どこにでもある平凡な家庭だ。
姉と妹と弟と母とでテレビゲームを楽しむ。
あーあ、また負けたー姉さん強いなー。
あんたが弱いだけよー。
まあそっか。あははは。兄ちゃん、もう一戦しようよ!
ダメよ。もう晩御飯の時間よ、お母さん今からお米炊くからみんなも手伝ってね。
はーい。
平和だ。こんな平和がずっと続けばいいのに。
家のドアが開いた
“ガチャッ” ただいまー。
やつが帰ってきた。ああ、もう誰も逆らえない。平和な時間はここまでか。
みんなが沈黙する。
お、おかえりなさい。小さく震えた声で母が言う。
おん、それよりさ、さっさと飯食うぞ。母さん飯はできてるよな?
い、今ご飯炊いてるとこだよ。みんなにも手伝ってもらってるからちょっと待ってね。
は?俺が帰る時は飯作って待っとけっつったよな?なんでできないの?
バンッ!
なあ、飯くらいはよ作れよ。こっちは腹減ってんだよ。
ご、ごめんなさい。兄さん。次からはちゃんとするから。ね、お願い許して。
妹が土下座をしている。が、それを俺が止めることはできない。みんなが見て見ぬふりだ。
なあ?またそれかよ?もう何回目?聞き飽きたわ。謝るくらいならさっさと手動かせ。
料理が出来上がり一家で食卓を囲み、テレビを見て他愛のない話をする。そんな家庭が羨ましいと思った。食卓はいつも静かだ。が、まだ幼い弟は今日だけは見たいアニメがあるらしく、勝手にテレビをつけてしまった。悪寒が走る。背筋がピンとなり、一気に緊張感が出てくる。
あ?お前。処刑な。
終わった。弟がこのままでは危ない。助けたいけど歯向かったらどうなるかわからない。
いや、やっぱ先にこの鬱陶しいテレビ潰すわ。
や、やめなさい!姉が弟を庇いながらテレビを前に立ちはだかった。
どけ。自分が年上だからって調子にのんな。 ドンッ
キャァ、何するの。
姉を突き飛ばしテレビの下にある工具箱の中からハンマーを取り出した。
ここで皆は致命的なミスをしたことに気づいた。
あ?なにこれ。お前らどう言うこと?俺を除け者にしてゲームしてたの?なあ?なにこれ?
兄が帰ってくる前に遊んでいたゲームカセットを隠すのを忘れてた。
とりあえずこれ没収な。次やったらどうなるかわかってるよな?まあ今回は、これで許してやるわ。
“バキッ”
次の瞬間テレビにはハンマーの打撃を中心とした蜘蛛の巣ができていた。
あっはースッキリしたーー。おいおまえらこれ片付けとけ。そう自分と妹に指示すると。やつは風呂に入って行った。
最近はひどくなってきてるよな。そう呟いた。みんなは黙って頷く。
手が震えた。我慢ならない。父を奪った上、俺たちの平和まで奪っておいて、なにも出来ない自分が許せなかった。
死よりも残酷な、社会的死を。そう心に誓った。
復讐を悟られないようやつはもちろんだがみんなにも内緒でボイスレコーダーと隠しカメラ購入しリビングに設置した。
数週間でやつの恐怖政治の実態をとり続けた。さらにやつは国家公務員でありながらに私利私欲のため副業をしてギャンブルにつぎ込んでいたことが尾行していてわかった。証拠は十分だ。最近有名な晒し系Youtuber に告発してやる!
次の生放送で、決行だな。
机の中の奥に隠していた証拠映像のUSBを取り出す。が、探しても見当たらない。
どうしたのかわからないままやつが帰ってきた。どう言うわけかやつはにやついていた。
おい、お前が探してるのはこれか?
そう言ってポケットから取り出したのは俺が探していたUSBだった。
……ど、どうしてそれを。
あいにくだったな。この中に俺にタレ込んだやつがいるんだよ。それは…。
ご、ごめんなさい。バレたらどうなるかわからなかったの。ほんとにごめんなさい。
母だった。母は完全にやつに洗脳されていた。もうおしまいだ。
そういうことだ。どうだぁ?自分の母に裏切られた気分は?哀れだなぁ?
……父さんを奪っておいて!俺たちの平和までも!ちくしょう!
残念だったな、後一歩だったな。はい、お前俺に逆らったから処刑。
さーてとどうやって処刑しよっかなーっと。考えるのめんどくさいから父さんと同じやり方にすっか!父が連れていかれた部屋に引っ張られた。監禁された。父さん、もうすぐ行くから…ね。諦めるしかなかった。やつは家の固定電話の回線をぶち切り、全員のスマホも没収した。
狭くて暗い部屋に何日入っていただろうか。もう腹は減っていない。体が軽くなってきた気がする。喉も不思議と渇いていない感じだった。父さんみたいにもう自分から逝こうかな。
戸を開ける音がした。誰だろう。もうそっとしといてくれ。
警察です。もう大丈夫。
ああこれが奇跡ってやつか。
でもどうして?連絡手段もないのに。病室に運ばれて目を覚まし少しした時そう思った。
横に姉がいた。よく頑張ったね。そう言って頭を撫でてきた。不思議と涙がこぼれた。
姉さんが、やったの?
ええ、あなたのUSBを母さんが持っていたのを見たの。だから母さんから一個拝借して、買い物に行くふりをして警察に出したの。6つあったUSBのうちの1つを…ね。
それでもなんでこれが証拠ってわかったの?母さんも、姉さんも。
私と母さんはコインの表と裏だよ。あなたのこともわかるよ、そりゃ。
姉は意味深ことを言った気がする。が、どうでもいい、恐怖の独裁者が消えた今俺たちはまたリスタートだ。今度こそ、理想の家庭を。
ね、姉さん?
あいつが消えたからって調子に乗っちゃダメだよ。わかってるよね?誰のおかげで助かったか。