2週間ほど前の事。
体外受精の採卵予定の患者さまが、コロナ陽性になってしまいました。
メディカルパークでは、採卵日が決定した段階で、必ずコロナの抗原検査を行っております。その検査で陽性が判明してしまったのです。本人様は、熱も無く、全くの無症状です。(症状があれば、そもそも来院してませんでしょうし)
一瞬、頭が真っ白になって思考が停止しました。
そして、考えました。
「中止にするしかないか?いや、それはあまりにもかわいそうだ。じゃぁ延期はどうだろう?いや、1日延期したところで、コロナが消えるわけではない。やっぱり中止か?今日まで、毎日毎日注射して、卵が漸く発育して来たというのに?この方の年齢は、もう40歳超えている。卵巣年齢もギリギリだ。今周期を逃したら、次も同様のチャンスが巡ってくるって保証はあるのか?いや、無い。やっぱりやるしかなかろうが・・・」
そして、私は、採卵決行を指示しました。他にも大勢の採卵予定の方がいるので、通常通りに採卵室を使うわけには行かないので、オペ室を使う事にしました。
その事を伝えに、オペ室に直参しました。そこでスタッフに行く手を阻まれました。囲まれました。目が殺気立っている。既に電話で情報を得ていたようです。早い。
「ナニ考えてんですか?」
「今回は諦めて、また来月やれば良いじゃないですか?」
「緊急性無いじゃないですか!」
「絶対中止にしてください!」
もう非難轟々。
多勢に無勢ですが、私も反論しました。
「コロナ陽性の分娩だって今まで何度も乗り越えて来たじゃないかよ!何でそっちは良くてこっちはダメなんだ?」
「分娩は待てないけど、採卵は待てるじゃないですか!」
「はぁ?待てねーわ。年齢見てみろ!そんな余裕無いんだって!みんな時間と戦ってんだよ!なんの為に全員ワクチン打ったんだよ?第一、今日まで毎日注射打って来て、今から、『やっぱり中止にします』なんて言えっか!」
「それは先生が患者さんに良い顔したいからだけでしょう?」
「な、なに?」
顔が上気してくるのが分かる。
「いいですか?冷静に考えてください。患者さんはこの人だけじゃないんです。コロナ陽性の採卵を中止にしなかったっていう風評が流れたら、ほかの患者さんが激減しますよ!」
「それでも全然構わん!目の前に患者さんがいるのに、逃げる訳にはいかん!やると言ったらやる!風評怖くて、仕事出来っか!」
自分の声のトーンもどんどんと上がっていくのが分かりました。
その時、一人の看護師が、自分のこめかみ辺りを指でクルクルするジェスチャーしながら、
「みんなダメよ。この院長、ここがおかしいから。何言っても聞かないから。やるしかないんじゃない?」
そこで失笑が。
私もつられて笑ってしまった。
「そうそう、オレは頭おかしいんだから。な、良いだろ?オレが採卵するからさ。感染する時はみんな一緒だ。な?」
「はー・・・」
これにて一件落着。
翌日、採卵は無事に終わりました。
6個の卵が取れ、そのうち、3個を凍結することが出来ました。胚移植をするのはまだまだ先の事ですが、もしも、あそこで中止にしていたら、この卵ちゃんたちが生命になる可能性は、あの瞬間に絶たれていたわけで。大袈裟な言い方をすれば、命を救ったという見方も出来る訳で。頭のおかしい私に付き合わされたスタッフもたまったものでは無いですが。どうもありがとさんでした。
因みに、あれから1週間以上経ちますが、私も含めて職員からは誰も陽性者は出ていません。
みんなピンピン。