・ 診療報酬への変動制の導入
現行の診療報酬体系では、全国一律で 1 点あたり 10 円の評価がされているが、地域や医療機関ごとの経済的状況の違いを考慮していない。
そこで、診療報酬を変動制に移行し、地域ごとの人件費や家賃費用の違い、さらには医療機関の集中度に応じた適切な評価を導入する。
具体的には、都市部では高い人件費や家賃を反映し診療報酬を適切に設定し、また一方で医療機関が少なく医療サービスが不足している地域では、より高い報酬を設定することで十分な医療提供を促進する。
加えて医療人材の偏在問題にも対応するため、勤務医の給与水準を引き上げ、開業医の所得は適正化することで待遇格差を是正する診療報酬の体系の見直しを行う。
具体的には、勤務医が多く在籍する病院や診療所で提供される医療サービスに対する診療報酬を増額し、勤務医の給与水準を全体的に引き上げることを目指す。
また診療報酬の増額幅については、「医師の働き方改革」を実現できる水準を考慮したものとしていく。
そして、勤務医に対するインセンティブ制度導入も検討し、特に医療過疎地での勤務や夜間・休日の緊急対応など、社会的なニーズに応える医師には追加の報酬を提供する制度を検討する。
・ かかりつけ医機能の強化
政府は「地域包括ケアシステムの推進」を掲げているもの、その具体的な実施内容については依然として明確ではなく、その結果として大病院から地域医療への患者のスムーズな移行が十分に進んでいない。
かかりつけ医に求められる機能を指標化し登録制を導入するとともに、報酬上の評価において明確な差別化を図る。
11
・ 医師、看護師、薬剤師等の職能の再編
現在の医療・介護分野では、医師、歯科医師、看護師、薬剤師、理学療法士、介護福祉士、ケアマネージャー、柔道整復師などの職種間での役割分担が固定化し、多職種間協働の効率化や柔軟なサービス提供が十分に行われていない。
そこで、医師や歯科医師、看護師、薬剤師、理学療法士、介護福祉士、ケアマネージャー等の職能の再編を検討する。
薬剤師を育成してきた薬科大学の在り方、薬剤師への処方権の付与や注射など一部医療行為を解禁するタスクシフティングについても検討の俎上に載せる。
12
(3)生産性向上
・ DX、設備投資等の促進(パーソナル・ヘルス・レコードの実現等)
日本の医療システムでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れが医療の無駄を生んでおり、医療費の過剰な膨張の一因となっている。
電子カルテや電子処方箋の導入は進みつつあるものの、全国的なオンライン資格確認のシステムや標準化、共通化の取り組みはまだ不十分であり、これが医療サービスの提供効率を低下させ、従事者の負担増大に繋がっている。
この解決のため、電子カルテ、電子処方箋からオンライン資格確認まで徹底したDX、標準化、共通化等を推進し、将来的には 1 国民 1 カルテ体制(パーソナル・ヘルス・レコード)を実現し、医療情報の一元管理を通じて、より効率的で質の高い医療サービスの提供を目指す。
また、情報機器等の設備投資を積極的に促進し、従事者の負担軽減と技術の均一な普及を実現する。
さらに、オンライン診療、AI診断、治療アプリの利用拡大を図るため、これらのサービスに対する報酬点数を引き上げる。
これらの措置により、医療サービスの提供効率を高め、国民全体が質の高い医療サービスを受けられる環境を整備する。
・ 全国医療情報プラットフォームの整備
医療現場において、重複投薬や多剤服薬の問題は患者の安全性を脅かし、医療費の無駄を生んでいる。
これらの問題は、投薬情報が医療機関間で共有されていないことに起因しており、患者が受ける医療の質にも影響を及ぼしている。
そこで、「全国医療情報プラットフォーム」の整備を急ぎ、オンライン資格確認システムからアクセスできる体制を構築する。
また、電子処方箋の利用を義務化することにより投薬情報を一元化し、重複投薬や多剤投与を大幅に削減する。
13
・ 画像データ共有システムの導入
日本では CT や MRI の撮影機器の数が他国と比較しても極めて多く、画像検査の件数も多い。
現状、医療機関同士で画像データの共有がほとんどされていないため、患者に対する重複撮影が頻繁に行われ、不必要な医療費が発生している。
これを改善するため、画像データ共有システムを導入し、医療機関間でのデータ共有を実現し、同一患者に対する重複撮影を抑制する。
この取り組みにより、画像撮影機器の新たな購入を抑制し、医療費の削減を図る。
・ 経営情報・診療介護等情報の見える化
現状、医療機関や介護サービス提供者の経営情報や診療介護の質に関する情報が十分に共有されていないため、患者や利用者が質の高いサービスを選択することが難しくなっている。
また、診療報酬の決定プロセスにおける透明性の不足は、医療機関の業務効率化や品質向上のインセンティブを弱める要因となっている。
そこで、営利・非営利にわたる公正な競争環境を整備するとともに、医療機関コード、医籍番号等をフル活用し、レセプト(診療報酬明細書)にアウトカム(経過情報)を記載することで、診察等の情報の「見える化」を実現する。
同時に、診療報酬決定に際してのエビデンスを構築する。
14
・ 創薬支援の強化
近年、医薬品開発にかかる費用と期間は増大し、製薬企業の負担が大きくなっている。
新薬の承認プロセスに時間がかかる「ドラッグラグ」や、海外で既に発売されている新薬が日本で承認されるまでの遅れ「ドラッグロスは、日本国内での新薬開発の停滞と医療進歩の阻害を招いている。
これらの問題に対応するため、中央社会保険医療協議会のメンバーに医薬品・医療機器メーカーを追加するとともに、薬価等部分のプラス改定を実現し、ドラッグラグ及びドラッグロスを解消する。
薬価の算定制度として企業届出価格承認制度を導入し、医薬品の価値に基づく価格設定を可能にする。
15
4.結語
高齢化・長寿化の進展に伴い医療介護等に要する国民負担は今後とも増大を続ける。
本提言では、現役世代の社会保険料負担を軽減し豊かな社会保障と現役世代の活力の好循環を生み出す観点から、産業としての構造改革と、歳出改革に向けた齢者の窓口負担改革、後期高齢者医療の税財源化等を打ち出した。
なお、本提言では医療制度改革に的を絞り、医療と密接な関係の介護についてはあえて触れていないが、医療と介護は一体不可分であり同時に構造改革が必要であることは論を俟たない。
引き続き党内で検討を行い、医療介護等サービスの持続可能性を飛躍的に高めるための改革案をまとめていく予定である。
政府・与党が長年にわたって進めてきた改革後追い型の弥縫策に止まれば、社会保険料負担の際限のない増加、消費税等の大幅な増税を避けることはできないが、本提言で示した大改革を実行すれば、最小の負担で最大の厚生を実現することが可能になる。
税と社会保障と成長戦略の三位一体改革、いわゆる「日本大改革プラン」のサービス給付部分を具体化した本提言を、我が国の構造改革におけるセンターピンの一つとして推進していく。
以上
16