日経新聞の取材を受けました。 | 生殖医療専門医・内視鏡手術技術認定医 田中雄大のブログ

生殖医療専門医・内視鏡手術技術認定医 田中雄大のブログ

神奈川県藤沢市の不妊治療・産婦人科「メディカルパーク湘南」の院長、田中雄大のブログです。
体外受精や内視鏡手術のことから雑感まで、日々の記録を綴っております。

日経新聞から取材を受けました。

2月に、分娩の保険化についての意見を聞きたいとのこと。

 

分娩を保険適用をしたら、何が起こるのでしょう?
 

大げさではなく、現在の日本の産科医療は早晩崩壊すると思います。


現在、日本の周産期死亡率は世界でもトップレベルの低さです。2023年の妊産婦死亡率をご紹介します。対10万人当たりの妊産婦死亡数は、アメリカでは21人、イギリスは10人、カナダは11人となっています。一方の日本はどうでしょう。対10万人当たり約4人となっています。アメリカの5分の1しかありません。それほど分娩の安全が担保された国ななのです。

 

私たちは、「正常分娩は病気ではないから、保険証は使えない。だから分娩は自費診療になる。」と教育されて来ました。現在の日本の世界最高水準の周産期医療は、その自費診療を前提として発展したものです。

 

分娩が保険化されると、都会部の9割の産院は分娩の取り扱いを止める事になるだろう、と言われています。どんなに高い保険点数を付けられても、保険化する以上、国から一律の算定基準を求められるため、家内工業的にやって来た昔ながらの産院は対応出来なくなる可能性が高くなるからです。体外受精の保険適用化の経験から、例えば、「小児科医が在駐すれば、〇万円の加算」とか、「無痛分娩加算は、常勤麻酔科医師がいる場合に限る」とか、「分娩監視装置による24時間モニタリングの要件を満たした場合のみ〇万円の加算可能」とか、そういうやり方になることは間違いなく、その要件を満たせるのは、ごく一部の医療機関に限られてしまうからです。すでに、湘南地区でも、分娩の保険化を見越して、分娩取り扱いを止めてしまったクリニックがあります。政治家が保険化の方針を撤廃しない限り、恐らく、これからもその流れは加速するでしょう。


その結果どうなるか?それでもお産を継続する産院に患者さんが集中することになります。しかし、日本全国、どの産院も、キャパギリギリのところで運営しています。メディカルパーク湘南ですら、お産の受け入れを制限しています。入院するベッド数に限りがあるからです。公立病院や大学病院になればなおの事です。ベッドはいつも満床です。お産の患者さんが2倍に増えても、入院する場所がありません。そうすると、どうなるか?患者さんの回転を早くするしかありません。お産が終わった翌日とかに即刻退院して頂き、ベッドを空けて頂くしかありません。


そんなことをしていて、安全が保たれると思いますか?

 

そもそも、保険化されると、患者さんの負担が減るというのは、大間違いです。だって、3割負担の限度額いっぱいまでは、自己負担になるのですから。限度額は、被保険者の年収によりますが、平均的な方だと、7-8万円前後になります。現在の出産手当一時金が50万円なので、例えば、分娩料金が50万円だった場合、現行の自費診療では、患者さんのご負担は0円になりますが、これがそのまま保険化されると、患者さんの負担は限度額までは支払い義務がありますので、7-8万円が窓口負担になって、却って負担が多くなるのです。自民党の政治家は、保険の仕組みを本当に理解したうえで分娩の保険化を進めようとしているのでしょうか?岸田総理大臣が「お財布が痛まないお産を目指す」などと言っていたようですが、これは大きな間違いです。自分の点数稼ぎのために、テキトーな事を言ってはいけない。分娩設定料金によっては、患者さんの自己負担は増える場合があることに、国民の皆さんは気付いて貰いたいのです。マスコミももっと真剣jに報道しないと。

 

政治家の命令で、官僚は動く。官僚は優秀だから、やれと言われたら本当にやる。例え、それが間違っていても、アホな制度だと分かっていても、やる。マイナンバー制度しかり、太平洋戦争の開戦しかり、大阪万博しかり、不妊治療保険適用化しかり。一度走り出したら、政治家が命じない限り止まらない。

 

あ、もうこんな時間。

記事は2月3日に出るそうです。

お楽しみにしていてください。