贈り物は春と共に (夏詩の旅人3 Lastシーズン) | Tanaka-KOZOのブログ

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 2014年3月
鎌倉由比ヶ浜、ハルカの自宅
僕は居間で、同居してるハルカと一緒に、朝のニュースをTVで観ていた。

「昨日、東京の児童養護施設、希望が丘学園で、“伊達直人”と名乗る宛名不明の人物から、養護施設にランドセルが送り届けらせたそうです」

「数年前から、こういった“伊達直人”を名乗る人物から、新年度に養護施設から小学校へ上がる子供たちへ、この様な善意の贈り物をする人たちが増えて来ており、大変、心温まる次第です」

ニュースを伝える女性アナが微笑みながら、そう言った。



「ねぇ、こーさん…、何でランドセルを贈る人は、いつも“伊達直人”って、名乗ってるの?」
ニュース番組を観ていたハルカが、僕にそう聞いて来た。

「そうか…、ハルカは“伊達直人”が、何だか知らない世代なんだな?」
僕がハルカに言う。

「うん…」(ハルカ)

「“伊達直人”っていうのは、梶原一騎が原作した漫画、“タイガーマスク”の主人公の事なんだよ」(僕)

「タイガーマスクって、プロレスラーの…?」(ハルカ)

「へぇ…、そっちの方は知ってるんだぁ?」
僕が少し感心して言った。

「そっちの方って…?」
ハルカが僕に訊く。

「ハルカが今言ったのは、漫画をモデルに実在したプロレスラーのタイガーマスクだろ?」
「TVで言ってるのは、漫画のタイガーマスクの事なんだよ」

僕がハルカにそう言うと、興味深そうに彼女は耳を傾ける。



「漫画のタイガーマスクは、悪役のプロレスラーとして活躍してるんだが、実は心の優しい伊達直人という男が、タイガーマスクの正体なんだよ」

「伊達直人は、みなしご(孤児)で、孤児院の出身なんだ。それで、プロレスで稼いだファイトマネーを匿名で、自分の居た孤児院へいつも寄付をしていたんだ」

「恐らく、伊達直人を名乗る人たちは、幼少期にタイガーマスクを読んだ事のある人たちで、大人になって伊達直人を見習って、その名前を語りランドセルを寄付をしているんだろうな…」

「ランドセルって、結構、値段が高いから、慈善団体の活動費では、子供全員分のランドセルを買ってあげられないそうなんだ」

「だから、そういった子供たちの為に、ランドセルを贈ってるんだと思うよ…」(僕)

「随分、昔の漫画なのに、未だに影響力があるなんて、漫画の影響力も捨てたもんじゃないって事ね」(ハルカ)

「そうだな…。しかも宛名不明の匿名での寄付だから、税金の控除対象にもならないからな」(僕)

「税金の控除…?」(ハルカ)

「ほら…、確定申告で寄付した金額を書くと、それが経費と同じに認められるから、税金が低くなるだろ?」(僕)

「そうなんだぁ…?」(ハルカ)

「だけど、“伊達直人”として、こういった寄付をしてる人たちは、匿名でやってるから控除として申告できないワケだ」

「つまり彼らは、税金対策じゃなく、本当の善意からやってるという事なんだよ」(僕)

「日本人も、まだまだ捨てたもんじゃないわね?」
ハルカが微笑んで言う。

「そうだな…。最近は、自分さえ良ければ良いという考え方が増えて来てるからな…」(僕)

「そういった人を思いやる気持ち…、ずっと無くならないで欲しいよね?」(ハルカ)

「ああ…」
僕はそう言って、ハルカに微笑むのであった。






 神奈川県相模原市南区
田園地帯の中を走る、1台の軽貨物車。
その車両は激安宅配便として知られる、“8の字無限便”の軽トラックであった。



「走ぃぃっていいればぁ、この世は天国~♪」
「握るハンドルぅぅ…、どこええゆくぅぅ~っとくらぁッ!」

軽トラを運転するハリーが、良い気分で歌いながら配送先へ向かっていた。
チキチキマシン猛レース



水田に囲まれた道の脇には、大きな水車がゆっくりと回っている。
それを過ぎると、ハリーが配達する建物が正面に見えて来た。

「お!、あすこでやすな…」
ハリーはそう言うと、その建物を目指して真っ直ぐに進んで行った。




 児童養護施設 ともしび児童学園

軽トラを停車したハリーが配達に来たのは、相模原市にある児童養護施設であった。

ここには何らかの事情により、親元を離れて暮らす子供たちが18歳を迎えるまで、共同生活をする場所である。



「まいど~~♪、8の字無限便でやすぅ~~~!」
ハリーが段ボールを抱えながら、校庭で子供たちと戯れていた女性にそう呼びかけた。



「ご苦労様です~♪」
笑顔の女性職員が、そう言いながらハリーに小走りで近づいた。
その女性は、まだ20代くらいの年頃であった。

「ぬぅッ!…」
ハリーが思わずそう唸ったのは、彼女が往年のアイドル、大場ケメ子に似ていたからだ。

昭和のアイドルだった大場ケメ子は、当時、“おはよう子供ショー”の“おねえさん”役を担当していた。

ハリーは、その女性を見た時、まさに彼女こそが、現代の大場ケメ子だと思わずにはいられなかったのだ。

「に…、荷物でやす…。ここに受け取りのサインを…ッ」
緊張するハリーが、女性職員にそう言うと、女性は渡されたボールペンで、“マチコ”と、カタカナでサインした。

「ま…、マチ子さんって、仰るんでやすか…?」
女性のサインを見て、ハリーが訊く。

「え?」
女性がそう言って、ハリーを見つめた。

「いや…ッ、みなさん普通、苗字の方を書くもんでやすからぁ…」
ハリーが、少し顔を赤らめて言う。

「これ、苗字なんです(笑)」
女性がそう言って微笑んだ。

「苗字!?」(ハリー)

「“靺子”って、書くんですけど、ほとんどの方が読めないので、いつもカタカナで書いてるんです(笑)」(マチコ)

「そ…、そぉ~だったんでやすかぁぁ…!?、そいつは失礼いたしやしたぁ!」
ハリーが頭に手を当てて、恥ずかしそうに言った。

「ふふ…」
マチコが、そんなハリーを見て微笑んだ。

その時であった!
1人の児童が後ろから駆け寄り、いきなりマチコのスカートをまくり上げるのであった!

「そ~れ♪」(児童)

「いやぁぁ~~ん!」
そう言ってマチコは、慌ててスカートを押さえる!



「ズッキーーー二ッッ!!」
意味不明な言葉を発しながら、ハリーの鼻から大量の鼻血がドバッと飛び出した!

「こらぁぁ~!、健太ぁぁ~~~!」
目の前のマチコは拳を振り上げながら、逃げて行く児童に怒っている。

「どうも、すみません…、お見苦しいとこお見せしちゃって…」
ハリーに振り返り、そう言うマチコがハリーを見ると驚いた!

「きゃッ!、大変!、配達員さんッ!、血が出てますッ!」(マチコ)

「心配ご無用でやす…」
ハリーはそう言って、右手で制止ながら、もう片方の手で鼻血をハンカチで押さえる。



「大丈夫ですかぁぁ…?」
マチコが心配そうに、ハリーの顔を覗き込む。
それは、鼻を押さえているハンカチが、見る見る血で赤く染まって行くからだ。

「ホントに心配ご無用でやす…。今日は良いものを見させていただきやした…」(ハリー)

「は?」(マチコ)

「ああッ!、いえ!、こっちのハナシでやす!」(ハリー)

「はぁ…?」(マチコ)

「あっしは、ハリーと申しやす…。また配達に来ると思いやすので、今後ともヨロシクお願いしやす…」

ハリーはそう言うと、マチコの元から去って行く。
その後ろに立つマチコは、ハリーの背中にお辞儀をするのであった。

 軽トラに向かって歩くハリーは、身体をプルプルと震わせながら、右手でガッツポーズを取る。

(マチコさんの生徒が、マチコさんのスカートめくり…ッ!)



(これじゃあ、まるで、PTAに放送禁止にされた、“まいっちんぐマチ子先生”、そのものじゃないでやすかぁぁーーッ!)



(惚れたッ!、ホレやしたぜマチコせんせぇ…ッ!) ← なんでやねん?

(このハリー・イマイッ!、男の名に懸けて、アナタを一生守ると誓わせていただきやすッ!)

「ギヒヒヒヒ……」
ハリーはそう思うと、ニヤニヤと笑みを浮かべ軽トラに乗り込むのであった。


数日後
ハリーは、ともしび児童学園への配達で再び訪れる事となった。

またマチコに会えると思い、ハリーは含み笑いをしながら段ボールを抱えて学園の中へ入る。
すると校庭で、あの時のマチコが男性と何やら立ち話をしている光景が目に入った。

(何してるんでやすかねぇ…?)

ハリーは違和感を感じる。
それは男の服装が派手で、いかにもガラの悪そうな風貌であり、またマチコの方も、その男への対応が怯えている様に感じられたからだ。



「あんたさぁ~、いい加減にしてくれよぉ~。ここに、こんな施設があったら、迷惑だっていってんだろがよぉ~」(ガラの悪い男)

「ご迷惑なのは重々承知しています。あれから、子供たちには静かにする様に、ちゃんと言い聞かせています。だから…」(マチコ)

「ダメなんだよぉ、それじゃあ~よぉ~!、ここから出て行ってもらわねぇとさぁ…。俺っちは、この学園の立ち退き依頼を請け負ってんだからさぁ~」(ガラの悪い男)

「でも、ここから出て行ったら、ここの子供たちの居る場所が無くなってしまいます!、どうか…ッ」(マチコ)

「ダメだぁぁ~、ご近所さんのご迷惑だぁ~!」(ガラの悪い男)

「この学園の周りには田畑があるだけです。近所迷惑になる様な音は出していないつもりです…」(マチコ)

「響くんだよぉ~、ガキの奇声はぁ~。たとえ100m離れてても、何かが微かに聞こえてくんだよぉ!、それが耳障りなんだよぉ!」(ガラの悪い男)

「そんな…ッ」
マチコが男にそう言うと、側まで歩いて来たハリーが話し掛ける。



「まいどぉ~!、8の字無限便でやすぅ~!」

段ボールを抱えたハリーが、作り笑顔でわざと2人の会話の邪魔をする。
マチコがハリーを、先日の配送業者だと気づく。

「なんだよお前は!?、今取り込み中だ!、あっちいってろッ!」
坊主頭にガラシャツの男が、タバコを咥えながらハリーに言った。

「そういうワケにもいきやぁせん…。こっちも、時間に追われる仕事なもんでやしてねて…(笑)」
ハリーが男の言葉を無視して、2人の間に割って入る。

「はい…、こちらにサインを…」
マチコの前に立つハリーが、笑顔で宅配物を渡す。

「てめぇ…ッ、舐めてんのかぁッ!」
男はそう言って、ハリーの胸倉をいきなり掴んだ。

「やめてくだせぇ…、苦しいでやすよ…」
男に恫喝されたハリーが言う。

「てめぇッ!、ぶっ殺されてぇかぁッ!」
両手でハリーの胸倉を掴む男。
だがハリーは、至って冷静に言葉を返すのであった。

「そんな気ないくせに…(笑)」(ハリー)

「ああッ!?」
どういう意味だ?と男

「どうせ殺す気なんてないくせに…、ここに防犯カメラが設置してあるから、自分は安全だと思って、ワザとイキがっちゃったりして…(笑)」
胸倉を掴まれてるハリーが笑顔で言う。

「安全?」(ガラの悪い男)

「あなたみたいなタイプは、周りに目撃者や監視カメラがある場所でだけ、そうやって喧嘩を吹っ掛けてくるんでやす(笑)」

「あとで警察に言えば、あなたを捻り潰した相手も、警察に捕まるのが嫌だから、きっとあなたに手出しをして来ないと思って、そうやってワザとイキがる…(笑)」(ハリー)

「俺が捻り潰されるぅ!?、俺が警察に訴えるぅ!?」
こいつは何を言ってるんだ?と、思った男がハリーに言う。

「そうでやすよ…。卑怯でやすね~…、自分から絡んできておいて、逆にやられちゃったら、今度は警察に言って、被害者ヅラするんだから、タチが悪いでやすよ…(笑)」(ハリー)



「俺がそんなことすっかぁッ!」(ガラの悪い男)

「やりやすよ…。ゼッタイ…(笑)」(ハリー)

「しねぇッ!、てめぇッ!」(ガラの悪い男)

「ほんとに…?(笑)」(ハリー)

「しねぇッ!」(ガラの悪い男)

「じゃ安心しやした…」
ハリーはそう言うと、男にいきなり払い腰(柔道投げ)を放つ!



「チョリソォォーーーッ!」(ハリー)

ズダンッッ!

「いぃてぇぇ~~~~~ッ!」
受け身を取れない男は、地面に叩きつけられると、そう叫んだ。

「さっさと帰ってくだせぇ…。ここは、あんたみたいな人の来るところじゃありやせん…」

男を見降ろして言うハリー。
やつは背中を押さえながら、まだ痛いと叫びながら寝転んでいる。
そして、その光景にマチコは、あっ気に取られた。

「くッ…、くそッ…、覚えてろよ…ッ」
男はそう言って立ち上がると、よろめきながら足早にその場を去った。

「これで大丈夫でやす…(笑)」
マチコに振り返り、笑顔のハリー。

その時、さっきの男が遠くからこちらに叫ぶ。

「ゼッタイ、ケーサツに訴えたるからなぁぁ~~ッッ!」
その言葉にハリーはガクッと崩れるのであった。




「どうもありがとうございました…」
それから、ガラの悪い男も居なくなり、一息ついた頃、マチコがハリーに礼を言った。

「礼なんて良いでやすよ…。それよりも、アイツは一体何者なんでやすかぁ?、近所の住民なんでやすかぁ?」
ハリーがマチコへ、先程の男の事を尋ねる。

「あの人は最近になって、ここへ学園の立ち退きを言いに、現れる様になった人です」
「ですが、この辺に住んでいる方ではないんです」(マチコ)

「どういう事でやすかぁ?、あいつぁ、さっき近所迷惑がどうのこうのって…?」(ハリー)

「半年前の事です。この学園の近くに、元官庁勤めだったお偉いさんが、定年を機に、この地に家を建てられ越して来たんです」

「その方の家は、ここから100m程離れているのですが、どうも子供の声がお嫌いな様で、住み始めてから間もなく、この学園へクレームを入れて来る様になったんです」(マチコ)

「へぇ…、そうなんでやすか…」(ハリー)

「私たちも、それ以来、子供たちが騒がしくしない様に気をつけていたんですが、それでも気に入らない様で、この学園に圧力を掛けて来るようになりました」(マチコ)

「圧力…?」(ハリー)

「はい…、官庁勤めのOBという事で、ここの地元の議員とも繋がりがあるみたいで、嫌がらせが始まったんです」

「まず手始めに、ともしび学園への寄付を止める様に、協力者たちへ圧力を掛けて来ました」

「私たちみたいな非営利団体は、寄付が止められるとかなり苦しくなります。お陰で、今度小学校に上がる子供が3人いるんですが、その子たちのランドセルも買ってあげる事が出来ない次第です」

「それでも立ち退かない私たちを見ると、今度は、さっきみたいな人を雇って、脅しを掛けて来るようになりました」

「最近は、買い出しに出かける時も、誰かにつけられてる様で、とても怖い思いをしています」(マチコ)



「かぁ~~~…、まったくとんでもねぇやつでやすなぁ…。上級国民様は、何でも自分の思い通りに行かねぇと気に食わないって事でやすか…」

「大体、元々、ともしび学園がある場所に、後から越して来た分際で『立ち退け!』とは、言ってる事がおかしいでやすよ…」(ハリー)

「もう私…、どうすれば良いのか…」(うなだれるマチコ)

「分かりやした!、今日からあっしが、マチコ先生の警護に付きやす!」(ハリー)

「え!?」(顔を上げるマチコ)

「心配しねぇでくだせぇ、警備はボランティアとしてやらせていただきやす」(ハリー)

「そんな…、申し訳ないです。そんな事まで…」(マチコ)

「大丈夫でやす!、あっしに任せてくだせぇ!、だから負けちゃいけやせんぜ、マチコ先生!」
ハリーは、そう言って笑顔でマチコに言う。



ハリーはボランティアの警備だと言いつつも、半分は「これで、マチコ先生のお傍に居られる口実が…、ギヒヒヒ…」という、ヨコシマな考えもあるのだった。


 こうしてハリーは、マチコの警護に当たる事となった。
ともしび学園にハリーが常駐する様になってからは、例の男も現れなくなった。

また学園の子供たちも、徐々にハリーを慕う様になっていった。
マチコの警護に当たってから10日程経つ頃には、ハリーもやる事がなく退屈を感じていた。

そんなある日、ハリーはマチコに提言するのであった。

「マチコ先生…」(ハリー)

「はい?」(マチコ)

「あっしにも、何か学園の仕事で手伝える事、ありやぁせんかね?」(ハリー)

「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です」
マチコがハリーに笑顔で応えた。

「いや…、実は毎日、毎日、何もやる事がなくて退屈で仕方ないんでやすよ…」
ハリーが困り顔で言う。

「そうなんですか…。でも、ハリーさんにお願いできる仕事って…」
マチコがそう言って、考えているとハリーが笑顔で突然言うのであった。

「そうだ!、紙芝居なんかどうでやすか!?」(ハリー)

「紙芝居…?」(マチコ)

「へい…、あっしがガキの頃は、子供たちが遊んでる空き地とかに、紙芝居屋が自転車に乗ってやって来るんでやすよ♪」

「子供たちが飴玉1個買うと、紙芝居屋のオヤジが皆の前で、紙芝居を読み聞かせてくれるんでやす!」



「黄金バットとか、月光仮面なんかを見せてくれやした!、きっと学園の子供たちにもウケる事、この上ないと思いやす♪」

ハリーが声を弾ませて言うと、マチコは「紙芝居ですか…、いいかも知れないですね」と、笑顔で言った。

「じゃあ、あっし、早速、紙芝居を取って来やす!」(ハリー)

「え?、今、お持ち何ですか?」(マチコ)

「あっしの乗ってる軽トラは、アマゾンの配送センターと直通で、注文したものが瞬間物質転送機で送られてくるんでやす!」(ハリー)


※注文の無いら~麺店の回、参照

「瞬間物質転送機…??」(マチコ)

「とにかく、あっしに任せてくだせぇ!、すぐ注文して戻って来やす!」
ハリーはそう言うと、8の字無限便のトラックへと走って行った。

それからハリーが、10分程で戻って来た。

「お待たせしやした…。早速、子供たちへ紙芝居を…」
少し息を切らし気味にハリーがマチコへ言う。

「どうも申し訳ありませんでした。じゃあ早速、子供たちを集めますね」
マチコはそう言うと、学園の子供たちを教室へ集めるのであった。


「みんなぁ~、今日はハリーさんが、紙芝居を見せてくれるそうです」

マチコがそう言うと、集まって来た子供たちは、マチコの後ろに立つハリーを指しながら、「ハリーだ(笑)、ハリーだ(笑)」と笑顔で言う。

「え~…、それでは、今日は正義の使者、月光仮面の紙芝居を始めようと思いやす…」
教壇の上に紙芝居をセットしながら、ハリーが子供たちに言うと、早速紙芝居が始まった。

「高校生の真弓は、森の中にひっそりと建つ、全寮制のスパルタ学園に入学した女子高生であった」
「そのスパルタ学園は、世間では教育熱心な進学校として知られていた」
「しかしその実態は、誰も知られていない恐ろしい秘密が隠されていたのであった…」

ハリーの読み聞かせる紙芝居を、真剣に聞き入る子供たち。
その時、ハリーが読み聞かせている紙芝居に異変を感じる。

(あれ?、こんなストーリーでやしたっけ…?)
紙芝居を読みながら、ハリーが思う。

「その実態とは、学長である“サタンの足の爪”が、女生徒たちに毎夜繰り返す、教育という名につけこんだ…」
ハリーがここまで読み聞かせると、突然、ハリーは紙芝居を止め固まった!



(げぇッ!、この紙芝居!、月光仮面じゃなくて、永井豪せんせぇの、けっこう仮面の方じゃねぇでやすかぁぁ~~~ッ!!)
ハリーが動揺して固まってると、子供たちがハリーに言い出した。

「おい!、何やってんだよハリー?」(子供A)

「さっさと続き、読めよ!」(子供B)

「あうッ…、しかし…ッ」(紙芝居を持つハリー)

「ハリーさん?、どうしたんですかぁ…?」
マチコがハリーに訊く。

「早くしろよぉぉ!」(子供C)

「はぁやぁく!、はぁやぁく!、はぁやぁく!…」
子供たちが、早く再開を望むコールを一斉にし出す!

「さぁハリーさん、続けて下さい…」(マチコ)

「はぁやぁく!、はぁやぁく!、はぁやぁく!…」(子供たち)

「へ…、へい…」
周りから急かされるハリーが、仕方なく紙芝居を再開する。



「あ…、ある夜の事であった。まま…、真弓の背後から1人の怪しい男が近づく…」
「その男は、真弓のセーラー服を背後から掴むと、×××…、×××…、××××…、××××××…ッ」(ハリー)

「おいッ!」
マチコが、ハリーの後頭部をスリッパで叩く!



スパァァーーーンンッ!!

「たたた…ッ!」
後頭部を押さえ、ハリーがマチコへ振り返る。
その光景を子供たちは、腹を抱えて大笑いしている。

「アナタ子供たちに何、読み聞かせてるんですかぁッ!」(マチコ)

「いやッ、あの…、みなさんが続き読めって、言うもんでやすからぁ…」
冷や汗のハリーが、怒っているマチコに弁明する。

「もう結構です!、こっちに来てくださいッ!」
マチコはそう言って、ハリーの襟首を掴んで、外に引っ張り出す。

「ははははは…(笑)」
その光景を、子供たちは指を差して笑っていた。

「どういうつもりなんですかッ!」
別室に連れて来たハリーに、マチコが怒鳴る。

「いや…、ちょっとした手違いでやして…ッ」(ハリー)

「何が手違いなんですかッ!、あんなものを子供たちに…ッ」(マチコ)

「やっぱ紙芝居は、ちょっと古かったでやすかね…?」(ハリー)

「そういう問題じゃありませんッ!」(マチコ)

「マチコ先生…、映画なんかどうでやしょ?」(ハリー)

「映画…?」(マチコ)

「へい…、ニッキーマウスとか、機関車キューマスとか、そういうの観せてあげたらどうでやしょ?」(ハリー)

「うちの学園には、子供たちを映画館に連れていけるお金なんてありません!」(マチコ)

「映画といっても、DVDの事でやす…。あっしTATSUYAの会員でやすから…」
「あっしがDVD借りて来やすから、学園のTVで子供たちに観せたらどうでやしょ?」(ハリー)

「分かりました…。じゃあ私も一緒にTATSUYAに行きます!」(マチコ)

「あっし1人で大丈夫でやすよ…」(ハリー)

「あなたに任せたら、何を借りて来るか分かったもんじゃありませんから…ッ」(マチコ)

「へ…、へい、分りやした…」
ハリーが、おずおずと従うと、2人は駅前のTATSUYAへと向かうのであった。


 それからハリーとマチコは、TATSUYAで子供たちが喜びそうなDVDを選び始める。

しかし、その店には、あまりパッとした作品が見当たらなかった。
取り敢えず子供向きのDVDをチョイスして、2人はレジへと向かった。

「お願ぇしやす…」
ハリーがDVDを店員に差し出すと、その従業員がポスレジでハリーのメンバーカードを読み込んだ。

ピ…。

キミノナワ…    ミヘンキャク

ポスレジのデータから、ハリーが未返却のDVDが出て来た。

「お客さん…、“君の名は…”が、未返却ですが…」
店員がハリーにそう伝えた。

「は…ッ、はいッッ!」
するとハリーが突然、直立不動で固まった!

「未返却中ですと、お貸しする事が出来ないんですよぉ…」
店員が、目の前で冷や汗をかいているハリーに言う。



(しまったぁぁ~~~…ッ!、あのDVD…、返し忘れていたでやすぅぅ…ッ!)
ハリーがそう思っていると、隣に立つマチコが訊く。



「ハリーさん、“君の名は…”って、あの深海監督の話題のアニメの事ですかぁ!?」
マチコが笑顔で言う。

「いや…ッ、あの…ッ、その…ッ」(オロオロするハリー)



「あの映画、私観たかったですよぉぉ~!、そうだ!、“君の名は…”を子供たちに観せてあげましょうよ♪、あれなら子供たちも、きっと喜びますわ~♪」
マチコが声を躍らせて言った。

「本日、延滞料をお支払い頂けるのなら、今日のDVDもお貸し出来ますが…」
店員がハリーに言う。

「払います!、払います!、私が払います!」
マチコが財布を出して、店員に言った。

「いや…ッ、マチコ先生ッ!、ちょっと…ッ!」
何故か動揺するハリー。

「じゃあ、早速、ハリーさんの自宅まで“君の名は…”を取りに行きましょう♪」
支払いを済ませたマチコがハリーに言う。

「あの…ッ、ちょっと…ッ、ひえぇぇ~~~ッ!」
マチコに腕を掴まれたハリーが、叫びながら店を後にする。

その光景を見つめらながら、店員が言う。

「どうしたんだろ…?」
彼は、何故ハリーがあそこまで動揺しているのか理解出来ないのであった。


 その夜、閉店間際のTATSUYA
先程の店員が、返却されたたくさんのDVDを棚に戻していた時に気づく。

「あれ…?、“君の名は…”、全部返却されてるじゃないか?」
おかしいと思った店員が、ポスレジで返却状況をチェックする。

ピ…

キミノナハ…     ヘンキャクズミ

キミノナハ…     ヘンキャクズミ

キミノナハ…     ヘンキャクズミ

キミノナハ…     ヘンキャクズミ


「あれぇ~?、やっぱり全部返却されてるじゃないか?」
「じゃあ、なんであの昼間のお客さんは…?」

彼はそう思いながら、データの下の方を見て気づく。

「あ!」

キミノナワ…        ミヘンキャク

君の縄…



AVだった…。(笑)

「あちゃぁ~…、悪い事しちゃったなぁ…」
「大丈夫だったかなぁ…、あのお客さん…」



店員はハリーの顔を思い出して、そう思うのであった。

※作品は違いますが、レンタルのシーンは実話です。
“おもひでぽろぽろ”と、“おもひでぺろぺろ”でしたが…(笑)


 3日後
今日は、ともしび学園のマチコが、食材の買い出しに出掛ける日であった。

先日、マチコが「外出時には、いつも誰かにつけられている感じがする」と言っていた事を思い出したハリーは、マチコの警護に中出氏の応援も要請していたのであった。

「遅せぇでやすなぁ…、中出氏」
腕時計を見ながら、学園の校庭でマチコと待つハリーがぼやく。
するとそこへ中出氏がやっと現れた。

「お待たせしました」
飄々とした表情で、メガネのシャクレ顔の中出氏が笑顔で言う。

「あれ?、中出氏、髪型変えたんでやすかい?」
いつもとヘアスタイルが違う中出氏を見たハリーが言った。



「ああ…、これですか?、これはカツラです(笑)」(中出氏)

「カツラ…!?」(ハリー)



「これは、アートネイチャーと我社が共同開発した、“ターミネイチャー”です」(中出氏)

「なんでやすか?、それは?」(ハリー)

「これを被る事によって、ターミネーターに出てた、シュワルツェネッガーみたいなパワーを引き出す事が可能となるのです!」
「ちなみに、そのパワーを使う瞬間、カツラに内蔵されたスピーカーから、ターミネーターの登場シーンで使われたBGMが、流れる仕組みになっています(笑)」(中出氏)

「へぇ…、そうなんでやすかぁ?、それと手に持ってる、そのデカイ水鉄砲は何なんでやすか?」(ハリー)



「ふふ…、これですか?、これは、ガトリング・ウォーターガンと言いまして、ダカラトミーに造って頂いた幼児用玩具です!」(中出氏)

「幼児用玩具~!?」(ハリー)

「玩具と言いましても、このガトリング・ウォーターガンの威力は凄まじく、あの、あさま山荘事件で機動隊が使っていた放水車と、同レベルの水圧で相手にダメージを与える事が出来ます!」

「つまり、この銃から発射された水に当たれば、骨折、失神は免れません…(笑)」(中出氏)

「ひぇぇ…、恐ろしい水鉄砲でやすねぇ…」(ハリー)

「マチコ先生、宜しかったらこの玩具、学園の子供たちに寄贈致しますので、ぜひ夏休みの水遊びの時などにご利用下さい(笑)」(中出氏)

「けけ…、結構ですッ!」
マチコが及び腰で中出氏に言う。

「それでは、買い出しへ出発しやすかぁ!」
ハリーが言うと、3人は学園を出て歩き出すのであった。


 学園の周りには水田が広がっていた。
水田の脇には用水路が流れており、大きな水車も回っている。

水車の回転は、いつもより早く回っていた。
それは昨日の大雨の影響で、用水路の水量が多かった関係からであろう。



3人が水車の側を通り過ぎようとした時であった。
1台の黒塗りベンツが猛スピードで現われて、3人の前で急停車した!

キキーーッ!

ガチャ…

ベンツのドアが開く。
そこから出て来たのは、先日の坊主頭の男であった。



「へへへ…、この時を待ってたぜ…」(坊主頭の男)

「あ!、あんたはこの前の!?」(ハリー)

「おい!、そこのオンナをこっちによこせ!、今日は、その先生とじっくり今後の話をさせていただきたいんでね…」
坊主頭がニヤニヤして言う。
マチコは怯えた表情で、ハリーの後ろに隠れた。

「へッ!、なに言ってやがるんでやすッ!、またあっしに投げ飛ばされてぇんでやすか!?」(ハリー)

「へへへ…、今日はこの前みてぇにはいかねぇぞ…。アニキ…、宜しくお願いします」
坊主頭がそう言うと、ベンツの助手席から2mはあろうかという大男が、ぬぅっと現れた。

「ゲッ!」
それを見たハリーが驚く!



「この御方はなぁ…、華山薫さんといって、ステゴロ(素手の喧嘩)じゃあ、誰にも負けた事のねぇ、500戦無敗の御方なんだよぉ…、ヒヒヒヒヒ…」

坊主頭が大男をそう言って紹介すると、その男は右拳を左手で包み込み、ボキボキボキ…と、音を鳴らした。

「ぐぅぅ…」
さすがに相手が悪いと悟ったハリーが唸る。

「ハリーさん…」
マチコがハリーの背後で、震えながら言った。

その時であった!

「待ちなさいッ!」
彼らの周辺から誰かの声!

「だ…ッ、誰だッ!?」
坊主頭が周辺をキョロキョロと見回す!

「あ!」
ハリーが、その声の主を見つける!



「お兄様ッ!」
中出氏が、水田の脇に建っている小屋の上にいる人物に言った!

「誰だぁ、テメェは!?」(坊主頭)



「私の名は、デッシマン!」
バットマンの様な風体をした男が言う。

デッシマンとは、中出氏(ヨシノブ)の兄、ヨシムネである。
顔が瓜二つだが双子ではない兄のヨシムネは、莫大な資産をつぎ込んで、正義のヒーローとして活躍していた。

「だからデッシマンて、何なんだよぉ!?」(坊主頭)

「私の事を知らない…?、では仕方ありません。爺や!、ミュージックスタート!」

デッシマンが、隣にいたヨボヨボの老人にそう言うと、その老人は手にした古いラジカセのスタートボタンを笑いながら押した!

「ふぇっふぇっふぇっ…」(爺や)

ポチ…

するとラジカセから、軽快なリズムの音楽が流れ出した。
キレの良いガットギターと、哀愁を漂わせるトランペットが奏でるメロディーが…。
今日もどこかで


誰も知らない 知られちゃいけない~♪

「なんか、どっかで聴いた事ある歌だな?」
華山薫が坊主頭に言う。



デッシマンが誰れなのかぁ~♪

「パクリじゃねぇかぁッ!」(坊主頭)



何も言えない~♪ 話しちゃいけない~♪ デッシマンが誰なのかぁ~♪

「俺さぁ…、子供の頃、再放送でデビルマン観てたよ」(華山)

「俺も観てました」(坊主男)



人の世に愛がある~♪ 人の世に夢がある~♪ この美しいものを~守りたいだけぇ~♪



「この歌って、エンディングなんだけど、なぜか再放送が夕方の時はやらねぇんだよな?」(華山)

「そうそう♪、夏休み中の昼間の放送の時には、流れてたんですよね~?」(坊主頭)



今日もどこかでデッシマン~♪ 今日もどこかでデッシマァンン…~♪

ラジカセから曲が終わると、デッシマンがチンピラたちに言う。

「分かりましたか?、デッシマンが…?」(デッシマン)

「全然、わかんねぇよぉッ!」(坊主頭)



「私は、東京23区以外の東京都下の平和を守る、スーパーヒーローなのです!」(デッシマン)

「東京23区以外の東京ぉぉ~?」(坊主頭)

「はい…」(デッシマン)

「だったら管轄外じゃねぇかぁッ!」(坊主頭)

「え!?」(デッシマン)

「バ~カ…、お前ここを町田市か、八王子市だと思ってんだろぉ!?」
「残念だが、ここはギリギリ神奈川県の相模原市なんだよぉぉ!」(坊主頭)

「そうなんですか!?」(デッシマン)

「そうだバ~カ!、とっとと帰れッ!」(坊主頭)

「失礼しました」
そう言って、その場から立ち去るデッシマン。

「ああッ!、ちょっと中出氏兄ィィ…ッ!」(ハリー)

「お兄様ぁぁ~~~~ッ!」(中出氏)

2人が呼び止めるも、デッシマンは爺やと共に帰ってしまう。

「さぁ、変な邪魔者も居なくなった!、おい!、そのオンナをこっちによこせ!」
坊主頭がハリーたちに詰め寄る!

「そうは、させません!」
中出氏がそう言って、ガトリングガンを構える!

「すっこんでろッ!」
だが華山が、すかさず中出氏を突き飛ばした!

ドボンッ!

中出氏が用水路に落ちた!

「わあああああ……ッ!」
流れの早い水路に、中出氏が流されて行く。



「中出氏ィィッ!」
ハリーが中出氏に叫ぶ!

「さあ、後はオメーだけだ…」
坊主頭はそう言うと、ハリーとマチコへにじり寄る。

「うぬぅ…ッ」
詰め寄られるハリーが、マチコをかばいながら後ろへと下がる。

「へっへっへっ…」
坊主頭と大男が笑みを浮かべる。

その時、後ろから奇妙なリズム音が響いた!



ダダン、ダンダダン…♪、ダダン、ダンダダン…♪

「ハリーさん!、あれッ!」
後ろのマチコが、ハリーに言う!
彼女の指した方に、ハリーが振り返る!



ダダン、ダンダダン…♪、ダダン、ダンダダン…♪

「あッ!」
ハリーがそう叫んだ先には、ガトリングガンを構える中出氏の姿が!



中出氏は水車に掴まりながら、用水路から脱出したのだ!

ダダン、ダンダダン…♪、ダダン、ダンダダン…♪



「My life is Vale tudo…(私の人生、“バーリトゥード”ですから…)」
中出氏がニヤリと言う。

「なんで英語なのぉぉッ!?」
意味が分からないマチコが驚愕する!

「あぶねぇ、マチコさんッ!」
ハリーがそう言って、マチコに覆いかぶさり伏せた!

ドドゥッッ!

中出氏のガトリングガンが連射した!

バシュシュッッ…!

チンピラ共に命中!

「うぁッ!」(坊主頭)

「ぐぇッ!」(華山薫)

「やったぁッ♪」
ハリーが歓喜の叫び!

「うう…ッ」
チンピラ2人は、そう呻くと地面に沈み込んで失神した。



「大丈夫でしたかぁ~!?」
用水路から上がって来た中出氏が、ハリーたちの元まで来て言った。

「いやぁ…、助かりやしたぁ中出氏…」

ハリーが笑顔でそう言うと、後ろのマチコは「ねぇ!、なんでさっき英語だったのッ!?、ねぇ?、なんでぇ!?」と、蒼ざめた顔で問い続けるのであった。

「さて、こいつらはどうしやしょうか中出氏…?」
地面に伸びているチンピラをを指してハリーが言う。

「この人たちには、しばらく月にでも行っててもらいましょう」
中出氏が笑顔で言った。

「月…!?」(ハリー)

「ええ、月の裏側にはアブダクションした人間を収容してる施設がありますので、彼らには、しばらくそこに入っていただき、反省してもらいましょう(笑)」

中出氏はそう言うと、腕時計からアンテナを引っ張り出して、何か操作を始めた。
それからしばらくすると、空からアダムスキー型の円盤が舞い降りて来た。

シュウゥゥゥ……ッ

円盤がハリーたちの目の前に着陸した。



「こ…ッ、これはグレンダイザーに出て来た、TFOじゃねぇでやすかぁッ!?」
円盤を見たハリーが言う。



「今、宇宙科学研究所の宇門源蔵博士に連絡して、お借りしました(笑)」(中出氏)

「どおいう事なのぉぉ~ッ!?」
訳が分からないマチコが言う。

「では、みなさん、後はお任せください」
中出氏はそう言うと、チンピラをTFOに収容して空へ飛び立った。



ヒュゥゥゥゥ……ッ

中出氏のTFOを見上げながら、茫然とするハリーとマチコ。

「ハリーさん…、あ…、あの人は何者なんですかぁッ!?」
目を大きく開けたマチコが、ハリーに訊く。

「あの人はきっと神様なんでやすよ…」
ハリーが上空を見上げながら言う。

「神様…?」(マチコ)

「ええ…、神様は、愚かな人間たちの行動を何でもお見通しで、いつも呆れて笑ってやす…」

「神様は気まぐれで、時には悪いやつを懲らしめたり、困ってる人を助けたりするんでやす…」
「だから、あの人はきっと神様なんだと思いやす…」

ハリーがそう言うと、隣で空を見上げてるマチコは、大きく溜息をつくのであった。


 翌日
警護の任務が終了したハリーは、宅配業を再開していた。

ともしび学園の校門前に、8の字無限便の軽トラックが停車している。
そこには、荷台から荷物を取り出すハリーがいた。

「マチコ先生喜んでくれるでやすかねぇ…」
ハリーは含み笑いをしながら、送り主が匿名の伝票を作成していた。

ハリーが作成しているのは、3個のランドセルの伝票であった。

以前、マチコから聞いていた、今春小学校へ上がる、3人の子供たちのランドセルが買えないと言っていた事を思い出し、匿名で寄附をしようと思ったのだ。

匿名には、最近ニュースやワイドショーで話題となってる、“伊達直人”を名乗ろうとハリーは決めていた。

その名前を記入しようとした時だった。
ハリーの軽トラに気づいたマチコが近づいて来て、突然、ハリーの背後から声を掛けたのだ。



「あら?、ハリーさん?」(マチコ)

いきなり声を掛けられたハリーは驚いた!

「うわぁッ!、まま…、マチコ先生じゃないでやすかぁ!?、驚かせねぇでくだせぇ…」
ハリーが動揺する。

「今日は、どうしたんですか?」(マチコ)

「はは…ッ、配達でやすッ!」(ハリー)

「ご苦労様です(笑)」(マチコ)

「なんかランドセルが3つ、届いてる様でやすよ…」
匿名の送り主名を急いで記入しようとするハリーが、マチコに背中を向けながら言う。

「ええッ!、ランドセルがぁ!?」(驚くマチコ)

「へぇ…、寄付みたいでやす」(背を向けたままのハリー)

「どうして!?、どうしてうちの学園に…!?、なんでランドセルの事をッ!?」
そう言って動揺するマチコ。

「よ…、良かったでやすね」(ハリー)

「どなたから送られて来たんですかぁ!?」(マチコ)

「そりゃあ勿論…、巷で話題の…」
そう言って、慌てて伝票に名前を記入しようとするハリー。
ところが、ここでアクシデントが発生した!

「だ…、だ…、だ…」(ハリー)

「どうしたんですか?ハリーさん」(マチコ)



(うわぁちゃぁぁ~~~ッ!、いきなりマチコ先生が声かけるもんでやすから、名前、ど忘れしちゃったでやすよ~~~ッ!)
そう思うハリーのペンが止まる。

「誰から届いたんですか?」(マチコ)

「だ…、だ…、だ…」(ハリー)

(ええいッ!、こうなりゃこの名で行くでやすぅぅッ!)
ハリーはそう思うと、急いで送り主の名を書き込んだ。


 数日後
鎌倉市由比ヶ浜 

僕は自宅で朝食を取りながら、ハルカと一緒に朝のニュース番組を観ていた。

「今日も微笑ましいニュースが入っております」
「神奈川県の相模原市にある、児童養護施設ともしび学園に、今春小学校へ上がる3人の子供たちに、ランドセルの寄付が届けられたそうです」

TV画面から、若い女性アナが笑顔で言う。



「へぇ…」
画面を観てハルカが言う。

「今回もやはり伊達直人さんですか?」
男性アナが女性アナに訊く。

「いえ…違います…、今回は…」(女子アナが資料に目を通す)

「違うんだ…?」
TVを見つめて僕が言う。

「団鬼六です…」(女子アナ) ← なんでやねん!?


ガクッと崩れる僕。



「こーさん、団鬼六って誰?」
ハルカが僕に振り返り訊く。

※団鬼六とは、昭和を生きた男性ならば、誰でも耳にしたことがあるほど有名な官能小説家である。
宇能 鴻一郎、川上宗薫と並び、団鬼六は、昭和を代表する官能小説家の御三家に数えられた。

「え?、えぇぇ…、し、知らないなぁ…?」
僕はハルカに、シラを切る。

「知らないんだぁ?」
ハルカはそう言うと、再び画面に顔を戻すのであった。

エンディング



 4月になった。
僕はハルカと一緒に鎌倉へ買い物に出ていた。

線路の反対側へ出る為、僕らは踏切の方に向かうと、鎌倉駅手前の踏切内で横須賀線が停車していた。



「何だろ…?」
夕陽に染まる車両を見つめながら、ハルカが言う。

僕らは、しばらくその場で待っていたが、遮断機は一向に上がる気配がない。
そんな頃、駅ホームから聴こえて来たアナウンスに耳を傾けた僕は、それが人身事故のせいだと分かるのであった。

「こりゃダメだ…。トンネルくぐって行こう」
僕は時計台のある方から反対側へ出ようと、ハルカに言った。

「ちょっと待って、こーさん…」
ハルカが言う。

「何だ?」(僕)

「あれ…」
そう言って、踏切最前列に停車している車を指すハルカ。

そこには鉄道職員の男性と女性が、助手席に座っている男の子に話し掛けている光景が見えた。

車の中には運転手が居ない様だった。
子供を1人残して、親は一体どこに行ったんだ?と僕は思う。
僕とハルカは、駅員と男の子のやり取りに耳を傾ける。

「僕、ハルト君っていうんだぁ?」
女性駅員が優しく言うと、4歳くらいの男の子は笑顔で頷いた。

「お母さんは、どこに行ったのぉ?」
女性駅員がそう尋ねると、男の子は「あっち…」と、電車が停車している線路内の方向を指すのだった。



「え…!?」
女性駅員が一瞬言葉を失う。

しかし、子供に動揺してる自分を気づかれない様に、女性は精一杯の笑顔で男の子と話を続けるのだった。

僕とハルカはその時、人身事故で亡くなったのは、あの子の母親が電車に飛び込んだのだと確信した。

そして僕は、踏切前に停まった、男の子が乗っている車をぼんやりと眺めながら、あれこれと考えを張り巡らした。

京都ナンバーのファミリーカー…
母子家庭…?、生活の困窮…?

誰も頼れる人がいないから、死に場所を探しに、ここまで運転して来たのだろうか…?

それでもやっぱり、子供を道連れの心中は出来なかった…?
だけど、残されたあの子はどうなる…!?



あの、何も知らずに笑顔で母親の帰りを待っているあの子は、この先どうなってしまうんだ…?
あの子が母親の死を知ったら、どう受け止める事が出来るっていうんだ…!?

僕は、何ともやりきれない気持ちになった。
それは、隣に立つハルカも同じ気持ちなんだと思う。



それは、夕陽に照らされるハルカが、ただ黙って男の子と駅員のやり取りを、いつまでも見つめていたからだ。

To be continued…

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