俺の方は自分でも気持ちがまだ整理がついていないのに、いきなりセイジ君とバッタリ会って少しドギマギして言葉を発せられなかったのだが、セイジ君は坊主頭の俺を見て、

「テツヤ...何て可愛いんだ...」

と、いきなり俺を抱きすくめ、俺のクリクリの坊主頭をひたすら撫で続けていた。そして、そのまま俺の頭を撫でながら、俺の顔の間近に顔を寄せ、

「テツヤは坊主頭もまた可愛すぎるな...むしろあの長い髪の時より今の方がずっと男前や!」

と言って、俺の耳も撫でた。恥ずかしさに思わず顔を赤らめると、

「その真っ赤になった耳がまた、可愛いくてたまらへんわ!」

と、更に耳を撫でられ続けた。

「じゃあ、今度は俺が坊主になる番やな。おじさん、お願いします!」

そう告げたセイジ君も椅子に座り、いよいよ、彼も丸坊主になっていく時間が来た。後ろの待合席から鏡に映った彼の顔を見ると、あの精悍な顔に、やはりてるてる坊主のように白いケープが巻かれ、彼のサラサラの髪の最期の時を告げていた。

おじさんは自分と同じくセイジ君も待ち焦がれていたようで、嬉しそうにセイジ君の髪も霧吹きで湿らせていく。その時のセイジ君は、俺の坊主頭を嬉しそうに撫でていたときとは一転して神妙な面持ちで、やはり坊主頭にされるのが、今までスポーツ刈りにしていたことが多かった彼でも不安なのが自分にも伝わってきた。

そして、セイジ君も俺と同じように湿らせた黒髪を櫛でオールバックに梳かされ、額があらわにされたが、これまたちょっと大人びた感じでいい男に見えた。

そのセイジ君の真正面の額にも、同じくバリカンが当てられ、バリカンが彼の額から頭頂部までを刈っていった...。

鏡の前でやや放心状態の俺を尻目に、おじさんは俺の頭をブラシで撫でて頭に残った髪を払いのけていく...その、ブラシの毛が地肌に直接当たる感触に、またしても俺は泣きそうになった。

そして白いケープを外し、前の洗面台に頭を差し入れて頭を洗ってくれたのだが、お湯が直接頭皮に当たる感触が、心地良さもあるがやはり情けない気持ちでいっぱいだった。そして洗い終わり、今までだとタオルで髪を拭いていたのに、これまたタオルが直接地肌に当たる感触が、ああ、俺はもう完全に今までの自分とは違ってしまったんだな...と嫌でも自覚せざるを得なかった。

でもおじさんは非常に上機嫌で、タオルで俺の頭を拭き終わると、俺の耳の穴もタオル越しに指で拭ってくれながら、「いやあ、テツヤ君はきっと丸坊主が似合うと思ってたけど、やっぱりいいねえ! 坊主頭だと少し大人になったようで、男らしいし精悍に見えるよ! 男前だとどんな頭でもやっぱり男前なんだねえ...!」と、坊主頭の俺をあながち商売文句だけとは思えない口調で、やたら絶賛してくれた。

でも、椅子から降りてシャンプー用のケープも外され、いつもの服装に戻った自分の姿は、服は今まで通りのアメカジ風のシャツでも、頭は青いクリクリの坊主頭で、服装が同じだとその頭の変わりようが一層強調されて見えた。

そして、店を出ようとすると、入れ違いに入ってきたのが、よりにもよってセイジ君だった...。こんな恥ずかしい頭の俺を、親にもまだ見られていないのに真っ先に見たのが、彼になるとは...!

最後に、俺の左側の髪も刈られ、左耳も同じく丸出しにされていった...。

刈り終わった後の鏡に映った俺の顔は、子供の頃にアニメで観ていた一休さんを真っ先に連想したが、刈りたての頭が真っ青と言っていいほど青く、顔の白さとが対照的だった。特に、今まで髪を伸ばしていたので耳の周りやうなじは真っ白で、その白い肌と青々とした地肌とでくっきりと色が分かれているのを見て、俺はまた泣きそうになった。

おじさんは丁寧にも合わせ鏡で後頭部も見せてくれたのだが、後頭部こそ予想以上に一面真っ青な頭で、それと先述の真っ白なうなじとが醜く、でもこれが今の俺の頭なんだと受け入れるのに必死だった。

何よりも、鏡に映った自分の顔は、髪が刈り落とされると頭全体は小さくなったように見えたが、青々とした頭頂部の地肌に、今まで長い前髪で覆われていた額が丸出しになるとこれまた真っ白で、更に顔が何だか縦に長細くなったように感じた。更に、大きな耳が両方とも丸出しになると横にぴょこんと飛び出して見えて、まるで猿のような耳に見えた。

5分前までの長い黒髪を持つ美少年だった俺の顔はもう鏡には映っておらず、そこに映っているのはクリクリの青い坊主頭に、白く醜い額、同じく真っ白でしかも猿のような大きな耳が横に飛び出ている、昭和前半の田舎にいたような、猿のようなイモっぽい少年の顔だった...。

これが俺、俺の顔なのか...。ケープに落ちている、この黒い髪が無くなっただけで、こんなに顔は変わってしまうものなのか...!

少しだけ幸いだったのは、タクヤ君と違って、俺の坊主頭はあらわになっても綺麗な卵形の頭だったことだった。とは言え、この青い頭、白く広い額、猿のような大きな耳、こんなの俺じゃない...! と、俺は絶望で泣きそうだった。
にもかかわらず、坊主頭だと風を頭ですうすうと直接感じていくのが、これが紛れも無い現実だと告げていて、恨めしい気持ちでいっぱいだった。

その一筋の青い筋にショックを受けて気持ちを整理出来ずにいるのも露知らず、すぐにその隣の地肌にもバリカンが当てられ、同じように俺の髪を刈り落としていく...。バリカンの刃の冷たい感触が俺の地肌に触れていく度、俺は悪魔が俺の大事な髪を舐め尽くして奪っていっているような、そんな気になっていた。そして、髪が刈り落とされた瞬間、冷たい空気が嘲笑うかのように俺の地肌を吹いていくようで、何とも言えない屈辱感でいっぱいだった。

数秒後には、俺の前髪はすっかり刈り落とされ、本当に落ち武者のように頭頂部だけが青々と剃られた、何とも情けない姿の顔の俺が鏡に映っていた。

なんだよ、お前は数秒前までのあの美少年と、本当に同じ人間なのかよ!

こんな醜い子供は俺じゃない!!

そう思っても、それは紛れも無くその時の俺自身の顔だった。

次に俺の右のこめかみにバリカンが当てられ、そのまま俺の右側の髪を刈っていった。そして、俺の右のもみあげをバリカンが刈っていき、そのまま俺の耳の上の髪を刈っていった。

右側の髪が刈り落とされると、俺の右耳が数ヶ月ぶりにあらわになり、大きな耳がそれまで暖かい家の中にいたのが、急に冷たい吹雪の中へ放り出されたような気がした。続いて、右耳の後ろの髪も刈られていき、バリカンの刃が俺の右耳を押し上げるように触れた時は本当にすぐ耳元であの嫌なモーター音が鳴り響き、俺は思わず泣きそうになった。

耳の後ろもすっかり刈り落とされると、俺の右半分の頭はクリクリの青い坊主頭になっていて、丸出しになった大きな右耳が、横にぴょこんと飛び出してみる。坊ちゃん刈りの時でさえ、やや切り過ぎて耳があまりに丸出しにされると嫌だったのに、真横の髪を完全に刈り落とされた今は、その時とは比較にならないほど大きな耳が完全に丸出しにされ、辛さで大声を上げそうになった。

しかも、左側はまだ前のままの長髪なので、頭頂部と右側だけ刈られた状態の俺の顔は、右側の青いクリクリ頭と左側のフサフサした髪の対比が何とも言えず情けなく、髪に隠れたままの左耳と、丸出しになった右耳とが一番やりきれなかった。

鏡の中の半刈り状態の俺の顔は、落ち武者の時以上に醜く、恥ずかしい頭の子供で、これが俺の顔だと思うと辛くてしょうがなかった。

前に賀集利樹と野久保直樹を合わせたような顔だと書いたが、鏡に映った自分の顔は、色白の肌に赤い唇、パッチリした目と筋の通った鼻に、長い黒髪が今はまだ載っている。大きな耳も、久しぶりに髪の外へ出された形になったけれど、そんなに目立つほど丸出しにはなっていない。自分で書くのもなんだが、幼い頃に比べれば大分ハンサムになったなと思った。

が、今思うと本当は5mm程度で良かったはずなのに、このおじさんはイケメン君が来ると、あえて長さを訊くのを忘れたふりをして、こちらから切り出さない限り無条件にバリカンのアタッチメントを外して五厘刈りにするのだった(後述するが、セイジ君もやはりツルツルの頭にされていた)。
そんなこととは知らず、自分はただ「中学に入るので、坊主にしてください」と言っただけだったのだが、おじさんは「テツヤ君もとうとう坊主になるんだね...」と嬉しそうに俺の前髪を押さえながら、バリカンを近づけていった。

バリカンのういーんという嫌なモーター音が、本当に俺の耳の間近で聞こえていく...そして、床屋のおじさんはいきなり俺の額の真正面にバリカンを近づけてきた。

俺の視界のすぐ上にバリカンが現れ、視界から消えたかと思った瞬間、俺の額の生え際の地肌に、バリカンの冷たい刃の感触を感じ、そのまま額から頭頂部にかけての地肌に直接バリカンの刃の冷たい感触が俺の頭を襲っていく...そして、刃の冷たい感触を感じたあとで、次にそれまで俺の地肌にくっついていたはずのものが、はらりと離れていき、今まで風を感じることのなかった肌が、急にすうすうと冷たい空気を感じていく...。

鏡に映った自分の顔は、いきなりど真ん中に青い一筋の刈り跡がくっきりと浮かび上がっていた。まるで失敗した落ち武者のようなその情けない姿に、俺は思わず悲鳴を上げそうになった。 

春休みも後半に入ると、神戸市内の床屋には中学の入学式を控えた男子が毎日頭を刈りにやってくるのが日常風景で、この日、俺が床屋に入ると、同じクラスだったショウゴ君が頭を刈られている最中だった。

クラスでも2番目に背が低く、なのに金正日のような老けたオッサンのような顔をしたショウゴ君は決してハンサムではなかったが、そのショウゴ君も見慣れた髪でなく、既に半分頭を刈られ、残りもどんどん刈られて青い地肌があらわになっていくのに、自分はなぜか興奮していた。
もっともショウゴ君は、坊主になってもやはりブサメンで頭以外には全く萌えなかったが、それでもショウゴ君も見慣れた頭からさっぱりとした丸坊主になったのが、次は自分がこうなる番だと告げられたようで辛い気持ちと、恐怖が襲ってきて胸がいっぱいになった。

物心ついた時からいつも自分の一部だったこの黒髪とも、本当にお別れなんだなあ...。誰だよ、こんなしょうもない校則を考えだしたのは!!

そして、いよいよ椅子に座り、白いケープが首にかけられ、てるてる坊主のようになった自分の顔が鏡に映っている。少し前までは、同じようにここに座っても、長過ぎる髪を切られるだけで、散髪が終わった後は耳が出されて坊ちゃん刈りで、サラサラの黒髪はそのままの可愛い俺の顔が映るだけだったのに、今の自分は確かに長過ぎる髪で、しかも数分後には丸坊主になって、本当にてるてる坊主のような顔になってしまうんだなあ...。

床屋のおじさんは、今思うとやはり少し美少年の坊主フェチだったようで、昔から俺が来ると愛想は良かったのだが、俺の髪や耳を触るのが好きで、必要以上に長く触られていた気がする。この日のおじさんは最高に機嫌がよく、「テツヤ君、ずっと来るのを待っていたよ...!」と言いながら、俺の髪を霧吹きで湿らせて行った。

伸ばしに伸ばした髪が湿ると前髪がペタッと顔に張り付き、うっとおしさでむしろ早く坊主にしてしまいたい気にさえなったが、おじさんが俺の髪を櫛で後ろに梳かし、横の髪も耳の上に梳いて耳を出して、オールバックになった俺の顔を見ると、確かにセイジ君が言ったように、耳が出るくらいの短さの方が俺は男前だったのだな...なのに、坊ちゃん刈りをやめてしまっていたこの数ヶ月はもったいないことをした、もう髪は伸ばせないのに...と、この半年ほどの長髪を後悔していた。

俺は、セイジ君に思い切って話してみた。
「なあ、セイジ、変な頼みで悪いけど、記念にお前の髪を1本くれへん?」

すると、セイジ君も意外にも快諾し、
「ええよ。そのかわり、テツヤも俺に髪をくれ。」
と言った後、俺の髪を撫でて、

「テツヤ、すっかり髪を伸ばしてしもうたけど、ホンマはいつもくらいの長さの方が男前やし、俺はその方が好きだったわ。でも、もうすぐ坊主にせなあかんのが分かっとるから、伸ばせるうちに伸ばしておきたい気持ちも分かるし、もうすぐこの綺麗な髪も、本当に無くなってしまうんやな...。」
と言って、俺の髪を1本抜き取った。

俺もセイジ君の髪を1本抜いて、それ以上は何も言わなかったけれど、次に会う時は互いに坊主頭に変わった姿で会うんだ、最後の彼の有髪の姿を見ておきたいというのが暗黙の了解で、分かれ道の交差点に来てもずっとしばらく互いの顔を見つめ合ったままだった。
そのすぐ横にある床屋がうちの町内で唯一の床屋なので、この辺の子供達はみなそこが御用達で、数日後、二人ともそこで丸坊主にされるのも何も言わなくても分かっていた。

そして、最初に書いたように運命の日がやって来て、俺はその床屋に頭を丸めに入った...。

あと、ややスポーツ刈りに近い短髪のセイジ君を除くと、自分も含めてみんないわゆる坊ちゃん刈りで、天然パーマのノリユキ君とヨシヒロ君以外は互いにサラサラの髪が自慢だったように思う。
特に示し合わせたわけではないのに、小6の夏を過ぎると、自分もケンゴ君もタカシ君もタロウ君も(髪質は違うがヨシヒロ君も)、それまで耳を出していたのに髪を伸ばし始め、小学校の卒業式はみんな耳が隠れるくらいの長髪で迎えた。
タカユキ君とノリユキ君はそのままの髪型で耳を出していたが、セイジ君は冬の間に髪を伸ばし、短髪から坊ちゃん刈りになって、耳は出していたが彼も伸ばすとサラサラの髪だった。セイジ君の浅黒い肌とサラサラの髪の取り合わせもまた見目麗しいものだったと思う。

タクヤ君も基本はずっと坊ちゃん刈りだったのだが、卒業式の日に、いきなり率先してクリクリの丸坊主の頭で現れた。それまで綺麗な卵形の顔だったタクヤ君は、丸坊主にすると意外にもジャガイモ頭で、端正な顔立ちとあらわになったいびつな頭の形、それに青々とした地肌が何とも言えず対照的だった。

タクヤ君のサラサラの髪が一夜にして無くなってしまい、髪を刈り取られ青々とした、しかもジャガイモのようなでこぼこした頭を見た瞬間、股間が急に熱くなる、産まれて初めて味わう衝動を感じたのと同時に、あの優等生の美少年がこんなにイモっぽくなってしまうことに、数日後の自分も同じ運命を辿りそうな気がして怖く、辛い気持ちも感じていた。

俺(名前を明かすと、テツヤと言います)だけでなく、ケンゴ君もタカシ君もタロウ君もヨシヒロ君も同じ気持ちだったようで、他の子はみんなタクヤ君を半分からかい気味に頭を撫でたりしていたのが、自分もタクヤ君の頭を撫でたい衝動はすごくあったものの、このメンバーはみな顔が引きつっていて、沈痛な面持ちだった(タクヤ君と自分も含め、このメンツはそこそこ成績も良く、互いにライバル意識もあり、ナルシストも入った似た者同士だったのだと思う。ちなみに、なぜかうちの小学校のイケメン君はそろってみな一定以上の成績だった)。岡田准一似のタカユキ君とモックン似のノリユキ君は普通に見えたけれど、彼らも内心は不安だったかも知れない。

家が一番近く、いつも一緒に帰っていたセイジ君とこの日も一緒に帰ったが、いつも快活で男らしかったセイジ君でさえ、その日はどこか憂鬱に見えた。
いつも間近で観ていたセイジ君の横顔を見ると、端正な顔立ちは昔からそうだったが、最近伸ばしたサラサラの髪と浅黒い褐色の肌の取り合わせが何とも言えず格好良く、その彼も自分も、少しすると丸坊主になってしまうのがやりきれなかった。

けれど、これも不思議なことに自分の同じくらい耳の大きな友達については、むしろ彼のその大きな耳が愛おしくチャームポイントですらあった。小学校の帰り道、同じ町内の彼を含む数人で帰っている途中、ふとしたことから自分と彼のどちらの耳が大きいかという話になり、彼が俺の顔の横に彼の顔を近づけ、彼の耳を自分の耳に合わせてきたことがあった。

彼は背も高く、日に灼けた浅黒い肌に男らしい精悍な顔立ちで、スポーツも万能で男の自分から見ても格好良かった(今思うと織田裕二か、元阪神の藪投手に似た男前だった)。名前を書くとセイジ君というのだが、セイジ君が自分の体を抱きかかえて彼の端正な顔が自分のすぐ間近に近づいてきて、耳とは言え肌が触れ合っていたその時にドギマギしたのが、今思うとこの世界に目覚めた瞬間だったかもしれない。

いや、既に幼稚園のとき、その年齢にして岡田准一に似た目鼻立ちのくっきりしたハンサムのタカユキ君に惹かれていたから、やはり元々こうだったのだろうな...。
あとは、その当時シブがき隊として売れていたモックン似で、髪も元々少し天然パーマなので髪型もアイドル時代のモックンに似ていたノリユキ君、公家の血を引き、色白で上品な顔立ちのケンゴ君、後に初期のスマップにいた森クン似の、お目目パッチリだがあとはサッパリした顔立ちのタカシ君、以下はマイナーですまんが映画「20世紀少年」で唐沢寿明の子供時代を演じていた子役の西山潤君によく似た、精悍さもあり美少年さも感じさせる優等生のタクヤ君、時代劇によく出る山口馬木也という俳優に似ている、ちょっと昭和な男前のヨシヒロ君、韓国ドラマ「真実」に出ていた頃の韓国俳優リュ・シウォンに似たタロウ君(彼も耳が大きかった)と言った、同級生のイケメン君はみな意識していて、彼らと一緒に話したり遊んだりするのが好きだった。

坊主になる前は、自分は実は自分の顔そのものはそう嫌いでなく、書くのは面映いけれどホンネを書くと、むしろ鏡で自分の顔を見るのは好きだった。

うんと小さい頃はそんなにハンサムではなかったと思うが、小5くらいからやや目鼻立ちがくっきりし始めてきて、小6の時、修学旅行で風呂に行くと、その場所の担当だった他のクラスの担任教師に(なので直接面識はなかった)、「お、君はなかなか男前やな...?」と言われたりして、まあ自分がものすごいイケメンとも思わなかったが、何人かに男前とかハンサムとか言われることもあったので、そこそこ感じのいい顔はしていたのだろう。

(ずっと後の大人になってから、短い髪の時の賀集利樹とか、別の人に野久保直樹に似ていると言われたことがあったけど、お目目パッチリなところや鼻の形は二人と似ていて、耳が大きいところは賀集に、色が白いところや唇がやや厚いところは野久保に似ているかなと思う)

けれど、今の価値観だとまた違うが、当時は自分の色白なところと、冬になると血色が高くなり真っ赤になってしまう唇が嫌で、実際、口紅を付けてきたんじゃないかと苛められたこともあった(低学年の頃は顔立ちも不細工だったし、確かにただ気持ち悪いガキに見えてたと思う)。

それと、耳が大きいところが自分の顔で一番嫌で、坊主になるときっとこの大きな耳が丸出しになってしまうのが怖かった。もっとも、耳が大きいのは自分の父親譲りだのだが、当時の親父は息子から見てもなかなかのイケメンで、若い頃の写真を見るとちょっと日活映画時代の渡哲也に似た男前で、日活に限らずその時代の映画俳優を見ると親父に似た雰囲気の美男俳優が多くて、つまりは昭和の男前の顔立ちなのだが、自分はそんなハンサムな親父にも顔についてはコンプレックスを感じていた。
(今の自分の顔を見ると、実は親父にも似たところもあり、母親に似た顔でもあるので、むしろ当時の親父にもそう引けを取る顔立ちではないと思うが)