池井戸潤さんの『俺たちの箱根駅伝』上下巻 | 原稿用紙

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田中章義オフィシャルブログ

池井戸潤さんの『俺たちの箱根駅伝』上下巻を

昨日、読み終えた。

 

國學院大學で教鞭をとるまでは

毎年、視聴者として楽しみに見ていた日本テレビ系列の「箱根駅伝」。

 

大学の教員となり、

授業を受けている学生たちが

実際に箱根路を走るようになると、

毎回、親戚のような気持ちで、

ただ体調の異変をおこすことなく、

無事で、元気に

これまでの努力を生かせますように、

ひとりひとりがベストを尽くせますように、と

祈るのみだ。

 

楽しむ、というのとは少し違っている。

怪我がなく、バトンが全校しっかりつながったら、それがまずうれしい。

 

幾重にも感情移入をしながら、

見つめている、毎年の唯一無二の物語。

 

JR田町駅付近の歩道橋で

そっと応援するのがいつものスタイルだ。

 

ここ数年は、大学の学生たちに

「走る』をテーマに短歌を詠んでもらい、

それを踏まえた歌詞の型式にまとめることを

毎年やっている。

 

下記は

ある年の学生たちが

12月に詠んだ短歌だ。

100名ほどの学生が詠んだ作品から

35首ほどをピックアップした。

 

國學院大学・駅伝部へのエール

一・走り抜け!仲間とともに挑むレース襷をつなぐ願いを込めて

二・湧きあがる声を力に走り抜け 流れる汗が輝く君へ

三・新年の初雪とともに観る駅伝 優勝確信魅せろ大躍進

四・プライドと青春賭けた二一七、一 km止まるな足よ止まるな息よ

五・先見えぬ置いていかれる悔しさを 先頭駆ける嬉しさへ

六・翌朝の新聞一面大見出し國學院の名誇りに思う

七・二日間紡ぐは十人 だけど十以上もの思いを抱えて

八・光る汗努力の証輝いて走る姿は星のようだ

九・陸上部耳を澄ませて聞いてくれ力がみなぎる俺らの声援

十・巻き起こせ自分を信じて選手たち箱根駅伝で国学院旋風

十一・最後まで応援を背に走り切る踏み出す一歩力強く

十二・朝靄の中に紛れる呼吸音上ればそこには開けた景色が

十三・一瞬で選手たちが過ぎていく初めて旗振った六歳の冬

十四・握る汗一人ではなく全員と心を一つにタスキをつなぐ

十五・着実と一歩一歩前進し誰よりも早く駆け抜けるテープ

十六・前を向き仲間と繋ぐたすきには色んな思いが込められている

十七・終盤で力出すには応援だ皆気付けば両手合わせる

十八・今までの練習の日々胸に留め全てをばねに走り出すのさ

十九・今までのすべてを込めて走り出せ夢に向かって未来の自分へ

二十・駆け抜ける走るあなたに届けたい精一杯の全力エール

二十一・今だ行け國學魂突っ走れ練習の日々悔いないように

二十二・走りだせ前だけを見て走り抜けその未来には栄光がある

二十三・風神は意思あるもののところに来る 睦月の風と共に走れ

二十四・いざ箱根吹奏楽部現地で応援しますタスキリレー

二十五・朝練で感じる陸上の忍耐力、箱根の道を駆け抜け夢へ

二十六・ライバルに囲まれ走る険しい道 心は仲間と共に走りきれ

二十七・紫のたすきをつなぐ箱根みち勝利を信じ声援送る

二十八・その風はたくさんの人を勇気づける人事は尽くした天命待つのみ

二十九・地面蹴り踏み出していくその一歩襷に繋げ未来に繋げ

三十・守るべき伝統と打ち立てる革命走れ韋駄天駅伝賛歌

三十一・駆け抜けろ勝利をつかめ國學院手にして見せろ全国制覇

三十二・普段ならただの道路や足が今ただの道路や足ではないのだ

三十三・駅伝部、毎日ひたすら走りこみ、これまでの努力を実らせてくれ

三十四・汗流し走り続けたその先の初優勝はもう目の前だ

三十五・見てみたい栄光掴む瞬間を想いを繋ぎ歴史を創れ

 

1年生から4年生までがいる授業で詠んでもらった作品を

そのままピックアップした。

それを組み合わせて、

Aメロ、Bメロ、サビ、大サビの歌詞の形態にしたものが下記だ。

別の年のものを紹介したい。

 

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歌詞バージョン(案)①

 

友の汗染み込んだ襷(たすき)握りしめ

いざ目指しゆく天下の嶮(けん)を

長い道めざすゴールは遠くとも

友の気持ちと共に駈けゆく

 

立ち止まり振り返りまた走り出す

背中を押されるあの日の自分に

努力して走り続けるその姿

きっと誰かが応援している

 

絶対に走り抜けるぜこの道を

無駄にはしないみんなの思い

やりきった

これまでの日々の締めくくり

あとは託した後輩たちに

 

めざす場所は

ゴールだけじゃない

最高の

ステージをこの仲間とめざす

 

絶対に走り抜けるぜこの道を

無駄にはしないこれまでの日々

どこまでも走っていくよこの道を

みんなで走るこの道だから

 

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毎年、学生たちが詠み、歌詞化した

駅伝部へのエール短歌の曲バージョンが

数年分、蓄積されている。

 

学生それぞれが、

自分なりの歌詞の展開をまとめるので、

上記のような一般的なものはもちろん、

全く違ったものも生まれてゆく。

 

池井戸潤さんの

『俺たちの箱根駅伝』上下巻を読みながら、

なぜかこの、まだ歌詞バージョンが曲になったものが、

心の耳に、聴こえてくるようだった。

 

実際にあるレースを踏まえ、

フィクションの体裁をとりながらも、

彼らの心情に迫った小説。

何度も感情移入しながら、読み進めた。

作者から、学生ランナーたちへの

尊い贈りものでもあるのだと思う。

走る選手たちはもちろん、

忘れ難い大人が何人も登場する小説だった。

まだ初版本なので、

これから読むたくさんの読者のために

内容の詳細には触れないけれど、

ベテランアナウンサーとして描かれる辛島アナの実況には

きっと多くの読者が心を揺さぶられることだろう。

 

来年の正月に向け、

学生たちのチャレンジはもうすでに始まっている。

授業で会うたびに日焼けしていく彼らが、

心おきなく、いいチャレンジができるよう、

今後も、学生たちの生活に丁寧に伴奏していきたいと思っている。