6月歌舞伎座夜の部を14日に見た。今月は萬屋一門の襲名ということで、豪華かつ手作り感がある襲名になったと思う。

まず幕開きは八犬伝。現浅草世代に染五郎、左近、が加わった形。その中で、歌昇、巳之助、種之助、隼人は以前と違う役ではあるが、経験済みなので、やはり染五郎、左近とは芸容が違う。歌昇の犬山道節は大きさと古怪さがありぴったり。台詞も低い声がしっかり出ていて、踊れる人だけに幕外の引っ込みも身体中を使って豪快に飛び六方を決めた。面影に故吉右衛門の影があるのが印象に残った。巳之助はまず網干佐母次郎が色気と悪が効いていて、浜路の米吉をくどく姿がきっかりしていた。その後の犬飼権八も真ん中が似合っていた。米吉、児太郎、橋之助、染五郎、左近と花形揃いも見ものであるが、できたらこれらの世代を別々に重要な役で上の世代との共演を望みたい。

次が萬屋一門襲名口上の付く山姥。時蔵改め萬壽は枯れた中にも古風な華やかさがある山巡りを踊った。新梅枝は、体一杯使った踊りぶりがいい。三田の仕の芝翫も同じく古風さがある立ち役なので萬壽とのバランスが良かった。それから御殿が前まで引き出され菊五郎と歌六、又五郎が出て、花道から獅童、陽喜、夏幹が出てきて口上になる。こうして見てみても現在の歌舞伎界において、小川家の人々、俳優たちがいかに多くしかもいろいろな芝居において自己主張せずに昔ながらの「お行儀のいい」演じ方をしているかを実感させられる。今回も小川家手作りの襲名という感じで、その方々の心映えを感じさせる。

最後が獅童の魚屋宗五郎。全体的に見て獅童はよくはやっているのだが、こうした黙阿弥の世話物は台詞のイキと身のこなしが大事だと思う。獅童は身のこなしはいいが、台詞のイキ、間がずれる。そこが課題だ。何回かやればそれもクリアになるだろうし、むしろ世話物なら長谷川伸のものの方が彼にあっているかもしれない。七之助のおはまは以前中村座でやっているだけあって、しっかりしている。松緑の鳶もちょっとした出番で花を添える。魁春のおみつもそう。孝太郎は海老蔵の演舞場の公演などで獅童と一緒だったことで、おなぎも何回かやっているせいか安定の出来。萬太郎の三吉、権十郎の太兵衛もいい。磯部邸ではまず国矢の典三がいいのと、坂東亀蔵の家老がいい。隼人の殿さまも浅草で経験済みなせいか台詞がきっかりしていた。

こうしてみると劇団問わず一流の役者がこの襲名に花をそろえていて、それはとりもなおさず萬壽始め小川家の人々がいかに今の歌舞伎界を支えているかの証になった公演だったと思う。。