(1)からの続きです。
しかし、二年になる少し前から、又も、彼女は、他の奴とも付き合っているようで、二人は、うまくいかなくなり、つきあいは切れた。
けれど、実は、彼女の親友、Mが、僕に想いを寄せていることを知った。
僕も前から、Sの親友としてのつきあいはあったし、セクシーなMに男として興味をもっていたこともあって、自然に恋愛感情を抱くようになり、Sには、秘密でMとつき合い出した。
千葉や、谷津遊園、横浜などでデートしたが、両者ともにSの事が気になるのか、ぎくしゃくとしたつきあいで、3ヶ月ほどで終ってしまった。
たぶん、僕が本気になれなかったのだ。
結局、僕は、Sでなければ、だめなのだということが分かった。
しかし、もう、その時、Sは、すでに別の男とステディになっていた。
おもしろくないので、北海道の修学旅行は風邪を引いたことにして行かなかった。
男友達と、銀座ACBへ何度かいった。
モップス、ライオンズ、フラワーズなどが出演していた。
コーヒー、一杯でいくらだったかな。入れ替え制だった。
その後、Sを取り返せないまま、卒業となる。
中学の時のように、「やっぱり、あなただけだった」という手紙を期待したが、その気配すらなく、別れの一言も交わせず、はなればなれとなった。
建築家を目指していたが、始めから一浪するつもりだったので、模擬テストで、箸にも棒にも引っかからない合格確率だったのに、東京理科大と芝浦工業大しか受けず、当然の如く、不合格、浪人となった。
当時、建築科の人気は高く、東京理科大学工学部建築科の競争率は、30倍を超えていた。僕の実力では、入れるわけがない。
予備校で一年、頑張っても無理なような気がした。
それにも係わらず、受験指導の担当者の言葉-------とにかくこの一年は勉強に専念すること------に従わず、青春真っ盛りの時期に、何で下らない受験勉強をしなければならないのかと思った。
僕という人間は、幼稚というか、自分に対して無責任な奴だった、今、思うと。
Sのことを忘れられないまま、同じ予備校で出会った同じ年のHを彼女にした。
まるっきりうぶで真面目な子で、顔もスタイルもセンスも、Sより劣っていた。
休みは勉強しようねと言って、二人で行った図書館は勉強する場所ではなく、煙草を吸う所であり、並んだ本棚が視線をさえぎり、殆ど人が来ない薄暗い書庫の奥は、彼女と戯れる場所だった。
彼女は、何でいつもこんなことばかりするのと言って泣いたりすることもあった。
僕にとっては、遊び半分だったので、それでよかったのだ。
しかし頭も良く、勉強も頑張っていた彼女は、早稲田は落ちたが明治大学文学部に合格した。
僕は、受けた大学をすべて落ちた。
浪人せずとも入れたであろう大学さえも落ちた。
春浅き夜、船橋のタクシー乗り場で、お別れだからと言って、僕の頬にキスして車に乗った彼女は、それっきり後ろを振り返らなかった。
僕は雑踏の中に立ち続けた。
せめて、振り返って、手を振って欲しかった。もう一度、顔を見たかった。
無性に淋しかった。
僕は、愛想をつかされたのだ。
彼女は、庶民的な女で、路地裏の野良猫を可愛いといって抱き上げたり、デートの時も、スパゲッテイよりも立ち食いそばでいいと言うような女だった。
僕は、そんな彼女をカッコ悪い女と思っていた。
嫌いではないが、さほど好きではなかった。
Sに彼女とつきあっているところを見られたくなかった。
私でなくていいの?と高飛車に言われそうな気がした。
一緒に歩けば、振り返られるようなSのような美人が良かった。
当時流行のアイビースタイルで決めていた僕のコットンパンツをトレパンみたいと言うカッコ悪さにうんざりもしていた。
そんな彼女に、僕は、完璧に捨てられたのだ。
振り向きもせず、去って行ったのだ。
ボア付きの僕のランチコート、ポケットに手を入れて暖かいね、と言って、僕に寄り添う、そんな可愛い女だったH。
あなたとすること、行く所、みんな初めてという純情な女を僕は、なぜ愛せなかったんだろう。
(3)へ続く