『義経千本桜 渡海屋(とかいや)』2012年2月博多座 | はじめての歌舞伎!byたむお

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まだ続いていた先月の感想。
今月の歌舞伎も千穐楽を迎えた劇場も多い中、
たむおはまだまだ先月の感想です。






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『義経千本桜 渡海屋(とかいや)』


現代だったらフェリー会社でしょうか、海を渡らせるという字の通り、
お客さんを船で送迎する仕事が「渡海屋(とかいや)」です。
ただし、海が荒れているときには船が出せませんから、
宿屋も兼ねています。

宿泊しているのは、源義経さんの一行です。
お供をするのは四天王武蔵坊弁慶さんたち。

通常ならば、宿屋にお安(やす)という子供が寝ていて、
うっかり弁慶がその上をまたごうとすると、
足がピリピリとしびれる、という演出があります。
お安の正体は、実は安徳帝であり、
知らないとはいえ恐れ多くも、高貴なお方をまたごうとしたので
弁慶さんの足がしびれてしまう、という場面です。

今回はこの場面はカット。時間の都合でしょうか?

さあ、この渡海屋に偉そ~な、いばり散らかすような武士が2人やってきます。
相模五郎(さがみごろう)さんと入江丹蔵(いりえたんぞう)さん。
中村錦之助さんと片岡亀蔵さんがそれぞれ演じられます。

土足のままでドカドカと入り込んできて、

「俺達は急いでるんだ。とっとと船出しやがれ。」

銀平の妻である、渡海屋の女将さん(中村七之助さん)が対応します。
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「川端商店街にて」

「(履物のことは我慢して)そうは言われても天候は無理ですし、
オッケーだったとしても前から待っている人たち(義経さんたち)の順番ですから…」

と、やんわりとお断りをいれます。しかし、

「自分達は北条家からの命令で義経をひっとらえに来てるんだ。
これは緊急な任務だから、そんな順番は無視だ。早くしやがれ。」

いや~な感じのお侍さんですね、
無茶苦茶なこと言います。

それにしても義経さんたち御一行、ピ~ンチですね。
追っ手が迫ってきました。



そこへ、花道からやってきたのは渡海屋の主人の銀平(ぎんぺい)さん。
演じるのは六代目中村勘九郎さんです。
襲名おめでとうございます。

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「博多人形 中村勘九郎丈」


あれ、たむおの知ってる銀平ではなかとよ~。

船の碇(いかり)を片手で軽々とかついで登場です。

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ワイルドだぜ~。
碇をもって登場するのは文楽、人形浄瑠璃の型と同じですが、
歌舞伎では、はじめて見ました。

着ている着物もなんかいつもとちがう。
格子柄、チェック柄?
なんか、言うなれば団七っぽい柄です。


 海老蔵さん、ご長男誕生おめでとうございます。

自分の店に帰ってくるとチンピラ的な武士2人相模&入江に、
女房がからまれています。銀平さんは、

「そんな無理を要求されても迷惑です。」

と堂々と対応します。ただの宿屋のおっさんではない大物感がただよいます。
ただのチンピラ感がただよう相模&入江コンビは、

「なにを~!」

と怒って、刀を抜きます。そこでも大して動じることはなく、

「武士の刀は人を斬るためではない、と承知しています。
もののふ(武)という字は、ほこ(戈)をとめる(止)と書きます通り、
刀を使って人々の争いを収めるためであって、
人を切るためのものではないのですよね。」

武士に向かって「武士とは何か」を語っちゃってます。
正論だけにムカツク~
もう火に油とガソリンとダイナマイト注いじゃってる感じで、
小悪党コンビの相模&入江さんたち、銀平に斬りかかります。

しかし、あっさりかわされるどころか、刀をつかまれて、
えいっ。
刀はぐにゃりと曲がっちゃいます。

お店の外にポイッと捨てられて、さらには相模&入江も店の外に投げ飛ばされちゃいます。

ここからは「チャリ場」と呼ばれるコミカルなシーン。

スイカに塩をかけて甘さを引きたてるように、
シリアスのシーンの直前には小さな笑いを用意するのも
歌舞伎のお約束。

簡単にいうと「チクショー、やられた~」という内容ですが、
セリフの中に魚の名前を混ぜながら、リズミカルに語っていきます。
「魚づくし」
という演出。

「言わせておけばいいと思って…」
という代わりに、
「イワシておけばイイダコと思って…」
のような感じですね。



これは「好きだとイワシてサヨリちゃん~♫」

ひと通り愚痴をこぼした後には、刀を鞘におさめて帰ろうとするのですが、
なにしろ刀が曲がってますから、鞘に入らない。

石ころをさがして、刀鍛冶のようにコンコンと叩いてまっすぐに直します。
刀はまっすぐですが、尻尾は巻いたまま2人は逃げ帰って行きます。

こうして義経さんを捜索する人たちをなんとか追っ払います。
銀平が奥の間に引っ込むと、残された女房のもとに、
入れ違いにほっとした義経さん(中村梅玉さん)たち登場します。

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細かい話ですが、四天王は亀井、片岡、駿河、伊勢の四人。
『勧進帳』では、亀井、片岡、駿河、常陸坊ですから、
伊勢三郎さん、どこかでメンバーチェンジしてますね。

「追い払ってくれてありがとう」、とお礼を言い、
「それにしても同じ源氏の人たちに捜索されるなんて…」
ちょっとしんみりしてます。
この謎は後ほどに解けます。

女房が「それでは出発の準備を…」と薦めると、
「こんな天気で大丈夫なの?」と心配しますが、
「うちの旦那の天候を見る目は確かですから…」
といって、「うちの旦那はすごいのよ~」自慢のエピソードを披露します。
ちょっと、2人の間にラブを感じますね。

船頭達が呼びに来て、義経さん御一行は出発します。



そこに登場するのは、亭主銀平とその子供のお安です。
と思ったら、銀平さんさっきのチェック柄から着替えて、
真っ白な鎧姿。お安も神々しい装束姿。

渡海屋銀平の振りをしていたのは実は、
平家の武将の平知盛(たいらのとももり)でした。
壇ノ浦の戦いで義経さんにコテンパンにやっつけられたので、
敗れて死んだ、と見せかけて逃げていき、
やり返す機会を実は狙っていたんですね。

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しかし、宿で寝ているところを暗殺なんてセコイ真似はしません、
平家の武将ですから、あくまで堂々と名乗りを上げて、戦場で勝負です。

そして、一緒にいた安徳帝は、銀平の子供のふりをしています。
銀平の妻、渡海屋の女将さんは 典待の局(すけのつぼね)。
「典待(すけ)」というのは天皇のお傍でお仕えする役職で、
公家の血を引いた女性などが就かれるようです。
帝がまだ幼いので、乳母のような存在でしょうか。

平家の武将である知盛が(平民である)渡海屋の主人に、
典待の局がその妻に、帝である安徳帝が2人の子供に、
と実は身を「やつし」ていたんですね。

ところでこの設定、セレブたちが渡海屋の一家に変装するっていっても、
知盛と典待の局が夫婦って設定にするのはどうなのか?
武士である知盛にとっては、帝にお仕えする典待の局と夫婦の役を演じるのは
普通だったら畏れ多いのでは?

そこで、さっきの場面を思い出します。
船宿のおかみさん、「うちの旦那はすごいのよ~」の自慢話してましたね。
舞台の進行にはそれほど必要性のないシーンだったんですが、
リアルでも知盛と典待の局の間にラブがあったんじゃないか?
と思えてしまいます。

このあたりは決まっているわけではなく演じる方の解釈によって違うようです。


さていまこそ、復讐の時です。
安徳帝から、
「復讐がんばってくんだどー」
とエールをもらうと、知盛さんは必勝祈願の舞を舞って、
いざ出陣、海での決戦です。

出かける前に言い残していきます。
武士にとって大事なのは「美学」です(不意打ちで襲ったりもしませんでした)。
もし、敗れるとしたらいさぎよい最期を。
こそこそ逃げまくって捕まるなんてことがあったら、末代までの恥。
ましてや平家の世の中から源氏の世の中に変わってしまうなんて、許されることではありません。
そんな気持ちを込めてでしょうか、
「もし海での戦いで敗れそうなときはその合図として、船のかがり火をともしますので、
そのときは…(わかりますよね)」
と言って、大きな薙刀を手に戦地へ赴きます。
(死亡フラグが立ちました…)

後でびっくりしてストーリーがこんがらがるといけないので
補足しておくと最初に出てきたチンピラ侍コンビの相模&入江ですが、
実はこの2人も知盛の家来の者です。
さっきのやりとりは、義経さんご一行を油断させるための小芝居でした。

知盛は壇ノ浦で死んだということになっていますから、
これも利用してやろう。
家来達は幽霊の振りをして(頭にドクロマークの白装束)、
知盛さんの後を追います。



いよいよ、義経VS知盛 再び海上で決戦です。


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