オーラルヒストリー入門(3) | 晴耕雨読 -田野 登-

晴耕雨読 -田野 登-

大阪のマチを歩いてて、空を見上げる。モクモク沸き立つ雲。
そんなとき、空の片隅にみつけた高い空。透けた雲、そっと走る風。
ふとよぎる何かの予感。内なる小宇宙から外なる広い世界に向けて。

前回は
該書『オーラルヒストリーの理論と実践』における
記述を膨らませて
ボクなりに拡大解釈をして
オーラルヒストリーによる研究分野の可能性を
覗いてみました。


今回は、「口述」と云われると
正統を自負する歴史学者、
とりわけ文献に書かれてないと
信用できないと云った研究者に向けて
述べることにします。


まず、なぜ「口述」と云った
いっけん、アテにならない方法を
取り上げるかです。
ボクのような民俗学を軸に
過去の出来事や過去に生きた人間の言動を
研究対象にしている者にとりましては
文献資料では見えない事柄を知りたくもなるものです。


そう遠くない過去の場合、
その時代に生きた人に尋ねることになります。
そこで聞き書きした情報の信憑性が
問われることになります。


そこで信憑性となれば文献資料において
それは、はたして確かななのかの問題です。
数字を書き連ねてある史料があります。
近世なら「村別明細帳」などです。
そこに記述されていることによって
見えなくなった真実はないのかが問題です。
今回、その問題はさておくことにします。


近代社会となっては、さすが
近代国家によって国勢調査が実施され
確かな統計資料が作成され
客観的データが揃ったかと思われます。
この感想じみた見方に
該書は異論を呈しています。

●イギリスのオーラルヒストリアンであるポール・トンプソンは、
 統計学者が使用する基本的な情報源
 (国勢調査、出生届、婚姻届、死亡届など)に
 疑問を呈している。
 例えば婚姻届については、
 親の同意が必要な年齢であることを
 役人に知られたくないというカップルも多く、
 偽りの年齢が記載されることもある。
 子供の生年月日についても、
 結婚から最初の子供が誕生するまでの間隔を
 9か月とするために改ざんされる場合がある。


出生年月日が役所への届けと
実際と異なるという聞くのは
民俗調査などの時に限りません。
婚姻届となれば複雑な事情が考えられ
「事実婚」ということばがあります。
これは、「今どきの若者」と云われる人たちに
始まったものではありません。


該書は、統計データの確実性について
次のように記述しています。
●イギリスの歴史学者であるトレバー・ラミスは、
 以上の点について次のようにまとめている。
 「『確かである』とされる現代の統計データも
 人伝えの結果にすぎないのであり、
 人びとに真実を隠蔽する十分な理由と機会があれば、
 『真実』は誤ったものになる」。
 人間を対象とする研究者であれば、
 量的、質的という手法にかかわらず、
 絶対的な確実性を持って
 結論を導くことはできないということだ。


ながながと該書の「現代の統計データ」の瑕疵を
あげつらってきました。
それは口述情報をアテにならない行為とし
文献などの文字情報を信用すると云った姿勢は
ときには真実の隠蔽に荷担することにもなりかねない
頑なで権威主義的な態度とも云えます。

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挙げました由緒書きには、
「過去への賞賛・修飾・誇張の言説」が見られるもので
「絶対的な確実性を持って結論を導く」証拠などとは
到底、なり得ない「偽文書」と
見てかかることから始めなければなりません。


このように文字情報への不信を
書き連ねたボクは
いずれオーラルヒストリーの虚偽を取り上げ
その理由を考察することになります。


究会代表 田野 登