ハロウィンの夜 前篇(夏詩の旅人 3 Lastシーズン) | Tanaka-KOZOのブログ

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2013年 10月31日 PM10:08
この日、渋谷の街では若者たちを中心に、ハロウィンのイベントで盛り上がっていた夜。

そんなイベントなどには関心の無い僕は、自宅から近くのコンビニまでタバコを買いに、夜の海岸線を歩いていた。

交差点側にあるコンビニに到着した僕。
店内に入ると何やらレジ前で、店員と客がモメている様だった。

レジに立つ店員は、30代くらいの女性。
その女性にクレームを入れていたのは、メガネをかけた40歳くらいの会社員といった感じか…?

僕は遠巻きから2人のやり取りに耳を傾ける。

どうやらクレームの原因は、キャンペーン終了になっているサービスを、会社員が強引に利用しようとしている事が原因の様だった。

 女性店員は丁寧な対応でお断りをしているが、客の男性の方は低姿勢の店員を見て、ボルテージがどんどんエスカレートしていく。






「だからアンタも分からねぇオンナだなぁッ!、サービスを使わせろって言ってンだよぉッ!、俺はその為にわざわざここまで来てんだからさぁッ!」(客の男)

「申し訳ございません!、先程から申し上げている様に、キャンペーンは終了しております…」
女性はそう言いながら、ペコペコと頭を下げる。

「こンのヤロウ~…、聞き分けのねぇやつだなぁ…ッ!」
男はそう言うと、おもむろにスマホを取り出した。

「なんですか!?、やめて下さいッ!」
女性がそう言ったのは、男が女性の動画を撮り始めたからだった。



「お~!、お前、トミナガっていうのかぁ~…?」
ニタニタしながら店員の胸のネームプレートを撮影する男。

「やめて下さい!」

「いいのかぁ~…、お客様にこんな態度を取っちまってよぉ~…」
「この動画を本部に送りつけて、クレーム入れてやるぞぉ!、そうしたらお前はクビだ!、クビッ!」

「それともよ、この動画をYOUTUBEでアップしてやろうかぁ~ッ!?」
「そうしたら炎上するぞぉ!、アンタの顔はさらしモンだぁ~!、ひゃははははッ!」

「お客様ッ!、それは勘弁して下さいッ!」

「だったら、もっと申し訳なさそうに詫びろよぉ~!」

「ど…、どうすれば…ッ?」

「そうだなぁ…?、お詫びに土下座してもらおうか?」
「ついでに迷惑料として、キャンペーンサービスも使わせてもらおうか!(笑)」

「そ…、それは…ッ」

「ほら!、どうしたぁ!?、謝れよ!、ど・げ・ざ…、土下座しろよぉ~!、ははははは…ッ!」

男がそう言って土下座を強要する。
女性は困惑しながら、レジから出て膝を床に着こうとした時だった。

「おい!、アンタ…!、謝る必要なんてねぇぜ!」

スマホを構えている男性客の後ろから声がした。

「んッ!?」
そう言って振り返るクレーム客。
そしてその男が続けて言う。

「おい!、お前、何、ひとの事、撮ってンだよぉッ!」
それは後ろに立っていた彼が、スマホを手にクレーム男を撮影していたからだ。



「犯罪の決定的瞬間を撮影しようと思ってね…」
動画を撮りながら、静かに言う彼。

「犯罪⁉」
クレーム男が言う。

「おいアンタ!、警察に電話だ…。こいつを逮捕してもらう…」
彼が女性店員にそう言った。

「はは…、バ~カ!、俺は店員にクレームを入れてるだけだぞ!、警察なんか呼んだって逮捕なんて出来ねぇよ!、警察は民事には介入できねぇンだよぉ!」(クレーム男)

「クレーム…?、俺にはイヤラシイ男が、女性店員の胸元を断りもなしに盗撮してる様に見えたんだがなぁ…」
彼がニヤリと言う。

「盗撮!?」(客の男)

「そうだ盗撮だ…。盗撮は立派な犯罪だ。盗撮は、被写体に了解を得ずに、密かに撮影を行うものだ。これは軽犯罪にあたる」

彼はそう言うと、続けて女性店員に聞く。

「なぁ君!、君は胸元を動画撮影されたよなぁ?、その撮影は許可なんかしてないだろぉ~?」
とぼけた口調で彼が言うと、女性は無言で頷いた。

「ほら、やっぱ盗撮だ」
彼はそう言って、男にニヤリと笑う。

「お…、お前だって、俺の事、勝手に撮影してたじゃないかッ!」

「俺?…、俺はさっきも言った通り、犯罪の決定的証拠を撮ってたンだよ(笑)」
「さあ店員さん!、早いとこ警察呼んでくれ!」

「くそッ!」
そう言って、店から逃げ出そうとする男。

「おっと待ったぁ!、タイホする」
そう言って男の腕をしっかりと掴む彼。

「逮捕!?、なんでお前がタイホすんだよぉ!?」

「刑事訴訟法213条…。日本の法律では現行犯のみ、逮捕状がなくても、誰でも逮捕が認められている…。俺、法学部出身だから…、刑法でそう習ったぜ(笑)」

「離せよぉッ!」
身体を振って抵抗する男。

「さぁ、どうする?…。このまま警察が現れたら、アンタのスマホを調べられるぜ…(笑)」
「そうしたら、店員のネームプレートを撮影した動画がそこに残ってて、アンタは捕まっちまうというワケだ」

「何が言いてぇんだよ!?」

「消せよ動画…。そしたら俺の動画も一緒に消してやる。消さなきゃ、俺の方がお前の動画をYOUTUBEにアップしちゃうけどな…(笑)」

「わ…、分ったよ!、消すよ!」
男はそう言って、彼の目の前で動画を削除する。

それを確認した彼は、自分の動画もスマホから消すのであった。

「いいなお前!?、監視カメラにも映ってんだからな!」
そう言って店内の防犯カメラを指して、彼がクレーム男に言う。

「監視カメラにお前の行動が残ってんだから、ヘンな嫌がらせのクレームなんかあとで入れんなよ!」
「入れやがったら、俺と彼女の証言で、お前を盗撮犯にしてやるからな!」

「わ…、分ったよ!」
男はそれだけ言うと、すごすごと店内から出て行った。


「どうもありがとうございました」
男が出て行くと、女性店員は笑顔で彼に感謝した。

「良いってことよ…!、それよりもタバコくれる?、212番を2コ」

「あ…、はい、分りました!」
女性店員はそう言うと、急いでレジに戻る。


「ありがとうございました」
そう言ってレジからタバコを渡す女性。

「君さ…、今度ああいうやつが現れたら、君もスマホで撮ってやりぁ良いんだよ(笑)」
「そうすりゃ、相手もネットにさらされるのを恐れて、何にも出来ないからさ…」
彼が笑顔で言う。

「分かりました!」
女性がそう言うと、彼は「じゃ!」と言って手を挙げ、店外へと出て行くのであった。

その彼の後姿を見つめる女性が言った。



「スカッとしたぁ~…♪」

某TV局のバラエティ番組を思い出した彼女は、思わずそう言ってしまったのであった。


「ただいまぁ~」
それから、自宅に戻った彼が玄関に入って言う。

家に入ると同居人のハルカが、居間でTVのニュースを食い入る様に見ていた。

「どうしたハルカ?」



「あ…!、こーさん、お帰りなさい」
「これを見て!、さっき東京で大変な事が起こったみたい!」
彼に振り返ってハルカが言う。

TVからは、小田京線の窓から人々が逃げ出す様子が流れていた。
きゃぁきゃぁと悲鳴を挙げている乗客たち。



それを観ている彼がハルカに言う。

「何だよ?、何が起こったんだよ!?」

「ハロウィン帰りの仮装した男が、列車の中でいきなり人々を無差別に切りかかって来たって…ッ!」

「それで何人もの人が刺されて、それから犯人はガソリンで列車の中に火を放ったんだってッ!」

「何だってぇッ!?」
ハルカの説明を聞いた彼は、TV画面を見つめながら驚愕した。



 2013年 10月31日 PM7:40
小田京線急行列車が新宿駅を発車してからの数分後、車内は大混乱に落ちていた。

それは後方2両目に乗車する、道化師のメイクをした男が突然、隣に座る初老の男性乗客をナイフで刺したからだ。

「うらぁッ!、うらぁッ!、うるぅああああーーーーッ!!」
道化師はそう叫びながら、乗客を次々と切りつける。

うわぁぁぁぁーーーッ!

きゃああああああーーッ!

切り付けられた乗客たちが逃げ惑う車内。

切られた腕を押さえながら走るサラリーマン。
背中を切り付けられた女子高生は、恐怖で涙しながら隣の車両へと走り出す。
しかしドア側に立つ若い主婦は、恐怖で足がすくんでしまい動けなかった。

ガタガタと震えながら、赤ん坊を抱きかかえていた。
その姿を見た道化師は、次の標的として主婦の方へ近づいて行った。



「あああ…ッ」
恐怖で涙する主婦。
道化師は冷めた眼差しで、ナイフを持つ手を振り上げた。

「やめろぉッ!」
その時であった。
突然、若い乗客の男性が道化師に「ドン!」とタックルした!

「早く逃げてッ!」
道化師を正面から抱きかかえる男性が、主婦に叫ぶ。

「ああ…ッ、ああ…ッ」
しかし主婦は、まだ恐怖で動けない。

「こンのヤロウッ!、邪魔すんなッ!」

ザクッ!

道化師がナイフを持つ右手で、男性の背中を思いっきり刺した!

「ぎゃあッ!」
刺された男性が叫ぶ。
だが男性は、それでも道化師から絡ませた両腕を離さない!



「離せッ!、てめぇッ!、このぉッ!」
道化師はそう怒鳴りながら、男性の背中を刺し続けた。

「うぐッ…、早く…、逃げて…」
男性は刺されながら、声を懸命に振り絞り主婦に言った。

目の前の光景を見て、主婦がよくやく正気に戻る。
自分にも死の危険が目の前に迫ってる事を理解した主婦が、隣車両へと逃げ込んだ。

「くそッ!、逃げちまったじゃねぇかぁッ!」
そう叫んだ道化師は、力尽きた男性を振りほどき、隣の車両へと向かって行った。

きゃああああーーーーーーッ!

うわあああ~~~~ッ!

血だらけの道化師を見た乗客が、叫びながら逃げる。

それを見た道化師は、スーツの胸ポケットからあらかじめ用意していた、ガソリン入りの小瓶を連結部からそちらの方に投げつけた!

バリンッ!

栄養ドリンクの瓶が床に叩きつけられて割れる。
ガソリンの異臭が車内に充満した。

道化師がZipoに火を点ける。
そしてライターを床に流れる液体に向けて放った!

ボゥッ!

ガソリンに火が点く!



「ひゃははははははは……ッ!」
それを見て道化師が高笑いをする。

すると次の瞬間、列車が突然急ブレーキを掛けた!

キキーーーーーーーーッ!

「うおッ!」
バランスを崩す道化師。

列車は、本来急行が停まらない剛徳寺駅に、緊急停車をした様だ。
だが、列車は安全確認をしないとドアが開かれない。



きゃあッ!、きゃあッ!

列車のドアが開かないと分かると、乗客たちは窓を開けて次々と逃げ出した!
プラットホームからは、窓から出て来る乗客たちを受け止めてアシストする。

「くッそッ!」
次々と逃げ出す乗客を睨みながら、道化師が言う。

「てめぇのせいだぞぉぉッ!」
連結部から振り返り、仰向けに倒れている、先程の男性に道化師が怒鳴った。
仰向けに倒れる血だらけの男性は、目に涙を浮かべながら道化師を見つめていた。

「ああッ!?、お前、泣いてンのかぁ!?」
「泣くほどビビってるやつが、何で俺の邪魔なんかすんだッ!?」

「うう…、うう…、もうやめろ、ヒデキ…」
血だらけの男性が、道化師に言う。

「えッ!?、お前なんで…ッ!?、お前、俺の事知ってンのかぁッッ!?」
突然、自分の名前を云われた道化師が驚く。

「おいッ!、お前!、なんで俺のこと知ってンだよぉぉッ!!」
道化師が仰向けの男性に聞くが、彼はそのまま目に涙を浮かべながら息を引き取った。

「チッ!…、何なんだよコイツはよぉぉッ!」

道化師がそう言うと、外からはパトカーのサイレンが聴こえて来た。
その音を聴いた道化師は、大量殺人の計画が失敗に終わったと悟った。

周りでは、まだ悲鳴を挙げながら逃げて行く人たちの声が聞こえる。
道化師は血まみれの男性が倒れる前の座席に、ドカっと座った。

そしておもむろに、ポケットからタバコを取り出すと口に咥える。
道化師は予備の100円ライターで、タバコに火を点けた。



「ふ~~~~~~…」

足を組んで、深々と座る道化師は、そう言って大きくタバコの煙を吐き出した。
そしてそれから間もなく、道化師は車内に突入した機動隊らに取り押えられるのであった。




 翌11月1日
世田谷警察署 取調室

昨夜、小田京線の事件で逮捕された林田ヒデキは留置場から出され、刑事からの取り調べを受ける為に部屋で待機させられていた。

そして、しばらくすると1人の刑事が部屋に入って来た。
刑事は長身でメガネをかけており、顔が少しシャクレた、特徴のある顔であった。

「おッ!、お前は…ッ!?」
ヒデキは、刑事の顔を見るなり驚く。

「いかがですか、逮捕された気分は?」
男がヒデキにニヤッと微笑んで言う。



「なんでお前が、ここにいるんだよぉ!?、お前は確か、“新宿の父”とかいう易者だろぉッ!」
昨夜出会ったメガネの男性を指しながらヒデキが言った。

「中出氏とお呼びください…」
メガネの刑事が言う。

「ナカデシ~~?」
何だこいつは?という表情でヒデキが言った。

「はい、中出氏です。さて、今日は刑事さんに代わって私がアナタの取り調べをさせていただく事になりましたので、よろしく…」
中出氏が淡々と言う。

「なんでお前が取り調べを出来るんだよぉッ!?」(ヒデキ)



「私の財力があれば、世の中なんて、どうにでも出来るのですよ」
中出氏はそう言うと、クスクスと含み笑いをした。




 東京赤坂 MBSテレビ 
Gスタでは報道バラエティ番組が、昨夜の小田京線無差別殺傷事件について放送中であった。

「当番組が取材したところ、今回逮捕されました、林田ヒデキですが、事件前までは大手通信社のコールセンターで、派遣社員として働いていた様ですね」
「その派遣会社は、大手通信社の子会社の様です」

司会進行のアナウンサーが言う。
その言葉にコメンテーターたちが、無言で頷く。

「林田は1ヶ月前に客からのクレーム処理でミスをして、それが理由で会社から解雇された様です。そしてそれが元で、恋人にもフラれてしまったという噂もある様です」(司会アナ) 

「また無職ですか…。ここんとこ犯罪を犯す人は、いつも無職じゃないですか…」
コメンテーターの玉川が吐き捨てる様に言う。

「玉川さん的に、何か思う事がありますか?」(司会アナ)



「別にありませんけどね…。ただね…、こういった身勝手に、自分がむしゃくしゃしたから人を殺すって考えは異常ですよね…」

玉川がそう言うと、自宅でその番組を観ていたハルカが彼に言った。


「犯人は仕事をクビにされちゃったんだぁ…」(ハルカ)

「よくあるハナシだな…」
ハルカの隣にいる彼が、ボソッと言う。

「よくある話?」(ハルカ)

「ああそうだ…。非正規雇用されてるやつなんてのは、会社の都合で、いつだって責任を押し付けられて、すぐクビを切られる」(彼)

「気の毒だね…」(ハルカ)

「ハルカ…、君は大手通信会社のコールセンターに勤務する人ってのは、どんなイメージがある?」(彼)



「え~?、そうね…、テレビでよく観る、車の保険CMに出て来る様な、スーツを着たキチンとした様なイメージかなぁ…」(ハルカ)

「ははは…、そんなの、ほぼ居ねぇよ(笑)」(彼)

「そうなの!?」(ハルカ)

「大多数は、売れないアイドルや芸人…、バンドマン、または就職して働いたことがほとんどない様なのばかりさ」

「金髪、赤髪、スキンヘッド…、ギャルにオタクとか、そんな連中を、誰でもできる簡単な仕事だと安心させて募集するのさ」(彼)

「なんで?」(ハルカ)

「募集しても応募が来ないからだよ(笑)、コールセンターで客のクレーム対応なんて割に合わないと、普通は分かってるからな」(彼)



「ふぅ~ん」(ハルカ)

「そこで会社はズルイんだよ。そんな世間知らずのやつらを取り合えず入れて働かせる」

「1番嫌なクレーム対応をやらせる。当然、粗相はしょっちゅう起こる。だからクレーム対応で、こじれるなんてのは企業は百も承知だ。想定内って事だよ」

「さっきTVで、派遣会社は通信社の子会社だって言ってたろ?、だから俺からしたら、その派遣会社は通信社が100%出資してんだから、同じ会社だと思うんだけど、大手通信社で働く人間はそうは思ってない様だ」

「彼らは必ず言う、『あの会社は我々と違う、別会社だ』とね。同じ社名が付いてても、本社の人間のプライドからなのか?、必ず彼らはそう言う」

「そうすれば、クレームが大事になって訴訟を起こされても、自分たちとは関係ないと逃げられるからな…」

「そして、あとはクレームを起こした本人をクビにすればよい。それで問題は解決したというワケだ」

「非正規雇用者は、そういった使い捨ての駒とされている労働者なんだよ」
「人間なんて、どこでスイッチ入ってブチ切れるかなんて分からないものだ」

「普通の人間だって、そんな理不尽な事されりゃ頭くンだろ?」
「ましてや、今回の犯人みたいなやつだったら、尚更だ」

「大手企業も考えて欲しいね。アイツが、こういった犯罪を起こす切っ掛けを作った原因は、自分らにも少しはあるんだって事をさ」

そう言った彼の話を黙って聞いていたハルカ。
そのハルカの目の前にあるTVから突然、慌ただしい声が上がった。

「たッ…、大変ですッ!、たった今、入った情報によりますと、世田谷警察署に収監されていた林田ヒデキが取り調べ中に…ッ!」(司会アナ)

「ええッッ!?」
司会アナの言葉を聞いたハルカと彼は、そう叫んだ。




場面は再び 世田谷警察署 取調室

「なるほど…、分りました。アナタが起こした今回の事件の動機は、理不尽に職場から解雇され、それに呆れたカノジョからフラれたという事ですね?」
取り調べを行う中出氏が、淡々と言う。

「そんな簡単に言うんじゃねぇよ!、いいかッ!?、俺はカノジョと婚約してたんだぞッ!、それなのに、アイツは俺が悪くないのに、会社の方が悪いのに、俺の事をフッたんだッ!」

取調室のテーブルを、バンッ!と、叩いてヒデキが言った。

「ふふふ…、アナタはホントにアホですね?、会社がクビでアナタと別れるというのは、カノジョの口実です」
薄笑いを浮かべて中出氏が言う。

「ああ…ッ!?」
どういう意味だという顔で、ヒデキが言った。

「まぁ、それも理由の1つかも知れませんけど、それが本当の理由じゃありませんよ」
「恋人を本当に愛している人は、そんな事で別れません」(中出氏)

「そんなワケないだろッ!、現に俺はフラれてるじゃないかッ!」(ヒデキ)

「まだ分からないのですか?、カノジョはアナタなんか愛していなかったのです」(中出氏)

「そんなワケあるかぁッ!、俺とカノジョは高校時代からずっと付き合って来たんだぞぉッ!、しかも告白して来たのは、カノジョの方からなんだぞッ!」(ヒデキ)

「まぁ、始めの頃は好きだったんじゃないですかね…?、まだ人を愛するという事の意味も、よく分かってない年頃でしょうから…」

「しかし、年齢を重ね、人生経験を積んで行くうちに、アナタのその屈折した性格が分かって来て、カノジョは嫌になっていったんでしょう(笑)」(中出氏)

「なんだとぉッ!?」(ヒデキ)

「カノジョはきっと、こう思ってましたよ。『ああ、よかった♪、これで別れを切り出せる理由が出来た♪』ってね」(中出氏)

「きさま~~ッ!」(ヒデキ)

「ところでお聞きしますが、アナタは死にたかったんでしょう?」(中出氏)

「ああ、そうだッ!、人生が嫌になった!」(ヒデキ)

「なら、勝手に1人で死ねばいいじゃないですか。なぜ自殺しないのです?、なぜ他殺なのです?、他人を巻き込む意味が分かりません」(中出氏)

「自分で死ぬ勇気がなかった…。人を殺せば死刑になって死ねるからだ…」(ヒデキ)

「ふふ…、そんなヘタレだからカノジョにフラれるんですよ(笑)」(中出氏)

「何ッ!?」(ヒデキ)



「しかし残念でしたね。今回アナタは1人しか殺していなかった…。永山基準によって日本の刑事裁判では、それでは死刑になりません」

「アナタは懲役刑で、せいぜい懲役25年といったところでしょう…」(中出氏)

※永山基準:死刑かどうかを決める量刑判断基準であり、殺害された被害者が3人以上でないと死刑にはならないとされている。

「ふふ…、まぁ良い…。出所後に、あと2人殺せば死刑になれるんだろ?(笑)」
「日本に死刑制度が無くならない限り、俺は他人(ひと)を殺し続けるだけさ…」(ニヤリと笑うヒデキ)

「アナタ、まだ人殺しを続けるつもりなんですか?」(中出氏)

「そうさ!、だって日本には死刑制度があるじゃないか。日本は世界的に遅れてるんだよ!、だったらそれを利用してやるまでさ!」(ヒデキ)

「日本が遅れてる?」(中出氏)

「ああ、そうだ!、だって今や世界では死刑制度を行ってる国の方が少ないっていうじゃないか!」(ヒデキ)

「それは何故だと思いますか?」(中出氏)

「日本は世界的に見ても人権を軽視してるって事だろ!?」(ヒデキ)

「ちゃんと捕まえて、裁判をしてくれるじゃないですか?、アナタみたいな、どうしょうもない人でも」(中出氏)

「でも結局、死刑にして殺す」(ヒデキ)

「でも、アナタの言い分も一応聞いてくれてからの死刑ですよ。十分、人権に配慮してるじゃありませんか?」(中出氏)

「そんなのキレイごとだッ!、だったらアメリカみたいに終身刑を作れば良いじゃないかッ!?、できねぇだろぉ!?、だって囚人を生かせしておく為に掛かる税金が勿体ねぇもんなぁ!?」(ヒデキ)

「アナタを生かす為に使う様な税金には、私も勿体ないと思いますよ。しかし、アナタは重大な勘違いをしています」(中出氏)

「勘違い!?」(ヒデキ)



「そうです。勘違い…」

「いいですか?、今回アナタがやった犯罪は、アメリカでやってたら、その場で銃殺ですよ。アナタの言い分も聞かずに問答無用で殺されます」

「裁判もなく殺されるから、情状酌量も無いのです。それのどこが人権配慮なのですか?」

「大体において、アナタみたいな死刑廃止論者は、いつも浅はかです。想像力が乏しいのです」

「これをしたら、どういう事になるのか?という、物事を関連付いた未来予測ができないのです」

中出氏がそこまで言うと、ヒデキは言葉を呑み込んでしまった。
そして中出氏は更に続けて話す。

「良いでしょう…、死にたいのでしょう?、だったら私が今この場でアナタを殺してあげましょう」

中出氏はそう言うと、懐から銃を出してヒデキに向けた。



ジャキ…!(銃を向ける音)

「ちょっと待て!、お前、そんな事したら大変な事になるぞ…」
ヒデキが及び腰になって言う。

「アナタが私の銃を奪って自殺した事にすれば大丈夫です」(中出氏)

「日本は法治国家なんだろぉ!?、そんな事、出来るワケねぇだろ!」(ヒデキ)

「さっき言いましたよね?、私の財力があれば、どうにでも出来ると…」(中出氏)

「ちょっと待てッ!、死刑なんてのは、そんなスグに行うもんじゃねぇだろぉ!」(ヒデキ)

「アナタは、アメリカ式が良いのでしょう?」(中出氏)

「待てッ!、まだ心の準備が…ッ!」(ヒデキ)

「アナタに殺されたあの若者も、心の準備なんてありませんでしたよ」(ニヤリと言う中出氏)



「ちょ…ッ!」
手で制しながら言うヒデキ。

「それにしても、アナタに殺されたあの若者は立派でしたねぇ…」
「アナタも見習うべきです。どうせ死ぬなら人の為に死ぬという事を…」

そう言って銃を突き付ける中出氏を無言で見つめるヒデキ。
彼の額からは、大量の冷や汗が流れている。

「このままでは、あの若者が余りにも不憫です。彼には早々に、転生してもらいましょう」(中出氏)

「お前、何言ってるんだッ!?」(ヒデキ)

「あの様に、不遇の死を遂げた人たちは、すぐに転生させるシステムになってるのです」(中出氏)

「い…、意味が分かんねぇッ!?」(ヒデキ)

「一方、アナタみたいな人には、地獄が待ってますよ。このまま死んで、さあ、オシマイなんて、そんな甘い運命ではありません」

「アナタには、あの世の終身刑が待ってます。永遠に続くあの世の終身刑で、しっかり罪を償って反省して頂きますよ…」(中出氏)

「おいッ!、待てったらぁッ!」(ヒデキ)

「では、行ってらっしゃい…」
中出氏はそう言うと、ヒデキの額目がけて引き金を引いた。



ガーーーーーンンッッ!




「うわぁッ!!」
ベッドから飛び起きたヒデキが言う。

「はぁはぁはぁ…、何だよ夢かよ…」
薄暗いアパートの一室で、ぐっしょりと寝汗をかいた彼は、ほっとする。



そしてヒデキは枕元に置いた目覚まし時計を手に取る。
時刻は朝8時半を指していた。

「うあッ!、やべッ!、遅刻じゃんかぁッ!」

コールセンターの仕事に遅刻すると思い、ヒデキが叫ぶ。
しかし彼は次の瞬間、現実を思い出すのであった。

「ははは…、そうだ…。俺、先週会社クビになったんだよな…」

時計を手にしたヒデキは、そう言って虚しく笑う。
そして彼は、壁に貼ってあるカレンダーを見つめた。

今日が、2013年 10月31日だと確認するヒデキ。

「ふふ…、今日はハロウィンか…」
「ついにやって来た…。俺はこの日の為に、ずっと準備してたんだ…」

ヒデキは今夜、渋谷の街で無差別殺人のテロを計画していた。
会社を解雇され、恋人にもフラれた腹いせに、街で浮かれた若者らを襲撃しようと企んでいたのだ。

「待ってろよ、浮かれたバカヤロウ共…、今夜は俺の人生において最後の大イベントだ…」
「一人でも多くのバカどもを道連れにしてやるからな…」

冷たい表情で、ヒデキはベッドの上で天井を見つめながら言った。




 同日、PM6:00過ぎ 新宿駅東口 アルタ前

この日、レコーディングの仕事を終えたギタリストのカズは、友人らが集まって飲んでいる居酒屋へ向かう為、新宿通りを歩いていた。

※カズは僕の大学時代からのバンド仲間で、CDアルバムの制作にも協力してくれた、デーブ・スペクターに似た男である(笑)

(もう始まってるかなぁ…)
そう思いながら、腕時計を見て歩くカズ。
その時、背後から彼を呼ぶ声がした。

「あれ!?、カズさんじゃねぇでやすかぁ~!?」
聞き覚えのあるその声に、振り返ったカズが言う。

「おお~!、ハリーじゃんかぁ~!」
そう言ったカズの目の前には、ハリーとユニットを組んでいる中出氏の姿もあった。



「お久しぶりでやす…」(ハリー)

「ご無沙汰しております」(中出氏)

2人はカズにそう言いながら、軽く会釈をした。

「ジュンの風鈴まつりの時、以来だなぁ…」(カズ)



※歌手、櫻井ジュンが出たイベントの事。ジュンはカズの高校時代の後輩である。(※あなたになら渡せる歌:参照)

「どうなんだ?、2人はまだ音楽続けてンのかぁ?」
※「8の字無限大」というユニットで活動していた彼らを思い出したカズが2人に聞いた。

「へえ…、まだ続けておりやす」(ハリー)



「そうなんだぁ?、ぐるぐるセブンにも表れないから、どうしちゃったのかと思ってたよ(笑)」
※ぐるぐるセブンは、カズの自宅裏にあるスナックで、2人はそこで知り合う事になった。

「あっしら、ちょっと、ロンドンまで行っておりやして…」(ハリー)

「ロンドンッ!?、お前らロンドンに行ってたのかぁッ!?」
社交辞令で聞いたつもりの近況が、想像以上な事になっていた事実に驚きを隠せないカズ。



「へい…、いいとこでやしたよ…」(ハリー)

「すげぇな…、そんな事になってるなんてよ…。どうだ?、ロンドンは遠かったか?」(カズ)



「いえ…、電車で1時間も掛らない距離で…」(中出氏)

「はぁ!?」(カズ)

「立川店なので…」(中出氏)



「ロンドンって…ッ、そっちかよッ!」(ガクッと崩れるカズ)
※ロンドン立川店:11PMのCMでお馴染みのキャバレーロンドン




「ところでカズさん、これからどちらへ?」(ハリー)

「クサナギたちと飲みに行くとこ」(カズ)

「あ~!、あのカズさんのプライベートバンドの方たちとですかい?」(ハリー)
※「秋の夜長の盆踊り」の回参照

「そう…」(カズ)

「そうだ!、あっしら今度ライブやるんでやすよぉッ!」(ハリー)

「それが…?、行かねぇよ俺…」(カズ)

「違いやすよぉ!、一緒にブッキングしゃせんか?って事でやすよ。ちょうどブッキング相手を探してたんでやすよぉ!」(ハリー)

「ええッ!、“8の字無限大”とぉ!?」(カズ)

「そうでやす」(ハリー)

「どこでやンだよ?」(カズ)

「神田のSHOYAでやす(笑)」(ハリー)

「庄屋?、居酒屋じゃねぇかぁ!?」(カズ)

「違いやすよ…、フォーク酒場でやす」(ハリー)



「フォーク酒場って、アコギで弾き語りやりながら飲めるって店だろ?、俺たちはバンドなんだから無理だよ」(カズ)

「大丈夫でやす!、ちゃんとドラムセットやアンプもありやすから…」(ハリー)

「そうなんだぁ…?」(カズ)

「ね!、一緒にブッキングやりやしょうよ!(笑)」(ハリー)

「分かった…。クサナギと相談してみるよ」(カズ)

「お願ぇしやすよ(笑)」(お願いするハリー)

「ああ…、じゃあ俺、店に向かうから…」
そう言って手を挙げるカズ。

「じゃあまた!、連絡しやす!」
そう言ってハリーが手を振ると、カズはバンド仲間が集まる店へと歩き出すのであった。



※後にカズは、本当にハリーとブッキングをする事になるのであった。(※マジよ!)




 
同日 PM6:30過ぎ 渋谷センター街

「くそぉぉ~、人が多すぎて着替える場所がねぇじゃんか…ッ!」
目的地に到着したヒデキが、辺りを見回しながら言う。

彼は無差別殺人をよりドラマティックに演出する為、道化師の仮装をしようと思っていた。
しかし駅界隈のWCは、全て他の者たちがハロウィンの仮装へ着替える為、ふさがってしまっていた。

「こうなったら、コンビニのトイレを使わせてもらおう…」
そう思い移動したヒデキであったが、コンビニも同じ様にWCは大行列となっていた。

「かぁ~、ダメだぁ…。人が多すぎる。こうなったら、あそこのラーメン屋で、トイレ貸してくれって言って見るか…」
ヒデキはそうボヤくと、目の前のラーメン屋に向かうのであった。


 同日 鎌倉 由比ヶ浜 PM7:00

「ふぅ~ん…」
自宅の居間でくつろぐ彼がTV画面を観て言う。



「どうしたの、こーさん?」
ソファの隣に座るハルカが、彼に聞いた。

「いやさ…、今ってコンビニで、有名店のラーメンが食べられるんだなって、思ってさ…」
コンビニのCMを見た彼が、そう言った。

「ローソンでも売ってるかな?」
近くのコンビニを思い出して、ハルカが言う。

「いいよ…買わなくて…、満北亭も、山田うどんも、どうせ無いんだから…」(彼)

「ふふ…、それいつも言ってるよね?、私、そのお店の存在知らなかったよ(笑)」(ハルカ)

「そうなんだよなぁ…、俺も最初、ハルカが知らないっていうからびっくりしたぜ」

「俺、満北亭と山田うどんは、少なくとも関東圏には、どこでもあるって思ってたからさ…」(彼)

「知らないよ…(笑)」(ハルカ)

「しかしさ、コンビニで、本物の店の味が出せるのかね?」(彼)

「だったら、一風堂なら鎌倉にあるよ。さっきのCMで、一風堂のラーメンもラインナップにあったじゃない?、今度、食べに行こうよ」(ハルカ)



「一風堂か…、俺にとっての一風堂は、土屋正己なんだけど、今のやつにはラーメン屋なんだな…(苦笑)」(彼)

「誰?、土屋マサミって…?」(ハルカ)

「すみれセプテンバー・ラブ、知らねぇのか?」(彼)



「シャズナの!?」
そう言ったハルカの言葉にズルッと崩れる彼。

「ははは…(苦笑)」
彼は体制を立て直しながら苦笑い。

そして自分より10歳以上若いハルカに、今更ながら大きなジェネレーションギャップを感じるのであった。




 場面は再び新宿 PM7:05
渋谷で無差別殺人テロを起こそうとしていたヒデキは、新宿に現れていた。

人でごった返す渋谷では、テロの準備をする場所が得られない為、新たな目的地として新宿を選んだのである。

「くそう…、とんだ誤算だったぜ…」
新宿の京王デパート前を歩きながら、ヒデキはどこか良い場所がないかと探し回っていた。
すると彼の事を呼ぶ声がした。

「ちょっと、そこのオニイサン!」

「ん?」
呼び止めた男性の声へと振り返るヒデキ。

「ちょっと、ちょっと!」
メガネを掛けたシャクレ顔の易者が、彼の事を笑顔で手招きしている。

「何だよ!?」
ブスっとした表情で、その易者に言うヒデキ。



「私は“新宿の父”という者です。見ての通りの占い師です(笑)」(易者)

「占い師~~!?」(怪訝な表情のヒデキ)

「はい、そうです。占い師です。アナタの事を鑑定(みて)あげますから、ちょっとこちらへ…」(易者)

「何だよ?。そんなカネねーし!、占いなんて信じてねーし!」(ヒデキ)

「いいから、いいから…、タダで鑑定(みて)あげますから…(笑)」(易者)

「何だよお前は?…、何でそんな事すんだよぉ!?」(鬱陶しい感じで言うヒデキ)

「アナタに死相が出ています…。このままだと、アナタは死んでしまいます」(易者)

「はッ!?、死相~?…、ははは…、こりゃあ丁度よいや!、俺は死にたかったんだ!(笑)」
素っ頓狂な事を突然言い出した易者に、ヒデキが笑いながら言った。

「死にたい…?、なぜそう思うのです?」(易者)

「俺はもう、何もかも嫌になったのさ…。仕事も人間関係も上手く行かなくてな…」(ヒデキ)

「勤務先でのトラブルですか?」(易者)

「クビになった…。まぁ、仕事っていってもバイトみたいなもんだけどな…」(ヒデキ)

「バイトみたいなもの…?」(易者)

「派遣社員だよ…。非正規雇用の労働者ってやつだ」(ヒデキ)

「何か目指してる夢が他にあって、派遣社員をやってるんですか?」(易者)

「目指す夢!?…、そんなもんはねぇよ」(ヒデキ)

「ではなぜ、普通に正規雇用の勤め人にならないのです?」(易者)

「始めは入ったさ…。大学出て、結構有名な会社にな…。でも入社して1週間で辞めた」(ヒデキ)

「1週間!?…、随分とまた早い退職ですね…?」(易者)

「上司が気に入らなくてな…。そいつは言ってる事とやってる事が違うんだよ。俺は上司の言われた通りにやったのによ。だから頭に来て辞めた」(ヒデキ)

「アナタは短気なのですか?」(易者)

「決断が早いんだよ俺は!」(ヒデキ)

「それにしても早まり過ぎてませんか…?、たった1週間ですよ」(易者)

「あのなぁ…!、じゃあ、お前だったらどうする!?」

「俺の上司は、始めは『分からない事があったら何でも聞け』と言った。それで俺は、分からないから上司に聞いた」
「そしたらそいつは、『そんな事、いちいち聞くな!、自分で考えろ!』って、キレやがったんだ!」(ヒデキ)

「ほぉ…」(易者)

「まだあるぞ!、それで俺は自分で考えて仕事を進めた!、すると今度は上司のやつは何って言ったと思う!?」

「『勝手な事するな!、俺に相談してから進めろ!』と、ほざきやがったんだぁ!、アッタマ、来ンだろぉ!?」

ヒデキが声を荒げてそう言うと、易者はクスクスと笑い出すのであった。

「何が可笑しいッ!?」
ヒデキがムッとした。

「ふふふ…、いや…、そういうコト言って、すぐ辞めるアホな新入社員が最近多いと聞いた事がありましたが、まさか本当にいらっしゃるとは…(笑)」(易者)



「アホだとぉ~ッ!?」(ヒデキ)

「ええアホです。アナタは他人の言った言葉の真意をまったく理解できない様ですね?、大学出ても頭の中は、“厨二病“っていうやつです」(易者)

「何だとぉッ!?」(ヒデキ)

「他人の会話の中には、全て隠されたコードが存在します。それが解読できない人は、空気が読めない厨二病なのです」(易者)

「隠されたコードって、どういう事だッ!?」(ヒデキ)

「アナタの上司はこう言ったのですよ」

「『君はまだ入社したてだから、分からない事があったら何でも聞いてくれ』、そしてアナタは、それを始めに教わった」

「それは、とても簡単な作業で、入社試験をパスした者であれば、1回教えただけでスグ理解できる内容でした」

「ところがアナタは考えが甘かった。今、この場でこの作業を憶えなくても、また聞けば良いやと…、他の仕事で忙しい、上司の手を止めたとしても、また聞けば良いやと…」

そしてアナタは1度教えられた、ごく単純な事を上司が忙しい時に再び聞いた。上司はアナタなら、それぐらいの事は1回で理解すると思ってたのでガッカリします」

「そして上司はこう言いました。『何で子供でも出来る作業を、1度教えたのにまた聞いてくる!?、そんな事、いちいち聞くな!、大学まで出てるなら、少し考えれば分かる内容だろ!?、もう社会人なんだから、自分で考えろ!』とね」

「そしてアナタは厨二病者特有の“意固地”になった。それで今度は上司からまだ教わってない仕事を、自分で勝手に判断して仕事を進めようとした」



「だから上司は言いました。『その仕事はまだお前に教えてないだろぉ!?、教わってない事なんだから、勝手な事するな!、初めて扱う事は、俺に相談してから進めろ!』と」

「この太字部分が、隠されたコードです。アナタはそれが解読できなかったのです」(中出氏)

「そんなの分かるかッ!?」(ヒデキ)

「分かりますよ。入社試験に合格した普通の社会人ならば…。だからアナタはアホで厨二病なのです」(易者)

太字部分をちゃんと上司が言ってくれれば、俺だって分かったさ!、言わねぇ上司が悪いんだぁッ!」(ヒデキ)



「甘ったれンじゃねぇよ…ッ、お前、給料貰ってたンだろ…ッ」(冷めた目の易者)

「え!?」
突然豹変する易者の表情に驚くヒデキ。

「あ…!、ははは…、いや…、甘えちゃいけませんよ…(笑)」
直後、易者は照れ臭そうに、先程と同じ表情へと戻るのであった。


「何だよ!?、お前は…ッ?、急にキレやがって…ッ!」
元に戻った易者にヒデキが言うと、その易者はクスクスと笑いながら話出した。

「どうやらアナタは、EQが低い様ですね?(笑)」(易者)

「EQって…?、何だよそれ?」(ヒデキ)

「心の知能指数です」
易者はそう言うと、ヒデキを見つめニヤッと笑うのであった。


※後篇につづく



ハロウィンの夜 後篇(夏詩の旅人 3 Lastシーズン)