昔、僕が16歳の頃、おばさんと公園を散歩していた。
ちょうど、この時期、北の街では桜が満開で大きな公園の散歩道を薄桃色で染めていた。
16歳の僕は深い深い森にいて
誰とも話さず、誰とも関わらず、
ひたすらに世界を拒否し続けていた。
そんな生活の中で、僕は人生の椅子をなくしてしまっていた。
おばさんは、遠い親戚にあたる人で
戦争中に岐阜から疎開で山形にやって来た。
その時彼女も16歳だった。
妻に早くに先立たれたじいさんの身の回りの世話と、母親を早くに亡くした父達の面倒の一切合切を条件に彼女は自分の椅子を手に入れた。
彼女は自分の与えられた役割を笑顔で懸命にこなしてきた。
結婚もせずに、ずっと一人きりで。
生き方の綺麗な人だった。
彼女は、僕達兄弟にもたくさんの愛情を注いでくれた。
僕たちはみんな彼女の事が大好きだった。
厳格だった父に殴られて、家を追い出された時にも彼女は優しく慰めてくれた。
頭を撫でられながら「大丈夫、大丈夫」と言ってもらえるだけで不思議とあらゆる不安や悲しみは心の中で溶けていくようだった。
彼女はもう一人の母親のような存在だった。
だから、散歩に出ようと声をかけられて久々に外に出ようと思ったのだ。
僕の3歩先を彼女が歩く。
僕は黙って付いていく。
春の日は穏やかで
木々の隙間から光が粒になって降って来る。
たまに僕を振り返り静かに笑う。
その時、強い風が吹いて桜が舞った。
彼女の身体を薄桃色が包み込む。
風が止んで、桜を見上げ
「あぁ、人生はなんて早いんだろう」
と彼女はそっとつぶやいた。
その時、眩しそうに桜を見上げる16歳の少女がいた。
そして振り返り、16歳の少女は少しはにかみながら
「多聞ちゃん、人生は早いんだよ。」
と、僕の目を真っ直ぐに見つめ笑顔で話しかけた。
瞬間、少女の残像が揺れて、そこには、いつもの母親のような彼女がいた。
そして、前を向いて歩いていく。
何事もなかったかのように
光の粒の中を歩いていく。
桜色した散歩道を真っ直ぐ前を見て歩いていく。
静かに、静かに。
音を立てると桜が全て散ってしまうとでもいうように。
会話はそれだけだった。
そして、僕らは家路についた。
あの頃、舞い散る桜は美しく、ただ美しく
何かをつかもうとする手の先にあった。
彼女を包み込んだあの桜は
ただ、美しく儚い夢のようだった。
彼女な年齢に近づくにつれ、僕はあの桜を自分の中に感じることが出来る。
「人生は早いんだよ」
ただただ、静かに微笑む彼女の
計り知れない想いを身の内に感じることが出来る。
もしも、願いが叶うのならば
僕はもう一度だけ彼女と桜が見たいのだ。
静かに静かに・・・・。
ただ、二人黙って美しく切なすぎる桜を。
もし、願いが叶うのならば。
ちょうど、この時期、北の街では桜が満開で大きな公園の散歩道を薄桃色で染めていた。
16歳の僕は深い深い森にいて
誰とも話さず、誰とも関わらず、
ひたすらに世界を拒否し続けていた。
そんな生活の中で、僕は人生の椅子をなくしてしまっていた。
おばさんは、遠い親戚にあたる人で
戦争中に岐阜から疎開で山形にやって来た。
その時彼女も16歳だった。
妻に早くに先立たれたじいさんの身の回りの世話と、母親を早くに亡くした父達の面倒の一切合切を条件に彼女は自分の椅子を手に入れた。
彼女は自分の与えられた役割を笑顔で懸命にこなしてきた。
結婚もせずに、ずっと一人きりで。
生き方の綺麗な人だった。
彼女は、僕達兄弟にもたくさんの愛情を注いでくれた。
僕たちはみんな彼女の事が大好きだった。
厳格だった父に殴られて、家を追い出された時にも彼女は優しく慰めてくれた。
頭を撫でられながら「大丈夫、大丈夫」と言ってもらえるだけで不思議とあらゆる不安や悲しみは心の中で溶けていくようだった。
彼女はもう一人の母親のような存在だった。
だから、散歩に出ようと声をかけられて久々に外に出ようと思ったのだ。
僕の3歩先を彼女が歩く。
僕は黙って付いていく。
春の日は穏やかで
木々の隙間から光が粒になって降って来る。
たまに僕を振り返り静かに笑う。
その時、強い風が吹いて桜が舞った。
彼女の身体を薄桃色が包み込む。
風が止んで、桜を見上げ
「あぁ、人生はなんて早いんだろう」
と彼女はそっとつぶやいた。
その時、眩しそうに桜を見上げる16歳の少女がいた。
そして振り返り、16歳の少女は少しはにかみながら
「多聞ちゃん、人生は早いんだよ。」
と、僕の目を真っ直ぐに見つめ笑顔で話しかけた。
瞬間、少女の残像が揺れて、そこには、いつもの母親のような彼女がいた。
そして、前を向いて歩いていく。
何事もなかったかのように
光の粒の中を歩いていく。
桜色した散歩道を真っ直ぐ前を見て歩いていく。
静かに、静かに。
音を立てると桜が全て散ってしまうとでもいうように。
会話はそれだけだった。
そして、僕らは家路についた。
あの頃、舞い散る桜は美しく、ただ美しく
何かをつかもうとする手の先にあった。
彼女を包み込んだあの桜は
ただ、美しく儚い夢のようだった。
彼女な年齢に近づくにつれ、僕はあの桜を自分の中に感じることが出来る。
「人生は早いんだよ」
ただただ、静かに微笑む彼女の
計り知れない想いを身の内に感じることが出来る。
もしも、願いが叶うのならば
僕はもう一度だけ彼女と桜が見たいのだ。
静かに静かに・・・・。
ただ、二人黙って美しく切なすぎる桜を。
もし、願いが叶うのならば。