どんどん主題から話が逸れていきますが、テレビ・ドラマは大好きです。息子が売れない舞台俳優をやっている影響もあり、舞台や映画も年に数回観に行きますが、やはり気軽に観れるTVドラマはその半分以上を録画して朝に夜に観ています。特に学園ものと病院物が好きです。医者の中には病院ものドラマは現実とあまりにかけ離れていて興味がない、といって見ない人もいます。私はむしろそれが面白かったり、勉強になったりしますので好んで見ています。

 

 もともと医療系ドラマといえば、ほとんどが医者、時々看護師が主人公でしたが、最近では放射線技師の物語や、現在のクールでは「ナースエイド」という看護助手が主人公のドラマが放映されています。主人公の放射線技師やナースエイドが実は医師であったというオチがついていますが。さて、この「ナースエイド」というのは病院職員で看護師などの資格を持たずに患者さんのお世話をいろいろする人のことですが、これまで常勤としてだけでも20か所以上の病院に勤務してきましたが、「ナースエイド」という言い方をしている病院は1か所もありませんでした。唯一、北関東の古くて小さい病院で、「エイドさん」と呼んでいるところがありましたが。

 

 「エイド」は英語で「助手」を意味します。そもそも病院職員の多職化が最近は著しく、「エイド」という人たちも私が知らないだけですっかり市民権を得ているのかも知れません。私が医者になったころの田舎の大学病院では、時間外に急患が来た時などは、若い医者は自分でCT装置を電源を入れるところから始めて撮影までして、輸血の際にはクロスマッチという輸血適合試験を自分で遠心分離機を回しておこなっていました。このように放射線技師の仕事も臨床検査技師の仕事も自分でやっていましたし、患者さんに座薬を入れるという看護師さんの仕事を自分でやった医者もいました。

 

 ここで申し上げたいのは、「エイド」という病院でもあまり使われないような言葉がドラマのタイトルになっていることです。他にも私がもう時代遅れだったり勉強不足だったりしたためかも知れませんが、聞いたことのない病名がドラマに出てくることが時々あります。今の時代はスマホで検索すればすぐわかりますが、ちょっと番組に関わった医者が張り切りすぎではないかと思います。また、ある科でしか使わないような略語、特にアルファベット3文字などを平気で他の科の医者に向かって言ったり、紹介状に書いたりする若い医者が増えているように思います。例えば「CAG」という略語は脳神経外科ではcarotid angiography すなわち頸動脈撮影を意味しますが、心臓血管外科では coronary angiography すなわち冠動脈撮影を意味します。前に述べた田舎の病院で病棟回診をしていたら看護師さんが、「この患者さんは今日、CAGです」と言ったので「なんとこの小さな病院で心臓カテーテル検査をやるのか?」と驚いたことがありました。どちらも血管造影の部位を示していますので、このような略語の乱用が万が一の医療事故につながる可能性があるかも知れません。「DOA」という略語にはdead on arrival, すなわち「病院到着時心肺停止状態」と昇圧剤「ドーパミン」を意味する場合があります。どちらも救命救急の場で使用されますので注意が必要です。やたら略語を使いたがるのは現在人の悪いところだと思います。特に人命にかかわることのある医療現場では慎重にならないといけないと思います。