特命係長 NDS (夏詩の旅人3 Lastシーズン) | Tanaka-KOZOのブログ

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 2014年 2月
僕は逗子の駅前で、クマガイと居酒屋で呑んでいた。

クマガイは、顔がプロレスラーのサンボ浅子に似ている事から周りからは、“サンボ”と呼ばれている。(笑)

彼は、葉山のマリーナでクルーザーのスキッパー(操船士)をしていた。



「なんだよサンボ…?、相談ってのはよ…」
目の前のサンボに、僕は酒を注ぎながら訊いた。

「実はさ…。俺、アーリーリタイアしようと考えてんだ…」
猪口で僕からの酒を受けながら、サンボがそう言う。

「アーリーリタイア?、なんだそれ?」
サンボの猪口から、徳利を離した僕が言う。

「これさ…」

サンボはそう言うと、自分のショルダーバッグから一冊の新書本を取り出して僕に見せる。

「“サラリーマンは働くな! 寝ながら稼ぐ不労所得入門”…。なんだこりゃあ?」
手に取った本の題名を読み上げながら、僕がサンボにそう言う。

「この本の作者はな…、バカバカしいサラリーマン生活をとっとと辞めて、今はマンションオーナーとして、好きな様に人生を謳歌してるんだよ」(サンボ)

「ふ~ん…」
手にした本を見つめながら僕が言った。

「だから俺も、それを実践しようと思ってるんだ」(クマガイ)

「あほかお前!、そんな人生送れたら、誰だってやるだろが…。第一、マンションを購入する元手はどうすんだよ!?」(僕)

「最初はワンルームマンションの一室から始める…。この作者も、最初はマンションの一室を買って、それを他人(ひと)に貸しながら稼いで金を溜めたんだ」(サンボ)

「それで金が溜められるってか!?」
手にした本を指しながら、僕が言う。

「うん」
頷くサンボ。

「やめとけ…、不動産投資はリスクが大きんだぞ。この作者は、たまたま運が良くって、良い物件を手に出来たんだろぉ~?」(僕)

「そうなのかな…?」(サンボ)

「あのな…、ワンルームを他人(ひと)に貸して金を溜めるって事は、それはサイドビジネスだろ?」
「本業で金を溜めなきゃ、一部屋の家賃で金儲けなんかできるかよ」(僕)

「でも、その作者はそれで成功したんだぜ」(サンボ)



「それは住人が退去しても、すぐ部屋が埋まる、都内の一等地のマンションなんだろ?」

「お前、そんな一室を買えるのか?、お前が買えるくらいなら、お前から賃貸契約せずに自分で買うんじゃねぇの?」(僕)

「なら東京都下でも良いよ」(サンボ)

「かぁ~~!、お前、分かってねぇなぁ…。いいか?、郊外でワンルーム借りるやつなんか、若者だぞ!、2年くらいで出て行っちゃうんだぞ」

「その度に部屋をリフォームしなきゃ、次は誰も入居しないんだぞ。壁紙張り換えて、畳交換して、ハウスクリーニングして、小修繕すんだぞ」(僕)

「じゃあ年寄り専用で貸すよ。年寄りなら長く住んでくれるだろ?」(サンボ)

「あのさ…、年寄りに部屋貸して、その部屋で孤独死でもされたら、その部屋はもう事故物件として家賃が大幅に下がるんだぞ」

「孤独死だったら、遺品整理の金も大家持ちになっちゃうんだぞ」(僕)

「死んでも黙ってりゃ良いじゃん(笑)」(サンボ)

「仲介業者には、入居者に対して告知義務ってのがあるんだよ。だから隠すなんてのは無理だ」(僕)

「そうかぁ~…」(サンボ)

「サンボ、郊外のワンルームなんてのはな、たとえ新築でも入居者が出て行く度に、家賃はどんどん下がっていくんだぞ」(僕)

「下げなきゃ良いじゃん…」(サンボ)

「新しいマンションが、毎月バンバン建ってるのに、中古で高い家賃だったら、その部屋には人は入らねぇよ」(僕)

「ふぅ~ん…」(サンボ)

「お前は最初、サイドビジネスとしてやるんだろ?、だったらワンルームの管理はどうすんだよ?」(僕)

「不動産屋に頼むつもりだ」(サンボ)

「お前に良い事を教えてやるよ。例えばクロス(壁紙)の張替えなんてのは、ホントは1平米900円くらいでも頼めるんだよ、自分で業者に頼めばな」

「だが不動産屋に管理を頼むと、儲けを出す為に、平米900円のクロスが、大家から2500円、入居者から3500円と、ダブルで請求してくんだぞ」

「ハウスクリーニングにしても、リフォーム工事にしても、そうやって両方から金を取って不動産屋は儲けてるんだよ」(僕)



「じゃあ自分でやるよ」(サンボ)

「ワンルーム一部屋のオーナーなら、それは無理だ」

「マンション自体が自分の所有物なら可能だが、サンボは不動産が管理してるマンションの、一室を購入するだけだから、不動産屋に毎月管理料と修繕積立金を払わなきゃならねぇんだよ。大体、相場で合わせて3万くらい掛かる」(僕)

「そうなのか!?」(サンボ)

「そうだよ!、それにお前のワンルームが空き部屋になってる間は、お前がそれを払うんだぞ。お前の物件なんだから」(僕)

「そりゃまずい…ッ」(サンボ)

「それから火災保険や地震保険も掛る!、火災保険は天災では金が降りないから、天災で金が降りる地震保険にも入らなきゃならない」

「でも地震保険は全壊しても、最大で500万くらいしか金が降りない、おまけに地震保険は掛け捨てだ」

「そして火災保険料は経費として確定申告の控除外で、地震保険だけは通常は控除対象になるんだが、他人に貸してる物件は控除の対象外になるんだ」

「住人の誰かに火事なんか起こされてみろ、全部パーだぞ」

「それから、飛行機が墜落して来たら保険適用の対象になるが、それが戦争によってだったら対象外になる」

「火災保険も地震保険も、戦争で起きた損害には一切支払われないんだ」(僕)

「そりゃマズイな…」(サンボ)

「だから戦争が起こらない様に、政治家も真剣に仕事して貰わねぇと困るって事よ!」(僕)

「こーさん…、俺やめとくわ…」(サンボ)

「それが正解だ…。世の中、そんな甘いもんじゃねぇって事よ…」(僕)

「やっぱ、こーさんに相談して良かったわ…」
サンボはそう言うと、猪口に注がれた熱燗を、くいっと飲み干した。

やれやれ…、ホントこいつは、すぐウマい話に騙されちゃうんだから…。

僕はそう思いながら、自分の猪口に熱燗を注ぐのだった。







 東京都青梅市 中出氏邸
青梅市にある、この中出氏邸の敷地面積は、実に東京ドーム5つ分はある広さであった。

ハリーはこの日、中出氏邸内に建つ武道場「ドージョー・チャクレキ」に居た。



「で?、何でやすか?中出氏…、重要な知らせってぇのは…?」
柔道着に着替えているハリーが、中出氏にそう言った。

「ハリーさん…、実は我が、ナカデグループ・ホールディングス傘下の“シャーウッド・ホームズ社”で、最近、不穏な動きがあるという情報を入手しました」
ハリーの前に立っている中出氏が、静かに言う。

「“シャーウッド・ホームズ社”~?、なんでやすか?、その会社は?」(ハリー)

「はい…。“シャーウッド・ホームズ社”は、不動産コンサルティング会社で、今、自社商品サービス“どんまい”で、売り上げを大きく伸ばしています」(中出氏)

「業績好調なら、結構な事じゃねぇでやすか」
「ところで、何でやすか?、その“どんまい”ってぇのは…?」(ハリー)

「“どんまい”とは、今流行りの、高齢者をターゲットにした、自宅に住み続けながら、土地や家を売却した金を先に貰う事の出来る商品の事です」(中出氏)

「へぇ…、土地や家を売っても立ち退かないで、金だけ先に貰えるんでやすかぁ…」(ハリー)

「そうです。老後の年金暮らしに不安のある方や、実家の後を継ぐ子供がいない方へ、ドンピシャのサービスとして、今、売れに売れまくっている商品です」(中出氏)



「そんなサービスを売って、不動産屋の方には、一体どんなメリットがあるんでやすか?」(ハリー)

「土地開発を進めたくても、なかなか立ち退かない住民へ、先に老後資金を握らせる事で、その土地を先に押さえておく事が出来るから、将来的な開発計画を立てやすいというメリットです」

「それと、住み続けさせる事で毎月家賃を回収しますから、結果的には先に渡した金も、不動産屋側へどんどんキックバックされて安上がりとなるのです」

「住民が長生きすればするほど、先に渡した金は回収できますし、すぐに亡くなれば、土地の所有者である不動産屋側が自由に出来る」

「2年毎の契約更新で、住民は自宅を買い戻す事も出来ますが、その時には土地が値上がりしたと、不動産屋に云われたらどうでしょう?」

「先に貰った譲渡金よりも高くなっていたら、残金が減っている住民は買い戻せません。また高齢者な為、新たに高額所得を手にするのも不可能でしょう」

「そして、もしその家が震災に見舞われたらどうですか?」
「日本の建築法で定める耐震構造は震度5までとなっています。つまり、震度5を耐えられる建物であれば問題ないのです」



「しかし日本では、ほぼ毎年の様に震度5クラスの地震は各地で起きています。それでも建物が崩れないのは、たまたま日本の建築技術がそれ以上だからに過ぎません」
「飽くまで、法律上では震度5までの耐震構造であれば良いとされているのです」

「バブル崩壊以降、日本の住居は、ほぼ木造モルタル造りが主流となっています。それは木造の方が、建てるのに安上がりだからです」
「今やバブル崩壊前の鉄筋コンクリ造りと同額で、木造家屋が売られています」

「そして、木造造りの耐用年数は22年と定められています。それはどういう意味かというと、20年以上経った木造建築には不動産価値はゼロに等しいという事です」
「売却したくても、お金になるのは土地を売ったお金だけとなるのです」

「では、老後が不安な高齢者が住んでいる家はどうでしょう?」
「ほとんどが22年の耐用年数を過ぎた木造建築で、震災に弱いはずです。耐用年数を過ぎた建物は、震度5の揺れにいつまで耐えられるでしょう?」

「結果、震災で家を失った高齢者が“どんまい”で住んでいた場合どうなりますか?」
「不動産会社は、住んでいた住民の家を建て直しなんかしてくれません。だって土地の所有権は自分たちにあるのですから…」



「つまり家が倒壊した瞬間、アパートの賃貸契約と同じ、出て行く事になるのです」
「高齢者は住み慣れた土地を離れ、家賃の安い、駅から遠い物件を探します。しかし高齢者なので運転免許は既に返納しています」

「それより先に、高齢者へ部屋を貸してくれるアパートを見つけるのは困難です。せいぜい事故物件が関の山でしょう」
「この様にウマい話には、大きなリスクも潜んでいるという事です」

中出氏は、“どんまい”の仕組みをハリーに、淡々と説明した。

「へぇ…、そういうもんなんですやすかぁ?」
「ところで、“シャーウッド・ホームズ社”の不穏な動きってのは一体…?」(ハリー)

「半年前の事です。“シャーウッド・ホームズ社”の幹部たちが、南京電力と業務提携をする為、中国へ渡りました」(中出氏)

「南京電力って、日本にも支社がある、あの会社の事でやすか?」(ハリー)

「そうです。日本の広大な土地を買い占めた中国人が、その場所で支社を立ち上げたのは、更に1年前になります」

「日本の法律では、ほぼ制限なく外国人が自由に土地を売買できますので、それに目を付けた中国共産党がカネに物を言わせて広大な土地を購入したのです」(中出氏)

「外国人でも、日本の土地って買えるんでやすかぁ!?」(ハリー)



「はい…、まぁそんな国は世界中探しても日本だけですけどね」

「日本国籍の有無やビザの種類、永住権を取得しているかどうかも関係なく、土地や建物の所有権が認められています」

「所有権についても期限が定められていないので、購入した不動産は自由に取引が行えるのです」

「彼らの戦い方は、“戦わずして勝つ”という、孫子の兵法が基本です」
「中国はそうやって、我々の知らぬ間に日本をどんどん侵略しているのです」

「やがて彼らは、そういった土地を開発し、増々拡大して行く事でしょう」
「そして最後は、その土地を自国の領土だと主張し出し、自治区を立ち上げるのが目的です」

「でも、そんな事には、日本政府はまったく無関心です」

「だからそれを良い事に、日本の南京電力支社も、実際は中で何を行っているのか、まったく分からない状況なのです」(中出氏)

「なんで日本政府は、野放しにしてるんでやすか?」(ハリー)

「さぁ…?、担当した役人がハニートラップにでも引っ掛かったんじゃないんですか?」(中出氏)

「ハニートラップ?」(ハリー)

「中国の伝統的な外交手法です」
「彼らは、日本の政治家や役人、はたまた企業人が中国を訪れた際、盛大な接待をして油断させます」

「そしてその夜、パーティーに参加した日本人が泊まるホテルの部屋の前に女を差し向けます」

「どこで、その日本人の好みを調べたのか分かりませんが、中国共産党から差し向けられた女は、その日本人からしたらドンピシャのタイプを向かわせるそうです」

「そこで、つい部屋へ招き入れちゃった日本人が、その女とチョメチョメをするワケです」(中出氏)



「何ィィ…ッ!?」(ハリー)

「そして、その後、部屋の中の隠しカメラ映像に収められてしまい、脅迫されて、中国の言いなりになってしまうというケースです」

「中国に行った政治家や役人、企業人が接待を受けた時は、ほぼ全員これに引っ掛かかっている様です」

「“シャーウッド・ホームズ社”の幹部たちも、中国へ出張へ行った時、恐らくコレに引っ掛かったのでしょう…」

「だから、その翌月には、南京電力から出向という名目で1人の男を迎え入れています」(中出氏)

「誰でやすか?、その男ってぇのは!?」(ハリー)



「梓睿(ズールイ)という男です。やつは現在、“どんまい”担当部署の営業部長をしています」(中出氏)

「許さんッ…、断じて許さんぞッ!」(ハリー)

「南京電力が、シャーウッド・ホームズ社と組んで、土地を買い占めようと企んでいるのは明らかです」

「バブル期でしたら、日本の土地は最大で、坪単価約3700万円でしたから、どこの国も買う事が出来ませんでしたけど、今は値が下がってますからね」

「そして中国も発展途上国から、今やGDP世界2位の経済大国になりました」
「このまま放っておくと、日本の土地はどんどん中国に買占められてしまう危険があるのです」(中出氏)

「ぬぉぉぉーーッ!、許さんッッ!!」
目に涙のハリーが、怒りで身体をブルブルと震わせる!

「ハリーさん、どうしたのです?、今日は珍しく、正義感に溢れてるじゃないですか?」(中出氏)



「自分たちばっかり、ハニートラップして貰って…!、羨まし過ぎて、許さんッッ!」(ハリー)

「やっぱ、そっちでしたか…」
怒りの矛先がハニトラだったのに、納得する中出氏であった。


 それからしばらくして、柔道着に着替えた中出氏が言った。



「ハリーさん、そういう事で私は、父のヨシマサから特命係として、シャーウッド・ホームズ社へ潜入捜査をする事を命ぜられました」

「あの会社が南京電力と組んで企む悪事を暴くのです!」(中出氏)

「潜入捜査でやすか!?」(ハリー)

「はい…、私は営業事務の係長として潜入し、ハリーさんはシャーウッド・ホームズ社の守衛警備員として潜入します」(中出氏)



「分かりやしたぁ!、警備の仕事なら任せてくだせぇ、なんせあっしは、元ガードマンでやしたから」
「早速、明日にでもシャーウッドへ潜入しやしょう!」(ハリー)

「ですがハリーさん、潜入捜査は危険が伴います。南京電力から出向しているズールイは、中国の裏社会出身の男です」
「恐らく不法な銃器などを日本に持ち込んでいると思われます」(中出氏)

「そこでハリーさんには、今から私が、ある必殺技を2つ伝授します!」
「その技をアナタがマスターする事が出来次第、シャーウッドへ潜入します」(中出氏)

「わッ…、分りやしたッ!、で…、その必殺技とは!?」(ハリー)

「今からお見せします…。この技は大変危険な技なので、練習用ダミーを使って、技をアナタにお見せします!」

中出氏はそう言うと、奥の倉庫から一体の人形を運んできた。
その人形は間抜けな表情で、口をポカンと開けた顔をしていた。

「何でやすか?、これは?」(ハリー)



「難極二段です!、これは私が柔道の大技を何度掛けても壊れない、練習用ダミーです!」(中出氏)

「へぇ…」と、困惑するハリー。

「それでは行きますッ!」
中出氏はそう言うと、難極二段の胴着を正面から掴み、そのまま巴投げの体制に入った!

「おおッ!」

ハリーがそうどよめいたのは、中出氏が巴投げをする体制のまま、空中に飛び上がったからだ!

中出氏は巴投げの構えのまま、難極二段を掴んで離さず空中で一回転!
そして降下しながら巴投げで、もう一回転!

ガツーーンンッ!

難極二段の脳天が、道場の畳に打ち付けられた!

「おおッ!」
その技の恐ろしさにハリーが声を上げた!

そして、まだ手を離さず掴んだ状態の中出氏が、最後に巴投げで難極二段を放り投げた!

ドサッ!

難極二段が、畳の上で大の字に倒れた!

「どうです?、恐ろしい技でしょう?、相手の脳天を畳みに打ち付けて失神させているので、受け身は不可能な巴投げです」

技を終えた中出氏が、息を整えながらハリーに説明をする。



「こッ…、この技は、貝塚ひろしセンセェの描く、名作柔道マンガ“柔道賛歌”の主人公、巴突進太が放つ必殺技ッ!」



「“巴黒潮くずし”じゃねぇでやすかぁぁ~~~ッ!」(ハリー)

「違います…」(ポツリと中出氏)

「へ!?」(ハリー)

「これはハリーさんの技です!、頭に“巴”は付けませんッ!」(中出氏)

「つまり…、ハリー黒潮…?」
ハリーが確認しようとした時、中出氏が言った。

「名付けてッ!…、ハリー松葉くずしッ!」(中出氏)



バーーーーンンッ! ←効果音(笑)

「あの?、なんで松葉くずしなんでやすか?」(ハリー)

「なんとなく決めました」(中出氏)

「そうでやすか…」(ハリー)

「では、続けて次の技をお見せします!」
中出氏はそう言うと、畳の上で寝ている難極二段を掴んで起こす。

「これが次の技ですッ!」

中出氏がそう叫ぶと、上に放り投げられた難極二段が、凄まじい勢いで空中に舞い上がった!

「おおッ!」と、驚くハリー。
高々と舞い上がった難極二段が、今度は畳目がけて落下して来る!

ズガーーーーンンッ!

頭から落ちた難極二段が、そのままバタンと畳に倒れた。



「こッ…、この技も柔道賛歌に出て来る殺人技ッ!」

「講道館の鬼と呼ばれ、マンガ主人公、突進太の最大のライバル、利鎌竜平(とがまりゅうへい)が放つ、“天地がえし”ッ!?」(ハリー)

「違います…」(ポツリと中出氏)

「へ!?…、違う?」(ハリー)

「名付けてッ!…、ハリー仏壇がえしッ!」(中出氏)



バーーーーンンッ! ←効果音(笑)

「あの?、なんで仏壇がえしなんでやすか?」(ハリー)

「なんとなくです…」(中出氏)

「はぁ…、そうでやすか…」(ハリー)

「では、ハリーさんがこの2つの技をマスター出来た時、私たちはシャーウッド・ホームズ社へ潜入しますッ!」

「さぁ、ハリーさん!、早速始めて下さいッ!」(中出氏)

「へッ…、へい!、分りやしたぁッ!」

ハリーはそう返事をすると、難極二段を掴み上げ、自身も殺人技を始めるのであった!

「チョリソォォォーーーーッ!」
ハリーが、松葉くずしを放つ!、しかし上手く行かない!

「ハリーさんッ!、掛け声ですッ!、技を放つ時は掛け声が大事なのですッ!」(中出氏)

「分かりやしたぁ~!」
ハリーはそう言うと、再び難極二段に技を仕掛けた!

「ハリ~~~~ッ、松葉くずしぃぃぃ~~~~ッ!」

ズガーーーーンンッ!

今度はハリーが見事に技を決めた!

「お次は…、ハリ~~~~~ッ、仏壇がえしぃぃぃ~~~~ッ!」
そして続けざま、もう1つの技を放つ!

高々と舞い上がった難極二段が、畳目がけて落下して来る!

ズガーーーーンンッ!

今度も技が見事に決まった!
頭から落ちた難極二段は、そのままバタンと畳に倒れるのだった。

「ハァハァ…、なんとか上手く行きやした中出氏ィィ…」
額に汗をかくハリーが言う。

「まだまだですッ!、さぁハリーさんッ!、この2つの技を連続で、打ち込みを始めて下さいッ!」(中出氏)

「分かりやしたぁぁ…」
ハリーはそう言うと、2つの技を続けて打ち込み始める。

「松葉くずしッ!、松葉くずしッ!、松葉くずしッ!、松葉くずしッ!…」(ハリー)

「仏壇がえしッ!、仏壇がえしッ!、仏壇がえしッ!、仏壇がえしッ!…」(ハリー)

「そうです!、その調子です!」(中出氏)

「松葉くずしッ!、松葉くずしッ!、松葉くずしッ!、松葉くずしッ!…」(ハリー)

「仏壇がえしッ!、仏壇がえしッ!、仏壇がえしッ!、仏壇がえしッ!…」(ハリー)



「ふぇ、ふぇ、ふぇ…、一体、何の騒ぎでございますか?、坊ちゃま…」
その時、中出氏の執事である爺やが道場に現れた。

「松葉くずしッ!、松葉くずしッ!、松葉くずしッ!、松葉くずしッ!…」(ハリー)

「仏壇がえしッ!、仏壇がえしッ!、仏壇がえしッ!、仏壇がえしッ!…」(ハリー)

「あの男は何故、あのようなヒワイな言葉を連呼しているのでございますか?」
投げ技を続けているハリーを見ながら、執事の爺やが中出氏に尋ねる。

「さあ…?」
中出氏はそう言うと、ハリーを見つめながらクスクスと含み笑いをするのであった。




数日後
中出氏とハリーは、シャーウッド・ホームズ社への潜入捜査を開始した。

2人が会社に潜入してから、3週間が経った日の事である。
この日はシャーウッド・ホームズ社の全体会議が、大会議室で行われるのであった。

「ハリーさん、今日がチャンスです。必ず奴らの尻尾を捕まえますので、準備を怠らない様、お願いします」

中出氏がエントランスに立つ警備員のハリーへ、小声で素早く耳打ちすると、ハリーは無言で頷くのであった。

すると2人の後ろから、女性社員が明るい声で話し掛ける。

「守衛さん、おはようございます♪」
そう言ったのは、入社2年目の槇原七海であった。



七海は、“どんまい”の営業部員であった。
彼女は入社2年目ながら、“どんまい”の売り上げがダントツのトップセールスであった。

「七海ちゃん、おはようごぜぇやす」
ハリーが七海に笑顔で返す。

「係長、おはようございます♪」
七海は続けて、営業事務の係長である中出氏にも朝の挨拶をする。

「おはようございます」
中出氏は七海にそう言うと、続けて話し出す。



「七海さん、私を呼ぶときは“係長”ではなく、“中出氏”でお願いします」(中出氏)

「あ~、そうでしたね(笑)、おはようございます。中出氏♪」
七海がそうやって言い直すと、中出氏は満足そうに笑みを浮かべた。

「じゃあ、ハリーさん。後ほど…」
中出氏は小声で素早く言うと、営業部がある30F目指し、エレベーターホールへと歩き出す。

そして去り際に、ハリーへ軽く会釈した七海も、中出氏の後についてエレベーターホールへ向かった。

チン!

エレベーターが到着した。
それに乗り込む2人。

エレベーターには、まだ早朝だったせいか、中出氏と七海の2人だけが乗り込んだ。
やがてエレベーターが動き出すと、中出氏が七海に話し掛ける。

「七海さん…、スゴイですね(笑)、今月も“どんまい”の売り上げがトップで終わるんじゃないですか?」(中出氏)

「そんな事ないです…。でも、今月もそのつもりで頑張りたいと思ってます」
七海が謙遜しながら言った。

「ところで、先月の新潟県の震災…、大変でしたよね?」(中出氏)

「ああ…?、あのときの地震は大変な被害状況でしたね…。まだ、復興に時間が掛ってるみたいです」(七海)

「あのとき壊滅した地区には、“どんまい”に加入してた人が、ほとんでだった様です」(中出氏)

「ほんとお気の毒です」(七海)

「あの地区は復興が困難という事で、シャーウッドから南京電力が、その土地を買い取ったらしいですよ」(中出氏)

「聞いてます。家を失った方たちが住む場所を無くし、他県へ越していかれたそうですね」(七海)

「それと3ヶ月前に起きた九州の災害…、あそこも、“どんまい”の加入者が多い地区だけが壊滅して、シャーウッドから南京電力が土地を買い取ったそうです」(中出氏)

「最近、地震が多くて怖いですよね?」(七海)

「でも地震が起きているのは、いつもピンポイント…。“どんまい”の加入者が多い地区だけです」(中出氏)

「え?」(七海)

「おかしいですよね?」(中出氏)

「そう言えばそうですね…」(七海)

チン!

エレベーターが30Fに到着した。
2人がエレベーターから降りる。
そして中出氏と七海は、営業部の方へと歩き出す。

「南京電力が買った土地は、他の中国企業に転売された様ですよ」
歩きながら隣の七海に言う中出氏。

「転売?」(七海)

「日本は法律が緩いので、日本国籍を持たない外国人にも土地を売って良いのです」
「また、その土地を、購入者がどう使おうが自由に出来るのです」(中出氏)

「自由に…?」(七海)

「そうです。だからこのままピンポイントの震災が続けば、日本の土地は、中国にどんどん買い占められてしまうという事です」(中出氏)



「考え過ぎじゃないですか中出氏…。だって自然災害は、どうする事も出来ないじゃないですか」(七海)

「そうでしょうか?、では1976年に国連で、“環境改変技術の軍事的使用その他の敵対的使用の禁止に関する条約”が成立したのはどうしてですか?」

「それは、実際にそういう開発が世界中で行われているからです。それを禁止しなければ、地球で甚大な異常気象が起こり、餓死者を多数発生させてしまうからです」(中出氏)

「そんな環境を改変させるなんて事、可能なんですかぁ!?」(七海)

「出来ます…。現にメキシコやUAE(アラブ首長国連邦)では、空にレーザー光線を照射して、人工的に雨を降らせる事に成功していますし、中国では人工少雨弾を発射させて、式典が行われる日が天気になる様に、天候をコントロールしていますよ」(中出氏)

「そんな技術が現実にあるんですか!?」(七海)

「驚いたでしょう?(笑)、そして次にピンポイント地震が起きるのは、あなたが取って来たお客様の地域かも知れませんよ…」(中出氏)

「え!?」(七海)

「あなたが良かれと思ってやった善意の“どんまい”が、次のターゲットになれば、その老人たちの残された人生は希望を失い、路頭に迷う事になるでしょう」(中出氏)

「ちょっと中出氏!、変な事いわないで下さいッ!」(ムッとする七海)

「あなたの担当地域は東京です!、そして今、中国が1番欲しい土地は、日本の首都、東京です!」(中出氏)

「そんな縁起でもない事…ッ」(七海)

「確かめたいのです…。七海さん、私に協力してくれませんか?」(中出氏)

「協力…!?」
何をすれば?と、いう感じで七海が聞く。



「あなたにコレを預けます」
そう言って、小さなチップ状の物を七海に見せる中出氏。

「これは…?」(七海)

「これは、超小型盗聴マイクです。」
「まもなく9時になると幹部連中が、大会議室で今期の決算会議を始めます」

「そこでは来期に向けての、戦略方針も語られるはずです」
中出氏の言葉を黙って聞く七海。

「あなたには、幹部連中にお茶を出しに行ってもらいます」
「その時に、この盗聴マイクを近くのテーブルか、どこかに、こっそり貼り付けて頂きたいのです」

「このマイクの裏ラベルを剥がせば、強力な粘着シールで、何にでも貼り付けられます」(中出氏)

「出来ません!、そんなスパイみたいな事!」(七海)

「しッ!」
中出氏がそう言って、人差し指を自分の口元に持って行くと、七海は慌てて口を閉じた。

「七海さん、私はある程度の情報はもう抑えているのです。後は確たる証拠が欲しいだけです」
「シャーウッドと南京電力は間違いなく、何かを使って、意図的に地震を発生させているのです」

「このまま放っておけば、やがてアナタの大事なお客様も、いつかは被害を被ります」
「これは国家の安全を揺るがす一大事なのです」(中出氏)

「で…、でも…ッ」(七海)

「もし盗聴して何も出て来なければ、それはそれで、あなたも安心出来て良いじゃないですか?」
「あなたにしか頼めません。どうか協力して下さい。お願いします…」(中出氏)

「分かりました…。私もこのまま不信感を抱いたままでは、“どんまい”を売る気持ちになれません」
「これで何も無い事を証明して、自分がスッキリする為にも協力しましょう」

七海はそう言って、中出氏に協力する事を承諾した。


 AM9:00
シャーウッド・ホームズ社 大会議室

「失礼します」

トレイを片手にした七海は、そう言って会議場へ入る。
彼女は幹部たちへ、次々にコーヒーを配り始めた。


「どうでした?、上手く行きましたか?」
大会議室から出て来た七海を、ロビーで待ち構えていた中出氏が聞く。

「大丈夫です。最後部のテーブルの裏に貼り付けて来ました」(七海)

「そうですか…、では早速聴いてみましょう」



中出氏はそう言うと、内ポケットから平たいラジオの様な物を取り出し、イヤホンを差し込んだ。
それを興味深そうに見つめる七海。

「あなたも一緒に聴きますか?」
中出氏がそう聞くと、七海は無言で頷いた。

2人はイヤホンのRとLを、それぞれの片耳にはめ込んだ。
そして互いが無言で、会議の話を緊張の面持ちで聴き続けるのであった。

それから、会議も中盤に差し掛かった頃、ついに中出氏が欲しかった情報を連中は語り始めた。


「そういう事で今期もハープアンテナを使って、目標の土地を買い占める事に成功できた」
「そして来期の目標は、いよいよ東京に取り掛かる!」

南京電力から出向している、営業部長の梓睿(ズールイ)が言う。



「夏頃までには、我が南京電力が、新型のハープアンテナを完成させる予定である」
「これが完成すれば、よりピンポイントな場所に設定した地震を起こす事が可能となる!」

梓睿(ズールイ)が声を高々に言うと、会議場からは拍手が沸き起こる。

「何!、ハープアンテナって…ッ!?」
イヤホンを手で押さえながら、中出氏に向いて尋ねる七海。

「ふふふ…、なるほど、そういう事ですか…」
中出氏が、イヤホンを押さえながら含み笑いをする。

「ねぇ中出氏!、何なのハープって!?」(七海)

「HAARP(ハープ)とは、アメリカで行われている、高周波活性オーロラ調査プログラムの事です。その調査で使われるアンテナアレイを、ハープアンテナと言います」

「アメリカのアラスカに設置された、HAARPのアンテナアレイは、高層大気と太陽地球系物理学、電波科学に関する共同研究プロジェクトが目的という事になっています」

「但しそれは表向きです」(中出氏)

「表向き?」(七海)

「ええ…、HAARPは、アメリカ空軍、アメリカ海軍、国防高等研究計画局 (DARPA)、アラスカ大学などの共同研究なのです」
「おかしいでしょう?、何でオーロラの調査に軍部が介入して来るのです?」



「実はHAARPの実態が、地震を人工的に起こさせる軍事兵器だという噂があるのです」

「近年、電離層の異常と大地震との関連性が指摘されています」
「それは、巨大地震が起きる時、大規模な地殻変動からの圧電効果によってパルスが発生し、そのパルスが電離層に影響を与えていると考えられています」

「つまりHAARPアンテナからの電磁波で、大気圏の「電離層」を加熱すれば、遠く離れた土地を揺らす事が可能となるのです」

「恐らく、中国共産党の工作員が、何らかの方法でアメリカのHAARP技術を盗み、それを自国の南京電力で開発する事に成功したのでしょう」(中出氏)

「そんな…ッ!、じゃあ私は今まで、あいつらの手先となって、“どんまい”の契約を取り続けて来たって事なの!?」(七海)

「結果的には、そういう事になります」
「七海さん、やつらの次のターゲットは東京だと言ってましたね?」(中出氏)

「私の担当エリアだわ…ッ」(七海)

「ご協力ありがとうございました。これで証拠が揃いました。後は私にお任せください」(中出氏)

「許せないッ!」
七海はそう言うと、いきなり大会議室の方へと走り出した!

「あ!、七海さん!」
中出氏がそう呼び止めるも、七海は会議場の中へと飛び込んで行った。


「どういう事ですかぁッ!」
会議室のドアを勢いよく開けた七海が、開口一番に言う。

「何事だね一体…?、槇原君…?」

営業課長がそう言うと、会議室にいる幹部たち全員が、後方の出入口に立つ七海を怪訝そうな顔つきで見つめた。

「私、全部聞いてしまったんです!、地震を人工的に起こして、お客様から土地を奪い取るって事!」
声を荒げて七海が言う。



「何の事かな…?」
営業部長の梓睿(ズールイ)がそう言うと、七海の後ろから声がした。

「とぼけても無駄です…」
そう言って、七海の後ろから中出氏が現れた。

「お前!?、新しく入った営業事務の係長ッ!?」
幹部連中の1人が、スタスタと歩み寄る中出氏に、たじろぎながら叫ぶ。

「これです…」

中出氏は会議室の最後部のテーブルに下に手を当てると、仕掛けておいた盗聴マイクを取り出して言う。

「何だそれは!?」(幹部A)

「これは高性能の盗聴マイクです。先程からアナタたちの悪巧みを全て外から聴かせて頂きました」(中出氏)

「何だとッ!?」(幹部B)

「HAARPを使ってピンポイントに地震を起こし、住民たちを土地から追い出して、それを中国企業がシャーウッドから購入する…」

「よくもまぁ、そんな悪事を思いついたもんですね…」
中出氏が不敵な笑みで連中に言った。

「梓睿(ズールイ)さん、どうします?」
幹部の1人が、耳打ちして言う。

「あいつらを拉致しろ…。俺があいつらの存在を消す」(ズールイ)

「消す?」(幹部C)

「俺に任せとけばよい…。あとは俺が上手くやっておく…、やつらの存在をこの世から元々居なかった事にしておく…」(ズールイ)

「わッ…、分りましたぁッ」(幹部C)

「おい!、みんなぁ、あいつらを捕まえろッ!」
シャーウッドの幹部が、中出氏と七海を指して言った。

その時であった。
どこからともなく、ギターの音色が響く…。

「んッ!?、何だ、この切ないメロディーはッ?」(幹部A)

「こッ…、この曲はもしかして…?、アコギ初心者の、実に90%が必ず最初に弾くと云われてるあの…ッ!」(幹部C)

「“禁じられた遊びのテーマ”…ッッ!?」(幹部一同)
禁じられた遊びのテーマ

「誰だッ!?、どこだッ!?、どこに居るッ!?」
連中が、辺りをキョロキョロ見渡しながら叫ぶ。

すると今度は、出入口側の七海の後ろから、ギターを弾きながら警備員に扮したハリーが現れた。

「あッ!、お前、新米の警備員ッ!?」
ハリーを指して、幹部の1人が言う。

「あんたたちの悪事…、許せないでやすなぁ…」
ギターを床に置いたハリーが静かに言う。



「何だお前!、ギター弾きながら登場したりして!、キカイダーのジローにでも、なったつもりかよッ!?」(幹部D)

「お前も、盗聴してたのかぁ!?」(幹部B)

「あっしは、盗聴の内容は知りやせん…。ただ…」
「あっしが許せないのは、ハニートラップで悪に手を染めた事でやす…ッ!」(ハリー)

「お前だって、もし、ドストライクの好みが目の前に差し出されたら、チョメチョメすんだろぉがぁッ!」(幹部C)



「ぬぅッ!」(ハリー)



「おい!、お前、インリン・オブ・ジョイトイが好きなんだろぉ!?」(幹部A)



「どうしてそれをッ!?…、さすがは中国の諜報力でやすね…」
ハリーが冷や汗をかいて言う。



「いや…、お前の履歴書の趣味の欄に、そう書いてあった…」
幹部がそう言うと、ハリーはガクッと崩れた。

「だったらお前も、こっちの仲間になれよ!」(幹部C)

「インリンみたいのなら、いくらでもチョメチョメさせてやるぜ!」(幹部D)



「何ィィッ!?」(喰いつくハリー)

「ちょっと守衛さんッ!」(怒る七海)

「ハリーさん!、この件が解決したら、豪遊しましょう♪」
「いくらでも、チョメチョメして構いませんよ♪」(中出氏)

「何ですとぉぉーッ!?」(ハリー)

「おい!、お前、どうすんだよ!?、こっちに付くのかよ!?」(幹部D)



「黙れ下郎ッ!、誰がキサマらの様な、ハニトラに心を売ったやつらの仲間なぞに、なるものかぁぁッ!」(ハリー)

「お前も結局、一緒じゃねぇか…」
敵の幹部がそう呆れて言うと、中出氏がハリーに話し掛ける。

「ハリーさん、私も一緒に戦いますよ」(中出氏)

「え!?、中出氏がですかい?」(ハリー)

「向こうの数は10人以上いますからね…。さ、七海さん、私たちの後ろに隠れて下さい」

中出氏がそう言うと、七海は無言で頷き、2人の後ろへと隠れた。

「どうする、おつもりで…?」
ハリーが中出氏に訊くと、中出氏がスーツの胸ポケットから何かを取り出した。

「なんでやすかそれ?…、懐中電灯でやすか?」
中出氏が手にしたモノを見たハリーが訊く。

「これは、我が中出グループと業務提携している、感電工に作ってもらった“電気UNAGI-500V”です」(中出氏)

「電気ウナギ…!?」(ハリー)

「護身用だったスタンガンを、より強力な兵器として開発したものです」

「スイッチを入れると、光の柱が放出されます。それに触れると500ボルトの電流に感電して、相手は失神するという仕組みです」(中出氏)

「へぇ…、すげぇ武器なんでやすねぇ…」(ハリー)

「光の柱は内蔵されたセンサーに反応し、相手の攻撃に合わせて引き寄せられる仕組みになっています」

「だから相手がパンチやキックを出せば、その方向に防御して同時に感電させるのです」

中出氏がそこまで説明すると、電気ウナギのスイッチを入れた。

バシュッ!



閃光が走る!

すると電灯から緑色の発光がサーベル状に伸びた!

その緑の発光体は、ブゥゥゥゥンン…と、静かに鳴り響く。



「まるで、ガンダムのビームサーベルでやすね…」(ハリー)

「では、行きますよッ!」
電気ウナギを構えた中出氏が、ハリーに言う。

「承知ッ!」
それに応えたハリーが前に出た。

「やっちまえッ!」
敵の梓睿(ズールイ)が、そう号令を掛けると、シャーウッドの幹部連中が、一斉に襲い掛かって行った!

「それ!」
中出氏が電気ウナギを振り上げ、敵に当てる!

ブゥゥゥゥンン…!

バシュッッ!



「ぎゃああああああ…ッ!」
感電した敵が叫ぶ!

「それ!、それ!、それ!」
中出氏が含み笑いで、連中に電気ウナギを次々と当てる!

ブゥゥゥゥンン…!、ブゥゥゥゥンン…!、ブゥゥゥゥンン…!

バシュッッ!、バシュッッ!、バシュッッ!

「わあああーーーッ!」「ぐぁぁああああーーーッ!!」「がぁあああああ~~~ッ!」
中出氏の攻撃で感電した敵が、バタバタと倒れて行く。

「あっしも負けちゃいられやせんッ!」
中出氏の攻撃を見て、ハリーも敵に掴み掛かった!



「ハリ~~~~~ッ……、仏壇がえしぃぃぃ~~~~~ッ!」
ハリーの新必殺技が炸裂した!

「わぁッ!」
ハリーの投げ技で、天井高く舞い上がる敵の1人!

ドシィィィ~~~ンンッ!

大きな音と共に床に叩きつけられた敵が失神した!

「お前ら何やってんだぁ!、相手はたった2人だぞ!」
「行け!、行け!、どんどん行けーーーッ!」

梓睿(ズールイ)が、ハッパを掛けると、連中が束になって襲って来た!

「仏壇がえしッ!、仏壇がえしッ!、仏壇がえしッ!…ッ」

ハリーが敵を、次々と天井高く放り投げる!

「それ!、それ!、それ!」
中出氏が連中に電気ウナギを次々と当てる!

バシュッッ!、バシュッッ!、バシュッッ!

「があああッ!」「おわあああッ!」「あぎゃああああッ!」

電気ウナギに感電し、失神する敵たち。

「仏壇がえしッ!、仏壇がえしッ!、仏壇がえしッ!…ッ」(ハリー)

「それ!、それ!、それ!」(中出氏)

「グエッ!」「「ひでふッ!」「あべしッ!」「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーッ!」

「梓睿(ズールイ)さん、このままじゃマズイですッ!」
幹部の1人が、梓睿(ズールイ)にすがる!

「俺に任せろ…」
梓睿(ズールイ)は、そう言うと懐から拳銃を取り出した!

「こんな場所で拳銃は…ッ!」
幹部が梓睿(ズールイ)を止めようと言う。

「大丈夫だ。全部後始末してやる…。お前らの国で出来ない事も、俺たちの国では出来るんだよ…」
そう言って、拳銃を中出氏に向ける梓睿(ズールイ)。



「死ねッ!」
梓睿(ズールイ)が発砲した!

ガーーーーンンッ!

ブゥゥンン…!

バシュッッ!

電気ウナギのセンサーが、弾丸に反応してブロックした!

「何ッ!?」梓睿(ズールイ)

「中出氏スゲェでやすッ♪」
それを見てハリーが驚く。

「くそッ!、くそッ!、くそッ!」
梓睿(ズールイ)が、続けて発砲する!

ガーンンッ!、ガーンンッ!、ガーンンッ!

ブンッ!、ブンッ!、ブンッ!

バシュッッ!、バシュッッ!、バシュッッ!

「バカなッ!、クワイ=ガン・ジンか、テメエは…ッ!」(※スターウォーズのジェダイの1人)
梓睿(ズールイ)が、目の前で電気ウナギを握る中出氏に言う。



「私の人生、バーリトゥード(何でもアリ)ですから…」
電気ウナギを構える中出氏が、含み笑いで言う。

「そうかい…、ならよ…、これならどうだッ!」
梓睿(ズールイ)は、そう言いながら、スーツケースから自動小銃を取り出した!

「ゲェッ!」(ハリー)



「喰らえッ!」梓睿(ズールイ)

ガガガガガガガガガ…ッッ!

「わああああああーーーーーーッ!」

驚く中出氏!
それは電気ウナギが、あまりにも早いスピードで振れたからだ!

ブブブブブブブブンン…ッッ!!!

ババババババシシシシシシ…ッッ!!!

マシンガンの弾を、物凄い速度で跳ね返す中出氏!

「くたばれぇぇーーーーーッ!」梓睿(ズールイ)

ガガガガガガガガガ…ッッ!

「わああああああーーーーーーッ!」(中出氏)

ブブブブブブブブンン…ッッ!!!

ババババババシシシシシシ…ッッ!!!

ガガガガガガガガガ…ッッ!

ブブブブブブブブンン…ッッ!!!

ババババババシシシシシシ…ッッ!!!



「中出氏ィ!、まるでルパンの五右エ門じゃねぇすかぁ♪」
反応する電気ウナギの引き寄せに、フラフラになって弾をはじく中出氏にハリーが叫んだ。

カチッ、カチッ、カチッ…。

「くそぉ~~~~、弾切れかぁ~~~~ッ!」梓睿(ズールイ)

「はぁはぁ…、疲れましたよハリーさん…」
中出氏が肩で息をしながら言う。

「こうなったら、残りの皆で突っ込むぞ!、あの女性社員を捕まえて人質にしろ!」
「人質にして、やつらから武器を手放させるんだぁッ!」

梓睿(ズールイ)が残り幹部に指示を出す!

「よ~~~し!、みんなぁ、行くぞぉぉ~~!」

幹部の1人がそう言うと、全員が飛び掛かる構えに入る!
それと同時にハリーが、連中に叫んだ!

「ええ~~いッ!、沈まれ!、沈まれぇぇ~~~ッ!、控えおろぉぉ~~~ッ!」

ハリーがそう言って、中出氏の前に立った!
連中はハリーの言動に「何だ?」と、訝しむ。

「この御方の胸にある、この社章が目に入らぬかぁぁ~~~ッ!」

中出氏のスーツの襟の社章を指すハリー。
その社章は、メガネのかたちをしたピンズバッヂであった。



「そッ…!、その社章はッッ!?」
中出氏の胸の社章を見た連中が驚いた!

「ここにおられる御方を、どなたと心得るッ!?」
「キサマらの親会社、ナカデ・グループ・ホールディングスの社長御子息で、常務取締役の中出ヨシノブ様でおられるぞぉ~ッ!」(ハリー)

「げぇぇ~~~ッ!?」(幹部A)

「やっちまったぁ~~ッ!」(幹部B)

「なんか、どっかで見た顔だと思ってたんだよなぁ~~~ッ!」(幹部C)



「皆の者!、頭が高いッ!、控えおろぉぉーーーーーッ!」

ハリーがそう言うと、全ての幹部連中が大慌てで平伏した!
そして、中出氏の後ろにいた七海も驚いて跪く!



「はぁはあーーーーーーーーーーーッ!!」
全員が平伏するが、梓睿(ズールイ)だけは、戸惑いながらも立ち尽くす!

「アナタたちが今回行った、HAARPアンテナを使った人為的震災ッ!、これは売国行為と云われても、仕方のない行為ですッ!」



「よって、アナタたちには、今、この場で、シャーウッドからの懲戒免職を言い渡しますッ!」
中出氏が連中に印籠を突き付けた!

「ええ~~~ッ!?」(幹部A)

「…と、いう事はぁぁ~~!?」(幹部B)

「退職金は、出ないという事ですッッ!」(中出氏)

「うわぁぁ~~!、そんなぁぁ…ッ!」(幹部C)

「住宅ローンが、まだ残ってるのにぃぃ~~~ッ!」(幹部A)

「愛人に払う、月々のパトロン代、どぉすりゃいいんだよぉぉ~~ッ!?」(幹部B)

「警察に突き出されないだけでも、有難く思いなさいッ!」(中出氏)

「はぁはあああーーーーーーッ!、有難きお言葉、感謝いたしますぅぅーーーーッ!」
そう言って幹部一同は、再び平伏した。

「チッ!」
それを見た梓睿(ズールイ)は、舌打ちすると、その場から逃げ出した!

「ハリーさんッ!」
中出氏がそれをハリーに伝える!
それと同時に中出氏が、電気ウナギを梓睿(ズールイ)目がけて投げつけた!

ヒユンッ!

回転しながら飛ぶ電気ウナギが、梓睿(ズールイ)の背中に当たった!



バリバリバリ…ッ!

「ギャッ!」
感電した梓睿(ズールイ)が叫ぶ!

そこへ梓睿(ズールイ)に追いついたハリーが、やつの胸倉を掴んで巴投げの体勢に入るッ!

「ハリー~~~~~ッ…、松葉くずしぃぃ~~~~~ッ!」
ハリーが、最後の新必殺技を梓睿(ズールイ)に掛けた!

巴投げの体制のまま、空中に浮かんだハリーと梓睿(ズールイ)!
ハリーは巴投げの構えのまま、空中で1回転!

ガツ~~~ンンッ!

梓睿(ズールイ)の脳天が、床に叩きつけられた!
ハリーは、梓睿(ズールイ)を掴んだ状態で、そのまま1回転し、巴投げを放った!

「チョリソォォォーーーーーーーッ!」(ハリー)



ドスンンッ!

ハリーに投げられた梓睿(ズールイ)が、床に叩きつけられる!
梓睿(ズールイ)は、そのまま横たわり、身体がピクピクと痙攣していた。

「中出氏、こいつはどうしやすか?」
ハリーが中出氏に、伸びている梓睿(ズールイ)を指して言う。

「ハリーさん、警察に電話して下さい。彼は公安に突き出します」
「これで南京電力の日本支社で、今何が行われているか判明する事でしょう」(中出氏)

「分かりやしたぁ!」
ハリーはそう言うと、スマホで警察に電話を掛けた。

「それから七海さん…」
中出氏はそう言って、今度は床に平伏している七海に声を掛ける。

「は…、はい…ッ!?」
七海はブルブルと震えながら、顔を上げた。

「これでシャーウッドのダニは、全て一掃しました。これから急いで、この会社を立て直さなければなりません」(中出氏)

「はいッ!」と、再び床に顔を埋める七海。

「ナカデ・グループの関連企業から、不動産に精通した優秀な人材をシャーウッドへ大量に出向させますので、宜しくお願いします」
「そういう事で、アナタには、今からシャーウッドの社長になって頂きます…」(中出氏)

「えッ!?、常務様!、そんな大それた事、私にはとても無理でございますッ!」
七海が顔を上げて、中出氏に強く言う。

「いいえ…、社長はアナタしかいません…。それはアナタだけが、単なる金儲けではなく、お客様の事を1番に想って働いていたのを、私は知っていますから…」
「どうかこれからも、この会社の事を頼みましたよ…」(中出氏)

「常務様ぁ…ッ」(七海)

「七海さん…、私を呼ぶときは、“常務”ではなく、“中出氏”でお願いします」(中出氏)

「は…、はいッ!、勿体ないお言葉…、ありがとうございます。中出氏…」
七海はそう言うと、再び深々と中出氏に頭を下げるのであった。

「これにて、一件落着ッ!」
そして最後にハリーが、声を高らかに、平伏している幹部連中へ言い放つのだった。


 日が沈みかけたオフィス街。
シャーウッドから出て来た中出氏とハリーは、爽やかな風を浴びながら街を歩いていた。

「ところで中出氏…、今日の祝杯はどこで上げやすか?」
ハリーが、先程中出氏と約束したご褒美の事を聞く。

「ええ…、今日は幾ら使っても構いませんよ…。なんせ軍資金はたっぷりありますからね」
「その為に、連中の退職金を全て取り上げたのですから…」
笑顔の中出氏が言う。

「ほんとでやすかぁッ!」
大喜びのハリーが声を上げる。

「ええ…、耳かき膝まくらでも、キャバレーロンドンでも、チョメチョメでも…(笑)」(中出氏)

「うッひょぉぉ~~~~~ッ!!、じゃあ、早速参りやしょうッ!、さあ!、早く!、中出氏!」
中出氏を急かすハリー。

「ふふふ…、ハリーさん、この時間じゃ、まだ“耳かき膝まくら”しか開いてませんよ…(笑)」
爽やかな風を浴びて、中出氏が微笑みながら言った。

 こうして中出氏は、外国勢力のスパイから、この日本を守る事が出来た。
しかし、今回の一件はあくまで、氷山の一角に過ぎない。

日本には、まだまだ我々の知らない陰謀が、ひしめいているのだ。
だから頼む!中出氏!、これからも、この日本の平和を守ってくれ!



行け!中出氏!、負けるな!中出氏!、日本の未来は、君に掛かっているぞ!
頼んだぞ!、特命係長…、N・D・S(中出氏)よ!

END

↑ なんちゅう終わり方やねん…(笑)


エンディング↓