2024年5月10日歌舞伎座夜の部を見た。いろいろつっこみどころはあれ面白かった。まず、伽羅先代萩御殿だが、菊之助の政岡が意外と良くなかった。まま炊きから栄御前の出まで三階席から見ると梅幸そっくりの顔立ちはいいとして能面のような表情に終始していて、それは栄御前が勘違いするくらい毅然としていなくてはならないにしても能面のような感じの表情と肚では困る。丑之助の千松は吉右衛門が子供だった頃ならこんな少年だったのかと思うほどそっくり。種太郎君の鶴千代君は鷹揚として品があり、小さいながらも50万石の主たる格があった。二人がちゃんと主と家来に見えたのもお手柄だ。声も良く通っていた。この芝居を支えていたのは歌六で八汐を手強くいっぱいに演じたので何とか、この悲劇が成立したし、栄が去った後の菊之助は愁嘆も生きた。客席は正直なもので八汐が引っ込むときや政岡に刺されるところでは拍手が起きて菊之助、團十郎にはあまり拍手が来なかっ。た。雀右衛門の栄はやや大人しいがなかなか見せた。このところ文七元結のお兼やこういう役が回ってきて気の毒だが。米吉の沖の井も菊之助に合わせたかやや大人しい感じ。男之助の右團次は小柄なのが目立った。猿翁の元を離れて脇役慣れしてしまったせいか。團十郎の仁木は出てきたところは立派だったが、いざ引っ込むところは意外と映えない。もっと大時代に決めてほしい。「四千両」は台本のカットの仕方が荒いせいかドラマの運びはイマイチだが、とにかく松緑が水を得た魚のように、この富蔵という男になりきっていて、台詞もしっかりしているし主役の華もあって良かった。欲を言えば世話物の台詞の生け殺しがもう少しあればと思う。梅玉の藤十郎もいかにも任にあっていた。見せ場はやはり牢獄でここでも歌六の牢名主が芝居を支えていた。加昇さんと種之助さんはすぐわかった。二人並んでも随分雰囲気が違う。眼八は橘太郎でちょっと違う感じ。片岡亀蔵あたりだといいのかなとも思った。とにかく演目として4月に比べたら見ごたえがあった。そういえばみのくんが四千両で伊丹屋徳太郎で出てきたがよくわからないうちにころんで幕になった。鷹之資が役人で出ていた萬太郎も罪人で声が独特なので分かった。松緑がここまで人を揃えられたのも紀尾井町夜話のたまものという感じもする。