尻無河畔秋興(2) | 晴耕雨読 -田野 登-

晴耕雨読 -田野 登-

大阪のマチを歩いてて、空を見上げる。モクモク沸き立つ雲。
そんなとき、空の片隅にみつけた高い空。透けた雲、そっと走る風。
ふとよぎる何かの予感。内なる小宇宙から外なる広い世界に向けて。

尻無河畔秋興は
ビジュアルに表現されています。
芳雪による「浪花百景」の
「しりなし漆づゝみ甚兵衛の小家」が
その一つです。
写真図1  「浪花百景」「しりなし漆づゝみ甚兵衛の小家」
             大阪府立中之島図書館所蔵

前方に海が見えますので
画像上が西です。
水が右下から左上に見えますので
土手は右岸で、川の北側です。
市岡新田の側です。
画像の左下、南西に松の木があって
切妻屋根の小家が見えます。
これが「甚兵衛の小家」です。

 

櫨紅葉の下に釣り竿を担げ
魚籠を提げた男が描かれています。
釣りをしての帰りです。

尻無川堤の秋は
櫨ならぬ沙魚「はぜ」釣りでも有名でした。
夙に寛政年間刊の『摂津名所図会』巻三に
「秋興沙魚釣」と題する
絵が見開きで載ってました

画讃に
「沙魚つりや 水村山郭 酒気の風 嵐雪」とありました。

 

もう一枚「甚兵衛の小家」の錦絵があります。
写真図2  長谷川貞信「浪花百景之内」
      「木津川口甚兵への小家」
      大阪府立中之島図書館所蔵

長谷川貞信「浪花百景之内」で
標題は「木津川口甚兵への小家」です。 
この絵の切妻の小家の先にも
海が見えます。
小家の場所は川の右岸です。

画讃を読みます。

◇安治川口木津川口の両湊は

  いづれも浪花の眼目なれど
  殊に木津川は水筋深きがゆへ
  大船入津多くして賑ひいはんかたなく
  初秋の頃より沙魚つりまたは
  はぜの紅葉にめてゝ

  家形ぶねこゝにつどひて
  彼甚兵への小家にいこひて
  蛤汁に興をまし帰るを忘るもまた多かりき。

 

画題の「木津川口」を「尻無川口」と読み替えてください。
それにしても画讃と絵はつろくしてません。
水が深ければ、
堤から降りて釣り糸を垂れることなどできません。
注目しますのは
「初秋の頃より沙魚つりまたは
はぜの紅葉にめてゝ」です。
絵には両方とも描かれています。

 

現在の甚兵衛渡船場辺り(港区福崎1丁目)に
甚兵衛小家を比定しています。

貞信図よりやや川寄りのアングルです。
写真図3 甚兵衛渡船場
      撮影:2016年10月2日

市岡新田の南西端の秋興を取り上げました。

花も紅葉もないけれど、

今日も結構、いける景色でしょう。

 

究会代表 田野 登