震災後のメンタルケア(その3) ~大人のセルフケア~ | サイコセラピスト(心理療法士) 棚田克彦 公式ブログ

こんにちは。

サイコセラピストの棚田克彦です。

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このたびの東日本大震災により被害を受けた皆様には、

心よりお見舞い申し上げるとともに、

犠牲になられた方々とご遺族の皆様に対し、

深くお悔みを申しあげます。



前回に引き続き、

東日本大震災後のメンタルケア

について書きます。



今回は、

大人のセルフケア

についてです。



大人の場合、

直接被災された方はもちろんのことですが、

そうでない方も、

知らず知らずのうちに影響を受けて、

体調を崩すことがあります。



特に、

小さい子どもさんをお持ちの親御さんや

今回の震災に関係して現地で活動されている方々は、

つい自分自身のケアを忘れて

人を助けたり守ったりすることを没頭しがちなので、

注意が必要です。



「私は直接被災していないので、大丈夫!」

と思っている方も気をつけてください。



地震を直接経験していなくとも、

テレビで震災の映像を見たりすることで

ストレス反応が引き起こされることがあります。



また、

今回の震災で直接的な被害を受けなかった人の多くが、

たとえ無意識であったとしても、

無力感や罪悪感を感じています。

こうした無力感や罪悪感も度が過ぎると、

やはり心理的なストレスとなって

精神的にも身体的にも悪い影響を与えます。



大きな自然災害や事故などといったトラウマ体験をした人は、

その最中や後にさまざまなストレス反応を経験します。



以前に、

典型的なPTSD(ASD)の症状には、

「再体験」「回避、引きこもり」「過覚醒」

の3つがあると書きましたが、



その他にも、

トラウマ体験によって引き起こされるストレス反応には、

以下のような一見するとポジティブなものもあります


・ 決断力が増す
・ 信念(信じ抜く力)が増す
・ 行動力が増す
・ 勇敢になる
・ 気力が充実し、やりがいが増す
・ 感覚が研ぎ澄まされる



今回の震災に関係して

現地で活動されている方々を支えているのは、

こうしたポジティブな心境の変化によるものです。



自分の家族や大切な人を守るために、

勇気と行動力を発揮されている方々も

たくさんいらっしゃると思います。



ここで知っておいて欲しいのは、

たとえポジティブな変化であったとしても

トラウマ体験に対するストレス反応

であることに変わりはなく、

特に今回の震災のように

今後、長期にわたって

がんばらなければならない状況が続く場合、

しばらく経ってから

「もうこれ以上がんばれない」

という状況になってしまったり(燃え尽き)、

新たにネガティブなストレス反応が

現れ始める可能性があるということです。



特に、

医療関係者や警察、消防士、自衛隊、震災ボランティア、

心理カウンセラーやセラピスト等、

人を助ける仕事に従事されている方々は要注意です。



私の近所にお住まいの

小さいお子さんをお持ちの

お父さん、お母さんの中にも、

「夜眠れない」

「身体がだるい」

「つねにイライラや不安を感じる」

「今でも地面が揺れている感じがする」

等などのストレス症状を訴えている方が

複数いらっしゃいます。



大人の場合、

子どもや老人、病人、障がい者など、

自分より弱い立場にある人の状態を

見逃さないように気を遣いながら、

なおかつ、

元の生活への回復、維持の努力をする

といった対応が

長期間にわたって求められます。



こうした場合に大切になるのが、

「自分自身のセルフケア」

です。



【自分自身のセルフケア】

 ・ 自分で自分の限界を知り、
   長期にわたって限界を超えて
   がんばり続けないように、
   自分で自分をコントロールする


 ・ 一人でがんばらない。
   家族や信頼できる仲間と協力する



現在の状況で、

今すぐ、がんばりを止めるわけには

いかないことも事実です。



長期にわたってがんばりを

続けなければならない状況においては、

自分で自分のがんばり加減をコントロールしながら、

ときには気分転換をしたり、

休養を取ることも必要ですし、

家族や信頼できる人たちと自分の体験や気持ちを共有して、

過度にストレスを溜め込まないようにすることが必要です。

それでも、どうしても辛くなってしまった場合には、

心や身体の専門家に相談するとよいでしょう。



最後に、

自分自身のセルフケアを行なうための方法として、

「グラウンディング」と呼ばれる

「興奮している心に平静を取り戻すための簡単なワーク」

をご紹介いたします。



【グラウンディング解説】

俗にトラウマ体験と呼ばれるような非常に恐ろしい体験をすると、

後になってその体験に圧倒されるような感情を繰り返し感じたり、

恐い体験をしたときの場面が繰り返し思い出されることがあります。

こうしたトラウマ体験後に現れるストレス反応を軽減するために、

「グラウンディング」と呼ばれる心理テクニックが役に立ちます。



【グラウンディングのやり方】
(1)
一人でリラックスできる場所を見つけて、

楽な姿勢でイスに腰掛けます。

背もたれに軽く身体を預けます。

両足の裏を地面にしっかりとつけて、

ひざ頭は握りこぶし一つ分くらい開きます。

手のひらを上に向けて、腿の上に軽く置きます。

口をポカンと開けて、あごの力を緩めます。

どこか身体の中で緊張している部位が

ないかチェックします。

もし緊張している部位を見つけたら、

その部位に一度ギュッと力を入れてから

フッと緩めると力が抜けます。


(2)
ゆっくりと、深く、大きく、3回深呼吸をします。

3回の深呼吸を終えたら、

楽なペースの普通の呼吸に戻します。


(3)
周囲を見渡して、

目に見えるもので嫌な気持ちにならないものを3つ選び、

言葉にしながら順々に描写します。

たとえば、

「(机を見ながら、)私は机が見えます」

「(壁を見ながら、)私は壁が見えます」

「(窓ガラスを見ながら、)私は窓ガラスが見えます」

ゆっくりとした落ち着いたペースで

一つ一つ順番にやるのがコツです。


(4)
次は耳を澄まして、

耳に聞こえる音で嫌な気持ちにならないものを3つ選び、

言葉にしながら順々に描写します。

たとえば、

「(車の音を聞きながら、)私は車の走る音が聞こえます」

「(エアコンの音を聞きながら、)私はエアコンの風の音が聞こえます」

「(自分の呼吸の音を聞きながら、)私は自分の呼吸の音が聞こえます」


(5)
最後は身体の感覚に意識を向け、

身体に感じる感覚で嫌な気持ちにならないものを3つ選び、

言葉にしながら順々に描写します。

たとえば、

「(背中にイスを感じながら、)私は背中にイスの背もたれを感じます」

「(足裏に床を感じながら、)私は足裏に床を感じます」

「(頬にエアコンの風を感じながら、)私は頬にエアコンの暖かい風を感じます」


(6)
今度は(3)と同様のやり方で、

目に見えるもので嫌な気持ちにならないものを2つ選んで描写します。


(7)
(4)と同様のやり方で、

耳に聞こえるもので嫌な気持ちにならないものを2つ選んで描写します。


(8)
(5)と同様のやり方で、

身体に感じるもので嫌な気持ちにならないものを2つ選んで描写します。


(9)
(3)と同様のやり方で、

目に見えるもので嫌な気持ちにならないものを1つ選んで描写します。


(10)
(4)と同様のやり方で、

耳に聞こえるもので嫌な気持ちにならないものを1つ選んで描写します。


(11)
(5)と同様のやり方で、

身体に感じるもので嫌な気持ちにならないものを1つ選んで描写します。


(12)
自分のペースで深呼吸を数回繰り返し、

ゆっくりと部屋に意識を戻します


(「グラウンディングのやり方」ここまで)



このグラウンディング・テクニックには、

「今、ここ」の現実にコンタクトをする(意識を向ける)ことで

「我を取り戻す」働きと


順々に五感の感覚に意識を集中させることで

軽いトランス状態を誘発する効果があります

(トランスにはリラックス効果があることが

知られています)。



では、また何かあったら書きます。



サイコセラピスト 棚田克彦