『愛と呪い』/ふみふみこ
中学生だったと思う。
「算数」から「数学」に名前が変わり、正の数・負の数を習い始め、「マイナスかけるマイナスはプラス」と聞いたとき、理論は微塵も理解できなかったけど、かなり大袈裟に言えば、神様から禁断の知識を与えられたような衝撃があった。
以来、数学の知識は周回遅れを重ね、取り戻すことが一度もないまま学生生活を終えたけれど、マイナスかけるマイナスはプラスという数式が頭から離れたことは無い。
苦しいとき辛いときに、更に苦しみと辛さをかける。
僕の感性の一部はこの感覚で形成されている。
もちろん、誰にでも当てはまる数式ではない。
ただ、僕にとっては完璧な数式だ。
「また、凄いマンガに出逢ってしまった…」
これが読み終えたあとの、率直な感想。
僕のマイナスなんてちっぽけに感じてしまうぐらい、剥き出しの真実のマイナスを浴びせられた。
表現の世界を生業にしている人間として、自分の内面や過去や現在すべてを世に曝け出すことが、どれほどの恐怖であるか少しは知っている。
しかし、ぶちまけたその先に、信じられないほど強い力が待っていることも知っている。
恐れを認め、曝け出し、戦おう。
やはりあの数式は僕には当てはまり、完璧なプラスの答えを導いてくれた。
絶望を彩ることこそが、芸術である。
今日も人生を彩ろう。
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谷口賢志