言語連想実験によりコンプレックスの発見に至ったユングであるが、この頃からフロイトとの交流が始まる。ところがここまでの経緯でも明らかであるが、フロイトは性的なものにコンプレックスの原因を求めていたが、ユングは抑圧という漠然としたものにとどまっていた。否、その抑圧は個人的であったからこそ性的なものに限定しなかったのである。


そしてこの抑圧をヒントにヒステリー、離人症や多重人格のカウンセリングを担当していくことになる。また、これらのクライアントとは別に統合失調症の入院患者も担当していくことになる。ユングは統合失調症の専門家であるが、この当時のユングはまだその専門家ではなく、総合的にクライアントのカウンセリングを担当していた。


ある日の昼頃、ユングはある重度の統合失調症のクライアントと話をしていた。そのクライアントはユングのことを気に入っており、ユングとの会話を楽しみにしているクライアントの一人であった。ユングとしては、このクライアントは重度なので治る見込みはないと診断しており、したがって、統合失調症を治すための会話ではなく、相手を落ち着かせるための会話をしていたのであった。そして突如としてそのクライアントはユングに向かってこういったのである。


「太陽にペニスがあり、横に揺らしている」


この時、ユングとしては重度の統合失調症の独特の症状である世界感が披露された程度に捉えていた。


その話を最後にユングは休憩に入るが、休憩室に置いてあった神話の本を何気なく眺めていた時、「ペニスがある太陽」の神話が書かれていることを発見したのであった。


腰を抜かしたユングはそのクライアントの個人情報を詳細に調べるも、神話について知識がある人ではない事が判明した。つまり、無意識が湧き出る世界と神話の世界とは一致しており、しかもそれは生まれ持って備わっている知識であると認識したのであった。それはコンプレックスという個人的なことではなく、神話にも通じる普遍性を持っていることから、心の層には個人的無意識よりも深い層に、それとは別の無意識の層があることに気づいたのであった。よってこの層のことを「集合的無意識」とし、無意識を2分割することに成功したのであった。


ここでもう一つのユング的な発見として「共時性」がある。これは意味のある同時性と言われるもので、日本での例では、大切な茶碗が割れた時、友人が亡くなったというような、因果関係では説明できない現象による同時性を説明するものとして共時性という概念を導入していくことになる。


しかし、現時点で重要なのは集合的無意識の発見である。ユングはこの発見により抑圧とともに神話や昔話の研究に没頭していくことになる。さらに、フロイトとの仲はリビドーの働き方の違いをすり合わせる事ができず、決別するようになっていく。


このような奇跡的な体験の積み重ねによりユングの理論は展開されていくことが特徴である。私にもそのようなチャンスはないものかと思うものの、凡人の私にはユングのような幸運は訪れないようである。


次稿に期待されたい。