「コーヒー色の商品開発・広告物語」1

 

夏の日のまだ早い時間、
シンプルなワンピースを着て、葉山の海岸を歩いていた。
30m くらい先の海面に人影のようなものが浮き沈みしている。
人が溺れているいるみたいだ。

察するに救助は急を要する。
あいにくここあたりには私しかいない。
意を決して、ワンピースを着たままで海に飛び込んだ。
オーストラリアで学んだライフガードの経験があるので
着衣のままでもへっちゃらだ。

溺れているのは40歳くらいの男性。
体力と時間はかなり消耗した。
二人とも無事だった。

彼は「ホントありがとう死ぬところだった」
まだ興奮が冷めやまぬような声で、彼は言った。
「ホントにありがと、何かお礼がしたいんだが…」
かれはちっちゃな声で私に言った。
「いいのよ、何もいらないわ。それにしても運が良かったね」
かなり危ないところだった。

濡れた服は、着衣のままで過ごした。
そのうち日に照らされて乾くだろう。

彼は自分のBMBのところに行き服を着替え、
私に名刺をくれた。

「Dエージェンシー常務取締役クリエイティブ局長上本潤」

「へーあの大手の広告代理店」
外資系で、日本の大きなクライアントに次々と食い込んでいる。
今もっとも勢いのある広告代理店だ。

化粧品メーカー、自動車メーカー、食品メーカー、ゲームメーカー等々業種は様々だ。
一貫しているのは既成概念にとらわれない事。
オーストラリアで売られている世界地図を見た事あるだろうか。
何とオーストラリアが上部の中心で、南北が逆なのだ。
つまりそういう斬新な発想をする。
売れっ子のタレントがにっこり笑ってドリンクを紹介する、なんて方法は可能な限りさける。

例えば他社の仕事だが「ユニクロ」が大きく伸びた時フリースジャケットが
大きく貢献した。
吊るされたいろいろな色のフリースジャケットがくるくる回るだけ、という画期的な広告だった。
ただ回るだけというシンプルな表現でも商品のコンセプトは伝わってくる。

Dエージェンシーも同じような考え方をする。
つまり他社と違う切り口でPRを実行する。
担当者のプレッシャーは半端ない。

その会社のクリエイティブのトップが彼ってわけだ。

「しかしどうしてあんなところで溺れていたの」私は聞いた。
「一人になりたかった、心のひだにたまった余計なものをそぎおとしたかったんだ、
それで力一杯泳いでみた。そうしたら普段の運動不足がたたって足がつってしまって
どうしようもなくなって溺れたんだ

それから少しばかり雑談した。

「君は何の仕事やってるの?」彼は聞いてきた。

「フルーランスのコピーライター」短く答えた。

私はあまりそのあたりの話をしてたくないもたいな顔をしてたみたいで、
それ以上彼は詮索しなかった。

服を着替えて、髪を整えた彼はけっこうハンサムだった。
何かスポーツをやっているのかもしれない。

佐藤浩一をどうにかしたような感じだ。
全力を出し切っている仕事をしている男の顔をしている。

お互いの連絡先を交換して別れた。

見た目の派手さを違って広告業界はかなりの重労働だ。

私の主な仕事は「商品開発に関わるコピー、商品のネーミングもやるし、
ポスターやパンフレットのコピー等も書く」。
全体を取り仕切るディレクションもやる。
つまり映画監督なら、脚本を書いて監督をするようなものだ。

 

この海岸に来たのは理由がある。

私だけの秘密。

それから数か月昼も夜もないような生活が続いた。

季節は巡り、やがて歩道の並木も色づく季節がやってきた。

いつものように仕事をしていると、携帯がなった。

「上本だが、あの助けてもらった…」
一瞬誰だろうと思ったが、夏に助けた上本さんだということが分かった。

「どうしたんですか急に」私は質問する。

「仕事の話だ、少し長くなるから、電話では話にくい、デリケートな話だしね、
どうだろう2、3日中に会えないだろうか?」
1秒2秒3秒考えた。

心はOKのシグナルを出している。

「はい」と短く答えた。

2日後、私は彼の会社にいた。

コットンのパンツ、ラフなセーター。

「Dエージェンシー」は南青山にオフィスがある
いわゆるタワービルだ。

私の着ている服は少し不釣り合い。

えい、かまうもんか。

受付に「上本常務に会いに来たことを告げた」

少し怪訝な顔。

やがて上本常務がロビーに降りてきた。

「よくきてくれた」

力強い握手。

 

 

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