N社との打ち合わせを済ませ、俺は店へと向かう。
スンジョ:“遅くなりました。”
ヘラの祖父:“いやぁ構わんよ。それより、打ち合わせはどうだった?”
スンジョ:“えぇ、先方もこちらの要望をほぼ受け入れてくれて、スムーズに事が運びそうです”
ヘラの祖父:“そうか、それは結構結構、”
ヘラ:“おじいさまね、ユリにプレゼントを下さったの。”
ヘラの祖父:“来週バイオリンのコンクールがあるだろう?その時に着てもらおうと思ってね。”
スンジョ:“お気遣いありがとうございます”
ヘラの祖父:“気にするな。曾孫かわいさでやってることだ。なぁユリ?”
ユリ:“はい。ひいおじいさま。”
“このドレスを着て、誰よりもうまく弾いてみせますね。”
ヘラの祖父:“そうかそうか、さすがわしの曾孫だ。この間のバレエのコンクールも素晴らしかった。ユリは二人に似て美形だし、頭もいい。何をやらせても一番で、将来が楽しみだ。”
ヘラ:“おじい様ったら、ユリが可愛くて仕方ないのね。でも、ユリのおかげで長生きしてくれそうだわ。”
スンジョ:“…そうだな。”
お祖父様はおふくろの態度にも目をつぶり、ユリを可愛がって下さっている。
教育熱心なヘラの影響で幼い頃から様々な習い事をしてきたユリ。
だがどんな習い事もすぐに上達し、苦労なんてしたことがない。
苦労なくして得られるものに何の楽しみがあるんだ
苦労して得るからこそ喜びも大きいんじゃないか。
だからだろうか、まだ子供なのに、ユリは自信家で、物事に対する興味関心が薄い気がする…
容姿こそヘラに似ているものの、まるで昔の俺を見ているようで、自分の娘なのに、うまく愛してやれないんだ…。
数日後ー
取引先の会社で、会議を終えた後、運転手が迎えにくる予定だったが、会議が思いの外早く終わり、時間を持て余した俺は、少し歩くことにした。
今日の取引先は実家に近い場所にあり、久しぶりにこの辺を歩いてみたくなったんだ。
歩き慣れたこの道を歩いていると、パラン高校の制服を着た学生を見かけた。
付き合い始めの恋人同士だろうか。
少し前を歩く男子学生の洋服の裾を掴んで歩く女子学生
初々しいと思うのは俺が年をとった証拠だな。
懐かしい景色を見ながら歩いていると、
ドン! ベチャ
曲がり角で小さな女の子とぶつかった。
“キャア!ゴメンナサイ。おじさん。”
ぶつかった拍子に女の子が手に持っていたソフトクリームが俺のスーツについてしまった。
スンジョ:“ああ気にしなくていい。”
持っていたハンカチでソフトクリームを払い、女の子の顔を見ると、その顔に驚いた。
“スンハ、待ってったら~。”
…ドクン…
スンハ:“ママ、あのおじさんにぶつかっちゃって、ソフトクリームがお洋服についちゃったの”
ハニ:“え?!すみません、娘が失礼なことを”
“あ、そうだクリーニング代。
あれ?お財布がない!さっき使ったばかりなのに”
スンジョ:“相変わらずだな。”
ハニ:“え?”
顔を上げ、初めて俺に気づいたハニ
ハニ:“ス、スンジョくん?!”
スンジョ:“さすがおまえの子どもだよ。”
ハニ:“え?”
スンジョ:“親子そろって人に迷惑をかけるのが得意なようだ。”
ハニ:“な!そんな言い方しなくてもいいじゃない。”
そこにちょうど迎えの車が来た。
スンジョ:“悪いがおまえなんかに関わっていられるほど暇じゃないんだ。じゃあな”
そう言って車に乗り込もうとすると、腕を掴まれ引き留められた。
ハニ:“待って、クリーニング代”
スンジョ:“必要ない。”
ハニ:“でも”
スンジョ:“おまえにクリーニング代を恵んでもらうほど落ちぶれてないんでね。”
手を払いのけ車に乗り込んだ。
ハニ:“な!待ちなさいよ!ペクスンジョ”
スンジョ:“出してくれ”
ハニを無視して車を走らせた。
…ドクンドクン…ドクンドクン…
いままでそこにあるのかさえ分からなかった心臓が、己の存在を主張するかのように大きく鼓動を打っている。
掴まれた右腕が熱い。
運命のイタズラだろうか…
あの子の顔を見てすぐにおまえの娘だと気がついた。
俺といたあの頃より綺麗になったおまえに目を奪われ、動揺する自分を認めたくなくて、冷たい言葉を吐き捨ててしまった。
あれからもう7年も経つというのに…
おまえと過ごしたのはたったの二年足らず。
なのに、どうして今更動揺することがある。
俺にはヘラがいる。ユリだって。
なのに、
おまえと過ごしたあの時間が鮮やかに蘇ってくる…
この7年、おまえのことを思い出してしまいそうになる度、自分の気持ちにふたをして、見えないフリをしてきた。
家族のため、会社のため、社員のため、
そして俺自身のためにヘラを好きになろうと努力した。
なのに
どうして今更俺の目の前に現れるんだ
to be continue…