ログローニョの朝です。
分厚い二重窓から見える何層にも重なる紫色がかった灰色の雲は
ちょっと指でつつけば途端に激しい雨がバケツをひっくり返したように降ってきそうです。
ひゅうひゅうと風の又三郎も吹き荒れています。
アルバロ男爵と義母とジャイ子は勇敢にもお散歩に出かけていきましたが、
ママはこんな日は引きこもり。
宮沢賢治を4冊ほど持ってきたので暖かい部屋のふかふかのベッドの上でごろごろします。
ああ幸せ♪
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昨夜は家に着くと
義父が真っ白なピシッとアイロンのかかったエプロンをきゅっとつけてリフォームしたばかりの
総ドイツ製の磨き抜かれた豪華なキッチンでなにやらごそごそやっています。
義母の2週間ぶりの帰宅にさすがに嬉しさを隠しきれないようです。
夜10時の義母の乗った列車の到着まで一時間ほどあったので
リオハワインのコルクをポーンとあけ、私達はどんなサプライズにするのか相談します。
さて時間になり私達は義母を迎えに行きます。
勿論このとき義母は私達が来ていることを知りません。
列車が駅に滑り込んできます。
義父はプラットホームで出迎えます。
私達三人は物陰に隠れ、アルバロ男爵が義母の携帯に電話をします。
義母はスーツケースを義父に預け、歩きながら電話を取ります。
ア・「もしもし?お母さん?もうログローニョに着いた?」
義母・「ちょうど着いたところよ、今お父さんと車に向かってるところ。」
ア・「ああそう、無事ついたか。それなら良かった。」
義母・「モモはどうしてる?」
ア・「元気だよ、そこら辺を走り回ってるよ。声が聞こえない?」
ジャイ子は駅の中を縦横無尽に走り回っています。
義母のすぐ後ろを雄たけびをあげながら通過しましたが義母は気がつきません。
義母・「ああ、なんだか声が聞こえるみたい。モモに会いたいわ。」
ジャイ子は義母の足元を右へ左へ旋回していますがまだ気がつきません。
その時、ジャイ子がアルバロ男爵に向かって大声で「パッパー!!!」と叫びました。
義母・「ん?・・・・・・????」
携帯を持ったまま不思議そうな顔をした義母の視線の先には全力疾走するジャイ子。
義母・「・・・・・・・・・・・・・!!!!モモッーーーー!!!!!!!!!!!!!!」
ジャイ子を抱きしめ目に涙をためて狂喜乱舞の義母。もう誰の言葉も耳に入りません。
いやー笑いました。
サプライズ大成功です。
家に到着すると義父が腕まくりをして料理をお皿に並べ始めます。
妻のお誕生日の前夜祭とマラガからの帰宅を祝して相当がんばったようです。
メインは雑誌のレシピを見ながら朝から一生懸命朝から作ったという舌平目と海老のクリーム煮込み。
しかし出来上がったお料理はどうも随分雑誌の写真とはちがいます。
クリーム煮込みというよりスープに近い感じです。
アルバロ男爵が雑誌のレシピを読み直します。
ア・「コップ一杯半の水、って書いてあるけどそれ以外に何の液体何入れた?」
義父・「コップ一杯半?水1.5リットルじゃなくてか?」
ア・ミ・義母・「・・・・・・・・・・・・・」
笑いながら義母が手早く上手に直します。
舌平目以外に義父が準備したご馳走は最高級のハブーゴの生ハム、ルッコラと鮪のサラダ、
大アサリの刺身、茹で海老です。
(あわてて出てきたのでデジカメを忘れてきました。残念です。)
義父が二人だけのために準備したお料理は
急遽私達二人が加わっても更に2,3人前はあります。
夜の12時を過ぎ、ワインの後は良く冷えたシャンパンでお誕生日おめでとう!の乾杯です。
不器用な義父が義母のために一生懸命準備したディナー。
40年連れ添って更にまだ尚余りある愛を目の前で見せ付けられました。
いい夫婦です。
何十年たってもこんな風にいたいものです。
今晩も近所に住む伯父夫妻を招待してのディナーです。
ミズエ