先週、語末の「春」の音読み「しゅん」を予告しましたが、
漢語の資料集を断念しましたので、
予定を変更して語頭に「春(はる)」を冠する語から
さまざまな「春」を探ることにしました。
テキストは『広辞苑 第七版』2018年、岩波書店です。
50音順に約100語挙げられている語彙を、次の15項目に分類しました。
3〖「春」を冠する昼夜〗 4〖「春」を冠する天文〗
5〖「春」を冠する風景〗 6〖「春」を冠する植物〗
7〖「春」を冠する動物〗 8〖「春」を冠する神・人〗
9〖「春」を冠する生業〗 10〖「春」を冠する行事〗
11〖「春」を冠する遊興〗 12〖「春」を冠する衣服〗
13〖「春」を冠する調度品〗 14〖「春」を冠する風情〗
15〖「春」を冠する情〗
今回は≪1〖「春」を冠する時候〗≫を取り上げます。
「時候」といいながら寒暖といった感覚は
≪2〖「春」を冠する気象〗≫を立てていますので、その項に当てます。
はたして「時候」の何処に「春の湊」が出て来るやら?
【春待ち月】が挙げられています。
「陰暦12月の異称」とあります。
原文の漢数字を算用数字に書き換えています。
今回、蒐集したデータに「陰暦」表記は、これのみで、
「陽暦」「新暦」「旧暦」も見えません。
断わらない限り「陽暦」「新暦」と考えます。
「異称」は、他に〖「春」を冠する植物〗〖「春」を冠する動物〗≫に見えます。
「陰暦12月」は、未だ暖かい「春」にならず待ち遠しい思いが感じとられます。
【春隣】【春の隣】が挙げられています。
後者には、次の記述があります。
◆春に近いことを空間的に隣と表現したもの。
晩冬、春の近づくのにいう。古今雑体「冬ながら―の近ければ」
「冬ながら」とあり、これも未だ「春」ではありません。
いったい、何時になれば「春」なのでしょう。
【春立つ】や如何?
◆春になる。立春の日を迎える。〈[季] 春 〉。
古今和歌集(春)「袖ひちてむすびし水のこほれるを―けふの風やとくらむ」
暦の上での「春」が来ました。
新暦では2月3日頃が「節分の夜」で4日頃に「立春」を迎えます。
「はる-さーる」とある項には【春さる】があてられいます。
◆ (「さる」は移動する意)春がくる。春になる。
万五 「ーればまづ咲くやどの梅の花
この「さる」に「去る」をあてれば大変です。
漸くやって来たのに、また去ってしまいます。
【春ざれ】があり、
「ハルサレとも。「はるさる」の連用形「はるさり」の転」とあり、
「春が来てうららかな景色になること」とあります。
「うららかな景色」は何時まで続くやら?
【春先】は「春のはじめ。早春」とあって「春先の陽気」の用例が挙げられています。
【春方】や如何?
【春方】は、「はる‐べ」にあてられて、次の記述があります。
「春の頃」の語義は【春つ方】にも見えます。
いずれにも見える「方」はへ【辺・方】の項の④に
「そのころ」とあります。
「春方には花かざし持ち」とあって御安心ください。
タイトルの【春の湊】や如何?
「湊」に冠された「春」とは、何時?
次の記述があります。
◆春の行き止まるところ。船のゆき泊まる港にたとえていう。
春の泊(とまり)。季語;春。
問題は「新古今春」の歌です。
*『日本古典文学全集』に当りました。
*『新古今和歌集』日本古典文学全集26、第四版1976年、小学館
◆五十首歌奉りし時 寂蓮法師
〽暮れてゆく春のみなとは知らねども霞に落つる宇治の柴舟
「くれてゆく」に「暮れてゆく」があてられています。
頭注「春のみなと」には「春という季節の行き着くところ、の意」とあります。
「みなと」「とまり」につきましては1年半前、
真剣に考えました。
↓アクセス
https://ameblo.jp/tanonoboru/entry-12850082713.html
≪ミナト「水門」の地形 暮らしの古典75話:2024-04-28 09:24:14≫
「ト」は狭まった場所のようです。
*折口の引用の続きを記します。(下線は原文では傍点)
*初出1919年1月、文会堂書店『万葉集辞典』の
≪みなーと[水門]≫の項
◆みなは水の形容詞的屈折で、
水之[ルビ:ミノ]ではあるまい。
今日の湊といはれてゐるのは、
すべて海湾の船泊りの事であるが、
海から川へ入る川口の、波除けに便な地をいふので、
海から川口へ狭窄した地形をさしていふのである。
「湊」を「海湾の船泊り」とし「波除けに便な地」としています。
「湊」はゆっくりお休みになる場所です。
写真図 「湊」イメージ
「暮れてゆく春のみなと」は、「春の暮れ」でしょう。
テキストの【春の暮】には
「春の終わる頃。晩春。暮春」とあります。
【春の限り】には「春の終り。春のはて。〈[季] 春 〉とあります。
今回は〖「春」を冠する時候〗に、「春の湊」を見つけ、
「春」を総浚えして、「歳暮」ならぬ「暮春」にまで行き着きました。
大阪民俗学研究会代表 田野 登















