土づくり技術 ⑤。 | 土壌菌の素顔 Ⅱ

土壌菌の素顔 Ⅱ

「土」は岩石の風化物などではない。「土」は有機物から生まれている。
「論より証拠」、自然界の有機物は腐敗などしていない。

$土壌菌の素顔 Ⅱ



今日は、自然農法と「腐植前駆物質」の関係です。

自然農法とは、化学肥料や堆肥、農薬などの資材を一切使用せず、圃場の外からは一切何も持ち込まない、と定義づけられている非常にハードルの高い農法です。この農法は、最近脚光を浴びていますが、生産方法としては古い歴史を持っています。

私は、3年前の1月18日にこの農法と具体的に接することになりました。その日の朝に電話をかけてきた熊本県菊池市の元田農園、元田裕次さん(九州自然栽培研究会主宰)が「肥毒」の解消を目的として私を尋ねてきました。ちょうどその頃、今ではすっかり有名人の木村さんが話題にのぼり始めた頃で「長い10年だったな」と感じていた頃でした。

この時の元田さんは当社のホームページに掲載されている「土壌生成理論」を勉強していた様子で「肥毒」を解消さえすれば、5年悩み続けている本農法の生産性が向上するかのような考え方でした。なお、「肥毒」とは、これまで実践されてきた慣行農法において使用された化学肥料の蓄積残肥のことを指します。

この時お話した内容は、
①土壌化学性改善に当たる「肥毒」解消は難しいことではない、ということ。
②そのためには土壌化学性を直接改善するのではなく、「土壌生物性」の改善を先行しなければならないこと
③土壌生物性改善のためには腐植前駆物質を使用する方法が一番早い対応方法であること など
でした。

これまでの「肥毒」解消の対応方法をお聞きすると、「大豆やソルゴー、麦などの作付を行ってそれをそのまま土壌に鋤き込む」ということでした。これを何度か繰り返すと「肥毒」層が少なくなっていく、というのです。
自然農法を実践されている方はほぼこの方法を用いられますが、実はこの方法は皆さんがお気づきでない大きな問題点を孕んでいるのです。それは、土壌が更(さら)の状態、つまり「0」地点からの生産開始であればいいのですが、ほとんどの圃場はこれまで化学肥料や農薬、除草剤、未熟堆肥などで痛めつけられてきた状態、つまり「マイナス」の状態で必要以上に土壌細菌をはじめとする土壌微生物がダメージを受けた土壌の状態です。この「マイナス」側から「0」地点に戻すのに多くの大きなエネルギーを必要とすることに皆さんお気づきではないのです。このことに費やした時間が木村さんが10年以上、元田さんもすでに5年の時間を費やし脱出できず苦しんでいました。

要は、この「0」地点が土壌生物性が改善されて「腐植前駆物質」がすでに少量存在するか若しくはこれから生成される環境にあたります。ここまで土の状態を戻しておいて大豆、ソルゴー、麦などを鋤き込まれると必然的にその土壌中に腐植前駆物質が生成され生産性が大きく向上するようになります。田畑で腐植前駆物質が生成,増量すればその腐植前駆物質の持つキレート形成機能でキレートが形成され、肥毒がイオン化してキレートに取り込まれて肥毒の解消にもつながるのです。


モノには順序があると申し上げました。まずは「腐植前駆物質」の生成が必須要件です。これさえ達成されれば、収穫量はさておき高品質の農産物が収穫できるようになるはずです。
ホントマ農園さんの「この記事」をご覧ください。肥毒である肥料成分を完全に切ってしまった状態でも「腐植前駆物質」が存在しないためにこのような状態が続きます。

「何も使わない。何も持ち込まない。」その考えはそれでいいのです。信念を持って実践頂けばいいのです。ただ、10年単位で時間を無駄にするか、一度「0」地点へ戻して生業としての農業を楽しむか、そんなに難しい選択ではないように思います。


今日はこれでお終いです。次回は、農産物の品質と「腐植前駆物質」の関係を見てこのシリーズをまとめたいと思います。