南都七大寺における事例の吟味は今回で最後となる。


東大寺、興福寺、法隆寺については上巻にて既に論じている。この中巻では残りの4寺院を論じ、まとめに入っていかなければならない。


中巻の最初で大安寺、間に金峯山寺を挟み薬師寺、前回は元興寺と続いた。


さて、最後になったが西大寺を取り上げる。


なぜ西大寺が最後となるのかについて、これには理由がある。まず、奈良時代の末期、南都七大寺の中で最後に建立されたのが西大寺である。しかしながら、南都七大寺における事例の吟味は必ずしも時系列的に扱うものではなかった。よって、西大寺が歴史の中で、奈良時代最後の南都七大寺だからという理由において最後に引くというのでは学者として失格となる。よって、時系列的なことは偶然となる。


それよりも大切なことは、初期の西大寺において密教を扱おうとした事である。


密教といえば何かといえば、大日如来の教えというのもあるが、それよりも特徴的なのは、真言密教でも理解できるように、統合化へ向かう思想の宗教である事が特徴である。


飛鳥時代に仏教が伝来して以来、奈良時代の仏教思想は様々な宗派が分散したまま発展してきた経緯がある。これを孝謙天皇(称徳天皇)が取りまとめようとしたのではなかろうかと思われる。つまり、奈良時代の末期、朝廷が朝廷としての機能をフルに発揮できなくなってきた現状を改めようと思い、イノベーション(新結合)を行おうとしたのではなかろうかというのが私の仮説である。


しかしこれは推測の域を出るものではないことを申し添えておく。


ここで西大寺の公式サイトをご覧いただきたい。



いろいろと書いてあるが、要点は何かといえば、西大寺は東大寺と同じく、国家鎮護のために作られた寺院である。よって、国分寺と同格となる。


作った人は孝謙天皇(称徳天皇)である。



作り始めたのは765年、完成が780年である。


鳴くよウグイス平安京ということで、794年に平安京へ遷都となることを考慮すると、奈良の朝廷はかなりの危機を迎えていた時期であることを理解できよう。


誠に残念ながら、西大寺が建立された頃に何が行われていたかについての資料の多くは、西大寺地区の土の中に埋まったままである。よって、今後の発掘調査を期待するしかないが、現時点で理解できることは、道鏡が雑部密教(初期の密教。古密教ともいう。完成形は純粋密教)を導入し、それを支持する孝謙天皇(称徳天皇)がイノベーションを発生させるための学問寺を作ったというのが始まりであろうと思われる。



奈良国立博物館による雑部密教の解説:


全ては密教が物語るものであると私は思っている。経営学的にはローレンス&ローシュによるコンティンジェンシー理論における分化と統合の理論で理解できよう。


ユング派心理学的では個性化となり、易経的には六十四卦の発生となろう。


孝謙天皇の時代、藤原仲麻呂の反乱が起きるような状態であったことが、まずをもっての問題提起となる。孝謙天皇からすると藤原の血が入っているにしても、「なんでやねん?」と思うことはむしろ当然であると思われる。


なぜ一体化できないのか、そもそも東大寺と興福寺が分離したまま生産性が上がらず、しかも反乱とは何事や?と思うことは吉備真備から教育を受けた孝謙天皇からすると、当然の問題意識であったと思われる。


ならば、西大寺でそれを実現してやろうと思ったのではなかろうかとの仮説を、私としては歴史のロマンとしたいのである。


その後、一旦は譲位するが、重祚(ちょうそ)し、称徳天皇となる。そこに現れるのが道鏡である。


道鏡といえば、「道鏡は座ると膝が三つできる」、「道鏡に根まで入れろと詔」というように、凄まじい男性力を発揮する人物像である。


その他、『古事談』、『日本紀略』、『水鏡』に見える道鏡と称徳天皇であるが、まあしかし、本稿においてはとてもその内容を紹介できるものではないので割愛するが、このような話が展開されるほど、西大寺は革新的であった事を読み取ることができよう。


主流派の東大寺、革新派の西大寺との対決となるが、その後の歴史を見ると、東大寺が勝利することになる。


しかし、東大寺と興福寺の関係だけであれば、その後の日本、とりわけ平安時代に新しい風を起こすことができたのであろうか。つまり、空海が登場する事が可能であったかと思えば、西大寺が果たした役割は非常に大きいものであると思われる。


西大寺が第三極となったことで中空構造が発生し、この結果として西大寺は勢力を落としていったとも考えられる。


東大寺と西大寺という陰陽の関係が、結果として平安時代に真言密教を勃興させ、イノベーションが達成されたことは西大寺にとっては皮肉な事であろうが、理論的には教科書に沿った、非常に基本に忠実な戦略であるといえる。


西大寺については2部構成で完結させる。今回はここで筆を置くが、次回はこの続きを行う。


期待されたい。