13日に歌舞伎座昼の部「菊畑」を見た。三代目辰之助襲名公演とある。初代辰之助は忘れることのできない役者だった。とにかく上手い、繊細であり、豪胆でもあるいい役者だった。義太夫狂言もやり、世話物もやり、新派や翻訳劇にも真価を見せた。踊りももちろんよくて、故富十郎が親獅子で彼が子獅子の連獅子の時のあの迫力はいまだに、あれを越える連獅子に会ったことがないというくらいのものであった。

さて、今回の菊畑だが、松緑の智恵内は豪快な色奴というところが押さえられていていい出来だ。欲を言うなら、もう一歩虎蔵を思う気持ち、鬼一を思う気持ちを出したかった。その鬼一を彦三郎がやっている。声の感じが祖父の羽左衛門によく似てきた。声がいいのである。あとは古怪なスケールの大きさが備わればもっといいと思う。皆鶴姫は時蔵。虎蔵をやる新辰之助よりも年かさなのがちょうど良くて、義太夫の「菊のませ垣しめからむ」とあるように、早熟な姫をたっぷりと演じた。笠原湛海は亀蔵。べりべりとした味がありいいと思う。そして、新辰之助の虎蔵だが、何より牛若丸である気品があるところはいいと思う。それと若衆らしく、しかも凜としたところがいい。あとはより役に膨らみをもたせて、色気も増せばいいと思うが、まずは評価できる出来。当代の松緑がその祖父二代目松緑に似て、眼の大きい男っぽい顔立ちなのに対し、新辰之助は顔立ちは初代辰之助に似ている。ただ初代はさすがに女形はやらなかったので、そこは彼らしい新しい辰之助を築きあげてほしい。劇中披露口上があった。彦三郎、時蔵、と心温まる挨拶があった中で亀蔵が辰之助が生まれた瞬間に立ち会ったとあったのが印象的だった。家族の他にも役者仲間が第二の家族として、そこにいて見守っているという絆を感じた。