国際政治
クラウゼヴィッツが論じたように、戦争はそれ自体で孤立した事象ではなく、より広い社会の文脈に従って政治的、外交的な過程から生じるものである。
戦争の政治的文脈について論じた歴史家には古代ギリシアの歴史家トゥキディデスがいる。
彼は『戦史』でペロポネソス戦争を叙述することを通じて現実主義のパラダイムを示した歴史家として知られている。
トゥキディデスはそのペロポネソス戦争の勃発に先立って生じていた都市国家間の紛争の背景にまで遡り、開戦に至るまでの経緯を政治家たちの議論を交えながら説明している。
戦争を引き起こす原因として名誉、恐怖、利益の三種類が述べられている。
つまり権威の保持や権力の争奪、敵の軍事力への恐怖感、そして経済的利権を巡る競争、これら三つの要因が作用することになるため戦争は勃発するものと考えることができる。
ただしより体系化された政治学の立場に基づけばより詳細な因果性や対応策について論じている。
戦争を研究する政治学の立場には大別して権力理論に依拠する現実主義と道徳的な規範理論に依拠する理想主義の立場がある。
理想主義が把握する戦争は抑制すべき対象であり、それはドイツの哲学者イマヌエル・カントの『永遠平和のために』で示されている平和理論で示されている。
カントは国際平和を確立するためにどのような規制が必要であるかを考察している。
その考察によれば、戦争を引き起こす好戦的な国家の政治体制が問題であり、政治体制は社会の構成員が自由で平等な市民である共和制でなければならない。
なぜなら、そのような国家体制においては戦争の決定に国民の同意が必要であれば、国民は自らの労苦を考えて戦争を行うことに同意しないためである。
さらに国際法に関しては同様に自由国家の連合制度に基づくべきであり、つまり全ての国家が従うことができる世界市民法を確立しなければならないと考えた。
この世界政府の樹立によって戦争の発生を抑制する構想は国際連合の設立によって現実の国際政治で進められている。
一方で現実主義の立場から把握する戦争とは不可避的な事態であり、ドイツ出身の政治学者ハンス・モーゲンソウは『国際政治』において戦争が発生する政治力学をモデル化して研究している。
そもそも人間の政治行動は利益を追求して行われるものであり、しかも国際関係は本質的にアナーキーであることを理論的前提としなければならないとモーゲンソーは考える。
したがって主権国家もまた国益を追求するために自らの権力を最大化して相手国に自らの意志を強制しようとする。
現実主義の理論と実践の中核にある概念には勢力均衡があり、これは相手の勢力の程度に対して均衡できるように自国の勢力を同盟によって同程度に高めることである。
この勢力均衡が実現されている政治情勢において政治的安定性がもたらされるものであり、したがって戦争は勢力の不均衡によって生じるものだと論じる。
モーゲンソーが体系化した現実主義の理論は近代の国際秩序における外交政策の基本的発想として使用されていたものでもあり、現代の国際社会においても国際システムを構造的に理解するための学説として採用されている。