夕刊フジ

 【桂春蝶の蝶々発止。】  「道を追うのは三流、道を選ぶのが二流、道をつくるのが一流」  こんな言葉を聞いたことがあります。そういえば、アントニオ猪木さんは引退セレモニーで、「この道を行けばどうなるものか。危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし。踏み出せばその一足が道となる。迷わず行けよ、行けば分かるさ!」と言っていました。一流はまさに、「前人未到の地」を踏んでは、後進に道をつくるものなんでしょうな。  道をつくるのが一流…。現在、この言葉から連想される人物は、大リーグで八面六臂(ろっぴ)の大活躍を見せる、エンゼルス大谷翔平選手しかおりません。ピッチャーをやって、バッターでホームラン王を狙える位置にいる。これがどんなにすごいことか。  まあ僕らで言うと、「多くの功績を残して人間国宝に認定された落語家が、翌日に何と、ピン芸人日本一決定戦『R-1グランプリ』で優勝した」。それくらいのことをやってるわけです。  人間国宝かつ、R-1で優勝なんて現実的に不可能なんですよ。落語は物語を伝える話芸の演技力、R-1は爆笑させることを目的とした感性の創造力でしょ? 使っている筋力と能力がまったく別のものなんです。  大谷選手は、そのくらいすごいことをやってのけているわけですよね。まさに前人未到。私は大谷選手には国民栄誉賞のみならず、文化勲章まで受章させるべきだと思いますよ。  そんな大谷選手にも、ネガティブなことを言い続ける方はおられます。野球評論家の張本勲さんは代表格で、「今のままでは必ず打てなくなる」「(大谷の)ホームランは、まぐれなのか、米国のピッチャーのレベルが落ちたのか、まあ両方だと思いますね」などと発言して、何度も炎上を繰り返している(苦笑)。  でも、「大谷劇場」を盛り上げるには、張本勲という役者は必要不可欠なんです。映画「ロッキー」で、ロッキー・バルボアに度々苦言を呈するトレーナー「ミッキー」のように。心配だからこそ、活躍してほしいからでこそ、「喝」を入れ続ける屈折した愛情こそ、劇場を支える名バイプレーヤーといえますな。  そして、大谷選手はそれらの批判を受け入れるだけでなく、もはや「面白がっている」ように見えるのです。かの大女優、樹木希林さんは、人生訓として、「楽しむのではなくて、面白がることよ」と言いましたが、大谷翔平という人は、何を言われても面白がっているように見える。  批判的な言葉も、窯の中の薪にされて、彼の情熱の火力が上がるだけ。すべてを勝ち星とホームラン数へのエナジーに変えるなんて…。ああ、やはり一流は道をつくるものだな。「道をつくる、一流の二刀流」…。あ、この言い方、なんだかややこしいな(笑)。