※この作品は医師であるスンジョが患者の死に向かい合う話になります。
ご理解のうえ、お読み下さい。
〈 桜 〉
目を開けると、あたしの目の前には大きな桜の木があって、桜の花びらの舞う幻想的な雰囲気に、自分が桜の木の精になった気がして、なんだかとっても幸せな気分。
なのに突然、
美しく咲き誇っていた桜が姿を消し、
それと同時に重苦しさがあたしを襲う。
何かに締めつけられ、金縛りにあったかのように体が動かず、うまく息ができない…。
ハニ:“んっ、くるしっ”
少し目を開けると、そこはあたしたちの部屋で、いつもはあたしを優しく抱きしめてくれるその腕が、あたしを締め付けていた
スンジョ…くん?
うっすら見える時計は、2時30分をさしていた。
今日は帰れないかも知れないって聞いてたから、スンジョくんがこんな時間に帰ってきたことにも、こんな風に抱きしめられていることにも驚いた。
だって、抱きしめられているのに、なんだかしがみついてるみたいで…
苦しくてもその手を逃れることなんて出来なかった。
ハニ:“どう…したの?”
スンジョ:“…しばらくこのままでいてくれ…”
消えてしまいそうな声
いつも自信に溢れてて、あたしとスンハを守ってくれるおおきな体が、なんだか小さく見えた
まるで泣いてる子供みたい。
何があったの?
聞いてもきっとスンジョくんは教えてくれない…だからあたしは何も聞かず、スンジョくんのいうとおりにした。
翌日ー、
目が覚めたときにはもうスンジョくんはいなかった。
(あれ?スンジョくん…?)
不思議に思いながら病棟に付くと、スンジョくんは他の先生といつもと変わらない様子で話していた。
やっぱり夢だったのかな?
確かにスンジョくんらしくなかったもんね。
…でも、抱きしめられた気がしたんだけどな‥?
そんなことを考えていたら、同僚の看護師に話しかけられた。
同僚A:“ねぇ聞いた?ポンナムのこと。”
ハニ:“ううん。ポンナムがどうかしたの?”
同僚A:“昨日亡くなったんだって。”
同僚の口から聞かされたその言葉は、衝撃的だった。
ハニ:“うそ?!
先月やっと退院したばかりじゃない”
ポンナムは、スンジョくんがここにきて初めて担当した患者の女の子。
担当と言っても、先月退院して、自宅で両親と過ごしていたはずだった。
同僚A:“どうもね、外出中に急変して、救急車で病院に向かってたんだけど、間に合わなかったみたい。救急車の中で息を引き取ったらしいよ…”
同僚が嘘を付いてるとは思えないけど、あたしの頭と心はその事実を受け入れられなかった。
彼女の病気は今の医学では治すことができなくて、小さな頃からずっと入院してたけど、頑張って治療して、状態が安定してきたからってやっと家に帰れたとこだったのに…。
スンハと年も近く、頑張りやさんだったポンナム。彼女の退院を喜んだのをつい昨日のことのように覚えてる
なのに…
そのポンナムが亡くなった?
もう二度とポンナムの笑顔を見ることができないなんて…信じられない
スンジョくんもあたしも、仕事柄、離島でも何度か人の死に立ち会ってきたけど、皆、自分の寿命を、人生を全うして亡くなったお年寄りばかり。
医師や看護師として後悔はなかった。
それでもその存在を失って、寂しさを感じずにはいられなかった。
それが、自分の子供とほとんど変わらない年の子が亡くなるなんて…
言いようのない悲しさがこみ上げてくる。
そしてあたしは気付いたの。。
…やっぱり昨日のは夢なんかじゃなかったんだ…
だって、スンジョくんは患者の子供たちを自分の子供のように大切に思っているから…
ソウルに戻って、パラン大病院に就職するときに、スンジョくんが配属先に小児外科を希望した時にはすごく驚いた。
外科に進むのはわかっていたけど、小児外科だなんて…
でも後で気付いたの。
スンジョくんはあたしのお願いを覚えてくれていたんだよね?
あたしが「ノリの病気を治してあげて」って言ったから。
そう言ったらスンジョくんは、
「今頃気付いたのか?」って呆れてたけど、
「まぁ、確かにそれもあるが、それだけじゃない。」
「スンハが生まれて、自分が親になって、スンハをかわいく思うほど、子供が病気で苦しむ姿を見てられなくなったんだ。」
「俺にどれほどのことができるかはわからないが、一人でも多く元気な姿で親元に帰してやりたい。病気から解放され、子供らしく過ごせるようにしてやりたいんだ。」
あまり自分のことを話したがらないスンジョくんが教えてくれた医師としての信念。
希望通り小児外科に配属になって、ポンナムの担当になって、スンジョくんは寝る間も惜しんで勉強してた。
そんなスンジョくんにとって、ポンナムの死はどれほど深いものだろう
あたしだってこんなに悲しいんだもん。
スンジョくんはもっと悲しいよね?
責任感の強いスンジョくんだから、きっとあたしなんかが想像もつかないくらい、傷ついて、助けられなかった自分を責めてるかもしれない…
だけど、スンジョくんはそんな素振りは見せずにいつもと変わらないペク先生を演じてる。
辛すぎるよ…スンジョくん…
to be continue…