他党は言うが、他の党のスローガンだって大したものは無い。スローガンは、中身が素晴らしいこと以上に、それを本気で信じるかどうかが大事なのだ。小泉さんが「構造改革なくして成長なし」と言ったが、それだって本当にそうなのかはわからないが、少なくとも小泉さんは本当にこれを信じていた。そう役人や国民に伝えた。


何度も言うが口で文書で綺麗事はいくらでも書ける。戦略コンサルタントとして文書ばかりを作ってきた私が言うのだから逆説的だが、どんなに綺麗で素晴らしい戦略を描いても、やるのは社員。社員の本気がなければ絶対にうまくいかない。




だから、本当に役所を変えるために大事なのは、政策ではない。
現場まで降りていくリーダー、同志を、作ることだ。


私は、どこかの政党に入るか立ち上げるかわからないが、自分がやるときは、人事権を行使したいと思ってい

る。
民主党は官僚の政治任用を謳っている(実際どこまでその準備ができているのかはわからない、支持基盤である官公労との関係上難しい気もするがわからない)が、
それを本当に徹底的にやっていきたいと私は考えている。


そのような、官僚も巻き込んだ、リーダーたる人間の集団、そのような政党を作っていくことが、私の理想である。

もちろん第一のリーダーは、経営者たちであり、ついで官僚や政治家がタッグを組んで行きたい、そう思っている。




その意味で、今回の参議院選は、どの政党も、国民の期待に答え切れていないように感じる。
自民党には行政の実務は変えられない。民主党も現時点では無理だろう。
そして、メディアも、国民の不安の本質は行政を管理できない政治にあること、「確かな与党が必要です」ということを、全く報道していない。もちろん私の上記視点が正解とは限らないが、今のメディアはそういった評価軸を提案するのではなく、単に政府を叩き野党を盛り上げているだけに感じる。


実際、自民の支持率は下がったが、民主も激伸はしていない。一番伸びているのは何か。無党派である。
つまり、本当に役所を変えてくれる政党を、待っているが、いまのところどこにも見当たらない、という状況ではないか。


ということで、参議院選の帰趨がどうなるかは、私にもよく読めない。
有権者は投票直前まで、揺れるのではないだろうか。




【その他①】

ただし安倍首相は、本気だとは感じる。安倍さんを首相以前から数年間見てきたが、あの人はやるといったらやる、そういう人間だ。
あの人は、命を懸けている、その気迫を感じる。だから、堂々としている。「正攻法でいく」と言い切れる。
私は前から安倍首相贔屓だが、一時的なブームにやられて政権を降りてしまうのは、あまりに惜しいと感じている。


【その他②】

民主党の考えがよくわかる、こんな本を、知り合いの方たちが出版された。
個々の分野において、自民と民主との違いが、わかりやすい口調で書かれており、参考になると思う。


『民主党の若手国会議員は何を考えているのか?』

政経倶楽部
民主党の若手国会議員は何を考えているのか?