※「HAGS」とは、Have a great summerの略で、アメリカのスラングです。
意味は、「良き夏を!」
2013年7月
鎌倉海浜公園 午後6時過ぎ
ルイたちは、塚原マリとの決戦に向けて特訓をしていた。
「さぁ!、第3の秘密兵器を始めるぞ!」
師匠である、剣道三段の彼がルイに言う。
頷くルイ。
「さて、先程も言ったが3番目に教える技は、「胴技」だ」
「胴技は、ボクシングで云うところのクロスカウンターみたいなもんだ」
「打って来た相手の攻撃をかわしながら打つ返し技であり、自ら打つような技ではない」
「なぜならば、胴技だけは有効部分に打突しただけでは、一本を取ってもらえないからだ」
「面や小手は、有効部分に当たった瞬間に、審判の旗が上がるが、胴技だけはそうじゃない」
「胴は、当たってから綺麗に右側へ走り抜けていかなければ、一本をもらえないんだ」
「だから打たれた相手は、胴を決めた者を、すり抜かせない様に、邪魔(防御)をすれば、取り合えず救われる」
「それは、打った相手が綺麗に通り抜けなければ、胴技は有効打だとして認められない率が高いからだ」
「依って、自らが胴技に打って出るという事は、大きなリスクを背負って打つという事になる」
「胴を打って出る時に、自分の面はガラ空きになり、胴を決める前に、対戦者の面技の方が早く当てられてしまう可能性が高い」
「仮に胴を早く決める事が出来ても、さっきも言った通り、対戦者が右側へ抜かせない様にブロックすれば、有効打にならない確率が高い」
「唯一、すり抜けなくても一本を取ってもらえる胴技がある。それが「逆胴」だ。
「逆胴は、相手の左側部分の胴を打った後、そのままの位置に居ても一本取ってもらえる」
「しかし、逆打ちが効力を発揮するのは、対戦者が上段構えの者の時だ」
「かつ、逆胴は非常に難易度が高い技だ。付け焼刃で出来る技ではない」
「そこでだ…。俺が今から教える胴技は、習得までの難易度が比較的低く、また相手の裏をかく…」
彼はそこまで言うと、ニヤリと微笑んだ。
「師匠…、裏をかくとは…?、どうやって…?」
ルイが彼に聞く。
「俺が今から教える胴技は、逆胴の逆胴だ」(笑顔で言う彼)
「逆胴の逆って…?」(ルイ)
「そう、つまり相手の右胴を打つ」(彼)
「それって、普通の胴技じゃない!?」(ルイ)
「当てる場所はな…」
ニヤリと言う彼
「師匠は、胴技は自ら打って出ると、先に面を喰らっちゃうからリスクが大きいって…ッ!?」(ルイ)
「面を打たれないで打てばよい」(彼)
「そんな事が出来るのぉ~!?」(ルイ)
「出来る!、さっき言ったろ、相手の裏をかくと、つまり相手も予想できない打ち方だから当てる事が出来る」(彼)
「打たれた相手が、すり抜けるのを邪魔して来たら?」(ルイ)
「それも大丈夫!、その邪魔をしようとする、相手側の習性もまた裏をかく…」
彼がそう言うが、ルイは困惑したまま無言で彼を見つめる。
「では、お手本を見せてやる。竹刀を一本貸してくれ」
そう言うと、彼は正眼の構えでルイの正面に立った。
「ルイ、今から俺が出す技を防いでみろ」
彼がそう言うと、少女は「分かった…」と頷き、竹刀を構えた。
無言で向き合う2人。
互いの切っ先が触れた。
次の瞬間、彼の竹刀が浮いた!
正面からその竹刀が鋭く伸びる!
ルイがとっさに打たれまいと、面を防ぐ!
バシッ!
「えッ!?」(ルイ)
「胴ッッ!」
彼が叫び左側へ抜けた!
唖然としながら、ルイが彼の方を向く。
すり抜けた彼が振り返り、残心の構え。
「どうだ?、決まっただろ?」
彼はそう言うとニヤリと笑う。
「これは…!?」
胴を打った後、逆方向へすり抜けた彼に、ルイが聞く。
※解説をしよう
彼がルイに仕掛けた胴技は、右へ抜けず、左側に抜けたのだ。
まず彼は、メン打ちのフェイントを仕掛ける。
相手は、メンを打たれない様に竹刀を上げた。
すると相手の右胴がガラ空きになった。
彼は竹刀を水平にせず、上から振り降ろして胴を打った。
弧を描く様に、上から竹刀を振り降ろし、インパクトする瞬間、更に手首を返し当てる。
竹刀は外側へえぐる様に打ち、良い音をさせる。
竹刀を水平にせず、メンの打ち方で攻撃したので、相手はカウンターのメンを打てない。
また、彼が逆を突いて左側へ(※打たれた方から見ると右側)抜けたので、進路を防ぐことも出来なかったのだ。
今まで受けた事のない、予想しえない動きの技だった為、やすやすと胴を抜かれてしまったのである。
「分かったか…?、どうやって俺が決めたか…」
ルイへの説明を終えた彼が言う。
「これなら、私でも決められるかも…ッ!?」
ルイの表情が晴れやかになる。
「俺はこの技で、上段構えの相手を何人も倒して来た。この技は、上段相手には非常に有効的な技と云えよう」
「だが、何度も言うが、この技は序盤に使ってはいけない。なぜならば、中段相手の時は、審判の好みによって判定が分かれるからだ」
「上段相手だと、すぐ一本取ってくれるのだが、どういうワケか、中段が相手だとそうじゃないみたいなんだ」
「恐らくだが、この左へ抜けるという行為が、ルール上、グレーゾーンな為、裁定に迷うみたいだな」
「だから試合の終盤で使うんだ。試合がきっ抗してて、時間切れが迫って来た時、審判の判定が緩くなる」
「そこへ、この技を出す。だからこの技は最後の切り札だ。依って秘密兵器の3番目に持って来た」
「ルイは、俺が教えた1番目と2番目の技で、塚原マリを仕留めるつもりで戦うんだ」
「もしどちらか1つしか決まらなかった時、または相手から一本奪われたときに、これを使え」
「いいな?、必ず終盤で出すんだぞ。そして延長に持ち込ませるなよ」
「延長になれば、もう武器は無い。延長になったらルイはマリに負ける。だから延長になる前に使え。いいな!?」
彼はそこまで言うと、持っていた竹刀をルイに戻すのであった。
それから彼は、ルイに胴技の打ち方を指導し始めた。
彼女がある程度、振れる様になると、今度は自分がルイの胴(防具)を着けて打たせてみる。
フェイントのかけ方や、打つタイミングをじっくり教えた。
そして時刻が19時になる頃、ルイの指導は終了した。
「よし!、いよいよ来週の土曜日が決戦だな!?」
彼がそう言うと、ルイは無言で頷いた。
「明日は土曜だから、俺との特訓は休みだ。土曜は部活、日曜は個人練習をしっかりやっとけよ。あと1週間しかないんだから…」(彼)
「うん…。どうもありがとう」(ルイ)
「じゃあ解散…」
彼がそう言うと、「あ!、ちょっと待って!」と、ルイが言う。
「どうした?」と彼が聞く。
「あの…、これ…」
そう言ってルイが防具入れから出したのは、ダルマ(サントリーOLD)の瓶であった。
「どうしたんだこれ…?」
ウィスキーボトルを手に取って、彼が聞く。
「お父さんが持ってけって…」(ルイ)
「へ?」(彼)
「いつも只で特訓してくれてるから、お礼に持ってけって…」(ルイ)
「ふふ…、そうか…、ありがとうな…。じゃあ、ありがたく受け取るよ」
彼はそう言って、ルイに微笑んだ。
彼はその夜、一緒に暮らすハルカと共に、OLDをウイスキーソーダでやった。
翌日
鎌倉駅近く郵便局前
彼はこの日、仕事帰りのハルカと待ち合わせをしていた。
時刻は午後4時を回っていた。
ハルカがそろそろ現れる頃である。
「あれ!?、師匠じゃない?、何してんの、こんなとこで…?」
そう言って、声を掛けて来たのは制服姿のルイであった。
「あれ!?、お前練習は…?」
突然現れたルイに、驚く彼が言った。
「いいじゃん!、買い物だよ。家に帰ったらやるよ…」
苦笑いでルイが言う。
「こーさん、お待たせ…」
そこへハルカが、そう言って現れた。
「あら?、あなたは、もしかして…?」
そして、ルイを見たハルカが続けて言った。
「師匠…、この女性(ひと)は…?」
ハルカを見たルイが彼に聞く。
「一緒に暮らしてるハルカだ…」(彼)
「ええええーッ!?、無職のくせに、オンナと暮らしてるのぉ~ッ!?」
「それって、ヒモって言うんでしょぉぉ~!?」(ルイ)
「お前なぁ…ッ」
ワナワナと震える彼。
「おねぇさん!、やめた方が良いですって!、働かない男と暮らしたって、ロクな事ないですよ!」
ルイがハルカにそう言うと、彼女は苦笑い。
「うむぁいぬぁぁ~~~ッッ」(彼)
※お前なぁ…と言ってます。
「ルイちゃんだっけ…?、この人はね…、ちょっとワケあって、今は休んでるの…、でも、大丈夫だから…」
苦笑いでルイに説明するハルカ。
その傍では、「うん、うん…」と、無言で頷く涙目の彼。
「だめだ…、完全に洗脳されてるわ…」
あっけに取られた顔をして言うルイ。
その言葉を聞いて、ガクッと崩れるハルカたち。
それから少し経って、彼がルイに言う。
「じゃあ俺たち、これから飲みに行くんで…!」
「お前、ちゃんと練習しとけよ…!」
彼がそう言って、若宮大路を歩き出そうとした時。
「あ!、師匠!、あれ何だろ?」と、ルイが言った。
「ん!?」
彼がそう言って見た方には、パトカーが赤いランプを点灯させながら停車している。
そして周りには、ひとだかりが出来ていた。
「何か事件かしら…?」
ハルカがパトカーを見つめながら、目をひそめる。
「ちょっと行ってみましょう!」
ルイはそう言うと、パトカーが停まっている路上へと小走りで向かった。
「おい!、待てよルイ!」
彼はそう言うと、野次馬の中に向かうルイを追いかけた。
「師匠、分かったわ!」
人ごみの中から出て来たルイが言う。
「何が?」(彼)
「犯人は、近頃この界隈で引ったくりを繰り返している、外国人の様ね」(ルイ)
「引ったくり?」(彼)
「ほら、あれを見て!」
ルイがそう言って指す方を彼は見る。
そこには、警察に涙目で事情を説明する老婆の姿があった。
「あのオバアさんは、お孫さんの誕生日プレゼントを引ったくられたみたいよ」(ルイ)
「ひでぇな…」
眉をひそめて彼が言う。
「犯人は、老人や女性、または子供を対象に引ったくりをしているそうで、警察の間では、“トンビ”と呼ばれているみたい…」(ルイ)
「トンビ!?」(彼)
「現場がいつも湘南で、また、物盗りのターゲットが、トンビと同じだからだそうよ」(ルイ)
「なるほどね…、確かにそれはトンビだわ…」
彼の隣に立つ、ハルカがルイに言った。
「犯人は東南アジア系の外国人という事以外は、警察も手掛かりが、まったく無いそうよ」(ルイ)
「お前、誰に聞いたんだ?、そんな事…」(彼)
「このオジサンです」
ルイはそう言うと、野次馬の中から一人の男性の袖を掴んだ。
男性が振り返る。
「あれ!?」
その男性を見た彼が言う。
「おお!?」
彼を見た、その男性も言う。
「サンボ!、サンボじゃねぇか!?」(彼)
「こーさん!、何でここに!?」
男性も彼を見るなり言う。
サンボは、彼の大学時代の友人であった。
ややぽっちゃりで、本名はクマガイというのだが、プロレスラーのサンボ浅子に顔がそっくりな事から、仲間うちからはサンボと呼ばれていた。
サンボは見た目の強面とは裏腹に、クリスチャンであった。
当時、東京の昭島に住んでおり、確か駅前にある、“酒泥棒”というスナックの常連客であった。
※現在は、閉店している。
夏は、彼の学生時代のバイト仲間であった、タカやヤスと共に伊豆の今井浜へ一緒に泊まりに行った事もあった。
さて、この男は不思議な事に、彼と街中で偶然出会う事が多かった。
ある日、社会人になった彼が、赤坂の一ツ木通りのコンビニに入ったら、エロ本を立ち読みしていたサンボに偶然再会した(笑)
また、彼が地元のGSに寄ったら、そこの従業員として転職したサンボに再会した事もあった。
そんな事もあって、学生を卒業してからも、たまにサンボと会って酒を飲みに行く事もあった。
ある時、サンボと終電まで居酒屋で飲んだ日の事だ。
翌朝、深夜2時頃に、サンボから着信歴があったのに彼は気づく。
「こんな夜中に、何だったんだ?」と、サンボに電話をする彼。
するとサンボは、身元引受人として警察署まで来て貰おうと思って、彼に電話したとの事だった。
「何だそりゃ!?」と、彼がワケを聞くと、あの夜、酔っ払らったサンボが駅で暴れたそうで、警察に連れて行かれて留置所で一晩過ごしたとの事だ。
何でも、終電が行ってしまった事にハラを立てたサンボは、こともあろうに駅員さんに八つ当たりして蹴っ飛ばしてしまったらしい…、ほんとアホである。
社会人になってから、サンボと海に行った事もあった。
茅ヶ崎に現地集合したところ、サンボは何やら大荷物を持って現れた。
その時、サンボが社会人になってから、カイトサーフィンを始めた事を初めて知った。
カイトサーフィンとは簡単に言うと、水上スキーの要領で、大きな凧に引かれて海を滑走するマリンスポーツだ。
茅ヶ崎のすぐ近くの、平塚湘南大橋の辺りがカイトサーフのスポットらしく、サンボはその道具を持参して来たのだった。
彼はサンボの顔を見ると、そんな当時の事を思い出していた。
「ふふ…、懐かしいな…、ところでサンボ、お前なんでこんなトコに居ンだよ?、カイトサーフィンの帰りか?」
彼がサンボに尋ねる。
「いや違う…、俺、今は逗子に住んでンだよ」
サンボが応えた。
「昭島から越したのか?」(彼)
「うん」(頷くサンボ)
「何でまた逗子に?」(彼)
「俺さ…、小型船舶の1級を取ったんだ…。それで今、Hマリーナで働いてる」(サンボ)
「そうなんだ?、スゲェな…。Hマリーナなんて、一流じゃねぇか」(彼)
「まぁな…」(苦笑いのサンボ)
「よく入れたな、その顔で…(笑)」(彼)
「顔はカンケーねーだろッ!」(サンボ)
「ははは…、でも、似つかわしくないのは確かだ…(笑)」(彼)
「こーさん、隣の彼女は?」
するとサンボは、彼の隣に立つハルカの事を聞く。
「ああ…、ハルカだ…。一緒に鎌倉で暮らしてる」
そう言ってサンボにハルカを紹介した彼。
ハルカも笑顔でサンボに会釈する。
「マジィィ~ッ!?、いいなぁ~~~ッ!」(サンボ)
「お前、カノジョは?(笑)」
サンボに、カノジョが出来たのかを聞く彼。
「いねぇよ」
顔をしかめるサンボ。
「“酒泥棒”のアキちゃんは?(笑)」
当時、サンボがお目当てにしてた“酒泥棒”というスナックの、女の子の事を彼が聞く。
「ははは…、懐かしいなぁ“酒泥棒”…(笑)、あのコは結局ダメだったよ(苦笑)」(サンボ)
「やっぱ無理だったか…、その顔で…(笑)」(彼)
「顔はカンケーねーだろッ!」(サンボ)
「顔は関係あると思いますよオジサン」
その時、ルイが会話に割って入る。
「おい、この子は誰だ?」
ルイを指しながら、彼との関係性を聞くサンボ。
「ああ…、この子はルイって言ってな…、俺の弟子だ」(彼)
「弟子!?」(サンボ)
「ワケあって、今、剣道を教えてる」(彼)
「ふぅん…、そうなんだぁ」(サンボ)
「なぁサンボ、例の引ったくり犯の事なんだけど…」(彼)
「トンビの事か?」(サンボ)
「ああ…、そのトンビってやつは外国人なのか?」(彼)
「みたいだな…。東南アジア系らしいぜ…」(サンボ)
「だったら、すぐ捕まりそうなもんだけどな…」(彼)
「あのさ…、今このご時世、どれだけ多くの外国人が住んでると思ってんだよ」
ちょっと呆れて、サンボが言う。
「多いのか?」(彼)
「多い、多い!、不法滞在中の外国人を入れたら、ここ数年で、どんどん増え続けてるよ」(サンボ)
「そうか…、トンビも恐らく不法滞在中の外国人だから、身元が分からないんだな…」(彼)
「ねぇ師匠、なんで不法滞在の外国人が増え続けてるの?」(ルイ)
「捕まえても強制送還できないからだよ」(彼)
「強制送還って…、その外国人の国へ戻すって意味?」(ルイ)
「そう…、強制的に…(苦笑)」(ルイにそう言う彼)
「何で外国へ戻せないの?、なんで不法滞在するの?」(ルイ)
「なんだよ面倒くせぇなぁ…。じゃあ下に解説を書くから、それを読め」(彼)
※解説をしよう
元々は留学や出稼ぎで日本にやって来た外国人であったが、在留期限が切れてしまっても、そのまま行方をくらまして日本に住み続ける外国人たちを不法滞在者という。
中には、日本に来ても、そのまま学校や企業に出向かず、そのまま行方をくらます者も多い。
そんな彼らの中には、元々、母国を追われて逃亡して来た犯罪者が、全体の3割を占めているとも云われている。
また犯罪者でなかった外国人も、行方をくらました事で、まともな就労に付けず、犯罪に手を染めてしまう者もいる。
「ふぅ~ん…、そういう事かぁ…」(ルイ)
「分かったか?、なぜ不法滞在する外国人が犯罪を犯してしまうのか?」(彼)
「だったら何で捕まえて外国へ還さないの?、どんどん不法滞在者が増えちゃうじゃない?」(ルイ)
「母国に還れば、死刑になってしまう犯罪者がいるから、日本に残りたいと駄々こねるんだ」(彼)
「駄々こねれば、日本に残れるの?」(ルイ)
「それが、残れちゃうんだよなぁ…(苦笑)」(彼)
※解説をしよう
先日(2023年)、入管法の改正が国会でやっと成立した。
まだまだぬるい法案であるが、難民申請が2回までと変更されたのだ。
この小説の舞台となっている2013年当時では、難民申請の回数は無限となっていた。
強制送還を逃れる方法とは、不法滞在する外国人たちが逮捕された後、自分たちは難民であると、難民申請を行うのだ。
当時の入管法では、難民申請中の外国人は送還されない。
そのため入管庁は、在留資格がなく送還対象であるにもかかわらず、難民申請を繰り返しながら日本に留まり続ける外国人の存在を問題視していた。
「だったら、その逮捕された外国人を、難民と認めなければ良いじゃない?」
ルイが当たり前の疑問をそう彼に聞くと、ハルカも彼に続けて聞いた。
「そもそも、その外国人は難民なの?、難民っていうのは、国で内戦が勃発して逃げて来た人たちの事でしょ?」(ハルカ)
「日本は海に囲まれてるから、飛行機や船を使わないと、ここには来れないんじゃないの?」(ハルカ)
「そうしたら、お金が無い人は日本に来れないんだから、そもそも、その人たちは難民にはならないでしょ?」(ハルカ)
「良い質問ですねぇ~~!(苦笑)」
彼がそう言うと、ルイが「池上アキラか!?」と、突っ込む。
「立憲民社党とかの野党が、何を考えてんだが分からんが、不法滞在中で捕まった外国人のところまで、わざわざ面会しに行って余計な事を吹き込むんだよ」
「難民じゃなくても難民申請すれば申請を受理してくれるから大丈夫だと」
「難民申請中は、強制送還できないから申請しろって持ち掛けるんだよ」(彼)
「何の為に?」(ハルカ)
「分からん?…、瑞島福穂(※国会議員)に聞いてくれ…」(彼)
「だから難民って認定しなきゃ良いじゃない?」(ルイ)
「申請回数は無制限なんだよ。だからダメだったら、また申請する。それがダメでも、また申請する」
「申請中は、強制送還されないから、それを延々と繰り返されちゃうんだ」(彼)
「じゃあ、そういう不法滞在する外国人が増えちゃうじゃない?」(ルイ)
「だから、どんどん増え続けてるって言ってンじゃん!」
「結局、仮釈放になった彼らは、食べて行く為に働かなきゃならないから、また犯罪に手を染めてしまう」
「それに伴い、日本の治安もどんどん悪化して行く…」(彼)
「なんで、そんなバカげた法律を改正しないの?」(ハルカ)
「しようとしても、野党やメディアが反対して法改正できないんだよ」(彼)
※それで、先日やっと法改正されました。
「なんで野党は反対するの?」(ハルカ)
「分からん…。立憲民社に聞いてくれ…」(彼)
「師匠って、法律に詳しいんだね?」(ルイ)
「一応、法学部卒なもんで…」
彼はそう言うと、苦笑いをするのであった。
「ところでさ…。俺、明日の朝、初めて単独航行するんだよ」
話がひと段落したところで、サンボが彼に言う。
「初めて?」(彼)
「うん…、俺まだ研修中だから…」(サンボ)
「そうなんだ…」(彼)
「こーさん明日の朝、Hマリーナに来ないか?、明日は日曜だろ?」(サンボ)
「ああ…別に構わんが…」(彼) ←※無職だから、いつでもOK(笑)
「只でクルーザーに乗せてやるから、航行に付き合ってくれよ!、カノジョも一緒で良いからさ…」(サンボ)
「ホントですかぁ!」(ルイ)
「お前じゃねぇだろ!、ハルカの事だ!」
彼がルイにすかさず言う。
「ああ…、その子も連れて来て構わないよ」
ルイを見て、サンボが言った。
「やったぁ~!」(ルイ)
「お前、練習はぁ~!?、対抗戦まで、あと1週間なんだぞぉ!」(彼)
「じゃあ竹刀持って来るから…、クルージングが終わったら、すぐ練習するから…、師匠も一緒に指導して!、それなら良いでしょ?」(ルイ)
「あのなぁ…」(彼)
「私、あと2週間で転校するんだよ!?、引っ越し先には海が無いの!、この町の海で、最後の思い出を作りたいのッ!」(ルイ)
「いいじゃないの…、明日、こーさんも剣道の練習に付き合ってあげれば…」
ハルカが彼をたしなめる。
「うう~ん…。ちッ…、分かったよ!、じゃあ、クルージングが終わったら、すぐ練習するからな!」
彼がそう言うと、ルイは「ひゃっほ~♪」と跳ねながら言った。
「それじゃ決まりだな?、明日の朝8時にHマリーナの前で集合だ」(サンボ)
「おう、悪りィな…。じゃあ明日、よろしく頼むわ…」
彼がそう言うと、それぞれが、その場から解散するのであった。
翌朝 Hマリーナバス停前
バスが到着すると、彼とハルカ、そしてルイが中から降りて来た。
彼は、BEAMSのポロにベージュのアンクルパンツ。
ハルカは、BILLABONGのラッシュガード仕様のTシャツに、ホワイトデニムのショートパンツ。
ルイは相変わらず、竹刀袋を肩に掛けた制服姿であった。
時刻が8時になろうとした頃、原付に乗ったサンボが現れた。
「お~!、お待たせ~!」
サンボはそう言いながら、スクーターをマリーナの駐車場へ止めた。
メットを取るサンボ。
彼はHマリーナのロゴが入ったポロシャツに、短パン姿であった。
「おう!、おはよう」
彼がサンボにそう言うと、後ろにいたハルカとルイも頭を下げた。
「さぁ、こっちに来てくれ…」
サンボはそう言うと、クルーザーが停泊している方へと案内した。
「すぐ準備するから、ちょっと待っててくれな…」
歩きながら隣の彼に言うサンボ。
どうやら、出航前のメンテナンス状況をチェックする様である。
「お前、事故起こすんじゃねぇぞ…」
彼がそう言って苦笑いする。
「ははは…、そん時は、道連れだ(笑)」
サンボがそう言って笑う。
「ねぇ、ハルカさん…、サンボのやつ、初めて単独航行するって言ってましたよねぇ?、大丈夫なんですかねぇ?」
サンボのセリフを聞いたルイが、後ろから小声で言う。
「大丈夫よ!」
笑顔でハルカが応えた。
その時であった。
マリーナの外から、何か声が聞こえた!
「ああッ!」という、叫び声の様に聞こえた男性の声。
「何かしら?」
ハルカが、声のした方へ振り返る。
「どうしたぁ~?」
少し前を歩いている彼が、ハルカに聞いた。
「なんか、あっちの方で声が聞えたのぉ!」
ハルカが彼に言う。
「声?」(彼)
「叫び声みたいな声」(ハルカ)
「叫び声ぇ!?」(彼)
「わたし、ちょっと見て来ます!」
ルイは、そう言うとマリーナの外へと走り出した。
「あ!」
マリーナを出たルイが声を上げる!
それは、バス停で老人と外国人が、バッグの引っ張り合いをしていたからだ!
老人のバッグを強引に引っ張る外国人。
それを奪われない様、必死に抵抗する80代くらいの細身の男性。
ルイは瞬時に、これは引ったくりの犯行だと理解した!
「師匠ーッ!、引ったくりですぅーッ!、トンビですッ!、トンビが現れましたぁ~~ッ!」
彼の方へ振り返り、そう叫ぶルイ。
少女は、外国人が東南アジア系に見えたので、そう叫んだのだった。
「何ッ!?」
彼はそう言うと、急いでルイの方へ走り出した!
その間も、バッグの引っ張り合いをしている両者!
疲れてきた老人が、トンビにバッグを奪われそうになった瞬間であった!
「コテーーーーッッ!」
そう叫んだルイの竹刀が、トンビの手の甲を力強く打った!
ビシッ!
「ウワッ!」
痛みでバッグの肩紐から手を離すトンビ!
老人は、そのままバッグを自分の方へと引き寄せた!
「イヤァァァーーーッ!」
続けてルイは、トンビの顔面を竹刀で打つ!
バシッ!
「イタァッ!」
片言の日本語でそう叫ぶトンビ。
「おじいちゃん、大丈夫?」
ルイが後ろの老人にそう言うと、男性はコクリと頷いた。
再びトンビの方へ向くルイ。
やつは額を手で押さえながら、怒りの表情をしている。
それを見たルイが、トンビの顔目がけてまた竹刀を振り上げた!
「イヤァァァーーーッ!」
ガシッ!
ところが、今度は竹刀の先をトンビに捕まれてしまった!
「あ!」
ルイがそう言うと、竹刀を握るトンビがニヤッと笑う。
絶体絶命だと思った、次の瞬間!
ドカッ!
現場に着いた彼が、トンビの背後から横蹴り!
「アウッ!」
そう言って膝をつくトンビが、竹刀を手から離した!
「バカヤロウッ!、なんて無茶しやがるんだぁッ!」
彼がすぐさま、ルイを怒鳴る。
「現代剣道の技は、実戦では突きくらいしか通用しないと言ったろぉぉッ!」
まだ、突き技を解禁されていない中学生のルイに、彼は言う。
「師匠ッ!」
ルイがそう言って、彼の背後のトンビを指す!
すぐ彼が振り返ると、立ち上がったトンビは腰ポケットから刃物を取り出して、こちらへ向けていた。
「貸せ…」
そう言って、ルイから竹刀を受け取る彼。
「下がってろ…」
目の座った彼が、トンビを睨みながら、後ろのルイたちに静かな声で言う。
「こーさんッ!、やめてッ!、ムチャよッ!」
それを見ていたハルカが叫ぶ。
「俺!、警察に電話する!」
サンボはそう言って、スマホを取りにマリーナの中へと走り出す!
(あなたは、左手が使えないのよ…ッ!、片手では、剣道の技が使えないのよッ!)
右手1本で、竹刀を握る彼を見てたハルカは、そう思う。
※解説をしよう
剣道技の起点は、全て左手から始まる。
左手を正中線からずれずに技を繰り出すのだ。
右手1本では、攻撃の正確さも、防御の安定さも失われてしまう。
(くそう…、突きを喰らわしてやりてぇが、右手だけだと間合いが、かなり短くなっちまう…)
(それに右手だけで、果たして上手く命中できるのか…ッ!?)
突き技は片手でも両手でも、左手がブレずに繰り出す事で命中させる。
右手から突きを放つという初めての行為に、彼はためらうのだった。
(外したら殺られる…、だが、やるしかねぇ…)
(こうなったら、やつと刺し違えてでも、突きをキメてやるッ!)
睨み合う両者。
その時、遠くからパトカーのサイレンが聴こえた!
ギョッとする、トンビ。
恐らくサンボが警察に電話したところ、近くを巡回中のパトカーへ無線が入ったのだろう。
そしてトンビが、その場から走り去る!
「あ!、待て、このヤロウ!」
彼はそう言ってトンビを追う。
トンビは、数十メートル先の小浜海岸の方へと走って行く。
「くっそー!、サンダルだとスピードが出ねぇッ!」
彼がそう言いながら懸命に走る!
彼の後ろから、ハルカとルイも追っていた。
しかし、彼女らもサンダル履きであり、トンビにどんどん距離を離されてしまうのだった。
小浜海岸にトンビが入って行く。
やや遅れて到着する一同。
すると遠くから、「うわッ!」と叫ぶ男性の声!
「あ!」
砂浜に駆け下りた彼が見た先には、刃物で脅されたジェット・スキーヤーから、水上バイクを強引に奪うトンビの姿であった。
バオンッ!、バオンッ!、バォォオオオーーーーンンッ!
トンビがその水上バイクで逃走する。
それを見て「ああ…、俺のジェット・スキーがぁぁ…」と、涙ぐんで見つめる被害男性。
「あのヤロウ…、ジェット・スキーに乗れるのかぁ…」
悔しそうにトンビを見つめる彼。
「という事は、少なくとも特殊小型船舶は持ってるって事ね」
横に立つハルカが海を見つめて彼に言う。
※特殊小型船舶免許:水上バイク限定の免許
「お~い!、どうなったぁ~!?」
大分遅れて、サンボが海岸に現れた。
「あいつ、ジェット・スキー奪って逃走したわよ」
ルイがサンボに言う。
「おい!、あんた大丈夫だったか!?」
それを聞いたサンボは、被害男性に駆け寄って言った。
「大丈夫じゃないよぉぉ…、俺のジェット・スキー…」(涙目の男性)
「ガスは、どんだけ残ってた!?」(サンボ)
「へ?」(被害男性)
「ガソリンの残量だよ!」(サンボ)
「ああ…?、散々乗り回してから戻ったんで、10リッターも残ってないと思うよ」(被害男性)
「そうか…、じゃあやつは、そう遠くには行けないな…」(サンボ)
「どうした?」と、彼がサンボに聞く。
「あのな…、水上バイクってのは、リッターで2Km走れる。満タンで30リッター入るが、今のハナシだと残り10リッター切ってる感じだ」(サンボ)
「ほぉ…」(彼)
「あいつ、今、逗子方面に逃走したろ?、今頃、燃料メーター見て、ビビってるはずだ!」
「だからやつは、必ず付近の海岸で停泊して、そこから陸路で逃走すると思う!」(サンボ)
「なるほど!」(彼)
「その為に、やつはどこで降りるべきか考えながら、海岸線沿いの海を走るだろう…」
「海岸線沿いに走ってたら、どんなに頑張っても江ノ島まで行けるかどうかだ」(サンボ)
「よし!、やつを追おう!、サンボ!、クルーザーで追走だ!」
彼がそう言うと、全員は急いでHマリーナーへ駆け戻るのであった。
Hマリーナ正面に戻って来た4人。
そこでは、先程の老人が警察に事情を説明していた。
「ねぇ、こーさん!、私は海岸線からバイクで追跡するわ!」
マリーナ入り口前に戻るなり、ハルカがいきなり言う。
「バイクって…、君、乗れんのか?、俺は自転車に乗ってるハルカしか見た事ないんだが…」
困惑する彼。
「だって、普通自動車免許持ってたら原付乗っても良いんでしょ!?」(ハルカ)
「免許持ってたんだぁ?」(彼)
「ペーパーだけど…(苦笑)」(ハルカ)
「はあい!?」(彼)
「サンボさん、スクーター貸してッ!」(ハルカ)
「え?、ああ…」
そう言ってキーを渡そうとするサンボ。
「ばかッ!、渡すなぁッ!」
彼がサンボに言うが、ハルカは素早くキーを奪い取ってエンジンを始動!
「じゃあ、海岸線であいつを見つけたら、後で電話するッ!」
そう言ってメットを被り、バイクに跨るハルカ。
「ああッ!、ちょっとッ!」
呼び止める様に、手を前に出す彼。
「じゃあねッ!」
ハルカはそう言うと、スクーターを急発進させた。
ブロロロロ……ッ
走り去るハルカ。
あっけに取られ、その姿を見つめてる彼。
「ああ…ッ。ったく…ッ!」
「こうしちゃいられねぇ!、サンボ!、こっちも急いで向かうぞッ!」(彼)
「私も行くッ!」
その時、ルイが彼に言う。
「お前はダメだ」(彼)
「何でよぉ!?」(むくれるルイ)
「あれを見てみろ…」
そう言って、警察に説明している老人を指す彼。
「あの状態じゃ説明になってない」
パニくって、しどろもどろの老人を見て言う彼。
「お前なら警察に状況を詳しく説明できる…。犯人の顔や特徴も、1番近くで見てる」
彼が、老人と警官を見つめているルイに言う。
「ルイが、トンビは海へ逃げたと話せば、海上保安庁に連絡してくれるはずだ」
「だがそれじゃ間に合わない可能性もある。だから俺たちは、先にやつを追う」
「いいか?ルイ…。これも大事な役目だ。出来るな…?」
彼がそう言うと、ルイは無言で頷いた。
「よし!、サンボ、急ごう!」
彼はそう言うと、クルーザーが停泊してる場所まで駆けだした。
一方、ハルカは、R134号に合流して逗子に入っていた。
渚橋をバイクで走るハルカ。
「いたッ!」
橋の上から眺める逗子海岸の先。
水上バイクで海を走るトンビを見つけた!
「サンボさんの言った通りだわ…。やっぱりアイツは、海岸線沿いに走らせながら、陸へ上がる場所を探してるッ!」
海上のトンビを見つめながらハルカが言った。
場面変わって、Hマリーナ
「よし!、出航だぁッ!」
コクピットに着くサンボが、後ろに立つ彼にそう言うと、クルーザーはエンジン音を上げながら、ゆっくりと動き出した。
(急げ急げ急げ…ッ!)
港を出た船から、まっすぐと海を見つめる彼は、逸る気持ちを懸命に抑えるのであった。
場面は再び、R134号を疾走するハルカ。
正面左に、大崎公園がある小山が見えて来た。
「まずいッ!、海が隠れるッッ!!」(ハルカ)
スロットルを全開にするハルカ。
そして山壁で海が隠れた!
「早く早くッ!…、あいつを見失うッッ!」
ハルカが言うと、バイクは伊勢山トンネルへと吸い込まれて行く。
薄暗いトンネルのオレンジランプが流れて行く。
普段は気にしなかった伊勢山トンネルの長さが、今は妙に長く感じるハルカ。
やっとトンネルを抜け出た!
しかしR134号は、防音壁に遮断されて海が見えない!
「まずいッ!、見失うかもッ!?」
いら立つ中、防音壁に囲まれたR134号を懸命に走るハルカのバイク。
そうこうするうちに、再びトンネルが現れる。
しかし今度は短い、飯島トンネルだ。
トンネル出口が近づく!
ここを抜ければ鎌倉市内だ。
トンネルを抜けるハルカ。
左側には、材木座海岸が広がる。
「あ!、いたッ!」
ハルカがトンビの水上バイクを発見!
しかしトンビは海岸線からかなり離れた沖合を走っていた。
「という事は、この先の海岸に向かってるってことッ!?」
材木座海岸横を疾走するハルカが、考える。
「このままじゃ追いつけないまま、稲村ガ崎から七里ヶ浜の海岸から逃げられる…ッ!」
「ハッ!…、そうだッ!」
材木座と由比ヶ浜が繋がる頃、ハルカが何かを閃いた!
ハルカは滑川橋を越えると交差点横にすぐある、魚藍観世音の石碑の場所にバイクを入れて停めた。
そして、そこから由比ヶ浜の海岸へと素早く駆け下りて行った。
スマホを手にするハルカが、小走りで海岸に向かう。
海岸では、ウィンドサーファーが数名、砂浜に座ってくつろいでいた。
場面変わって、海上を航行するクルーザー。
デッキは物凄い風圧だった。
クルーザーは時速50Kmで猛追していたからだ。
※体感速度は3倍になる。
その時、携帯がブルブルと震えた。
「あ…!、ハルカからだ…」
彼がそう言って受電する。
「もしもしッ!、こーさんッ!?」
ハルカが早口で言う。
「おう!、俺だ。君は今、どこだ?」
右耳を塞ぎながら、デッキ下に移動して喋る彼。
「由比ヶ浜の海岸ッ!、あなたは今、どこ!?」(ハルカ)
「今、マリーナを出たところだ…。右に逗子海岸が見える」(彼)
「そう…、じゃあ、こーさんたちは、そのまま迂回せずに真っ直ぐ行ってッ!」(ハルカ)
「真っ直ぐ?」(彼)
「トンビは、材木座と由比ヶ浜に近づかずに、真っ直ぐ進んで行った!」
「残燃料から、やつは稲村ガ崎から七里ヶ浜の間で陸に必ず上がる!、だから、そのまま海をまっすぐ行って!」(彼)
「分かった…」(彼)
「私は今からウインドで、やつの航路を妨害するッ!」(ハルカ)
「ウインド…!?」(彼)
「ええ!、私が海からウインドで回り込んで、あいつを陸に上げさせないッ!」
「私が時間稼ぐから、その間に、あなたたちは、こっちに来てッ!」(ハルカ)
「ハルカ…、ウィンド出来るのか?」(彼)
「じゃあねッ!」
そう言って素早くスマホを切るハルカ。
「ああッ!、ちょっとぉッ!」
切電された彼が叫ぶ。
「なんだよぉ、あいつはぁ~…」
無茶を繰り返すハルカに呆れ気味の彼が言う。
彼は操縦席へ移動するとサンボに言った。
「サンボ!、稲村ガ崎だ!、トンビはそっちに向かってる!、急げッ!」
「りょ~~~かい~~~~~ッ!」
サンボがそう言うと、クルーザーは更に加速した。
一方、由比ヶ浜海岸のハルカは…。
「ねぇ、ちょっとあなたたち…」
砂浜でくつろぐウィンドサーファーに話し掛けるハルカ。
彼らは近くのウインドサーフショップのスタッフたちであった。
「あ!、ハルカさん!、コンチワ~スッ!」
振り返ったスタッフ男性の1人がハルカを見て言った。
「ねぇ、ちょっとこれ借りていい?」
彼らのウィンドを指してハルカが言う。
「え!?、まぁ、良いッスけど…」(スタッフ男性)
「ありがとう…」
ハルカはそう言うとウィンドを海へと運ぶ。
「ハルカさぁ~ん。ウィンドやってましたっけ?」(スタッフ男性)
「いいえ…、友達がやってるとこ見ただけ…」
そう言ってセイルアップするハルカ。
「ええッ!、大丈夫ですかぁッ!?、出来るんスかぁ~ッ!?」(スタッフ男性)
「多分…」
彼らに振り返り、涼しい表情のハルカ。
「多分ッ!?」(スタッフ男性)
「私…、アスリートだから…」
ハルカは静かに言うと、そっと微笑む。
「あ!、ちょっとぉッ!」
スタッフが言うが、ハルカはウィンドをスタートさせる!
ザバッ
海に浮かぶウィンド。
ハルカが思いっきり反り返り、セイルに風を当てた!
ザーーーッ
ウィンドは動いたと思ったら、どんどん加速して行った。
「うぇぇッ!、すげぇッ!」
急発進して行ったハルカを見つめて、ウィンドサーファーたちは、驚きを隠せないのであった。
To Be Continued…
※今回はここまでです。続きは、次回最終話にて!
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いつだって… H・A・G・S! 1話
いつだって… H・A・G・S! 最終話