PIEZO(ピエゾ)顕微授精(1) | 生殖医療専門医・内視鏡手術技術認定医 田中雄大のブログ

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神奈川県藤沢市の不妊治療・産婦人科「メディカルパーク湘南」の院長、田中雄大のブログです。
体外受精や内視鏡手術のことから雑感まで、日々の記録を綴っております。

今日は、体外受精のマニアックな話をします。

 

体外受精には「顕微授精」という方法があります。通常の体外受精では、精子と卵子を同じ培養液の中に入れておくだけで、精子が勝手に卵子の中に進入して受精することを待つのですが、顕微授精では、卵子に細い針を刺して、そこから精子を直接注入して受精させます。ネットや患者さんの間では、前者は「ふりかけ法」または「かけ合わせ法」、後者は「けんび」または「イクシ(ICSI:intracytic sperm injection)の略」と呼ばれています。一般的に、顕微授精をすることで、通常のふりかけ法よりも10~15%程度受精率が高くなります。

 

ここまでは良く聞く顕微授精の話です。

 

さて、ここからが本題。

この顕微授精を行うためには、培養士の高度な技術が要求されます。現在メディカルパークには10名の培養士が在籍していますが、顕微授精を許可しているのは3名しかおらず、他の7名はいまだに修行中の身です。

 

近年、「PIEZO(ピエゾ)顕微授精」と言われる新しい方法が開発されました。

このPIEZO(ピエゾ)は「圧電素子:Piezo electric elements」と言われるもので、物理的な力を加えると結晶内に含まれている電荷が、プラスとマイナスに分かれることにより電圧を発生させる特殊な結晶です。圧電素子を棒状に積み重ねたものに電圧をかけると急速に変形が生じます。するとそこに非常に微細な振動が発生します。この振動で卵子の透明帯(細胞膜の外にある壁。植物の細胞壁のようなもので、卵子にしか存在しない。)と細胞膜を穿破して精子を注入するのがPIEZO顕微授精です。ピエゾ原理を応用した技術は私たちの日常にも沢山あります。例えば、amazonなどでもすぐに買える「ピエゾピックアップ」はこの原理を用いて、アコースティックギターの音をアンプに変換する道具です。

従来の顕微授精では先のとがった針を深く押しつけて、卵子をつぶしながら陰圧をかけることで細胞質を穿破し、そこから精子を注入します。そのために卵子に対するある程度のダメージはどうしても不可避になります。特に老化した卵子や、凍結後に融解した卵子にはその影響が顕著になります。これに対して、PIEZO顕微授精では、針の先端にピエゾ振動を発生させることで透明帯に穴をあけ、更にその内側の細胞膜も、たった1回のピエゾ振動をかけることで細胞膜を容易に穿破することができます。

 

次回は、PIEZO顕微授精の特徴を紹介します。